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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル31巻7号

1997年07月発行

雑誌目次

特集 関連領域―腎障害と運動療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.459 - P.460

 本号では,関連領域PartⅡとして腎障害と運動療法を取り上げました.

 この分野では著名な先生方に運動が腎機能へ及ぼす影響を分かりやすく解説していただき,生化学データの意味や解釈などを具体的に示していただきましたまた.長期透析患者の生化学検査値は基準範囲を超えた異常値を示しますが,その動態と許容範囲について解説していただき,貧血や肝硬変の合併を含めて広く運動との関係についてお述べいただきました.同時に,長期透析患者の心機能,神経障害( ニューロパチー),脳酸素代謝率の低下(種々の高次脳機能障害),腎性骨異栄養症と透析関連アミロイド症を背景とした骨・関節障害などの合併症状と,予防的あるいは機能維持・回復のための運動療法の可能性についてご提示いただきました.

運動と腎機能

著者: 北島武之 ,   鈴木政登

ページ範囲:P.461 - P.469

 1.はじめに

 現代人,とりわけ都市に住む人々の間では,生活環境や生活様式の変化にともない,運動量が減少する傾向にあって,近年,健康増進あるいは成人病の予防のためにも積極的に運動に取り組むことが勧められている.しかし,一方,腎臓病の人については,従来から運動の腎機能に及ぼす影響をマイナス要因としてとらえる傾向にある.腎疾患患者の生活指導が詳細にわたって検討されつつある今日,病態に応じた至適運動量を設定することは,目下の重要な課題の1つといえる.

 運動が腎疾患に及ぼす影響については,今までにもいくつかの報告がある.しかし,日常生活を通じての長期の運動,あるいは肉体負荷が疾病の自然経過に対して,どのように関わってくるのかについては,まだ十分に解明されたとはいい難い.

 このような背景から,ここでは健康人を対象に,運動強度に応じた腎の血行動態について言及するとともに,運動の水・電解質代謝に及ぼす影響について触れてみたい.さらに腎疾患患者に対する運動の影響に関しても,今日までに明らかにされた事項を紹介したい.

透析患者の検査値と運動療法

著者: 阿岸鉄三

ページ範囲:P.470 - P.475

 1.維持透析患者の検査値

 1)慢性腎不全に適用される現用の血液浄化

 慢性腎不全患者の生命維持に血液透析が有用であることが確定的とされたのは,血液透析器が医療機器として市場に安定的に供給され,頻回穿刺でも確実に血流を提供する内シャントが開発された,欧米では1960年代中半,我が国では1970年代初めになってからである.その後,我が国では,経済的繁栄の後押しをうけた健康保険制度の適用により,少なくとも患者数・技術の多様性では,透析大国となっている.

 現在では,慢性腎不全患者に応用される血液浄化技術は,血液透析を主体としながら,血液透析から技術的に発展した方式とみなされる血液濾過・血液透析濾過,さらには血液吸着にまで及んでいる.一般臨床では,(血液)透析と総称されるが,実態は,血液透析関連技術とでも呼ばれるべき技術集合体である.

透析患者の合併症状と運動療法

著者: 田中宏志 ,   平方秀樹

ページ範囲:P.476 - P.481

 1.はじめに

 日本透析医学会の集計1)によれば,我が国の慢性透析患者は1995年末現在で15万人を越え,糖尿病,高齢者と長期透析例の増加が著しい.導入患者の平均年齢は61歳(全例では58歳)と高齢で,導入患者の31%を糖尿病が占める.また,透析期間が10年以上の患者の比率は23%である.主要な死因は,心不全,脳血管障害,感染症,悪性腫瘍,心筋梗塞,悪液質などである.患者の95%は血液透析患者であり,持続携行式腹膜灌流(CAPD)や家庭血液透析の普及率は極めて低い.

 慢性透析患者の運動療法は,患者のQOLを向上させ社会参加を促すことを最大の目的とする.しかし,高齢化,糖尿病例の増加,長期透析例の増加,心血管系合併症,透析アミロイドーシスを代表とする運動器障害は社会復帰を阻害する重大な要因となっている.唯一,腎性貧血に対してはエリスロポエチン(rHuEPO)が臨床に応用されて約10年が経過し,90%以上の患者で有効で,貧血是正に伴う精神心理学的症候や運動能力の改善が報告されている.

 本稿では,慢性透析患者の骨・関節合併症を除く主要な合併症にふれ運動療法の意義について概説する.

