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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル32巻4号

1998年04月発行

雑誌目次

特集 動作分析

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.227 - P.227

 広辞苑によれば,①観察とは通常は現象に人為的干渉を加えないで,現象がどのようであるか,どのように生起するかという事実を確かめること,②解析とは物事をこまかく解き開き,理論に基づいて研究すること,③分析とはある物事を分解して,それを成立させているもろもろの成分・要素・側面を明らかにすること,である.この説明によると,動作分析とは単に観察したものを成分的に小分けにして表現するのみではなく,一歩踏み込んで原因分析的に取り組む積極的行為であると思われる.動作観察や動作解析とは異なる内容をもつ.臨床的推論(clinical reasoning)は単にいくつかの動作を観察した中から推論していくのではなく,いくつかの手続きによって可能な限り理由づけを明確にしていかなければならない.そのことによって,自ずと理学療法アプローチが見えてくるものと思われる.つまり,その目的は究極的に治療に結びつくものである.しかし,その結果は必ずしも還元主義的な運動療法の展開を意味するものではない.そのような視点で動作分析を捉え,臨床に生かせるように具体的に論じていただいた.

理学療法士のGestalt視知覚による直観的動作分析―臨床意志決定能力の向上を目指して

著者: 今川忠男

ページ範囲:P.229 - P.236

 1.はじめに:観察・解析・分析

 「広辞苑」によれば,「観察」とは,通常は現象の人為的干渉を加えないで,現象がどのようであるか,どのように生起するかという事実を確かめること,「解析」とは,物事を細かく解き開き,理論に基づいて研究すること,「分析」とは,ある物事を分解して,それを成立させている諸々の成分,要素,側面を明らかにすること,とある.このことから理学療法士による「動作分析」とは単に観察した現象を成分的に小分けにして表現する段階に止まらず,一歩踏み込んで原因解明とその対策立案に取り組む積極的行為といえる.そうした行為は「臨床意志決定過程」または「臨床推論」に最も必要な能力と考えられる.

 本論文では理学療法士による動作分析能力の向上を目指す目的で,まず分析方法の種類と分析の進め方を概観し,それに基づいて症例検討を行った.そして分析能力は理学療法士の臨床意志決定過程に深く関わることを指摘して,その基礎となるgestalt視知覚とその開発方法について,最新の発達神経学の知見を紹介し言及した.そして,これからの理学療法士へ,serendipityとの出会いとparadigmの移行への挑戦を提言として述べた.

動作分析と運動連鎖―整形外科疾患をみるための方法について

著者: 福井勉

ページ範囲:P.237 - P.243

 1.はじめに

 臨床現場で問題点を整理するのに,仮説,推論をもたない理学療法士はいないであろう.というより,推論を持ち合わせなければ臨床ができない.それだけ運動というものは未知の部分が多い.動作分析をするときにも,推論を展開しなければ,どうにも目の前の患者の動きが説明できない.難しい原因の1つに,個々の運動の連結があるのではないだろうか.関節個々と身体全体を結ぶ動きのつながりである.

 現在の運動学には,両者のつながりを説明する部分が圧倒的に欠けている.整形外科疾患における動作分析に必要な動きのつながりについて述べさせていただくことにする.

疼痛と動作分析―特に腰痛症との関連から

著者: 荒木秀明 ,   山崎肇 ,   石原祐司

ページ範囲:P.244 - P.252

 1.はじめに

 腰部機能障害は,動作の問題から明らかにされることから,神経-運動器協調機構の相互作用による問題として観察される場合が多い.しかし,従来からの腰痛症に対する運動療法では,弱化した主動作筋に対する量的な筋力強化が主体をなし,適切な時期に適度な収縮という質的な筋活動パターンや筋の安定化は軽視されている.もし,筋活動が抑制されて,不十分な状態のままで個々の筋の特異的な働きを無視した全身運動を行えば,筋の機能は更に傷害され,身体全体の不均衡を招く結果となる.

 そこで本稿では,①静的姿勢の評価,②自動運動を中心とした形態学的評価,③歩行分析を中心とした動作分析の意義について簡潔に述べることにしたい.

