icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル33巻4号

1999年04月発行

雑誌目次

特集 嚥下障害/熱傷

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.227 - P.227

 ■頭頸部腫瘍術後の嚥下障害と理学療法アプローチ(太田清人,他論文)

 頭頸部腫瘍の治療,特に手術療法の後は,重篤な嚥下障害に陥る症例をよく見かける.頭頸部腫瘍術後の嚥下障害については,手術部位・範囲,残存機能,嚥下改善術の有無,再建法により治療プログラムの立案や目標設定に大きな影響が生じる.嚥下訓練は主に,①残存機能の向上および欠損部位の代償,②術創部の瘢痕組織の伸張および可動性の改善,③摂食可能な食事レベルの検討,④代償嚥下の獲得を目的として行われる.

頭頸部腫瘍術後の嚥下障害と理学療法アプローチ

著者: 太田清人 ,   小林孝誌 ,   山本実 ,   有嶋拓朗 ,   森正博

ページ範囲:P.228 - P.234

 1.はじめに

 頭頸部腫瘍の発症とその治療により,摂食嚥下障害(以下,嚥下障害)やコミュニケーション障害を呈する場合がある.頭頸部腫瘍の治療には,主に放射線療法,化学療法,手術療法がある.これらの治療を施行することにより,しばしば嚥下障害がみられる.特に手術療法後には重篤な嚥下障害に陥ることが多い.しかし,治療技術の進歩により,従来では困難とされていた症例にも積極的な治療が行われている.例えば,拡大切除術後に形成外科的再建術や嚥下改善術を応用し,更にリハビリテーションを行うことにより,嚥下障害を最小限に抑えられるようになっている.嚥下障害を克服することは患者のQOLを維持するために重要である.本稿では,頭頸部腫瘍の手術療法に伴う嚥下障害について解説し,その治療のリハビリテーションについて概説する.

脊髄小脳変性症例における摂食嚥下障害

著者: 久保高明 ,   寺井敏

ページ範囲:P.235 - P.238

 1.はじめに

 脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration disease,以下SCD)における摂食嚥下障害(dysphagia)は,その発現率が高いにもかかわらず1-3),詳細な報告が少ないのが現状である.

 本稿では,筆者らが経験したSCD患者における摂食嚥下障害の状態を紹介するとともに,そのアプローチなどについて,文献的考察も加えて報告する.

脳血管障害例における嚥下障害―「食べる」機能障害への取り組み

著者: 岡田しげひご ,   本間和誠

ページ範囲:P.239 - P.243

 1.はじめに

 「食べることは,人間が生きていくうえで必要不可欠な重要な行為の1つである.それは人間の生理的欲求である空腹を満たし,栄養を補給するだけでなく,個々人の好みや食べ方などによっても,その満足感は大きく左右される.自分の食べたいものを,食べたい時に,食べたい場所で,食べたい人と一緒に摂ることで,食欲が増し,より充実した満足感を得ることができるというものである.ところがある日突然,「食べること」が不自由になってしまったらどうであろうか.誰もが当たり前に行っていた分,どうやって食べたらよいか,どんなものなら食べられるかわからずに戸惑ったり,こぼしたり,イライラして,「食べること」の満足感どころか,食欲自体をもなくしてしまう.

 脳血管障害によって生じる「食べる」機能の障害には,「食べること」の不自由さだけでなく,誤嚥の危険が伴ってくる.嚥下性肺炎が合併すれば,長期臥床を余儀なくされるだけでなく,生命をも脅かす重篤な事態を招きかねないし,在宅生活の維持も難しくなる,経口摂取が困難で経管栄養になれば,療養先や短期入所先も制限される.

 このように,「食べる」機能の障害は,生命の維持やその人の生活の質にも大きく影響を与える.脳卒中で生じる「食べる」機能障害への対応は,急性期,回復期,維持期のいずれの時期にも必要であり,特に早期からのしっかりした対応は,安易な経管栄養への移行,無謀な経口摂取を防ぐ意味で非常に重要である.

 当院では平成6年,言語療法士1名の常勤化に伴い,それまで医師,看護婦,理学療法士,作業療法士で行ってきたICU在室中からの早期リハビリテーションの段階から,「食べる」機能障害に積極的に対応できるようになってきた.本稿ではその経験を踏まえ,「急性期(ICU)から在宅まで,更に在宅生活をも支援する」という当院の方針の下で脳血管障害者の「食べる」機能障害への取り組みについて述べるとともに,急性期から関わり退院後も継続したアプローチを行って経口摂取が可能となった症例を紹介する.

