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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル33巻5号

1999年05月発行

雑誌目次

特集 学際的分野での理学療法士の研究活動

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.303 - P.304

 理学療法を取り巻く学際領域と理学療法士の研究活動について,その枠組みとともに,法律・経営学,教育,保健・社会福祉,建築学,解剖・組織学,生体工学,行動科学との関連や接近について,理学療法士として現在ご活躍の先生方にご執筆いただきました.

 理学療法の裾野の広さと奥深さを再認識するとともに,理学療法士の専門性と臨床に役立つ研究の指向性について考える契機となれば幸いです.

理学療法を取り巻く学際領域

著者: 潮見泰藏 ,   内山靖

ページ範囲:P.305 - P.310

 1.はじめに

 「理学療法を取り巻く学際領域」というテーマの下では,学際性を視点として理学療法学の成立過程を概観し,その方向性を模索することが必要であると考えています.

 従来の近代科学では,世界を私たちに対する「客観」として観察するという基本的態度に立っています.これに対して,心身医学や深層心理学などの新しい諸分野は,外部世界の観察よりもまず人間の実践的な主体的経験に即して考えてゆくという基本的な姿勢から出発しているといえます.

 私たちが行う理学療法の対象は障害であり,障害そのものの除去・軽減あるいは新たな運動技能の獲得や代償能力の向上が主たる目的となりますが,個人としての患者に内在する「こころ」のあり方,すなわち,心理的な諸問題を無視することはできません.治療の対象が「人体」ではなく「人間」そのものであることは自明でありましょう.

 人間は「こころ-からだ」をもって「もの」の環境のなかに生きています.故に,「こころ」の問題を扱うには,従来の科学が用いてきた客観的経験科学の研究方法に頼らざるを得ません.しかし,この場合には,単なる客観的観察の立場にとどまっていたのではその解決にはなりません.近代の科学が外なる世界から出発して人間のあり方をとらえようとしたとすれば,私たちは人間の生き方から出発して世界をとらえるという逆の方向からの道を探ってゆく必要があるのではないでしょうか.このような新しい諸分野の研究は,このような意味から,「主観的経験の科学」であり,「人間科学」と呼ぶこともできましょう.

 表1は中村1)が運動療法の諸分野とその理論的背景を示したものです.「この中の運動生理学と生体力学は自然科学の理論が確立していることから,これより運動療法を理論的に構築することは不可能ではないが,残り2つの分野は,人間科学に属するテーマであり,基礎科学としての理論体系はまだ十分確立されていない」と指摘しています1)

 これは,これまで経験と実践に基づく実証科学として位置づけられてきた運動療法自体が,ある意味では,この「人間科学」に含まれることを示唆しています.そして,この「人間科学」は本稿の主題である「学際領域」によって形成されているのです.

理学療法における労務管理

著者: 岩月宏泰

ページ範囲:P.311 - P.314

 1.はじめに

 現在,我が国の理学療法士(以下PT)はリハビリテーション医療において確たる地位を築き上げているが,その労働実態や組織マネジメントに関する研究は甚だ不十分といえる.しかし,PTの労働市場は供給過剰傾向にあり,女性のライフスタイルに合った職場確保が困難になったり,自治体立病院の求人年齢が下がってきたことなどPTを巡る労働環境は悪化しつつあるといえる.

 そこで,本稿では病院におけるPT組織のマネジメントの問題について法律学および経営産業心理学の各側面から研究の視点を提供する.

理学療法学教育研究における現状と今後の展開方法

著者: 清水和彦 ,   松永篤彦 ,   三戸香代

ページ範囲:P.315 - P.321

 1.はじめに

 いうまでもなく研究を行うにはそれなりの手続きが必要となり,研究目的は明確化される必要がある.既知の知識は整理され,問題点の具体的構造化を図らなければ,研究の方向性を誤ることとなる.また研究を進めるにあたって用いることのできる処理方法の開発が必要となり,逆にそのことによって研究は制限を受けることとなる.

 一方,教育研究の対象はいわゆる“なまもの”であり,特に被検者に学生を用いた場合,学生に直接教育的にフィードバックがなされるように,教育的配慮が求められる.そのため研究対象の全体の把握は当然として,個別の変化をあわせて把握する手法が研究に求められる.

 本文では,過去の理学療法学のなかで教育研究がどのようになされていたか,研究対象の分類を試み,全体像を見ながら個別の振る舞いも観測できる手法を紹介する.

理学療法における保健学的接近―システム的接近の必要性

著者: 木村朗

ページ範囲:P.322 - P.324

 1.はじめに―保健学と理学療法の関係―

 保健学は健康を探究する学問である.個人,集団,地域,職域,そして誕生から死にいたるライフステージにおける固有の,あるいは共通の健康問題を発見,解決に導くことを目指している.病気から健康な状態は一連の環状をなす連続体であるという認識から出発している.病気の予防も,健康の増進も,リハビリテーションも保健学の直接の対象である.理学療法はリハビリテーションの1手段であるばかりでなく,健康増進,病気の予防にも利用できるのではないか,という発想は保健学そのものである.