慢性腎不全における骨・関節障害と運動療法

著者: 仲谷達也 ,   金卓 ,   岸本武利

ページ範囲:P.482 - P.486

 1.はじめに

 長期維持透析患者が増加し,また高齢者の透析治療導入が増えつつある今日,これらの患者の骨・関節障害は医学的にも社会的にも重要な合併症の1つとなっている.すなわち,骨痛・関節痛・骨折による関節可動域制限などのため生活の質(QOL)が著しく低下するばかりでなく,医学的にも適切な運動ができないため筋肉量減少,心・循環障害の悪化,種々の代謝の悪化を招き,そのため長期入院あるいは社会的入院を要する患者が増えつつあるという現実があり,その対策が重要性を増してきている.

 本稿では慢性腎不全における骨・関節障害の発症機序を説明し,その予防・治療を述べるとともに,それに対する運動療法の意義・留意点について解説したい.

脳血管障害を合併した血液透析患者の理学療法―問題点と注意点

著者: 松永幸浩 ,   安倍基幸

ページ範囲:P.487 - P.491

 1.はじめに

 我が国における慢性腎不全による血液透析(以下HD)患者の総数は1995年末現在で15万人以上を数え,年間死亡者数はその1割近い状況にある1).HD患者の死亡原因として脳血管障害(以下CVA)は全死亡数の13.5%に達し,心不全の25.4%,感染症の13.8%に次いで第3位を占める重要な合併症となっている1)

 1983年の調査開始以来,基礎腎疾患の70%以上を占めていた慢性糸球体腎炎は1995年末現在,55%前後と年々減少傾向にあるが,その一方で,当初7%であった糖尿病性腎症は現在20%以上を占めている.今後も糖尿病性腎症の急増が予測され,それに伴いCVA合併患者も増加すると推測されている3).このことにより,ますますリハビリ対象者が増えることが予想される.しかし,理学療法分野のなかで,CVAを合併するHD患者の報告は少なく,理学療法上の注意点など不明な点も多い.今回,当院にて理学療法を実施したHD患者でCVAを合併した患者について調査・検討したので,その結果の報告と症例を呈示し,若干の文献的考察を加えて理学療法実施上の注意点を述べることにしたい.

慢性血液透析患者の理学療法―ニューロパチーへの対応

著者: 浅川康吉 ,   遠藤文雄 ,   中井光

ページ範囲:P.492 - P.494

 1.はじめに

 我々はこれまで慢性血液透析患者(以下,透析患者)の理学療法について,運動耐用能の改善や就労援助を目的に取り組んできた1-3).しかし透析患者には多くの合併症があり,理学療法実施に際してはその対策も重要な課題となる.ニューロパチーはそうした合併症の1つである.しかし,エントラップメントや外傷性のニューロパチーなど理学療法士がよく接するニューロパチーとは異なり,その背景には腎不全をもたらした原疾患と透析療法の存在がある.本稿では透析患者のニューロパチーの特徴を述べ,その対症療法としての理学療法について考えてみたい.

長期透析患者の骨・関節障害に対する理学療法の経験

著者: 田添起代子 ,   沖田実 ,   池山睦子

ページ範囲:P.495 - P.499

 1.はじめに

 近年,慢性腎不全患者に対する血液透析(以下HD)療法は,一時的な救命手段のみならず,長期延命あるいは社会復帰などの目的を達成できるほどに発展し,10年以上の透析歴を有する患者もまれではなくなってきた1,2).しかし一方では,透析アミロイドーシスや腎性骨異栄養症,腎性貧血などの独特の合併症の出現もあり,HD療法の黎明期には予想しえなかった様々な問題が生じてきている3)

 これらの合併症のうち,透析アミロイドーシスは手根管症候群,弾発指,骨嚢胞形成,破壊性脊椎関節症などを引き起こすとされ,これは主にβ2ミクログロブリンに由来するアミロイド沈着が骨・関節に生じた結果であると報告されている4).また,腎性骨異栄養症は,線維性骨炎や骨軟化症などの骨病変を招き,加えて栄養不良や運動不足により骨の脆弱性が進行し,些細な外力によっても骨折を招くとされている5).さらに,上記のような二次的な合併症などにより痛みの発生がしばしばみられ,運動機能の低下を引き起こしていることも少なくない.

 そこで,本稿ではまず当院で行った長期HD患者の実態調査に基づき,透析歴と骨代謝状態や関節可動域,痛みとの関連性について述べる.そして,骨・関節障害を伴った長期HD患者に対する理学療法について症例を通じて報告する.