脳性麻痺児の摂食嚥下指導の実践

著者: 多田智美 ,   金子満寛 ,   梅村敏美

ページ範囲:P.244 - P.248

 1.はじめに

 脳性麻痺(以下CP)児の嚥下機能は,異常筋緊張による正常口腔運動パターンの未獲得はもちろん,全身の運動に大きく影響されるものである.更に,摂食嚥下運動は触圧覚を中心とした感覚刺激に対して引き出される“食べる目的にあった全身の協調運動”であり,生後,感覚-運動体験により獲得される1)といわれている.そこで,CP児の嚥下障害を口腔機能のみの問題として捉えるのではなく,全身運動の流れの一部としての摂食嚥下障害(以下,摂食障害)として評価・治療する必要がある2)

 CP児の摂食障害は「感覚-運動障害」であり,口腔器官およびそれ以外に,より適切な感覚-運動を経験させることで全身の協調運動を引き出していくことも治療として重要になってくる.したがって,我々理学療法士(以下PT)は,全身的な感覚-運動発達を促すためにも,摂食嚥下指導に積極的に関わるべきである.また,指導の際にはいかに介助者に理解を促すかが,生活場面での効果継続のためには重要なポイントになってくる.

 筆者の前勤務地である愛知県コロニー中央病院では,摂食機能障害を持つ子ども6名を1クール6回の摂食グループ訓練で実践的な指導を行い良好な成績を収めている3,4).グループ訓練では,PT以外にも作業療法士(以下OT),言語療法士(以下ST)と協力して評価・治療が行えるという利点や集団での指導が個別訓練とは違った効果を生みだしている.加えて,筆者は平成10年4月より養護学校に勤務し,教員と協力して指導を行っている.そこで,今までの摂食指導の取り組みのなかで筆者が得てきたことについて具体的な症例を通じて報告する.

重症熱傷急性期の管理とリハビリテーション

著者: 安瀬正紀 ,   荻野浩希

ページ範囲:P.249 - P.254

 1.はじめに

 重症熱傷に対する初期輸液療法,呼吸・全身管理,感染対策,手術法の進歩により,これまで救命し得なかった広範囲重症熱傷までも生存できるようになってきた.しかしながら,広範囲重症熱傷患者ではどうしても救命重視の治療が優先し,ある程度治療が完了した段階になって初めて機能障害・醜形が顕在化し,患者の自立,社会復帰のために大きな障害となる.そのため時間が経ってから機能障害・醜形に対する治療計画が組み立て直され,進められることが多い.入院期間の短縮,手術回数の減少さらに患者負担を減らし,コストを削減するためにも,救命に偏ることなく,熱傷治療について早期から共通の理解を持って多面的,計画的なチーム医療が展開されなければならない.

 広範囲重症熱傷では,採皮部が限定されてしまうため,広大な熱傷創に対し8/1000~12/1000インチと薄く分層採皮された皮膚を網状にしたり,切手状の細片にして植皮するなどの工夫が通常行われている.採皮部が上皮化して治ると再度同じ部位より採皮し有効に活用する.薄い分層植皮により治癒した熱傷創は瘢痕拘縮を起こし,頸部,四肢関節のROM制限をきたし,ひいては日常のADLの拡大に大きな障害となる.患者の自立,社会復帰というゴールを目指した治療を進めるためには,積極的に早期より一貫したリハビリテーションチームの参加が必須のものとなる.

広範囲熱傷患者の自己評価―3症例のself-esteemを通して

著者: 原崎淳子 ,   広村健 ,   縄井清志 ,   伊東浩一 ,   三木あゆみ

ページ範囲:P.255 - P.260

 1.はじめに

 高度医療の発達により,近年,広範囲熱傷患者の救命率はめざましく向上している.それに伴い,延命後のQOLが重視されはじめ,リハビリテーション(リハ)や精神援助等が重要な位置を占めてくるようになってきた.

 熱傷は表在性の障害であり,その後遺症が主として体表面に存在するという特徴を持つため,広範囲熱傷救命後の患者は運動機能障害,外観の醜状という深刻な問題を抱えることとなる.そこで筆者らは,リハを遂行していく上で密接な関係にある,広範囲熱傷患者の心理面に着目した.

 患者心理で特に重要と考えられているものにself-esteem(SE)がある1).SEとは自尊心・自己評価と訳され,ジェームスは「成功/願望」という公式を提案した.つまり「これでよい」という自己価値基準に対応し,自分自身を受容していくことが障害の受容や訓練意欲につながると考えられる.

