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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル32巻3号

1998年03月発行

雑誌目次

特集 転倒と骨折

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.153 - P.153

 高齢者の転倒による骨折とその治療はこれまで多くの研究が行われており,臨床的関心は高い.しかしこの転倒と骨折の背景,予防と治療に関わる領域はきわめて広く,十分に吟味されたとはいえない.また,最近の人工関節の進歩,早期術後リハビリテーションプログラムの進め方など再検討を要する課題も少なくない.今回「転倒と骨折」というテーマの「と」が入っている意味は,単に結果としての転倒骨折の分析だけではなく,予防的視点も含めた検討をしたいと考えたためである.理学療法士がどれだけ積極的に関われるか,そめの可能性について考える契機となり得るかが,本特集では問われているといえよう.

高齢者の転倒骨折の背景と整形外科的治療

著者: 五十嵐三都男

ページ範囲:P.155 - P.158

 1.はじめに

 老年者の骨折で最も頻度が高いのは脊椎椎体骨折であるが,それに次ぐのが大腿骨頸部骨折である.一般的にいって,椎体骨折は腰背痛として表現されるが,臥床するにしてもそう長期間ではない.それに対して,大腿骨頸部骨折となると,臥床のみで快復して元のように活動できるようになることはまず不可能であり,老年者においては保存療法では生命への危険性が非常に高くなる.

 老人に多いその他の骨折は橈骨骨折(Colles骨折),上腕骨外科頸骨折があるが,これらの骨折と比べて大腿骨頸部骨折は日常生活動作の低下と生命への危険性で区別される.上肢の骨折はその一肢のみが機能不全に陥るだけで,老人にとって重要な歩行機能が冒されることはない.大腿骨踝上骨折は,頻度は低いが,大腿骨頸部骨折と同じような全身への大きな影響を及ぼす.

 数も多く,全身的にも影響の高い大腿骨頸部骨折について主として述べる.

高齢者における転倒・骨折のとらえ方

著者: 久保晃

ページ範囲:P.159 - P.164

 1.はじめに

 転倒の予防対策は,段差の解消や骨折予防のプロテクターの着用,床材の検討などの環境因子とめまいや歩行障害などの個体因子に分類されている.今回は主として転倒の個体要因と理学療法(以下PT)との関連で稿を進める.

転倒による大腿骨頸部骨折の早期理学療法

著者: 萩原洋子 ,   山﨑裕司 ,   網本和 ,   増田敏光 ,   別府諸兄 ,   青木治人

ページ範囲:P.165 - P.169

 1.はじめに

 米国では年間に65歳以上の高齢者のうち3人に1人は転倒を経験しており,その1割以上が死亡または,移動が困難になるなどの重大な障害を被っている1).なかでも,転倒による大腿骨頸部骨折は,受傷後約7割の症例で,歩行能力を初めとするADL能力の低下を示すといわれ2),受傷後の早期理学療法の重要性は極めて高い.

 本稿では,筆者らの成績をもとに早期理学療法の意義について述べた上で,早期理学療法の具体的な進め方について解説する.

転倒による中心性頸髄損傷の理学療法

著者: 松本規男 ,   杉浦雅美 ,   山口崇 ,   清水民子 ,   北島紀子 ,   山西睦月

ページ範囲:P.170 - P.177

 1.はじめに

 日本パラプレジア医学会脊損予防委員会の国内全土を対象とした脊髄損傷の発生状況調査1)によれば,頸髄損傷(以下,頸損)が75%を占め,その78.5%が不全四肢麻痺である.そして,受傷原因は交通事故が最多(43.7%)であり,次いで高所からの転落(28.9%),転倒(12.9%)と続く.この転倒12.9%の平均年齢は61.7歳と高齢であり,多くは骨傷のないものであった.このように,比較的軽微な受傷原因で不全四肢麻痺となっている高齢者が多くみられることは注目される.

 本稿ではまず,当院における転倒による頸損患者の実態を報告し,次いで不全頸損の代表例ともいえる中心性頸損患者の概要,症例報告を行い,その発生機序,整形外科的治療および理学療法について考察する.

