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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル32巻11号

1998年11月発行

雑誌目次

特集 インフォームド・コンセント

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.813 - P.813

 ■インフォームド・コンセントの現在と未来(加藤尚武論文)

 医療におけるインフォームド・コンセントという概念が話題になって久しい.しかし,実際の臨床場面にしっかり根を下ろしているかというと,はなはだ疑問である.本稿では,輸血をめぐる「エホバの証人」事件の判例を例にインフォームド・コンセントの今日的な考え方を整理し,改めてその基本原則について解説していただいた.

インフォームド・コンセントの現在と未来

著者: 加藤尚武

ページ範囲:P.815 - P.818

 1.最近の判例にみるインフォームド・コンセント

 エホバの証人の治療をめぐって,東京地裁で判決(平成9年3月12日)があった.「輸血をしないで欲しい」と文書まで出した女性信者(8月に68歳で訴因とは別の理由で死亡)に輸血を行ったという事件である.精神的苦痛を受けたとして遺族が東大医科学研究所附属病院の医師と国に計1,200万円の損害賠償を求めた.

 肝臓の右葉付近の腫瘍の摘出手術で東大医科研の医師に「手術中いかなる事態になっても輸血をしない」と確言し,免責証書を交付したにもかかわらず,1,200ミリリットルの輸血をした.医師側では,免責証書は患者の一方的な通告にすぎず,「いかなる事態でも輸血しない」と約束したわけではないという.

リハビリテーション医療とインフォームド・コンセント

著者: 佐直信彦

ページ範囲:P.819 - P.824

 1.はじめに

 1940年代,医療技術の目的志向性と専門分化の過程で,リハビリテーション(以下リハ)医学は障害者の全人的復権を目指し,「可能な限り,身体的,精神的,社会的,職業的および経済的な有用性を回復させる」という理念の下,“第3相の医学”として産声を上げた.しかし,疾病構造の変遷,疾病・障害の重度化が余儀なくされるなかで,“有用性の回復”を目指した専門技術優先が,障害者の選別という新たな轍を踏む結果となった1).一方,1970年代には,目標決定における専門家優先に対して,自活生活(independent living;IL)の実践が芽生えてきた.国際障害者年の1981年,障害者インターナショナルのリハの定義には,職業的,経済的という文言は見られず,“各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことを目指し”と謳われ,“どう生きるか”の決定はあくまで当事者自身にあることを明らかにしている2).その後の医療における潮流として,医の倫理,インフォームド・コンセント(以下IC)がキーワードとなった.本誌でも1993年「患者の人権」という特集(27巻1号)を組んでいる.

 このテーマを与えられたとき,今,何故にICなのかと改めて問いなおしてみた.在宅医療,在宅ケアが施設医療,施設ケアの対立軸として勢いを増しつつある現在,更に2000年4月に公的介護保険制度が導入されるに及んで,生活の場で「どう生きるか」の自己決定がますます尊重され,制度的にもサービスの利用に関し,計画書の作成を依頼するにしろ,自らサービス利用を選択するにしろ,利用者の自律性が尊重されている.このような時代背景を念頭に置きつつ,与えられたテーマについて考察してみた.

脳損傷例(若年者)の理学療法とインフォームド・コンセント―若年脳外傷症例を通して

著者: 岡田しげひこ

ページ範囲:P.825 - P.828

 1.インフォームド・コンセントと理学療法

 本誌第27巻第1号特集「患者の人権」中の「インフォームド・コンセントの確立と患者の権利法制化をめぐって」と題する論文のなかで,池永弁護士は,医師-患者間のインフォームド・コンセントの原意を,「十分な情報提供の下に自由意思に基づき為される同意・決定」とし,「こうした同意・決定があるからこそ患者の主体性や主体的エネルギーを生み出すことができる」と述べている.リハビリテーションにおいても,患者の主体性が発揮できなければ,その効果は減弱してしまう.理学療法の運動療法にしても,患者の意欲がなければ実行することさえ難しいことがある.理学療法士にとって,いかに患者の意欲を引き出し,高め,そしてどのように理学療法につなげていくかは重要な課題である.