 本研究では,広範囲熱傷患者3例を観察・評価したところ,熱傷受傷後の自己評価の低さを認めたため,若干の考察を含めここに報告する.

熱傷とスプリント

著者: やさききよし ,   長谷川鉄士良

ページ範囲:P.261 - P.267

 1.はじめに

 人類の手の使用は,その後の生活に様々な変化をもたらした.その1つ「火の使用」は,他の動物に比較すると,食生活を始め,あらゆる分野に多大なる影響を及ぼし,人類が今日の文明社会を築き上げた大きな要因といえる.そして,これは「未完成である人間」に様々な試練を与えることになった.「火の事故」はその1つであり,我々の脳裏には財産を「灰」と化する力を持ち,自らの身体も傷つけるものである「熱傷,やけど」が浮かび上がる.熱傷は,日常生活のなかで常時「熱」を使用することで常に受傷する可能性があり,我々に様々な機能障害をもたらす.

 今回は,熱傷により起こりうる関節運動の障害を,装具・スプリント療法を通じ,予防・改善してゆくにはどのように行うべきかがテーマである.筆者らは直接これらの患者に接することは少ないが,ここで,再びセラピストの立場から熱傷による関節運動の障害の基本的な要因について考えてみたい.

 熱傷は,火を使う我々にとって,「あつい!!」「あチ!!」という言葉とともに,日常生活のなかでいとも簡単に多くの人が受傷する損傷の1つである.我々が日々受傷する熱損傷は,受傷部に発赤をみる1度熱傷が多く,損傷部位を冷却すれば数日のうちに自然に治癒していく.実際,熱による損傷が完全に炭化してしまう4度熱傷まで4段階に分けられる.更に2度熱傷は,その損傷の深さにより浅層・深層の2つに分けられる(図1,次ページ).

 臨床上,我々が非常に苦労するのは,2度熱傷でも深部にわたるものであり,治療訓練時の感染予防,痛みのコントロールから,損傷部位の治癒とともに形成される肥厚性瘢痕(hypertrophic scar)をいかに抑制・改善するかである.この肥厚性瘢痕は,皮膚組織を短縮させることにより様々な障害をもたらす.なかでも,四肢の関節拘縮による運動障害は,日常生活に大きな障害を残すことになる.

とびら

不透明な時代

著者: 田中正則

ページ範囲:P.225 - P.225

 この3月に以前の勤務地の技師長が定年退官された.その方は,東京は神田で育ったちゃきちゃきの江戸っ子で,まさしく女傑というにふさわしく,私もやんちゃくれであったためよく叱られた記憶とともに,理学療法士協会の黎明期から活躍されてきた功労者の引退で,時代の移り変わりを感慨深く感じております.その方には,職場の部下として,社会人として,「常に公正であることの大切さ」をたたき込まれました.“公正”とは「広辞林」に,①かたよったり曲がったりしていないこと,②明白で正しいこと,と記述されており,特にかたよりがないというということの難しさを日常の診療場面や職場運営のなかで実感しております.診療業務に忙殺されるが故に,有形無形の患者とのトラブルに遭遇する機会が増えている今,個人,あるいは組織の対処の仕方が患者に適切であるか自分を含め考えさせられるときがあります.厚生省もこれからの医療は患者中心の医療と提言していますが,果して医療者と患者は公正な契約関係を結んでいるのでしょうか.

入門講座 国際会議に役立つ英語表現・4

交流を深める

著者: 坂本年将 ,   内山靖

ページ範囲:P.268 - P.272

 今月号では,国際学会で知り合った海外の仲間たちとの学会後の手紙,ファックス,電話,Eメールでの通信について事例をあげます(スキットの英語の部分はその直前の日本語に対応します.登場する人物,施設名,および話の内容は架空です).

TREASURE HUNTING

剣道を介した出会いが財産―埴 亜紀夫氏(嶋田整形外科医院リハビリテーション科)

著者: 編集室

ページ範囲:P.273 - P.273

 取りあえず,右の写真をご覧いただこう.剣道着に身を包んだお顔から,いかにも優しそうな笑顔がこぼれている.両親に奨められて5歳から始めた剣道は今では5段,中学時代には福井県大会優勝,高校1年にして国体の県代表,高校3年時にはインターハイに出場して個人ベスト16という輝かしい戦績を残し,今でも少年剣道の指導に当たっておられる.20数年,剣道を通して人と接し,見たり聞いたりして吸収したことが大切な財産になっているという御仁だけあって,剣道との縁は生涯切れそうもなさそうだ.