痴呆を合併した大腿骨頸部骨折の理学療法

著者: 池田淑子 ,   棚橋尚美 ,   住吉京子 ,   永原久栄

ページ範囲:P.178 - P.185

 1.はじめに

 大腿骨頸部骨折(以下,頸部骨折)の術後理学療法は,安静度のタイムスケジュールが決まっており,また,ゴールも歩行能力の再獲得とされ,順調な経過か否かが議論される.そのなかで,痴呆は獲得歩行能力の低下因子としてオッズ比4.42という報告1)もあり,頸部骨折の術後成績に大きく影響するといわれている.当院においては痴呆合併患者が多く,標準的な頸部骨折の理学療法が,痴呆を合併している患者を対象としたものとなっているのが実状である.そこで,当院の理学療法の結果を整理し,訓練の実際を紹介するなかで,痴呆合併患者の特色をまとめてみたい.

 痴呆とは脳疾患による症候群であり,慢性あるいは進行性で,記憶障害をはじめ多数の知的機能障害を示す疾患である2)が,ここではベースになる脳疾患の診断による症状の違いには踏み込まずに,日常の臨床場面で遭遇する主な症状でとらえることとする.

とびら

臨床理学療法あれこれ

著者: 石橋朝子

ページ範囲:P.151 - P.151

 患者さんを診るのが何よりも好きな私が臨床を離れて本学の前身である札幌医大衛生短大に赴任した当時,教員になったことが学生のためにも自分のためにも良かったのか,悪かったのか内心忸怩(じくじ)たる思いをむかし本誌の随想欄に寄せた記憶がある.あれから早いもので15年,お蔭様で本年は教職さいごの年を迎えてこの間を回顧するに俄然,結果は二重丸と自画自賛している.

 振り返ると,教員になって2年ほどで私は再び臨床を模索しはじめた.縁あって内科医の紹介で週3回,1日おきに午後のひとときを大学病院の呼吸器科病棟で過ごすようになった.初めの患者さんは結核後遺症で寝たきりとなった方で,初回訪問時,教授総回診に出くわし,「私は呼吸器リハビリというものを全く理解しないが,この方をどうされますか」と教授に問われてしばし考え,「3年間かかって寝たきりにして下さいましたから,私も3年間かけて起こしてゆこうと思います」といったら,なみいる医師方がどっと吹き出した.以来,医師,ナースとのコンビネーションで大学病院での呼吸器リハビリは始まった.従来の医学教育には全くないカテゴリーなのに,乾いた砂が水を吸い込むような勢いで医局から全病棟へ,慢性期から急性期へ,そして全国規模の学術集会へと,主に医師たちにより波及していった.

入門講座 知っておくと便利な応急処置・3

在宅リハビリ・医療外施設(小児編)

著者: 水間正澄

ページ範囲:P.187 - P.192

はじめに

 近年,リハビリテーションの場は病院内のみならず施設通所や在宅リハビリテーションといった病院外にまで拡がっており,今後ますますその傾向が強くなるものと考えられる.したがって,医師がいない環境で理学療法士(以下PT)が障害者に対応する時,救急を要する事態に遭遇し応急処置を施す必要に迫られることも考えておく必要がある.

 障害児を扱う領域においてもPTがかかわる現場は病院・療育施設,医師の常駐しない施設・学校・在宅などが考えられ,救急を要する事態は日常の療育の過程を中断することに至る原因の1つともなり得るため,初期の適切な処置も重要になる.

 本稿ではこれらの現場において遭遇する可能性のあるものについて,その徴候を見落とさないためのチェックポイントと医療機関に移送または受診するまでに行っておくべき応急処置のポイントについて述べる.

 原因としては,原疾患そのものによるもの(てんかんや誤嚥など)と二次的(外傷など)なものとが考えられる.PTも常にこれらの因子の存在を知っておき,慌てずに適切な判断をして応急処置を行うことに心がける必要がある.

 以下に,応急処置が必要とされる代表的なものについて順に述べていく.

1ページ講座 義肢装具パーツの最新情報・3

新しい膝継手(2)各論

著者: 長倉裕二

ページ範囲:P.194 - P.196

 膝継手の機構および名称に関しては前回の総論を参考にしていただき,第3回めでは当センターで臨床上よく使用している膝継手から,その特徴と調整について述べる.