透析患者の理学療法の経験―症例を通した検査値と臨床経過について

著者: 恩幣伸子 ,   内山靖 ,   山田美加子

ページ範囲:P.500 - P.504

 1.はじめに

 理学療法の対象患者における高齢者の比率は増加傾向にあるが,腎機能障害を有する患者も徐々に増加してきている.腎臓は加齢変化が著しい臓器であり1),高齢化に伴う医療需要は今後も高まるものと推測される.

 腎障害の理学療法には,腎機能低下があるものの,固有腎機能が残存している腎障害患者に対する理学療法と,廃絶腎(=腎死)により透析導入・維持期における体液状態を前提とした,代謝と運動の関係に対するものの2つを区別して考えることが基本となる.そのうち腎機能の著しい低下は,尿中に排泄されるべき水分や電解質,種々の代謝産物の蓄積を引き起こし,透析療法などによる血液の浄化が必要となる.我が国における慢性維持透析患者数は,透析療法の普及と技術革新に伴い1995年には15万人を越えている2)

 透析患者に対する理学療法は,運動耐容能の低下を改善し代謝異常に対する効果を得るものと,心血管系や透析に伴い生じる様々な合併症を軽減・予防するといった2つの側面がある.理学療法と代謝機能の関連性を考慮し,症状が原疾患によるのか,合併症あるいはそれ以外によるのかを判断して,柔軟に,かつ迅速に対応することが必要不可欠である.

とびら

“小石川の家”にみる癒しの場

著者: 木村美子

ページ範囲:P.457 - P.457

 昨年テレビで観た“小石川の家”というドラマが印象に残っている.このドラマは,明治の文豪幸田露伴とその娘文(あや),孫娘の玉(たま)の3人のつつましい日常生活を描いたものである.時代背景は,昭和初期から太平洋戦争末期ぐらいであり,当時文は,10年間に及ぶ結婚生活に破れ,一人娘の玉を連れて東京小石川にある実家に戻ってきていた.

 私がこのドラマに心惹かれたのは,今はもう我々がほとんど忘れてしまった生活の中での何気ない心のゆとりとか,移りゆく季節の中での細やかな情感とか,単にそういったものだけではない.それは一言でいえば,1つの家庭の中に於ける非常にしっかりとした家族関係の存在である.家族の本来あるべき姿,家族の在り方の本質のようなものである.その中では父は父であり,母は母であり,その地位は揺るぎない確固としたものなのである.

TREASURE HUNTING

超持久力の世界に羽ばたく―針山洋文氏(川西市立川西病院リハビリテーション科)

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.505 - P.505

 環境に優しい乗り物として,自転車の人気が高まっている.そうはいっても,自転車ロードレースとなると,また話は別だろう.今月ご登場いただいた針山洋文氏の自転車ロードレースに対する入れ込み様は,どうやら尋常の域を超えているようだ.

 針山氏が自転車を始めたのは3年前,33歳のときだった.同僚にツーリング大会に誘われたのがきっかけで,それも3日間で能登半島一周420キロを走り抜ける大会だったというから凄い.それからというもの,若いときの体力を取り戻したい一心で,総額50万円もする自転車(ロードレーサー)を買い求めてトレーニングに打ち込む.そのうちロードレースに出場するようになるのは自然の成り行き,すっかり“はまって”しまったそうだ.

あんてな

第32回全国研修会の企画

著者: 大竹朗

ページ範囲:P.506 - P.507

 今年の第32回全国研修会を新潟県士会が担当し,新潟市で開催することになりました.

 テーマは「理学療法技術―臨床における科学性の追求―」としました.

プログレス

福祉用具の最近の動向

著者: 相良二朗

ページ範囲:P.508 - P.508

 平成5年の福祉用具法の施行以来,高齢社会の到来,介護保険法案の衆院通過,といった一連の動きのなかで,福祉用具を取り巻く環境が大きく変化してきている.いくつかのキーワードとともに,福祉用具の動向について紹介する.