 本稿では,理学療法とインフォームド・コンセントについて,池永氏のインフォームド・コンセントの概念から,患者・家族に理学療法を分かりやすく説明できること,そしてその説明に基づいて選択するバラエティに富んだ理学療法を提供することが,今,理学療法士に求められているものと理解し,若年脳外傷症例を通して,その具体的な方法を述べていく.

悪性腫瘍の理学療法とインフォームド・コンセント

著者: 高倉保幸

ページ範囲:P.829 - P.832

 1.はじめに

 医療界においてインフォームド・コンセント(以下IC)の重要性が叫ばれるなか,臨床で最も実践され大きな変革が進んでいるのが,がんの臨床ではないであろうか.命に関わる疾患であり,絶対的な治療法が未だ確立されていない現状では,後悔のない人生を歩むためには患者が主体的に治療法を選択することが望まれ,そのためにICが実践されるようになってきたことは必然の流れといってもよいであろう.

 一方,我々がリハビリテーションの分野で対象とする人たちは,生涯にわたって障害とともに生活していくことを余儀なくされる人たちであることが多い.いわゆる障害者がより有意義な人生を送るためには,自分の障害や障害に対する治療,介護・福祉機器や社会サービスなど様々な知識を持つことが必要である.そのためには,がんの分野に劣らずICは重要かつ必要なものであるが,まだまだこれからの感が否めないのが現状であろう.

 元来,理想的なICの実践は医療側の努力だけで解決できるものではない.医療側からも,医療を受ける側からも,医療を取り巻く社会的な環境からも様々な視点で検討が加えられ,変革が進まなければ理想的なICの実践は困難である.しかし,だからこそ,理想的なICに近づいていくためには,現在の状況で我々のできることを1つずつ明らかにし,具体的にそのあり方を問う努力が必要であると考える.

 理学療法を行う場面でのICを考えるとき,基本となるのは自分がどのような指示のもと,どのような点に注意しながら,どのような目的で理学療法を行っているのかを明確にすることであろう.しかし,これらは理学療法におけるICでは共通であると考えられる.

 本稿のテーマである悪性腫瘍例に対するICを考えるとき,他の疾患に対するものに比べて何がより特徴的であるかを考えると,以下の2点があげられるように思う.

 1)悪性腫瘍例では通常「がんの告知」の後,種々の治療法の呈示と説明がなされ,患者が主体的に治療法を選択していくことが望まれる.しかし,「告知」に伴い心理的なショックを受けている状況ではこれは容易なことではない.このような状況で機能的な側面が強く影響を与えているとき,立場の違う理学療法士がICに参加し,運動機能的な側面からの補足説明を行うことで患者の理解を深め,納得のいく治療法の選択を手助けできる可能性がある.

 2)他の疾患の場合に比べ,理学療法を行う上で悪性腫瘍特有のリスク管理が問題となることがある.腫瘍そのものによる病的骨折などに加え,外科的治療や抗がん剤の投与,放射線治療などによる副作用も少なくない.医療側も医療を受ける側もリスク管理について正しい知識を持たないと,本来避けることが可能な病的骨折や麻痺を生じさせたり,あるいは必要以上の安静などによって,円滑なリハビリテーションが阻害される.そのため,理学療法士にとってこれらのリスク管理についてのICがより重要となる.

 本稿では,これらの特徴的な問題点に対し,理学療法士に求められるICのあり方について具体例を呈示しながら述べていきたい.

ALS患者の理学療法とインフォームド・コンセント

著者: 道山典功

ページ範囲:P.833 - P.836

 1.はじめに

 最近の患者・家族の「知る権利」意識の高揚や医療内容の公開性の拡大から,リハビリテーション(以下リハ)医療の現場でも,患者・家族に対するインフォームド・コンセント(以下IC)が当然のこととなりつつある.

 進行性の神経疾患である筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)患者に対する理学療法を行う場合,患者・家族への理学療法の内容に関するICが必要になっている.実際に米国では,ALSと告知された患者・家族が参考とすべきマニュアルも出版され,日本でも最近翻訳されている1)

 本稿では,神経疾患専門病院である東京都立神経病院(以下,当院)でALS患者に対して理学療法の過程で行っているICの状況を実際の患者での経験も含めて報告する.