 保健学は,疫学を基礎に,健康教育や政策立案によって課題解決を目指す.

理学療法と社会福祉

著者: 香川幸次郎 ,   中嶋和夫

ページ範囲:P.325 - P.328

 1.はじめに

 戦後50年,社会福祉も大きな転換期を迎え,社会福祉構造改革1)が議論されている.戦後の社会福祉施策は,主として生活困窮者対策として出発してきた.それ故,限られた一部の人を対象とし,保護・救済が行われてきた.しかし,少子高齢化や社会の進展にともない,広く国民全体を対象とした施策の展開が期待されている.特に,心身に障害を負った寝たきりや痴呆の高齢者への対策は,緊急の課題である.

 こうした新たな課題に対し,我々が描く生活の姿は,単に生活が保障されるのではなく,1人ひとりが個性ある生活を実現することにある.これを大きな視点からとらえ直すと,憲法25条の生存権の保障から,憲法13条の個性の尊重,幸福追求の権利へと,国民の意識が大きく変化してきているのが現状であろう.勿論,個性の尊重や幸福追求は,他の人々との関わりのなかにおいて実現されるものであり,社会福祉の理念でもあるノーマライゼーションの思想―隔離や排除の論理でなく,障害を持っていようとも,1人の人間としての人格が尊重され,一般の人々と対等で主体的な生活と参加を地域社会のなかで保障しようとする理念―が,その実現の方向性と指針を示しているものと位置づけている.こうした国民意識の変化のなかにあって,社会福祉も従来の保護的,事後的福祉から,予防的,支援的な福祉のあり方が求められている.

 一方,リハビリテーション医療においても,入院治療から地域リハビリテーション活動2)への転換の必要性が叫ばれ,在宅生活を基盤とした生活支援の方法論の確立や,ケアマネージメント3)をはじめ具体的な援助の方法が模索されている.このような社会福祉の転換やリハビリテーション医療の変化を考えると,保健医療と社会福祉が統合された新たな学問領域の確立が求められており,とりわけ健康に関連した生活の質4)(healthrelated QOL)の解明が,我々に与えられた課題でもある.しかし,社会的要請がある反面,QOLといった新しくかつ抽象的な概念を対象とするだけに,研究は緒についたところであり,概念規定や測定道具の開発等,研究を進める上で多くの課題5)が山積している.

理学療法における建築学的接近

著者: 浅賀忠義

ページ範囲:P.329 - P.332

 1.はじめに

 理学療法学の必須科目として「生活環境論」が登場して久しいが,地域リハビリテーションの実践的・学術的な広がりに後押しされるかのように生活環境支援系が理学療法学を支える一柱として構築されつつある.また,それに伴い学部または修士課程で建築学を専攻する理学療法士が珍しくなくなってきた.

 本稿では,この分野における研究の指向性について考えるために,まず生活環境面に対するアプローチの障害論的位置づけと研究対象とする環境因子を明確にし,建築計画系の研究動向について概観したうえで,建築学が理学療法に及ぼす効果に焦点をあてて述べる.

理学療法における生体工学的接近

著者: 原和彦

ページ範囲:P.333 - P.336

 1.はじめに

 生体の運動と制御に関わる因果関係の解明や分析には神経制御機構と力学的機構の両側面から統合的な解釈が必要になる.また特に近年,義肢装具に関わる治療技術では,切断者の身体機能的な特性と義肢の構造や材料特性1)などの機械工学的なハード特性との適合2,3)を考慮し,ソケットやアライメントの調整や評価4)(図1)については,生体側と義肢の適合について総合的な判断を行う.

 難解な数式で表現される物理学を基礎とした工学的手法は臨床では敬遠されがちである.しかし多くのセラピストはごく自然に,ヒトの姿勢や四肢の動きについて重心と支持面との関係や釣り合いなどの力学的要素については認知しているが,治療効果に対しての明確な科学的データに基づく根拠に欠けることが多い.そこで本稿では,理学療法における生体工学的接近のなかでも特に生体力学的な手法を中心に述べたい.

