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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル31巻6号

1997年06月発行

雑誌目次

特集 小児の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.385 - P.385

 急速な人口の高齢化のため,高齢者の医療,保健,福祉に関連する諸問題への対応にスポットが当てられているが,疾病と障害をもつ子どもたちの存在を忘れてはならない.小児の理学療法といえば脳性麻痔と肢体不自由児施設を連想するが,医学の進歩によってポリオは消滅し,先天性股関節脱臼や骨関節炎は激減するなど小児の疾病構造は大きく変化し,それにともない医療機関も肢体不自由児施設から一般病院へと拡大している.しかし一般病院では,まだ脳卒中片麻療や人工関節全置換術などの成人理学療法が中心となっているだけに,小児の理学療法を実施する際には考慮すべき点が多い.

 本号では,一般病院において経験することのある疾患を取り上げ,児の成長を視野に入れた具体的な小児理学療法のポイントを臨床経験の豊富な方々から解説していただくことにした.

大学病院における小児の理学療法の実態と留意点

著者: 菊地延子 ,   横田一彦 ,   海島麻衣

ページ範囲:P.386 - P.392

 1.はじめに

 当院リハビリテーション部(以下,リハ部)は1963(昭和38)年7月1日に国立大学病院として初めて開設され,リハ部として独立したのは1970(昭和45年)である.

 病院の性格と特徴1)として,総合病院のなかの中央診療部門のなかに位置し,整形外科を除く各科(22科)からの依頼を受けて診療を行っている.したがって開設当初から,①急性期が多く全身状態の悪い患者も多く,全対象患者の全身健康管理や運動量のコントロールの必要性が大きいこと,②疾患・障害の種類が多彩であること,③難治性・進行性の神経疾患が少なくないこと,④極めて珍しい疾患や新しい疾患と思われる場合もあること,などの特徴がある.

 この傾向については,十数年経た現在もあまり変わらず,むしろ対象の疾患・障害の重度・重症化,合併症の重複化がみられる.このようなハイリスク患者の増加により必然的にベッドサイドでの理学療法が多く,ここ10年間は,一部を除きほぼ50%を越えている(図1).

 理学療法士は人工呼吸管理下,中心静脈栄養管理,尿カテーテル,心電図モニター,血圧モニターなど,ありとあらゆるモニター下での,いわゆる俗に“スパゲッティ症候群”ともいわれるケースのベッドサイド理学療法を行っている.

 この傾向は小児の場合でも同様である.今回は当部の小児疾患・障害の推移とその特徴,実際の理学療法について症例を含めて呈示したい.

小児の脳腫瘍に対する理学療法

著者: 稲田里美 ,   児玉三彦 ,   奥木尚子 ,   山田彰 ,   出江紳一

ページ範囲:P.393 - P.400

 1.はじめに

 脳腫瘍は頭蓋内に発生する新生物の総称であり,組織型や発生部位の違いにより様々な臨床像を呈する.たとえ良性腫瘍であっても,発生部位により治療が困難で,予後不良な転帰をとる例も少なくない.小児脳腫瘍の場合は,あらゆる面で発達段階にあるため更に多様な経過をたどる.

 脳腫瘍の歴史のなかでは外科手術が常に治療の中心にあり,1976年以降CTの普及で早期診断や正確な部位診断が可能になった.さらにマイクロサージェリーによる腫瘍切除範囲の改善,加えて放射線治療(以下,放治)や化学療法(以下,化療)の併用により生存率は向上しつつある.これに伴ってADLやQOLの問題もクローズアップされるようになり,リハビリテーション(以下,リハ)へのニーズも年々高まってきたといえよう.

 当院においてリハへ依頼される小児脳腫瘍患者は年間それほど多くはないが,重症例が多く,リハを行っていく上で理学療法士として何をしてあげられるのか,医療チームのなかでの役割,訓練の目的や意義について十分考えなければならない.当院での経験をもとに実際どのような考え方で訓練を進めているのかをまとめてみた.