重症心身障害児・者と家族のための理学療法とインフォームド・コンセント

著者: 羽原史恭

ページ範囲:P.837 - P.841

 1.はじめに

 重症心身障害を持つ人々と働く理学療法士がいることを,全国の仲間(理学療法士)のうちどのくらいが知っているのだろうか?

 理学療法ジャーナルが“理学療法と作業療法”として1967年に創刊されて以来30年以上の歴史を持つが,今日まで“重症心身障害児・者”の特集が組まれたのは1970年の僅か1回のみ,1991年の“重度障害児の理学療法”を含んでも2回だけである!

 これまで理学療法士は重症心身障害を持つ人々(以下重症児・者)についてあまりにも無知で無関心だったのではないだろうか.

 旭川児童院に臨床実習生が来ると,彼らは例外なく落ち込み,実習を終えることが可能かどうか不安になる.学生は授業で重症児・者について学んだことはなく,教官でさえ実際には重症児・者についてはほとんど知らない,というのが現状である.

 本格的な臨床実習に出る前の1年,2年生の見学ではより素直で,はっきりとした意見を聞くことができる.「患者さんにどう接したらいいのか分からずにびびってしまいました.最後まで心のどこかでびびっていました.他の病院見学とは異なるびびりでした.」これは見学に訪れたある1年生の感想である.重症児・者について理解することは素直に驚き,そして考えることからその第一歩が始まるが,理学療法士を志すほとんどの学生はこの驚きを体験することがないまま,臨床の場に巣立って行く.

脊髄・頸髄損傷者の理学療法とインフォームド・コンセント

著者: 水上昌文

ページ範囲:P.842 - P.846

 1.はじめに

 脊髄.頸髄損傷(以下,脊髄損傷)では,損傷の形態が横断型で完全麻痺を呈している場合,現在の医学の現状では回復は不可能であり,車椅子依存の生活を余儀なくされる.この予後の「告知」は脊髄損傷者のリハビリテーションにおいてインフォームド・コンセント(以下IC)について語る際に常に問題となる.いつ,誰が,どのような方法で行うかという点に関しても結論は得られていないのが現状である.しかし,リハビリテーションを円滑に効果的に遂行するためには避けては通れない重要な問題である1,2).予後の「告知」は主治医により行われるのが一般的であるが,本論では理学療法士が臨床の場面で行うICのポイントについて,実際の症例を交えて筆者の経験と私見を述べる.

とびら

みる

著者: 濵田輝一

ページ範囲:P.811 - P.811

 教育に関わる立場から,臨床実習で学生が不合格となるケースに遭遇するのは当然あり得るのであるが,最近はその原因が学生ではなく,むしろ指導者であることが増加したように思う.

 不合格で問題となるというケースは従来からあったが,その多くは無断欠席や対人処理不適応といった問題行動の学生が主因であり,指導者に関しては皆無であった訳ではないが少なかった.

 PT学会でも,最近の学生の資質を問うものとして,理由なく提出物の期限が遅れる,自分の行動報告がないなどの責任感の薄さや,人間関係の稚拙さなどが問題として取り上げられるものの,教育の一方の担い手である実習指導者の教授・指導をめぐる問題報告はほとんど聞かない.現実には起きているはずであるが,臨床におけるドロップアウト(失敗)症例の報告が少ないという状況に近似している.

入門講座 筋力と身体諸機能・3

疼痛と筋力強化―腰痛症と体幹筋力について

著者: 伊藤俊一

ページ範囲:P.847 - P.854

 Ⅰ.はじめに

 有痛性疾患患者の理学療法においては,「痛み」に対する治療が最優先される.したがって,現在までに痛みに対する理学療法に関する論述は枚挙にいとまがない.痛みの定義や痛みの種類などについては他の多くの成書に譲るが,痛みが局所的なものにせよ,全身的なものにせよ,理学療法では運動療法や物理療法によって治療を行うことが根幹となる.しかし近年では,その根幹が治療効果という観点から科学性や理論性の点で疑問視されている.すなわち,治療法の有効性を理学療法の特異的有効性として科学的・論理的に評価した場合,実験法や証明法が極めて暖昧であるとされ,再検証が求められているのである.これは,多くの臨床研究が,肯定と否定の賛否両論のなかで,より高い治療効果と治療コストの軽減を目指したことに他ならない.本邦においても,森や中山が痛みに対する治療という観点から運動療法の特異性の再検証を提唱している1,2).この傾向は,現在では運動器疾患だけに止まらず3),中枢神経疾患やさらに呼吸器疾患にまで拡大してきている4,5).いずれにしても,過去の多くの臨床研究は実験デザインを吟味し直し,無作為比較対照試験などを加えて再検証しなければならない岐路に立っていることを認識する必要がある.