 今月ご登場いただいたのは,嶋田整形外科医院(福井県鯖江市)に勤務する埴亜紀夫氏.このお名前を記憶の片隅に留めておられる読者もいるかもしれないが,本誌で掲載したクロスワードパズルの問題を作成していただいたのが埴氏なのである.

あんてな

第20回九州理学療法士・作業療法士合同学会を開催して

著者: 山田道廣

ページ範囲:P.274 - P.275

 現在わが国では,8つのブロック(北海道,東北,関東甲信越,東海北陸,近畿,中国,四国,九州)でブロック学会が開催されているが,九州ブロックだけはPTとOTで合同学会が開催されている.九州地区は古くからリハビリテーションの普及・発展に先駆的役割を担ってきた.特に服部一郎先生や細川忠義先生や和才嘉昭先生が指導的役割を果たしてきた経緯がある.九州リハビリテーション大学校が1966年に開校し,九州地区の理学療法や作業療法の学問的基盤をつくり多くのブレーンを輩出してきたといっても過言ではない.筆者は昭和55年に佐賀県に赴任し,それ以前のことは不詳なため,九州リハ大の橋元隆先生に情報を提供していただき,これまでの九州PT・OT合同学会の歩みを紹介していきたい(表).

 記念すべき第1回は北九州市の産業医大で開催された.学会長は下畑博正先生で,第1回九州地区理学療法士研修会と命名され,「片麻療の治療を考える」というテーマで,服部一郎先生,三好正堂先生,松村秩先生,奈良勲先生らを講師として迎え,講演とディスカッションで参加者に深い感銘を与えた,と下畑先生は述べておられる.ちょうど福岡県士会が設立10周年を迎えた時期でもあり,記念すべき研修会にしたいという要望から開催を引き受けたとお聞きしている.

リレーエッセー 先輩PTからのメッセージ

職場と人生

著者: 馬場久夫

ページ範囲:P.276 - P.276

 人との関わり合いは,人間である以上,避けて通れない問題である.関わり合いの場は千差万別で,通りすがりであったり,乗り物や遊び場であったりする.先日筆者が遭遇した満員電車での出来事である.20歳代の若い女子学生が入り口で突っ立ったまま動こうとしない.その奥では同じ年頃の男性が握り棒を握ったまま自分の居場所に固執して,しきりに周囲の人を押しのけている.

 この頃どうも,このような身勝手な若者が増えているが,みんな“触らぬ神に崇りなし”とばかりに黙り込んでいる.ところがその折りは,50歳位の女性が入り口をふさいでいるその女学生の耳元で「出口を少し開けて下さい」と問い掛けたが,女学生は全く道を開けようとしなかった.こんな若者達が職場に進出してきたら,同僚たちとどんな関わり方をするのだろうかと,いささか心配になった.

講座 卒後教育・4

日本理学療法士協会生涯学習理学療法専門領域研究会の現状

著者: 半田健壽

ページ範囲:P.277 - P.281

はじめに

 社団法人日本理学療法士協会(以下,協会)の設定した理学療法専門領域研究会(以下,専門領域研究会)は平成8年に7部会の領域で発足した.この発足間もない専門領域研究会というシステムについて,設立までの経緯,現状,そして将来展望について,私見をまじえて述べてゆくことにする.

1ページ講座 理学療法評価のコツ・4

バランスの評価

著者: 小沼美奈子

ページ範囲:P.282 - P.282

 理学療法士の行う運動療法は,バランスを必要とする起居,移動動作,日常生活動作などの動作能力の修得や向上,姿勢保持能力の改善を大きな目標としている.バランス評価はその治療プログラム遂行上の目安であり,転倒防止へのリスク管理でもある.

 平衡機能障害に関しては,各専門分野によって検査・評価の観点が異なるが,理学療法士の立場から次の2点について概説する.

Case Presentations

老人保健施設における多発性脳梗塞患者の介護支援計画と理学療法の実際

著者: 生田泰敏 ,   岩月宏泰

ページ範囲:P.283 - P.287

 Ⅰはじめに

 近年本邦では,人口の高齢化に伴い障害高齢者も増加してきている.これら障害高齢者に対する医療・福祉の充実が課題とされ,継続的に在宅療養ができる支援が望まれている1,2).障害高齢者にとって病院,老人保健施設は在宅に復帰するための重要な位置を占めており,なかでも老人保健施設は医療機関と自宅の中間施設として,その意義はますます重要となってきている3).病院,老人保健施設はともに多職種が患者に対してチーム医療を提供しているが,老人保健施設では組織構成上,病院と人員配置が異なることからチームアプローチの方法も異なってくる4)

 病院ではコメディカル各部署の規模が大きく,各部署間で連携をとりながら他職種とも連携して目標に向けて治療していく.一方,老人保健施設では介護職員が多く,コメディカルの規模は小さいため個別に治療計画を立てて進めても限界があり,他職種との連携を図ることがより重要となる.橋本5)は,他職種との連携を効果的に促進するためには,①チームとして活動することの必要性を認識する,②信頼しあう,③援助方針の共有と役割の明確化を図る,ことの重要性を指摘している.

