平衡機能障害に対するバイオフィードバック療法
著者:
辻下守弘
,
山田圭吾
,
沖田一彦
,
鶴見隆正
,
角圭子
ページ範囲:P.108 - P.116
1.はじめに
バイオフィードバック療法とは,「生体に起こる正常あるいは異常な現象を電子工学的装置により視覚信号や聴覚信号に変換して人に提示し,人がその信号をうまくコントロールすることにより,随意的操作ができない事象や意識することのできない事象を学習させる技法」と定義されている1).運動は,随意的操作も意識することも可能な事象ではあるが,選択的な筋活動の促通と抑制あるいは異常運動を正常化するなどの困難な学習課題に対して,バイオフィードバック療法を使用することは効果的である.
運動機能障害を持つ患者に対する理学療法の役割は,正常な運動コントロールの再学習を支援することにあると考えるならば,バイオフィードバック療法は理学療法にとって有力な道具となり得るはずである2).また,バイオフィードバック療法は,科学的根拠と効果,そして技術体系が明確になっている手技であり,科学性を重んじる理学療法士にとっては魅力的な技法であるともいえる.しかし最近,理学療法関連の学会や学術雑誌において,最も馴染み深い筋電図バイオフィードバックの研究報告すら見かけることが少なくなったことは非常に残念である.バイオフィードバック療法の利点は,提示する視覚信号や聴覚信号を自由に創意工夫できることであり,適切なバイオフィードバック療法は患者の動機づけを高め効果的な運動学習が可能となる.
さて,本稿がテーマとする平衡機能は,近年理学療法領域のなかで最も研究が進んだ分野である3,4).従来,平衡機能は反射機構として理解されていたが,最近では運動技能の1つと理解されるようになった5,6).したがって,平衡機能に対する理学療法は,姿勢コントロールの再学習を目的とすべきであり,バイオフィードバックの技法が有効である可能性は容易に想像できる.しかし我が国では,平衡機能障害に対するバイオフィードバック療法の研究報告は数少ないのが現状である.そこで本稿では,平衡機能障害に対するバイオフィードバック療法の意義と有効性について,筆者らの研究成果も含めながら説明するとともに,今後の課題についても論じる.