理学療法における解剖学とその研究

著者: 弓削類

ページ範囲:P.337 - P.340

 1.はじめに

 世界的傾向として理学療法の専門性と細分化が進んでいる.特に筆者が留学したカナダ,米国では,明確に分かれているとはいえないが,2種類の理学療法士が存在する.1つは臨床で働くclinical physiotherapistと,他方は研究を主に行うresearch physiotherapistである.日本と同様にclinical physiotherapistは,カナダ,米国の理学療法士人口の多数を占めるが,大学教官,バイオメカニックスや装具関連,ライフサイエンスの研究所でresearch physiotherapistとして働く理学療法士も徐々に増えてきている.この様子を日本の医師という職業に当てはめてみるとclinical physiotherapistが臨床医,research physiotherapistが解剖学者,病理学者等の基礎医学系研究職といえる.日本では理学療法学の大学院教育が産声をあげたばかりで,博士課程に至っては,全国で昨年最初に広島大学に設置された状況で,まだ胎動の段階にある.また,理学療法士が研究職として従事できる研究機関は,現時点で教官職以外には皆無に等しく,大学院は出たが研究で生計が立てられる職場が少ないという事態を招いている.

 筆者は,広島大学に赴任する前はいわゆるclinical physiotherapistであったが,当地に来て解剖学の世界に入り5年の月日が経過した.そこでこの5年間の理学療法士と解剖学の接点に関する筆者の雑感を記す.

理学療法における筋組織学的接近

著者: 坂本美喜 ,   内昌之 ,   藤井克仁 ,   毛利奈美 ,   原田孝 ,   鶴岡広 ,   遠藤剛

ページ範囲:P.341 - P.344

 1.はじめに

 組織化学とは,生物体の形態学的側面と機能的側面を関連させて観察する研究分野である.本稿では筋の組織化学的観察方法によって得られた結果をどのように解釈し,理学療法の臨床に結びつけてゆくべきかということを含めて述べる.

理学療法における行動科学的接近

著者: 辻下守弘 ,   小林和彦

ページ範囲:P.345 - P.348

 1.はじめに

 臨床現場は,解決困難な問題で溢れている.痛みの原因が除去されているにもかかわらず痛みを訴える患者,行えば効果があると理解しながらも指導した訓練が継続できない患者,医学的に説明のつかない運動障害など,挙げれば切りがないほどの事例に遭遇する.脳卒中や心筋梗塞など慢性疾患を持つ患者の多くは,このような医学的アプローチだけでは解決困難な心理社会的な問題を抱えており,これはもはや医療の常識であるといっても過言ではない.

 理学療法士は,急増する慢性疾患のケアを担う中心的な存在であり,今後社会のニーズもますます大きくなるであろう.しかし,理学療法士がその期待に応えるためには,医学の呪縛から逃れ,学際的なアプローチを取り入れるべきであり,行動科学はその有力な手段となるであろう.米国では行動科学の重要性が早くから認知され,すでに医療従事者教育の必須科目として導入されているだけでなく,1970年代には医師や看護婦の国家試験科目にも含められている.そこで本稿では,行動科学の概要を紹介し,理学療法でどのように応用され,研究されて行くべきなのかを解説する.

とびら

いよいよ介護保険スタート

著者: 田中裕二

ページ範囲:P.301 - P.301

 「この法律は,加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり,入浴,排泄,食事等の介護,機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について,これらの者がその能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう,必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため,国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け,その行う保険給付等に関して必要な事項を定め,もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする」.

 介護保険法はこの条文で始まる.いよいよ2000年4月に法律がスタートする.

TREASURE HUNTING

「ほんもの」にこだわる理学療法士として―西村 敦氏(大阪府済生会吹田病院リハビリテーション科)

著者: 編集室

ページ範囲:P.349 - P.349

 今月ご紹介する西村敦氏が,理学療法の臨床,教育,そして士会活動など幅広い分野で活躍されていることは,多くの読者の知るところだと思う.1977年に国立療養所近畿中央病院附属リハ学院理学療法学科を卒業した20数年のキャリアの持ち主である.その間,わが国で初めて理学療法士の大学教育が行われた金沢大学医療技術短期大学部に赴任され,更に藍野医療技術専門学校(現・藍野医療福祉専門学校)専任教員,そして石川県理学療法士会事務局長の要職を務められてきた.現職の大阪府済生会吹田病院に技師長として就職したのは1988年.大阪にあっても,府立看護大学医療技術短期大学,藍野医療福祉専門学校の非常勤講師,大阪府士会理事・社会局長として八面六臂の大活躍なのである.

あんてな

行政における理学療法の現状

著者: 田中康之

ページ範囲:P.350 - P.351

 一言に行政といっても,理学療法士の関わる分野は保健・医療・福祉に分けることができる.また,対象も小児,成人,高齢者,そして身体障害,精神障害と幅広い.また都道府県,市町村等にも分けられる.例えば「市」といっても,財政や人口,所轄管内の医療機関の状況,そして何よりも行政の施策によって理学療法士の業務内容は大きく異なってくる.

 しかし,どうも「行政」という言葉で一括りにされてしまっている感がある.病院理学療法士から「行政の理学療法士は何をしているのか分からない」という声が聞こえるのも当然と思われる.

