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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル31巻7号

1997年07月発行

文献概要

入門講座 ケーススタディの書き方・3

シングルケーススタディの実際

著者: 平岡浩一1

所属機関: 1国立療養所箱根病院附属リハビリテーション学院理学療法学科

ページ範囲:P.509 - P.513

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はじめに

 いわゆる症例報告は臨床,研究領域を問わず盛んに行われている.しかし,主に事例の経過の説明に終始することの多い症例報告は,多くの場合治療介入を留保した対照群を持たないため,治療効果に関する客観的な因果関係の分析が困難である.他方,従来は多標本(複数の症例)を対象とした方法が客観的な治療効果の判定には多く用いられてきたが,これは多くの症例と多大な時間と労力を必要とすると同時に,個人差の多い疾患の場合,多標本から得られた結果が必ずしも個々人にあてはまらない場合が多いという欠点を持つ.

 シングルケーススタディは1個体のデータから治療効果を判定する,歴史的には心理学から発展した実験計画法である.シングルケーススタディは同一個体内で独立変数導入と撤回を交互に行いながら標的行動の定期的な繰り返し測定を行うことにより,1個体の複数のデータを用いて治療効果を客観的に判定する.したがって,この方法は先述の多標本研究法の短所を補って,単一症例から客観的な治療介入効果の判定を可能にする.

 もうひとつのシングルケーススタディの優れている点は,多標本を用いた対照比較研究においては半数の患者に治療効果が低いと予想される治療介入を長期間継続しなければならないという倫理的な問題があるのに対し,シングルケーススタディにおいては1症例における非治療期間の複数の繰り返し測定のデータがこの対照群として機能するので,そのような治療を留保する多数の症例を必要としないことがあげられる.これらの利点は規模の小さなコストの低い客観的な治療効果の判定を可能にし,日常の臨床場面での応用も比較的容易であり,理学療法の意志決定のためのツールとしての使用も期待できる.

 さて,シングルケーススタディには多くのデザインがあるが,治療を留保する相に始まり治療導入,再度の治療撤回をスケジュールとするABA型デザインが最も一般的である.そこで本稿ではABA型デザインを中心にその具体的方法について脳卒中片麻痺の歩行速度に及ぼす下腿三頭筋の持続的伸張の効果を観察する場合(仮想)を例にあげながら紹介する.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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