Perthes病の理学療法

著者: 大城昌平 ,   野元勝彦

ページ範囲:P.401 - P.407

 1.はじめに

 Perthes病1-3)は小児期にみられる大腿骨頭壊死性疾患で,Legg,Calve,Perthesの3人が個別に発表した(1910年).その後,本症が大腿骨頭骨端核の無血管性壊死であること,その骨壊死は最終的にはほぼ完全に修復されること,その修復過程において骨頭の扁平巨大化や頸部の短縮などの変形が発生することなどが明らかとなった.本症の病因は諸説があり,今日なお一致した考えはなく,その治療目的は治癒の促進と骨頭変形の発生予防である.

 治療法には保存的療法と観血的療法があり,①罹患した骨頭に荷重がかからないようにして,治癒を促進させる免荷療法,②罹患した骨頭を寛骨臼内に包み込んで骨頭変形を最小限にする包み込み(containment)療法,③免荷とcontainmentの両者を達成する免荷+containment療法がある.containmentは諸家の一致した意見と考えられ,containmentを達成する保存的療法は装具療法等により股関節を外転位に保持し,骨頭を寛骨臼内に包み込んで均等な圧を加え,骨頭の生物学的可塑性(biological plasticity)を利用して,骨頭を寛骨臼に適合した形態にモウルディング(moulding)させる原理による.観血的療法は確実に,半永久的にcontainmentを達成するという目的で,大腿骨内反骨切り術や回転臼蓋骨切り術などが行われる.保存的療法と観血的療法については数多くの報告があり,統一した見解には至っていない.本文は本症の保存的療法と観血的療法および理学療法について述べる.

若年性関節リウマチに対する理学療法

著者: 伊藤フキ子 ,   河原由紀子 ,   木村雅彦 ,   宮田恒徳 ,   遠藤広美 ,   五十嵐達夫 ,   中島雄大 ,   羽入田きみ江 ,   由利雅芳 ,   守田雅紀

ページ範囲:P.408 - P.419

 1.はじめに

 若年性関節リウマチ(juvenile rheumatoid arthritis;JRA)は若年で発症し,多彩な臨床像を呈する.成長期に罹患するため身体的,心理的,社会的にも大きな障害を受けやすい.本疾患に対して理学療法をはじめとするリハビリテーションが担う役割は大きいが,その実際においては試行錯誤を繰り返すことが少なくない.本稿では,自験例を中心にJRAのリハビリテーションに関わる種々の問題を取り上げ,その対応について検討を加えた.

二分脊椎症の理学療法

著者: 小山一信 ,   山本雅也

ページ範囲:P.420 - P.425

 1.はじめに

 二分脊椎症は下肢の弛緩性麻痺,知覚障害,膀胱直腸障害を主症状とし,上肢機能および知能は障害されないのが一般的である.したがって我々は,健常者と共に社会生活を営むうえで自立歩行は必要かつ重要であると考えている.

 本症の理学療法として,各障害レベルにおける変形・拘縮および理学療法評価,年齢や能力に応じた段階的な治療計画,適切な装具のアラインメントについて述べる.

とびら

マラソンと私

著者: 高嶋直美

ページ範囲:P.383 - P.383

 私の1年間のスポーツスケジュールは,4月から10月がプロ野球観戦,11月から3月がマラソンレースである.マラソンは東京・大阪・名古屋の国際女子マラソン出場がメインである.国際女子マラソンに出場するためには,過去2年間のうちに3時間15分以内の公認記録を出していることが必要である.

 さらに厳しいのは,出場できたからといって選手が全員完走させてもらえるわけではないということだ.5kmごとに関門通過タイムが設けられており,これを1秒でもオーバーしたら,即強制収容されてしまうのだ.その上,41km地点にも関門があり,最終的に3時間18分以内でゴールできそうもない選手はここでも収容されてしまう.

入門講座 ケーススタディの書き方・2

学会・投稿用の症例報告

著者: 辛島修二

ページ範囲:P.426 - P.430

 症例報告の概観

 私に与えられた課題は「学会・投稿用の症例報告」であるが,この症例報告について述べる前にその特徴を際立たせるために,我々理学療法士が通常行なっている症例報告の概観を理学療法士の成長過程の時間的配列に沿って整理してみたい.

