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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル32巻2号

1998年02月発行

雑誌目次

特集 合併障害をもつ片麻痺者の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.83 - P.83

 脳卒中は運動麻痺のほかに筋緊張異常,感覚障害,半側無視,失語症などの多彩な随伴症状を呈するため,そのリハビリテーションは一様でない.しかも中高年者に多発する疾患だけに,生活習慣病である糖尿病,高血圧などの既往や変形性疾患を合併していることも多く.それらがさらに進行して重篤な合併症や重複障害をきたした症例に遭遇し,困惑することがある.その背景には,ゴール設定や運動量の決定,優先すべきプログラムを立案・実施する場合に合併障害をどのように位置づけるか,などの臨床判断が求められているからである.

 そこで今回,ASOなどによる下肢切断を伴った片麻療,糖尿病性網膜症,緑内障などによる視覚障害を伴った片麻庫,関節炎を伴った片麻療に対する理学療法を実施する際の,合併障害の捉え方,留意すべき症状とプログラムとの関係などについて解説していただき,臨床に直結するものになればと願って企画した.

合併障害を有する脳卒中片麻痺に対するリハビリテーション

著者: 長友さやか ,   小泉亜紀 ,   佐鹿博信

ページ範囲:P.85 - P.92

 1.はじめに

 脳卒中は全くの健常者に単独疾患として発症することは稀である.何らかの医学的リスクを抱えていたり,慢性疾患の治療中であることが多い.すなわち,脳卒中患者には疾病と障害が共存しているということになり,疾病の治療または管理をしながら障害に対してリハビリテーションをすることになる.また,脳卒中の発症が中高年者に多いことから,中高年特有の疾病も合併しやすくなり,まさに脳卒中片麻痺患者にはあらゆる疾患・障害が関与しているといってよいであろう.

下肢切断を伴った脳卒中片麻痺の理学療法

著者: 小嶋功 ,   長倉裕二 ,   大藪弘子 ,   高瀬泉 ,   町田勝広 ,   山下隆昭 ,   陳隆明 ,   中川昭夫 ,   大塚博 ,   澤村誠志

ページ範囲:P.93 - P.101

 1.はじめに

 循環障害を原因とする下肢切断は,閉塞性動脈硬化症や糖尿病に起因する,いわば全身性にわたるリスクや合併症を持つことになる.なかでも下肢切断に片麻痺を合併する比率は,循環障害による下肢切断者の増加に伴いその発症リスクは高くなってゆくものと思われる.それぞれの障害の発症時年齢・期間,切断部位,切断と麻痺側が同側か対側か,脳血管障害に伴う高次脳機能障害の有無,さらに糖尿病や心疾患を合併している場合等々,義足歩行に対する予後予測は極めて難しく,理学療法を進める上でも,また患者・家族指導をおこなう上でも難渋することが多い.

 本稿では我々が過去に報告1-4)した下肢切断と片麻痺を合併した症例の経験を基に,さらに若干名の症例を追加した17例のリハビリテーションを行った結果から,理学療法や義足の選択・工夫ならびにリハビリテーションの進め方について述べる.

視覚障害を伴った脳卒中片麻痺の理学療法

著者: 米田睦男

ページ範囲:P.102 - P.108

 1.はじめに

 脳卒中患者の高齢化に伴い,重篤な合併症や重複障害を有する患者が臨床的に多くなっている.

 ここでは,視覚障害を伴った片麻痺者の理学療法の指導方法と退院症例の生活実態をレポートし,これら障害者への心理面への配慮を含む理学療法アプローチを探ることとする.

関節炎を伴った脳卒中片麻痺の理学療法

著者: 内田成男 ,   石原勉

ページ範囲:P.109 - P.116

 1.はじめに

 脳卒中は非常に幅広い年代で発病するが,高齢者に多発することは周知のところである.したがって,脳卒中片麻痺では,加齢に伴う心・血管系の障害や代謝疾患および骨・関節の退行変性に伴う障害など,実に多彩な合併障害を認める場合が多い.さらに,脳卒中片麻痺には一次的に随伴する失語,失認,失行,痴呆なども加わるため,いわゆる半側上下肢の運動麻痺のみのケースは比較的まれといえる.

 さて,合併障害を有する片麻痺患者の理学療法については,我が国においても多角的に検討されてきた1).しかし,骨・関節の障害を合併した片麻痺に関する報告は意外と少ない2,11).そこで本稿では,片麻痺の合併症としての骨・関節障害の現状について概観したあと,関節炎,特に変形性膝関節症あるいは慢性関節リウマチ(RA)を合併した症例の理学療法について報告する.

とびら

「川の流れのように」

著者: 大嶽昇弘

ページ範囲:P.81 - P.81

 この夏,家族5人で長良川へ出かけた.長良川は岐阜県中央部にはじまり,険しい急流の上流を経て,鮎つり,カヌーを楽しむ中流そして穏やかな流れとなり,伊勢湾にしずかに注ぐ下流まで変化に富む全長約150kmの美しい川である.今回,その上流から下流までを辿った.子どもたちが川遊びをしているのを眺めながら,ふと,その川の変化に一生に通ずるものを感じた.

