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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル32巻11号

1998年11月発行

文献概要

特集 インフォームド・コンセント

悪性腫瘍の理学療法とインフォームド・コンセント

著者: 高倉保幸1

所属機関: 1(財)癌研究会附属病院整形外科リハビリテーション室

ページ範囲:P.829 - P.832

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 1.はじめに

 医療界においてインフォームド・コンセント(以下IC)の重要性が叫ばれるなか,臨床で最も実践され大きな変革が進んでいるのが,がんの臨床ではないであろうか.命に関わる疾患であり,絶対的な治療法が未だ確立されていない現状では,後悔のない人生を歩むためには患者が主体的に治療法を選択することが望まれ,そのためにICが実践されるようになってきたことは必然の流れといってもよいであろう.

 一方,我々がリハビリテーションの分野で対象とする人たちは,生涯にわたって障害とともに生活していくことを余儀なくされる人たちであることが多い.いわゆる障害者がより有意義な人生を送るためには,自分の障害や障害に対する治療,介護・福祉機器や社会サービスなど様々な知識を持つことが必要である.そのためには,がんの分野に劣らずICは重要かつ必要なものであるが,まだまだこれからの感が否めないのが現状であろう.

 元来,理想的なICの実践は医療側の努力だけで解決できるものではない.医療側からも,医療を受ける側からも,医療を取り巻く社会的な環境からも様々な視点で検討が加えられ,変革が進まなければ理想的なICの実践は困難である.しかし,だからこそ,理想的なICに近づいていくためには,現在の状況で我々のできることを1つずつ明らかにし,具体的にそのあり方を問う努力が必要であると考える.

 理学療法を行う場面でのICを考えるとき,基本となるのは自分がどのような指示のもと,どのような点に注意しながら,どのような目的で理学療法を行っているのかを明確にすることであろう.しかし,これらは理学療法におけるICでは共通であると考えられる.

 本稿のテーマである悪性腫瘍例に対するICを考えるとき,他の疾患に対するものに比べて何がより特徴的であるかを考えると,以下の2点があげられるように思う.

 1)悪性腫瘍例では通常「がんの告知」の後,種々の治療法の呈示と説明がなされ,患者が主体的に治療法を選択していくことが望まれる.しかし,「告知」に伴い心理的なショックを受けている状況ではこれは容易なことではない.このような状況で機能的な側面が強く影響を与えているとき,立場の違う理学療法士がICに参加し,運動機能的な側面からの補足説明を行うことで患者の理解を深め,納得のいく治療法の選択を手助けできる可能性がある.

 2)他の疾患の場合に比べ,理学療法を行う上で悪性腫瘍特有のリスク管理が問題となることがある.腫瘍そのものによる病的骨折などに加え,外科的治療や抗がん剤の投与,放射線治療などによる副作用も少なくない.医療側も医療を受ける側もリスク管理について正しい知識を持たないと,本来避けることが可能な病的骨折や麻痺を生じさせたり,あるいは必要以上の安静などによって,円滑なリハビリテーションが阻害される.そのため,理学療法士にとってこれらのリスク管理についてのICがより重要となる.

 本稿では,これらの特徴的な問題点に対し,理学療法士に求められるICのあり方について具体例を呈示しながら述べていきたい.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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