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講座 鎮痛・1
鎮痛の生理的メカニズム
著者: 熊澤孝朗1
所属機関: 1名古屋大学
ページ範囲:P.656 - P.664
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生体は侵害的な要因から自己を防御する系を発生の初期から備えている.警告信号・防御系では,非自己成分を認識し,それを体外に排出する原始的な働きをする免疫・炎症性反応が先行し,ついで,神経インパルスをシグナルとする原始的な機構の神経系として侵害受容系すなわち痛み系が生まれる.この発生の歴史を反映し,痛み系は原始的で未分化であり,また先住の免疫・炎症系の液性シグナル伝達機序を色濃く取り込んだ系である.痛み系が未分化であるということは,構造的なレベルまでを含めて変身し得る自由度が高い,すなわち可塑性が高いということである.また炎症メディエータ,免疫性物質や神経ペプチドなどの液性シグナルの関与の度合いが大きいことは痛み系の情報伝達に時間的・空間的な広がりを与えている.したがって,痛み系は他の専門分化した感覚系とは異なる特性をもつ.
生理的状態では痛覚は組織を損傷するに至るような刺激(侵害性刺激)によって侵害受容器が興奮することから生ずる感覚である.病態時には,非侵害刺激に応ずる受容器の興奮によって痛みを生ずるような痛覚系の過興奮状態(アロディニア)が現れ,末梢に痛みの発生源を特定し得ないような,多様な症状をもつ慢性痛が認められる.痛み刺激が持続的に入力すると痛覚系の活動亢進状態が可塑的に形成され,痛みがますます増強される.一方,痛み刺激で内因性の鎮痛系が駆動され,痛みを抑制する機構もあり,痛み系にはポジティブ・フィードバック機序とネガティブ・フィードバック機序の両方が備わっている.
痛覚促進系の活動が亢進することによっても,また痛覚抑制系の活動が低下することによっても可塑的な痛覚過敏状態は引き起こされる.したがって,鎮痛には,促進系の活動を低下させることと,抑制系の活動を高めるメカニズムの両面から考える必要がある.
生体は侵害的な要因から自己を防御する系を発生の初期から備えている.警告信号・防御系では,非自己成分を認識し,それを体外に排出する原始的な働きをする免疫・炎症性反応が先行し,ついで,神経インパルスをシグナルとする原始的な機構の神経系として侵害受容系すなわち痛み系が生まれる.この発生の歴史を反映し,痛み系は原始的で未分化であり,また先住の免疫・炎症系の液性シグナル伝達機序を色濃く取り込んだ系である.痛み系が未分化であるということは,構造的なレベルまでを含めて変身し得る自由度が高い,すなわち可塑性が高いということである.また炎症メディエータ,免疫性物質や神経ペプチドなどの液性シグナルの関与の度合いが大きいことは痛み系の情報伝達に時間的・空間的な広がりを与えている.したがって,痛み系は他の専門分化した感覚系とは異なる特性をもつ.
生理的状態では痛覚は組織を損傷するに至るような刺激(侵害性刺激)によって侵害受容器が興奮することから生ずる感覚である.病態時には,非侵害刺激に応ずる受容器の興奮によって痛みを生ずるような痛覚系の過興奮状態(アロディニア)が現れ,末梢に痛みの発生源を特定し得ないような,多様な症状をもつ慢性痛が認められる.痛み刺激が持続的に入力すると痛覚系の活動亢進状態が可塑的に形成され,痛みがますます増強される.一方,痛み刺激で内因性の鎮痛系が駆動され,痛みを抑制する機構もあり,痛み系にはポジティブ・フィードバック機序とネガティブ・フィードバック機序の両方が備わっている.
痛覚促進系の活動が亢進することによっても,また痛覚抑制系の活動が低下することによっても可塑的な痛覚過敏状態は引き起こされる.したがって,鎮痛には,促進系の活動を低下させることと,抑制系の活動を高めるメカニズムの両面から考える必要がある.
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