 臨床では,多くの論文を読むとそれ以上に多くの「矛盾」に遭遇する.すなわち,どの報告を信じて治療を行うことが,より効果的かということである.実際には,多くの成書に当たり前として記載されていることへの反証に出くわすことも少なくない.本稿では体幹を中心として,主に腰部の痛みに対する筋力強化の関連について,文献的賛否を整理して考察を加える.

症例報告

7年間の入院生活をした脳卒中片麻痺患者の外来理学療法を通して

著者: 西村由香 ,   吉尾雅春

ページ範囲:P.855 - P.858

はじめに

 本症例は,発症後2度の入院によって,7年間のリハビリテーション医療を受け続けた後,当科で外来理学療法を施行し,短期間で身体機能,ADLに改善がみられた症例である.本報告では,長期間の入院でリハビリテーション医療を受けながらも,なお深刻な問題を残したそれまでの医療の反省すべき点について考察し,慢性期脳卒中片麻痺患者への関わり方について検討する.特に身体機能の問題,ADL改善への関わり方について,また個人としての患者および家族への対応について触れる.

TREASURE HUNTING

自身の「障害受容」経験をバネにして―白川康彦氏(白川ソフトケア治療院)

著者: 編集室

ページ範囲:P.859 - P.859

 今月は久しぶりに,地域で自営されている理学療法士・白川康彦氏にご登場していただく.白川氏は昭和29年(1954年),広島県福山市生まれの43歳.あん摩マッサージ指圧師免許,鍼灸師免許を取得したあと理学療法士資格に挑戦,免許を得て昭和54年に社会保険広島市民病院に入職,12年間にわたり施設内リハビリテーションに従事したあと開業されたというから,すっかり油の乗り切った働き盛りの理学療法士というところだろう.

 氏が広島県深安郡に白川ソフトケア治療院を開設して7年になる.地域社会のなかでひとりで暮らす住民の立場にたって再出発を決意,瞬く間の7年間だったと述懐されていることからすると,種々のご苦労を重ねながらも,中身の濃い,やり甲斐に満ちた地域活動を展開されてきたことが想像されよう.

プログレス

筋電図からみた運動負荷(周波数解析を中心に)

著者: 日下隆一

ページ範囲:P.860 - P.861

 1.筋力とは

 筋収縮によって発生する力を,筋力(muscle strength)といい,これを理学療法では,一般的には①瞬発力(strenguh),随意最大筋力(maximum voluntary strength,MVC),②持久力(endurance),③巧緻性(skill),力学としては,①筋力と収縮速度の積である筋パワー(muscle power,kgm/sec),②テコの原理から算出し仕事量として表した筋トルク(muscle torque,Nm)として用いている.

プラクティカル・メモ

ドリンクパックでつくる“重錘バンド”

著者: 北薗真治

ページ範囲:P.862 - P.862

 “重錘バンド”は日常的によく使われる訓練用具の1つです.トレーニング内容も容易で日常的なものが多く,在宅で訓練指導を行う場面も多いのですが,“重錘バンド”は比較的高価で,入手するのにも意外に手間がかかります.

 そこで今回は,最近よくみかけるドリンクパック(スポーツ飲料の容器)を利用した,簡単で丈夫な“ドリンクパック重錘バンド”を紹介します.是非,訓練室の一角に置いて,在宅指導等に役立ててください.

講座 理学療法における標準(値)・5

体力―理学療法の立場で,ADLを基本においた体力標準とは?