 私が病院勤務で対象としてきた多くは高齢者であった.その人生において多くを経験され,すでに大海も近い人々であり,私は多くを学ばせていただいた.私自身も人生の折り返し点を過ぎ,時に「人生」とか「一生」といったことを考えることがある.川の流れを人生と重ねてしまうのであろう.今私は駆け出しではあるが,若いPTを育てる教育の場にいる.学生達が将来どんなPTになるのだろうかと想像すると頼もしくなる.

入門講座 知っておくと便利な応急処置・2

在宅リハビリ・医療外施設(外科編)

著者: 長谷好記

ページ範囲:P.117 - P.122

はじめに

 理学療法士自らが応急処置をしなければならない状況で最も多いのは,転倒による怪我,次いで介護中や訓練中に生じた怪我に出会ったときであろう1-4)

 転倒による怪我といっても,その程度や種類はさまざまである.打撲や捻挫だけの症例もあれば,頭部打撲で死亡した症例や頸髄損傷で四肢麻痺になった症例もある.また,転倒の際にガラス戸に突っ込み,ひどい切創を負ったり,ストーブでやけどをした症例を経験したこともある.

 これらの自験例をもとに,理学療法士が遭遇する可能性が高い外傷について,応急処置の原則と注意すべき点について述べる.

あんてな

苫小牧リハビリテーション研究会のあゆみ

著者: 信太雅洋

ページ範囲:P.124 - P.125

 苫小牧リハビリテーション研究会は平成7年7月に発足したばかりの地域の小さな研究会です.この研究会のエリアとしては,苫小牧市を中心とした1市6町,人口22万人,そして軽種馬の生産地としては有名ですが,リハビリテーション医療はほとんど普及していない日高地方(9町),人口8万人を併せた地域です.

 研究会に参加している職種は医師をはじめとして様々で,「珍しい研究会ですね」といわれることもあります.今回は,この研究会の発足から現在までの活動内容を紹介させていただきます.

1ページ講座 義肢装具パーツの最新情報・2

新しい膝継手(1)総論

著者: 中川昭夫

ページ範囲:P.126 - P.128

 義足の膝継手の通称は,それぞれの特長を表してはいるが,継手相互間の比較を行うには不便な場合が多い.JIS規格では膝継手のもつ機能と荷重の支持方式によって表のように分類している.このような表示方法は膝継手を大まかに分類するには適しているものと考えられる.最近の新しい膝継手もこのような分類方法に従えば,それらのいずれかに属することとなり,理解が容易になる.個々の膝継手の特徴については次号に譲ることとし,今回はそれらの機能を理解するための基礎となる特性について概説する.

TREASURE HUNTING

地域リハの最先端に生きる―中井孝幸氏(長野県武石村高齢者多目的福祉センター)

著者: 編集室

ページ範囲:P.129 - P.129

 「施設から在宅へ」という保健・医療・福祉の潮流のなかで,地域で活動を始めている理学療法士が全国的に増えている.地域というフィールドでは,施設で行う画一的な理学療法とは異なる技術,とりわけ対人関係技術が要求される.施設の枠を離れ,1対1の人間関係をべースとして理学療法を行わなければならないからだ.

 中井孝幸氏が武石村高齢者多目的福祉センターに勤務して地域リハビリテーションの最先端に立ったのは6年前.その間,元武石村診療所長・矢島嶺先生(現・長野大学教授)から,地域で生活する障害者やお年寄りを支えるためには,医療技術より「哲学」が必要ということを教えられ,その教えは経験の裏づけを得て,今や信条にまでなっているようだ.

プログレス

脳の機能解剖―脳卒中片麻痺者の運動機能回復の観点から

著者: 年森清隆

ページ範囲:P.130 - P.131

 脳は,終脳(大脳半球),間脳(視床と視床下部),中脳,橋,小脳そして延髄に分けられる.間脳,中脳,橋および延髄は脳幹とも呼ばれ,生命維持に重要な部分である.脳の各部位は,内頸動脈に由来する前大脳動脈と中大脳動脈および椎骨動脈(鎖骨下動脈から分岐する)に由来する脳底動脈の技によって栄養され,特有の機能を有している.終脳の中で運動に関係する部位は前大脳動脈と中大脳動脈によって支配される.脳動脈は,脳底部に形成される大脳動脈論(ウイリス輪)以外では吻合が無いため,灌流域は末梢になるにつれて扇状に広がる.

 一方,脳卒中は急性・重症型の脳血管発作であり,原因疾患は脳梗塞(脳血栓と脳塞栓),脳出血,くも膜下出血,一過性脳虚血および高血圧性脳症等である.脳卒中では,脳血管に起こる病的過程に応じて,支配される領域の機能が徐々にあるいは急激に消失し,その部位特有の精神症状や神経症状が出現する.