片麻痺患者の動作分析

著者: 芳澤昭仁 ,   金光末子 ,   稲田亨 ,   佐々木健史 ,   高橋浩史 ,   神田千絵

ページ範囲:P.253 - P.263

 1.はじめに

 片麻痺患者では随意運動障害,姿勢反射障害,異常筋緊張,感覚障害,高次脳障害などの諸要因により,姿勢・動作が障害される.我々理学療法士の当面の目標は,患者の姿勢保持・動作能力の再獲得である.とりわけ歩行能力の獲得は最大の目標であり,その可否と実用性によっては車椅子生活に適応可能な環境の再検討が必要となる.そこでこれら姿勢保持・動作遂行に伴う現象を記録し,原因を分析・統合する,すなわち動作分析を行うことにより問題解決のための治療訓練を立案することが可能となる.臨床においては姿勢・動作の評価が動作分析の重要な目的の1つである1)

 ところで,私に与えられた課題は機器に頼らず,運動療法に結びつくような動作分析の進め方である.実際多くの臨床場面では,大がかりな動作解析装置に頼れないのも現実であろう.そこで,以下に機器を用いないで行う動作分析の進め方について,私論を述べることにする.

とびら

選択の自由

著者: 神戸治

ページ範囲:P.225 - P.225

 最近,地域の普通小学校に就学する肢体不自由児が多くなってきている.これは,家族や地域のなかで子どもを育てたい,育ってほしいという家族の願いや,肢体不自由児の学校生活における難しさや可能性が少しずつ教育サイドに理解されてきたためと思われる.しかし,願いがかなわず養護学校に家から通ったり,肢体不自由児施設に入所して養護学校に通学する子どもたちが,地域の小学校に就学する子どもたちより遥かに多いのが当県の現状である.

 肢体不自由児の教育は,他の障害児教育からやや遅れをとり発展してきている.肢体不自由児療育のなかで,医療・福祉が施設においては教育より先行して行われてきており,教育は施設内での学級という形態で始まった.昭和31年頃より,施設から離れた肢体不自由児養護学校が開校されるようになり,昭和44年にようやく全県に設置されたという経緯がある.昭和44年はそれほど昔のことではないから,肢体不自由児教育確立までには,関係者の並々ならぬご苦労があったのではないかと推察できる.

あんてな

第33回日本理学療法士学会の企画

著者: 黒木裕士

ページ範囲:P.264 - P.265

 第33回日本理学療法士学会を担当いたします京都理学療法士会では,平成10年6月11,12の2日間にわたる学会の開催に向けて最終準備に努力しているところです.

 近年,人々は健康問題に深い関心を寄せるようになりました.自主管理あるいは医学的管理のもとに日頃から身体運動やスポーツ活動等を実施し,積極的に自らの健康に取り組もうとする人々が増えてきました.これは,生活の多様化,余暇の増加等々の社会的変化のなかで,豊かな人生を求める基盤としての健康に対する新しい価値観の確立を示すものと考えられます.また高齢社会の到来によって,自立生活の確立やQOL向上を考えながら疾病や身体的障害をもつ人々の健康問題を議論する機会も必要になってまいりました.

入門講座 知っておくと便利な応急処置・4

在宅リハビリ・医療外施設(スポーツ,レクリエーション編)

著者: 梅津祐一 ,   緒方甫

ページ範囲:P.267 - P.272

はじめに

 理学療法士の職務は従来,主に病院内の理学療法室で行われる場合が多かったが,近年職域が拡大し,在宅や老人保健施設さらには屋外において理学療法を行う機会が増加している.それに伴い,何らかの応急処置を必要とする場合や,患者本人や家族から応急処置に関する質問に答える機会が増えている.

 本稿では,屋外やグランド,運動施設などで行われるスポーツやレクリエーションに参加協力する理学療法士が遭遇しやすい事故や病態と,その応急処置について概説する.

TREASURE HUNTING

“自分らしく生きる”ということ―藪中良彦氏(南大阪療育園訓練部理学療法科)

著者: 編集室

ページ範囲:P.273 - P.273

 理学療法の世界にも国際化の大きな波が押し寄せていることは周知のこと,藪中良彦氏がご自身の人生観を変えた出来事として異文化体験を挙げておられるのも,時代の趨勢というべきだろう.氏が広島大学養護学校教員養成課程を卒業してフランスに渡ったのは1983年,“L'ARCHE”(ラルシュ)共同体で障害者と2年半の共同生活を送った.少々大げさな言い方をすれば,そこでの経験は,藪中氏の人生に一大転機をもたらした.ラルシュ共同体とはジャン・バニエ氏とトマ神父によって1964年に結成された,障害をもつ人々と「もたない」人々が新しい家族を作って生活する共同体で,現在26か国に104の組織体があり,わが国では1989年,静岡県に「かなの家」が設立されている.