 まず,我々が症例報告に直面するのは,学生時代の臨床実習においてである.この時,望まれる内容は,養成施設,臨床実習地により多少の差異はあるが,症例の紹介から始まり,検査・測定,統合と解釈,目標設定,治療プログラム,経過,最終報告,考察,まとめなど全ての項目を含む.この症例報告の目的は,学生の教育目標への到達のためであり,そのために必要な内容を詳細に報告しなければならない.

TREASURE HUNTING

「皆と違うことをやる」チャレンジ精神―立山順一氏((株)メディケア・リハビリ)

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.431 - P.431

 今月ご登場いただく立山順一氏も,医療機関を離れて理学療法士の活動の場を地域に求め,医療の枠を超えて沢山の仲間と手を組んで活躍されているお一人である.本欄の登場人物が3号連続して,既成の概念を乗り越えて新しい領域に進出していった方々であるというのも,どうやら単なる偶然ではないようだ.それだけ,理学療法士の知識・技術に対する社会のニーズが高まっているということだろう.

 立山氏は,医療の枠を超えて地域社会に貢献するためには会社を起こすのが一番と,平成2年に(株)メディケア・リハビリを起こし,以来8年間,夢の実現をめざして着実な歩みを進めてきた.設立当初は,理学療法士と作業療法士が中心になって市町村から委託を受けて地域の保健福祉事業に参画してきたが,そのなかで地域リハビリテーションの奥の深さと多職種間の連携の重要性を学んだという.それが今日のメディケア・リハビリの多様な活動に結びついているのはいうまでもあるまい.

あんてな

高知医療学院卒後研修センターの紹介

著者: 宮本省三 ,   小野美紀

ページ範囲:P.432 - P.433

 Ⅰ.はじめに

 理学療法はリハビリテーション医療の一翼を担う専門技術として大きな発展を遂げてきた.しかし,医学の進歩や社会情勢の変化,それに伴う医療技術の高度化や専門化の傾向を考えると,現在の学内教育で十分であるとはいえない.そこで,高知医療学院では,若い理学療法士の生涯学習を援助する目的で「卒後研修センター(Center of Postgraduate Education)」を開設したので,その2年間の活動を紹介する.

プログレス

腰椎分離症・辷り症の治療―最近の考え方

著者: 横串算敏

ページ範囲:P.434 - P.434

 1.腰椎分離症・辷り症の病態と経過

 1)腰椎分離症

 腰椎分離症の発生頻度は4~7%であるが,スポーツ活動群では高率にみられる.骨格の未熟な発育期に下部腰椎の関節突起間部に起こる過労性骨障害が脊椎分離の原因と考えられている.初期には一側亀裂型であるが,次いで両側性となり,亀裂型から偽関節型となり成人以降も遺残する.X線像で分離が不鮮明な分離症初期では,MRI,シンチグラフィーで早期診断が可能で,運動中止と腰椎装具により骨癒合が期待できる.分離症は第5腰椎に多く,分離部での神経根圧迫,上位椎間関節の変性変化が腰痛,下肢痛の原因となる.腰椎分離に伴う辷り症の発生は分離発生後の比較的短い期間内に起こるが,辷りの程度は軽度なものが多い.

講座 高齢者の理学療法評価・2

特養ホーム,老健施設における高齢者の評価

著者: 丸田和夫

ページ範囲:P.435 - P.440

はじめに

 老人保健施設(老健施設)や特別養護老人ホーム(特養ホーム)での理学療法評価は,対象者が高齢者だけであるということを除けば,基本的には一般の医療機関での評価方法と何ら変わることはない.ただ,老健施設や特養ホームでは,対象となる高齢者の疾患や障害が急性期から回復期にあることは少なく,むしろ慢性期から維持期にあることが多いのが,その特徴であるといえる.