入門講座 ケーススタディの書き方・3

シングルケーススタディの実際

著者: 平岡浩一

ページ範囲:P.509 - P.513

はじめに

 いわゆる症例報告は臨床,研究領域を問わず盛んに行われている.しかし,主に事例の経過の説明に終始することの多い症例報告は,多くの場合治療介入を留保した対照群を持たないため,治療効果に関する客観的な因果関係の分析が困難である.他方,従来は多標本(複数の症例)を対象とした方法が客観的な治療効果の判定には多く用いられてきたが,これは多くの症例と多大な時間と労力を必要とすると同時に,個人差の多い疾患の場合,多標本から得られた結果が必ずしも個々人にあてはまらない場合が多いという欠点を持つ.

 シングルケーススタディは1個体のデータから治療効果を判定する,歴史的には心理学から発展した実験計画法である.シングルケーススタディは同一個体内で独立変数導入と撤回を交互に行いながら標的行動の定期的な繰り返し測定を行うことにより,1個体の複数のデータを用いて治療効果を客観的に判定する.したがって,この方法は先述の多標本研究法の短所を補って,単一症例から客観的な治療介入効果の判定を可能にする.

 もうひとつのシングルケーススタディの優れている点は,多標本を用いた対照比較研究においては半数の患者に治療効果が低いと予想される治療介入を長期間継続しなければならないという倫理的な問題があるのに対し,シングルケーススタディにおいては1症例における非治療期間の複数の繰り返し測定のデータがこの対照群として機能するので,そのような治療を留保する多数の症例を必要としないことがあげられる.これらの利点は規模の小さなコストの低い客観的な治療効果の判定を可能にし,日常の臨床場面での応用も比較的容易であり,理学療法の意志決定のためのツールとしての使用も期待できる.

 さて,シングルケーススタディには多くのデザインがあるが,治療を留保する相に始まり治療導入,再度の治療撤回をスケジュールとするABA型デザインが最も一般的である.そこで本稿ではABA型デザインを中心にその具体的方法について脳卒中片麻痺の歩行速度に及ぼす下腿三頭筋の持続的伸張の効果を観察する場合(仮想)を例にあげながら紹介する.

講座 高齢者の理学療法評価・3

デイケアにおける高齢者の評価

著者: 藤村昌彦 ,   清水順市 ,   奈良勲 ,   河村光俊 ,   高橋勲 ,   高橋真弓

ページ範囲:P.515 - P.520

はじめに

 戦後,経済成長により,我が国の生活水準は著しく向上した.それに伴う医療水準の向上,あるいは社会保障の充実により国民の平均寿命は大幅に延びた.1947年の日本人の平均寿命は男性50.06歳,女性53.96歳であったが,1995年の厚生省の発表によると,男性76.57歳,女性82.98歳と男女共に世界最高記録を更新しており,この傾向はしばらく続くと予測されている.また,老年人口の増加に比して,年少人口・生産年齢人口は伸び悩み,将来的には超高齢化社会が待ちかまえていると予想されている.このような事態に備えて,国は在宅医療への積極的な転換を推進している.そして,これらを背景として,デイケアに寄せられる期待が大きくなっている.

 デイケアは医療機関(病・医院,診療所)と老人保健施設において実施されているが,1994年7月で双方を合わせると1,000施設を超えている.今後さらに高齢者保健福祉10か年戦略の追い風に乗り,その数は増加すると予想される.しかしながら,デイケアの歴史は比較的浅く,未だ発展途上といえよう.今回は,デイケアで用いられる理学療法評価について,いくつかの側面から述べていきたい.また,デイケア実施施設の協力を得て,今回紹介した種々の検査結果を合わせて報告する.

資料

第32回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1997年3月7日実施) 模範解答と解説・Ⅰ―理学療法(1)

著者: 飯坂英雄 ,   福田修 ,   高橋光彦 ,   星文彦 ,   山中雅智 ,   浅賀忠義

ページ範囲:P.521 - P.529

1ページ講座 日本の社会保障システム・7

年金・手当金

著者: 藤森弘子

ページ範囲:P.530 - P.531

 我が国の社会保障のなかに所得保障を目的とした制度がある.社会保険・手当・生活保護に大別されるが,本稿ではそのなかの年金および手当金について概観する.

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文献抄録

ページ範囲:P.532 - P.533

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.536 - P.536

 第31巻7号,関連領域―腎障害と運動療法をお届けします.

 関連領域は不定期のシリーズもので,前回は第29巻7月号のちょうど2年前に頭頸部の障害とリハビリテーションとして特集が組まれました.先日の年間企画会議の折に過去の特集記事を振り返ってみますと,その時々の理学療法が抱える課題や指向が如実に表されており,本特集は将来どのように回顧されるのかと思うとまた別の楽しみが湧いてきます.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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