著者: 鈴木洋児

ページ範囲:P.863 - P.871

 体力を作業能力ととらえる

 日本で最初の系統だった体力測定・評価を行ったのは,12,800人の児童・中学校生徒を対象にした文部省の体育研究所であり,吉田章作が1932年に発表1),1938年に生徒・児童「体力標準表」を作成した.以来,1964年に児童・生徒に対して「体力・運動能力テスト」,1967年に「壮年体力テスト」を確立・実施するまで2),長い体力測定の歴史がありながら,「日本人の体力の平均値」の発表に止まり,目標値となる「日本人の体力の標準値」は未だに示されていない.様々な体力観があり,研究者により各体力要素の測定法も異なるからである.国際的には,日本の科学者の提案で国際体力標準化委員会が設けられ,6年間の歳月をかけて体力測定について検討し,その詳細が1972年に報告された3)が,体力の標準値を得るまでには至らなかった.

 体力の定義にコンセンサスが得られない理由の1つは,“physical fitness”を「体力」と訳してしまったため,欧米的な“physical fitness”と日本的「体力」の間に考え方の大きな相違があり,混乱しているからである.欧米では国際保健機構(WHO)が定義した“Physical fitness is defined as the ability to perform muscular work satisfactorily under specified conditions”(1968)すなわち「physical fitness=“体力”とは特定の条件のもとに満足に筋作業を遂行しうる能力費という考え方に準じている.国際体力標準化委員会でも,身体活動を遂行する作業能力とそれを支える身体的能力を“physical fitness”=体力と位置づけ,その好ましい生理学的・医学的結果が個人の健康と厚生に強く結びつくとしている3).つまり,健康と結びついた体力の基礎は作業能力であり,それと結びつく種々の運動能であることを示唆した.

1ページ講座 義肢装具パーツの最新情報・11

ヨーロッパ方式の靴型装具

著者: 高嶋孝倫

ページ範囲:P.872 - P.874

 1.はじめに

 足底は人の全体重を支える重要な役割を持っている.この足に何らかの障害が生じた場合,人はその足を使って立ち,歩くことを阻害される.しかし,靴型装具を用いることにより,体重支持,歩行機能は改善されうる.この靴型装具の製作方法のなかに,最近われわれがヨーロッパ方式と呼んでいる手法がある.今回は,その基本的な概念について述べる.

報告

下肢筋群における1 Repetition Maximumの測定―その再現性と加齢変化について

著者: 横山仁志 ,   山﨑裕司 ,   大森圭貢 ,   平木幸治 ,   井澤和大 ,   青木詩子 ,   青木治人

ページ範囲:P.875 - P.878

はじめに

 臨床における筋力増強運動では,重錘を利用した方法が多く使用されており,その負荷設定には,10Repetition Maximum,あるいは1Repetition Maximum(以下1RM)の値が参考となる1).しかし,多忙な臨床の中でこれらを厳密に測定することは煩雑であり,また各筋の1RM値についての基礎データが不足しているため,重錘の負荷を設定する際に参考とするものがないのが現状である.

 そこで本研究は,重錘を用いた筋力増強運動の基礎データを提供するために下肢筋群の1RM測定を行い,1RM測定方法の再現性,および健常女性の1RMの加齢変化について検討したので報告する.

Case Presentations

膝前十字靱帯再断裂に対する再々建術と理学療法

著者: 藤原淳詞 ,   安達伸生 ,   越智光夫

ページ範囲:P.879 - P.884

 Ⅰはじめに

 膝前十字靱帯(以下,ACL)再建術は近年,飛躍的に進歩し,優れた術後成績が得られるようになった1).しかし,全ての患者で満足な成績が得られるわけではなく,中には再建ACLの再断裂または緩みによる機能不全を生じる症例も認められる2)

 本稿では,当院でACL再断裂に対する再々建術を受けた4例について検討し,術中所見や身体的所見をもとにACL再建術および再々建術後療法での留意点について述べる.

資料

第33回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1998年3月6日実施) 模範解答と解説・Ⅴ―理学療法・作業療法共通問題(2)

著者: 和田野安良 ,   斎藤基一郎 ,   垣花昌明 ,   永田博司 ,   佐々木誠一 ,   根岸敬矩 ,   佐々木順子 ,   佐藤秀郎

ページ範囲:P.885 - P.889

あんてな

熊本小児療育研究会の活動

著者: 楠本敬二

ページ範囲:P.890 - P.891

 1.はじめに

 熊本小児療育研究会(以下,研究会)発足当時の熊本県における療育は,県立の肢体不自由児施設と熊本市内の2,3の病院で,それぞれ独自に行われていたのが実態であった.しかも,それぞれの施設,病院で療育に携わる療法士の数も少なく,症例検討すら十分にできないという悩みを抱えていた.研究会は,こうした現状を打破することを目的として,昭和62年10月,県内の療育に携わる約15名の理学療法士,作業療法士が参加して発足した.