プログレス

認知リハビリテーションの現状と課題

著者: 水野雅文

ページ範囲:P.274 - P.275

 「認知リハビリテーション」とは,現在欧米で一般にneuropsychological rehabilitation(神経心理学的リハビリテーション)と呼ばれる高次脳機能障害のリハビリテーションを意味している.「頭部損傷者が日常生活場面における対処能力を改善するために必要な,問題解決能力の障害を改善するもの」(G.Prigatano)等と定義され,その概念は近年わが国でも急速に関心を寄せられてきている.より一般的な言い方をすれば,失語症以外の脳損傷による高次脳機能のリハビリテーションということになろう.

 近年,脳神経外科領域の治療技術の進歩や救急体制の整備に伴い,重症例の救命率の向上が得られる一方で,その後遺症ともいえる心理・社会面の問題も含めた慢性的な能力障害がもう一歩のところで社会復帰を阻んでいたりすることが多い.また脳損傷後も失語や運動麻痺が回復し神経心理学的な検査成績がある程度まで回復すると,従来のリハビリテーションや神経学的な意味では積極的な治療の対象にならないために,治療が終結されてしまうことがしばしばある.その一方で実際には本人の主観的な体験としては様々な高次機能障害が残存していたり,また客観的にもそれがあるために社会復帰ができないままに過ごしているケースも多い.

Q & A

治療用装具について

著者: 大峯三郎

ページ範囲:P.276 - P.276

 Q 治療用装具は,装具適応判定のトライアルを兼ねるとされていますが,治療用装具の再処方はどのくらい経てばできるのですか?構造が違えば短期間で作れるものでしょうか?(H生/兵庫県)

 A 現在,支給されている装具等には,保険診療において治療上必要であると保険医が認め,一定期間,試行的,可変的使用される治療用装具と,障害が固定し,更生や機能補填のために恒久的に用いられる補装具(更生用装具)とに大別される.今回,質問の治療用装具は前者に属するものである.

講座 難病・4

後縦靱帯骨化症

著者: 山本謙吾 ,   三浦幸雄

ページ範囲:P.277 - P.287

 疾患の概念

 脊柱靭帯の骨化については,1925年Knaggs1),1942年Oppenheimer2)の報告などに始まるが,脊柱靭帯骨化により脊髄圧迫や脊髄神経根障害を招来する病態が理解されたのは比較的最近のことである.我が国では,1960年に月本3)が頸椎後縦靭帯骨化症の1剖検例を報告して以来,頸椎の後縦靭帯骨化症(OPLL)が注目され,1975年厚生省特定疾患に指定され,後縦靭帯骨化症調査研究班が発足した.

 その後,後縦靭帯骨化症は,前縦靭帯,黄色靭帯などの脊柱諸靱帯の骨化をしばしば合併することが知られ,また頸椎後縦靱帯骨化に胸椎,腰推の靭帯骨化を合併することも稀ではないことが分かり,1981年には脊柱靱帯骨化症調査研究班と改められ,多方面での研究が進められている.

1ページ講座 義肢装具パーツの最新情報・4

大腿義足ソケット

著者: 陳隆明

ページ範囲:P.288 - P.290

はじめに

 大腿切断者には膝関節が存在しない.したがって,彼らが歩くためには膝継手を備えた義足を必要とする.切断者と義足をつなぐものがソケットであり,ソケットを通して断端の力が義足に伝わるのである.それ故に,ソケットの適合の善し悪しが,切断者の歩行能力を大きく左右するといっても過言ではない.

 より良いソケットの適合を得るには,ソケットのデザインや素材,確かな製作技術など義足側の条件だけではなく断端側の条件も重要である.つまり,医師がいかに努力して手術時に良好な断端を作り出すかどうかである.作り出された断端が不良であれば,当然ソケットの適合は困難となり,切断者の歩行能力にも悪影響をもたらすであろう.

 セラピストや義肢装具士は出来上がった断端をスタートラインと考え,義肢の適合に取り組むわけであるが,本当の義肢の適合は手術時にすでに始まっているのである.この役割を担う医師の責任は重大である.

 本稿では,大腿義足ソケットとして主に四辺形ソケットと坐骨収納型ソケットについて述べるとともに,最新の大腿切断術についても紹介する.

症例報告

Chitayat症候群の理学療法経過

著者: 上杉雅之

ページ範囲:P.291 - P.293

 Ⅰ.はじめに

 Chitayat症候群(以下CS)は1990年,D Chitayatらによって,姉妹例として最初に報告された1).臨床像は,特徴的な顔,遠位性関節拘縮,精神発達遅滞等を特徴とする.筆者の渉猟しえた範囲では,1994年の時点で4例しか報告されていない2)ごく稀な疾患である.本論文では,CS症例に対する理学療法の経過を報告することにする.