 今回,我々の老人保健施設において,理学療法士が他職種との連携をとり,問題点,支援計画を共有化してチームアプローチを行い,自宅退所へと進めることができた症例を経験したので以下に報告する.

プログレス

機械刺激に対する細胞の応答

著者: 曽我部正博

ページ範囲:P.288 - P.290

 理学療法では運動,ストレッチ,指圧など,機械刺激による生体反応を利用した療法が重要な地位を占めている.機械刺激は拘縮筋の弛緩,微小循環や炎症反応の促進,あるいはオピオイド分泌の促進を通して,筋疲労の回復や痔痛軽減をもたらすものと信じられているが,その詳細なメカニズムは不明である.個体への機械刺激は,結局のところ皮膚,筋肉,血管,神経の各組織への圧迫・伸展・ズリ応力刺激であり,つきつめれば,これらの組織を構成する細胞に機械刺激を与えていることになる.これらの機械刺激が細胞にとって区別されるかどうかは不明だが,何れの刺激も細胞膜の伸展を伴うという意味で,伸展刺激に対する細胞応答の理解が基本と考えられる.

 伸展刺激に対する応答といえば,まず皮膚触覚器,痛覚受容器,内臓伸展受容器,筋紡錘などの機械感覚器が頭に浮かぶ.その感覚受容部位には機械受容チャネルと呼ばれるイオンチャネルが発現しており,これらが伸展刺激で活性化されると,細胞を脱分極したのち感覚神経に活動電位を生じて感覚情報を中枢に伝達する.しかし,ごく普通の非感覚細胞も機械刺激を感じて応答することが分かつている.すなわち,皮膚,血管,筋肉の何れの細胞も機械刺激に対して生理活性物質の分泌,分裂促進など様々な応答を示す.したがって機械刺激による治療効果を理解するには,これら全ての細胞の応答を総合的に考慮しなければいけない.しかし,非感覚細胞における機械受容/応答のメカニズムはほとんど未解明の状態にある.

新人理学療法士へのメッセージ

“共に前向きに頑張りましょう”

著者: 鶯春夫

ページ範囲:P.292 - P.293

 国家試験に合格し理学療法士(以下PT)になられた皆さん,おめでとうございます.私もPTになって14年目を迎えますが,無事合格した時の喜びは今でもはっきりと覚えています.自己採点で合格間違いないと思っていても合格発表の日まではなぜか不安で,職場に合格の電話が届いた時には嬉しさを隠し切れず,にやけてしまったことを思い出します.ただ注意してほしいのは,皆さんはPTとしてのスタート地点に立ったに過ぎず,これからどのように進むことができるかは今後の努力次第だということです.

 皆さんの参考になるかどうか分かりませんが,私が歩んで来た道程を振り返りながら,私なりのメッセージを述べさせていただきます.

「初心,忘るべからず」

著者: 柳澤正

ページ範囲:P.294 - P.295

 新人理学療法士の皆さん,まずは国家試験合格おめでとうございます.ほとんどの方が新社会人としてスタートをしたことと思いますが,そろそろ職場にもなれてきた頃でしょうか.日々,がんばって仕事をなさっていることと思います.

 今回,新人理学療法士へのメッゼージというテーマをいただき,あらためて理学療法士としての自分自身の反省と,理学療法士とはなにかを考え直してみましたので,これを述べさせていただき,皆様へのメッセージとさせていただきます.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.296 - P.297

編集後記

著者: 網木和

ページ範囲:P.300 - P.300

 花の季節が巡ってきました.花粉症さえなければとても佳い時候で,新しい門出にこそ相応しいと患います.今号では新人だけでなくべテランも悩ませているであろうテーマを取り上げました.

 嚥下障害は,最近ではそのリハビリテーションに関する学会も開催されるようになり注目を集めているところです,嚥下障害に関するメカニズム,評価法などについては十分とはいえないまでも既に多くの報告がありますが,実際の治療に関する具体的な報告は必ずしも多いとはいえないと思われます.一方熱傷についての形成外科的な診断,治療についても確立されっっありますが,そのリハビリテーションアプローチにかかわる報告は希少といえるでしょう.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?