 高齢者の理学療法評価に際しては,加齢に伴う生理機能の変化や老年疾患の特徴などの老年医学的知識と臨床経験が必要となることは述べるまでもない1).また,老年医学の領域では,単一の疾患や臓器障害などの形態・機能障害(impairment)の評価だけでなく,能力障害(disability)や社会的不利(handicap)にも視点を置いた評価の必要性が指摘されている2).このことは,リハビリテーション(リハビリ)医学領域における評価の考え方と共通する点が多く,リハビリ医学を学んだ理学療法士にとっては踏み込みやすい分野の1つであるかもしれない.

 老年医学あるいはリハビリ医学のいずれにおいても,対象となる高齢者を1人の生活している人間として評価する態度が大切となる.老健施設や特養ホームでは,生活様式が在宅とは異なるものの,まさにそこが生活するための場であり(老健施設が生活の場であるか,通過施設であるかの意見は様々であるが),そこでの理学療法評価に際しては,単に方法論の問題だけではなく,そのほか留意すべき事項も数多く,限られた紙数ではそのすべてを網羅することは難しい.

 そこで今回は,筆者が特養ホームにおける理学療法業務の経験のなかで,評価を実施するにあたって重要と思われた点について2,3論じてみることにした.また,紙数の許す限り,医療機関での理学療法評価ではみられない特殊性についても触れてみたい.

1ページ講座 日本の社会保障システム・6

障害者手帳・障害者医療

著者: 小澤由紀子

ページ範囲:P.442 - P.443

 障害者手帳

 我が国では身体や精神に障害を持つ人々に対し,種々の経済的,社会的な援助が行われている.それらの援助を受けるには,それぞれの障害を証明するものが必要であり,障害別に身体障害者手帳,療育手帳,精神障害者手帳と分類されている.ここでは各手帳および制度の概要について述べたい.

報告

極低出生体重児に対するポジショニングの影響

著者: 松波智郁 ,   半沢直美 ,   猪谷泰史 ,   廣田とも子 ,   平井孝明

ページ範囲:P.444 - P.447

はじめに

 極低出生体重児は,神経系の発達が未成熟で,在胎週数に応じた低緊張があり,胎内で屈曲姿勢をとる期間が少ない.この状態で重力の影響を受け,さらに人工呼吸器や点滴による抑制のため従重力肢位である四肢伸展・外転位のまま固定される期間が長くなると,①頸部・体幹の過伸展,②肩甲帯の挙上・後退,③上肢の正中方向への動きの減少,④骨盤の前傾または不動性,⑤過度の股関節外転・外旋と足部の外転,⑥下肢の抗重力運動の減少,などの不良肢位および不良運動パターンを生じることになる1-3)

 この不良肢位は,退院時の姿勢やその後の運動発達に影響を与える可能性もあると考え,当センターNICUでは入院早期からポジショニングによる不良肢位予防に努めている.今回は,極低出生体重児特有の不良肢位予防に対するポジショニングの影響について検討した.

学生から

退院前指導について

著者: 黒田充子

ページ範囲:P.392 - P.392

 医療技術短期大学部の卒業式を終え,4月からはいよいよ医療スタッフの一員である.

書評

―奥川幸子―未知との遭遇―癒しとしての面接

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.440 - P.440

 「未知との遭遇」というアメリカ映画があった.私はその予告編しか観ていないが,宇宙人との遭遇に関した物語りであったと記憶している.

 このたび,長年ソーシャルワーカーとして臨床場面で活躍されてきた奥川女史が上記のタイトルの著書を出版された.

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文献抄録

ページ範囲:P.452 - P.453

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.456 - P.456

 強行突入で127日目に解決したペルーの人質事件,脳死は人の死と規定する臓器移植法案の衆院可決,という人の死生観に関わる報道が連続してありましたが,結果だけに注目するのではなく,その背景をじっくりと考えることが必要でしょう.

 さて,本号の特集は「小児の理学療法」です.菊地氏には,大学病院の小児理学療法の統計推移を提示していだきながら,児の心理面への対応と母親指導の要点などを中心に解説していただきました.稲田氏の2症例報告の行間には小児脳腫瘍の理学療法への真摯な取り組みがにじみ出ています.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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