Q & A

老人早期理学療法の診療報酬について

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.132 - P.132

 Q 通常の老人理学療法では入院2,3,6か月目にも保険診療点数が取れるのに,老人早期理学療法実施者に対する評価が入院初月に限られるのは何故でしょうか?また,別の病気で入院中に脳卒中を発症し,理学療法を行っても診療報酬点数が認められないのはなぜですか?(H生/北海道)

 A 近年の診療報酬制度は,高齢社会に向けた政策誘導としてシステム化されているものと理解しておいて下さい.ないお金を国が出そうというわけですから,あくまでも国の政策に協力してくれた医療機関に報酬が届く制度になっています.

講座 難病・2

膠原病

著者: 三森経世

ページ範囲:P.133 - P.139

 膠原病とは

 膠原病(collagen disease)は米国の病理学者Paul Klempererによって1942年に提唱された概念であり,それまで支配的であったMorgagniの臓器病理学的立場からは説明できない,全身の結合組織にフィブリノイド変性という共通した病理組織学的変化を基盤とする多臓器障害性疾患を新しい疾患群としてとらえることによって始まった.

 その後,Klempererは全身性エリテマトーデス,強皮症,皮膚筋炎,結節性多発動脈炎,慢性関節リウマチ,リウマチ熱の6疾患を膠原病に含めた.これら6疾患は古典的膠原病と呼ばれる.現在ではこれらに加えてSjogren症候群,混合性結合組織病,Wegener肉芽腫症,高安動脈炎,側頭動脈炎,スティル病などの疾患も膠原病関連疾患に分類されている.Klempererの考えには批判と修正が加えられつつも基本的概念は現在にいたるまで踏襲されており,近代的なリウマチ学と臨床免疫学の進歩に大きく貢献した.

Case Presentations

ランニングにより踵骨骨折をきたした糖尿病性神経障害患者の理学療法経験

著者: 石井光昭

ページ範囲:P.141 - P.144

 Ⅰはじめに

 生活習慣病に対する運動療法の普及とともに,これによる運動器の傷害が増加している.筆者は,自主的な運動療法として実施していたランニング中に踵骨骨折をきたした糖尿病性神経障害患者の1例を経験した.糖尿病性神経障害患者にみられる骨折は,感染を伴ったり骨癒合が遷延化しやすく難治性である.また,変形治癒や関節可動域制限などの後遺障害が残存すれば,足局所に過剰な圧が加わり皮膚潰瘍の危険性が高まる.

 このようなネガティブな面の多い骨折が運動中に発生したことを,糖尿病の運動療法に携わる者は警鐘として受けとめる必要がある.そこで本稿では,骨折の発生原因を考察し,今後,神経障害を合併する糖尿病患者が安全に運動療法を実施していくための方策を検討することにしたい.

学生から

初めての臨床実習

著者: 坂本恵子

ページ範囲:P.92 - P.92

 9月中旬より2週間,初めての臨床実習に行かせていただきましたので報告します.

 不安と緊張の連続でしたが,実質8日間という短い期間を1秒たりとも無駄にしないよう,できる限り多くのものを吸収するよう努めました.ここで気づいたこと,分かつたことは数多くありました.

ひろば

リハ・スタッフの「接遇」について

著者: 村山弘文

ページ範囲:P.128 - P.128

 私は理学療法士(PT)となって現在10年目に入り,実質的にはスタッフ総勢20名の総合リハセンターの所属長という立場にある.自分もまだまだ未熟だが,立場上,新人研修や実習生の指導に携わる.ここ2~3年は,リハ・スタッフの言葉遣いや態度,服装(頭髪)など,いわゆる「接遇」について患者や病院職員から寄せられる苦情相談の対応に悩まされることが多くなった.

 確かに最近の新人PTや実習生は,自然で節度ある「接遇」が不得手な人が多い.私が学生の頃や就職した当時は,患者や目上の人(高齢者)に対する心構えは当然の常職と考えていたが,近年の若い人のモラルはそうではないらしい.平成8年度の臨床実習指導者研修会でも「学生としての立場をわきまえた態度」が話題になったが,臨床実習期間が短縮されつつある現在,「臨床現場での実践的な接遇」をいかに習得させていくのか難しい問題だ.

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文献抄録

ページ範囲:P.146 - P.147

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.150 - P.150

 2月号の特集テーマとして「合併障害をもつ片麻痺者の理学療法」を取り上げた.脳卒中片麻痺者の高齢化に伴い,閉塞性動脈硬化症による下肢切断や糖尿病性網膜症による失明などの台併障害をきたした症例を経験することも少なくない.合併障害ゆえに何を優先した理学療法を実施するかが重要となるだけに,臨床経験豊富な方々に執筆をお願いした.

 長友氏,他には合併障害の概念とそのリハビリテーションの基本指針について解説していただいた.氏は重篤な腎・肝不全や糖尿病などを合併している際のリスク管理上の具体的な指標を文献的に示し,個別的な創意に富むアプローチの必要性を強調している.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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