 発足当初は,どこにでもあるような勉強会活動が中心で,障害をもつ子どもの複雑な臨床像を理解し,効果的な治療の実現を目的として独自の症例検討会を積み重ねていった.こうした活動の結果として,治療技術や問題解決能力の向上,後述する治療上の特徴の理解が深まり,更に研究会会員の職種,職場,職域が多様化していったことで,それぞれの専門領域の相互理解が進み,限られた範囲ではあるが,情報交換のネットワークの構築も可能になってきている.これらのことは研究会発足当時から意図していたわけではなく,あくまで障害をもつ子どもの複雑な臨床像をより深く理解したいという動機から出発した必然的な結果ではないかと考えている.

 ここでは研究会の10年間の活動を踏まえ,我々の考える小児療育の特徴や留意点,それを導き出した具体的活動としての月例会と研修会について報告する.

ひろば

階段昇降が環境・健康へ及ぼす効用

著者: 藤村昌彦

ページ範囲:P.828 - P.828

 私の勤務する保健学科棟は10階建てのビルである.エレベータは2台配備されているが,夏期期間中1台は運休となる.この季節,各教室や研究室でエアコンを稼働するために電力需要が大幅に増大するためだと説明があった.私はこれを機会に,階段を使用することにした.私が主に利用するフロアーは9階なので,歩き始めた頃はかなりきつかったが,2か月少々経過した最近はだいぶ身体が慣れてきた.経過はカレンダーに記録している.今日の午前中で100回を突破した.

書評

―高口光子(著)―いきいき・ザ・老人ケア―生活ケアの現場から

著者: 大田仁史

ページ範囲:P.836 - P.836

 本書の第1部(ドキュメント/なるほど・ザ・老人ケア)の1章(ザ・遊びリテーション)の「不幸くらべ」は仲間内ではもう古典的な語りぐさになっているほど有名である.「これをグループでハウツウとして利用されると危ない」と著者も述べているが,私もそう思う.やってもうまくいかなかったという話を幾度か聞いたが,そうだろう.というのはすべて著者の「感性と表現力」で築いた老人との関係の中で始めて可能な手法だからである.

 すべてにおいて感じるのだが,意識しているしていないにかかわらず,著者は老人に対して言語としぐさで自分の想いを強力に発信する.著者と出会ったその瞬間,老人は強いインパクトを受け心を動かされる.ときには鉄砲弾のような口調で,ときには体を微妙に動かし,表現しがたい速度で変化する表情によって著者が作り出す独特の状況や場面は,著者だけがもつ才能によってしか生まれないであろう.老人と「居る」その「場」を著者は思いのままに創造し,その中に老人を誘い込む.老人が主体ではあるが実は彼女の「治療の場」の創造なのである.老人はそこで癒され元気をとりもどす.

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文献抄録

ページ範囲:P.892 - P.893

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.896 - P.896

 インフォームド・コンセントという言葉がこれ程までに巷間に知れ渡ったときは,現在においてほかにないでしょう.少なくとも筆者がこの言葉を明確に意識したのは,「人体実験」にかんする砂原先生の記述(臨床医学研究序説)を読んだ1980年代の後半だと思われます.特に双盲法におけるインフォームド・コンセントのありかたには当時少なからずパターナリズムの影響下にあったものにとっては実に感銘の深い経験でした.

 それから随分と時間がながれ,これまでにも多くのインフォームド・コンセントについての議論がなされてきたことは周知のとおりです.そこで本号の特集ですが,これらの先行する報告を踏まえての問題提起と実践課題が示されています.詳細は直接各論文にあたっていただくとして,特に興味深い記述は加藤先生が指摘されている「インフォームド・コンセントが医師の患者に対する責務であり,サービスではない」ということです.想者サービスと思い込むことが決定的な誤解を生じる,とは実に的を射ているといえます.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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