TREASURE HUNTING

日本の医療課題を直視して行動する―伊藤和夫氏(あおもり協立病院リハビリテーション科)

著者: 編集室

ページ範囲:P.199 - P.199

 全日本民主医療機関連合会(民医連)という組織をご存じの方も多いことと思う.各地で地道な医療活動を展開している医療機関の全国組織である.今月ご登場いただいた伊藤和夫氏は民医連リハビリ技術者世話人会代表としてリハ関連職種の先頭に立ち,医療をめぐる政策課題に積極的に取り組んでおられる.また,青森県士会副会長として後継者の育成に努められ,県高齢者介護サービス体制整備検討委員会に士会を代表して参加するなど,八面六臂の活躍を続けている.

 伊藤氏が国療東京病院附属リハ学院を卒業して理学療法士の資格を取得したのは27歳.弘前大学理学部物理学科を卒業して高校の教員をめざすが,折からのオイルショックの余波で世の中は不況の真っ只中,教員志望の夢を断念して青森市内の民間病院に事務職として入ったのが医療との関わりの始まりだった.病院事務に携わる間に,脳卒中の患者さんに触れてリハビリに関心をもちリハ学院に入学したというから,多少の回り道が,かえって医療に対する視野を広める経験につながったというべきだろう.

あんてな

厚生省「身体障害者ケアガイドライン」の試行を通して

著者: 高橋流里子

ページ範囲:P.200 - P.201

 厚生省は「障害者プラン」の一環として,1996年3月に「身体障害者ケアガイドライン」をまとめ,その妥当性,改善点,問題点等を検証するために5市(立川,名古屋,大田原,横浜,北本)に1996年10月から半年間,その試行を委託した.筆者は埼玉県北本市でケアマネージャーと研究報告の責任を果たしたが,北本市での試行を通して,改めて日本における障害者の地域生活支援の問題が確認できた.

Q & A

超音波療法における固定照射法について

著者: 濱出茂治

ページ範囲:P.202 - P.202

 Q 超音波療法の固定法における具体的方法(出力,治療時間など)について諸家の方法を紹介して下さい.(H生/京都府)

 A 超音波の照射法としては,従来より固定法と移動法がよく知られている.臨床場面では一般的に移動法が最もよく用いられ,移動の仕方もサークルやストロークで行うことが推奨されている.移動法では超音波の出力を最大まで上げたとしても,トランスデューサーを動かしている限り,火傷や組織損傷の危険性は少ないが,固定法による照射では,皮膚表面が過度に加熱されることや限局した組織に熱点が発生するため,出力が低い場合は痛みの出現のみであるが,出力が高いと組織が損傷されることがある.この熱点を生じる原因は超音波トランスデューサーの音場の不均一によるものである.

講座 難病・3

パーキンソン病

著者: 久野貞子

ページ範囲:P.203 - P.208

はじめに

 パーキンソン病は1817年に英国の医師James Parkinson1)によって初めて報告された疾患であるが,今日では脳血管障害,アルツハイマー老年痴呆とともに高齢者の三大神経疾患の1つとなっている.病理学的には,中脳黒質緻密質のメラニン含有神経細胞の変性と,残存神経細胞にLewy小体と呼ばれる細胞内封入体の出現が特徴である.この神経細胞は神経伝達物質ドーパミンを産生し,大脳基底核の線条体(被殻,尾状核)に投射しているため,患者線条体ではドーパミン欠乏が生じ運動機能障害をきたす.

 本症の特徴は,緩徐に発症し数か月~数年の単位で巡行する歩行,起居,会話などの基本動作に障害をきたすが,錐体路障害と異なり筋麻痺がないことである.この運動機能障害は,安静時振戦,仮面様顔貌,前傾姿勢,小股歩行など図1に示すような特有の症状であることから,パーキンソニズムと呼ばれている.有病率は人口の高齢化と薬物治療の進歩によって高まっており,治療や介護に携わる機会も増加しつつある.

 本稿ではパーキンソン病の疫学,原因,臨床像(症候,病態生理を含む),臨床症候に対する薬物療法の動向,運動療法の位置づけ(特に薬物療法との兼ね合い,運動療法に期待される効果など)などについて記述する.