新人理学療法士へのメッセージ

新たなる出会いを求めて

著者: 酒井桂太

ページ範囲:P.294 - P.295

 新人理学療法士の皆様,国家試験合格およびご就職おめでとうございます.また,大学院等へご進学された方々へはご入学おめでとうございます.

 少しばかり先に理学療法士になった私にとって,この場を借りて皆様へのメッセージを書くことに大変恐縮しております.ただ,4年前に教員になり,今回初めて第1期生を送りだす私自身にとっても新たなる出発の時ですので,贈る言葉を以下に述べさせていただけたらと思います.

スタート地点に立たれた皆さんへ

著者: 縄井清志

ページ範囲:P.296 - P.297

 新しく理学療法士になられた皆さん,喜ばしい門出に心よりお祝い申し上げます.私は今年,臨床8年目の理学療法士です.若輩者ですが,自らの経験を踏まえて,5つの話題を「贈る言葉」に選びました.少々堅い話になりますが,私の「皆さんが,理学療法士としてこのように歩んでほしい」という個人的希望を,皆さんの参考になることを願いながら述べさせていただきます.

Case Presentations

先天性筋ジストロフィーに対する理学療法

著者: 塚本利昭 ,   大竹進

ページ範囲:P.298 - P.303

 Ⅰはじめに

 進行性筋疾患である先天性筋ジストロフィー(congenital muscular dystrophy;CMD)は常染色体劣性遺伝形式をとり1),小児期に発症する筋ジストロフィーのなかでは,デュシャンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy;DMD)についで多いと考えられており,CMDの発生頻度は10万人当たり6.2~11.9人と推定されている2)

 CMDは出生時または生後数か月以内に,筋緊張低下,筋力低下で気づかれ,早期より股関節,膝関節,指骨間関節などに拘縮が出現する.多くの例が独歩不能であり,日常生活動作の独立性も少ないといわれている3).CMDに対する理学療法は基本的にはDMDに準じた考え方で行われるが,幼少時からのアプローチとなるため,運動の発達,身体発育および病勢の進展を考慮した理学療法が必要となる.

 本稿では,臨床的に知能障害を伴わないものとされる非福山型CMD4)症例に対する理学療法経験(2歳2か月~8歳1か月)を,在宅および就学への取り組みを含めて紹介する.

書評

―松井宣夫・平澤泰介・伊藤達雄(編)―整形外科術前・術後のマネジメント

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.236 - P.236

 この本には,整形外科領域の手術を行うに当たっての,術前・術後の患者管理の在り方が記載されている.我々の病院でも幾つかの疾患で術前処置や後療法マニュアルを作ってはいるが,これだけ多くの疾患の後療法を網羅した本は貴重である.しかも項目によっては,骨や筋腱の治癒過程に合わせて,週単位で運動負荷をこまやかに増加させる訓練法の記載もあり,日常診療で直ぐに役立つ,待望久しい本であるといえる.

 後療法といえば25年前の経験を思い出す.87歳の院長夫人が廊下で転倒して大腿骨頸部骨折を生じた.ほとんど内科系の20人近い医師が親族会議を開き,“高血圧の治療中でもあり,安らかに天寿を全うさせよう”との意見でまとまりかけた.その中に一人だけいた整形外科医が私の所に相談に見えて,“結果に対しては私が全て責任を持ちます.是非手術をして欲しい”と依頼された.

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文献抄録

ページ範囲:P.304 - P.305

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.308 - P.308

 さあ,本格的な春がやって来ました.私の研究室ではキョウチクトウ科のアデニュームが次々とピンクの花を咲かせ,春爛漫です.ビールの銘柄ではありませんが,春が来たと思うと,ついワクワク,ウキウキしてしまいます.山積した宿題を思うと,浮かれてばかりいても仕方ないのですが.

 さて,本誌がお手元に届いたころには新人の国家試験の結果も出ていることでしょう.スタート地点に立って,心に期すものがあったと思いますが,初心を忘れずに研鑚していってください.途中,いろんな失敗があるかもしれませんが,むしろそこから学ぶことも多いですし,積極的にチャレンジしてください.ただしその前に,本誌入門講座の「知っておくと便利な応急処置」を1回目から読んでおくことをお勧めします.「捨てる神あれば助ける神あり」とも言いますし,いろんな人達が努力している姿を評価してくれるはずです.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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