Case Presentations

小児の嚥下協調障害に対する理学療法

著者: 臼田由美子 ,   重田誠 ,   清水信三

ページ範囲:P.209 - P.214

 Ⅰはじめに

 小児科領域の理学療法において,摂食・嚥下障害が問題となる症例は少なくない.摂食・嚥下障害は患児や介護者の生活を大きく制約するばかりでなく,脱水,栄養障害,肺炎,呼吸障害など生命予後に関する問題と直結しており,全体的な発達障害とも相互関連が高い項目である.また,長期にわたる経口摂取の未経験や異常な摂食パターンの放置は,異常知覚,逆嚥下,丸飲み込みなどの異常発達につながることから,他の運動障害と同様に早期からの計画的な介入が重要となる1)

 当リハビリテーション科の摂食機能訓練の主な対象は,神経・筋疾患に起因する症例,小顎症や口唇・口蓋裂など器質的異常に起因する症例,嚥下機能の未熟性や低反応性による嚥下協調障害などである.そのうち神経・筋原性の症例は,取り込みから嚥下までの一連の運動・感覚・反射に問題があり,運動発達訓練と合わせた長期的な個別訓練が必要となる症例が多い2).そのため,地域の療育施設の言語療法士と連携した取り組みが必要となる.また,器質的な摂食・嚥下障害の症例では,外科的対処が必要な症例も多い.検査所見をもとに摂食の可能性と限界を検討し,必要に応じて指導を行っている.

 以下,当センターにおける嚥下協調障害への取り組みについて,症例経過と合わせて紹介する.

プログレス

リウマチ治療とリハビリテーション

著者: 千田益生 ,   橋詰博行 ,   原田良昭 ,   井上一 ,   築山尚司

ページ範囲:P.218 - P.219

 RAのリハビリテーションは,治療上欠かすことができない.我々が最近行っている整形外科的治療およびリハビリテーションでの取り組みを紹介する.

ひろば

介護保険制度にむけて

著者: 谷口典行

ページ範囲:P.158 - P.158

 いよいよ平成12年度より介護保険制度が実施される.老健施設,デイケア,在宅リハと理学療法士は法的にも定員化され関与しているが,その分野への充足率は未だに低い.一方,老健施設では長期入所化,デイケアでは遊ビリテーションや入浴介助を行う人員の不足など,実施する側もされる側も互いが曖昧な理念と認識であったともいえる.この10年,多くの施設が計画(ゴールドプラン)のもとに認可されたが,その間,ケア内容に対する監視や指導が徹底していたとはいえず,開設者側は経営を優先し,利用者に対しては施設と病院間を行き来させていただけといった指摘もある.事実,そのような施設では,個々に適するリハビリを実施して家庭復帰等につなげるためには,理学療法士や作業療法士が必要なのだという理解に乏しく,充足率の低さの1つの要因といえる.

書評

―千野直一(編) 千野直一・木村彰男・正門由久・岡島康友(著)―臨床筋電図・電気診断学入門(第3版)

著者: 鈴木堅二

ページ範囲:P.177 - P.177

 わが国で開催された1995年の第10回国際筋電図臨床神経学学会では筋電図と運動制御が主題となり,1997年の第8回国際リハビリテーション医学会では経頭蓋的磁気刺激による運動誘発電位の計測,末梢神経における伝導ブロック計測がトピックスとなった.

 このように近年,電気生理学的研究手法は運動障害を伴う疾患の診断や評価,治療効果の判定においてその重要性はさらに高まってきており,脳血管障害,外傷性脳損傷や神経筋疾患での予後予測においても欠かせない診断・評価法となっている.

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文献抄録

ページ範囲:P.220 - P.221

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.224 - P.224

 先日首都圏では記録的な大雪に見舞われ(といっても雪国の方からみればほんのわずか),成人式と重なって晴れ着に長靴というシーンが放映されたので,交通機関の大混乱と共にご記憶の方も多いのではないでしょうか.私たちにとっての問題はその翌日の,転倒による患者さんの急増でした.

 特集ではこの転倒が取り上げられています.五十嵐論文の,「痴呆,骨粗鬆症,歩行能力の低下」に加え,「些細な機転」で転倒骨折が起こるという指摘はそのデータの豊富さゆえに私たちを覚醒させるでしょう.久保論文では姿勢変換に関わる坐位バランスの評価の重要性が述べられ,萩原論文では早期の筋力強化の必要性が強調されています.松本論文では,中心性頸髄損傷の具体的な臨床経過が示され,池田論文では疾呆合併例の理学療法についての工夫が呈示されています.いずれも本特集の趣旨である「積極的な理学療法の関わり」を表現し得るものとなっています.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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