リレーエッセー 先輩PTからのメッセージ

介護保険制度を見つめて

著者: 大河原和夫

ページ範囲:P.352 - P.352

 私は理学療法士として市立病院に35年間勤め,今年定年退官して,今はデイケアで老人たちと楽しく過ごしています.完全失業率4.6%といわれるリストラ時代に,定年退職した先輩たちが,各方面からの要請により生き生きと地域で活躍している姿を拝見していますと,理学療法士という職業は素晴らしいと思います.しかし,後輩たちがその時を迎えたとき,果してこのような状況が継続しているか,今後の「協会丸」の進路によるものと考えられますので,奈良会長を船長に会員諸氏が一致団結して,諸問題を乗り切ってもらいたいと思っています.

 今年5月にアジア地域で初めての第13回WCPT(世界理学療法連盟)学会が横浜パシフィコで開催されますが,会長を初め準備委員の皆さんには会員の1人として深く感謝すると共に,かならずや成功されますことを願っています.この機会に国際的なレベルで意見交換を行うことは,社会的・学術的にも日本の理学療法士にとって大きなメリットになると思われます.

入門講座 パソコンによる学術情報整理学・1

インターネットを利用した医学情報の収集

著者: 佐藤満

ページ範囲:P.353 - P.358

 Ⅰ.身近になったインターネット

 インターネットという言葉を耳にするようになったのは,ほんの4~5年前のことでした.それが今では新聞・テレビなどのメディアでインターネットという言葉が登場しない日は少ないくらいです.すべての小・中学校にインターネットを導入,あるいは住民票の移動などの手続をインターネットでできるサービスを検討といった話題も聞かれます.行政機関も積極的にインターネットの活用を考えているようです.この入門講座をご覧になっている方のなかにも,そろそろインターネットを始めてみようと考えている方もおられるでしょう.また,身近にインターネットを利用できる環境があるという方も増えてきたかと思われます.

 インターネットは「情報の宝庫」といわれる一方で「騒がれるほど大したものではない」といった消極論や「無法地帯」といった危険性を指摘する言葉も耳にします.なにか,つかみどころのない印象を持つ方も少なくはないでしょう.

講座 高次神経機能障害のリハビリテーション・1

遂行機能障害

著者: 藤森美里 ,   森悦朗

ページ範囲:P.359 - P.364

はじめに

 人が効率よく行動するためには環境に即応しなければならない.目的をもって適切に行動し,状況に応じて行動内容を変更し,内的衝動の影響を受けないことが必要である.更に,計画を立て,現在進行している行動を見守り,計画からのずれを修正し,当初の目的に照らし合わせて行動の成果を検討し,必要な補正をする能力が要求される1).これら一連の行動に必要とされるのが,遂行機能(executive function:実行機能,管理機能と訳されることもある)である.

 遂行機能とは,目的の達成に必要な行動を成しとげるための能力であり,他の認知機能とは多くの点で異なっている.遂行機能が正常であれば,他の認知機能の障害をある程度代償し,独力で生産的な行動をすることができる.しかし遂行機能が障害されると,認知機能が保たれていても(つまり知識や技能の検査得点が高くても),セルフケアを自立したり,独力で仕事をしたり,正常な社会的関係を維持したりすることができなくなる.また,認知障害は特定の能力や機能に生じるのに対し,遂行機能障害はあらゆる行動に影響を与え,さまざまな課題を遂行する方略や行動の制御を直接的に障害してしまう.

 本稿ではまず遂行機能の定義について,次いで遂行機能障害の症候学と神経心理学的検査について述べる,その後に症例を呈示し,最後に遂行機能障害とリハビリテーションの関わりについて触れる.

1ページ講座 理学療法評価のコツ・5

動作分析

著者: 北村啓

ページ範囲:P.365 - P.365

 臨床においては,動作の特徴や状態を記述するだけの動作分析では不十分である.臨床における動作分析の目的は,患者さんの姿勢や動作の特徴を把握できることを前提としたうえで,更にその質的変化の可能性について手がかりを獲得すること,治療肢位・手技を導き出し効果判定に応用すること,再発や二次的障害を予防するための情報を得ることにある.ここでは,臨床上での動作分析の考え方の原則について述べていきたい.

新人理学療法士へのメッセージ

自分の道を信じて

著者: 簗部成美

ページ範囲:P.366 - P.367

 春色日増しに濃く,吹く風も肌に心地よく感じられる季節になりました.新しく理学療法士になられた皆さん,国家試験合格おめでとうございます.私も「理学療法士」なることができてやっと一歳で,まだ何もわからず,手探りで仕事をしている状態です,ですから,皆さんにメッセージを贈るというよりも,これから私が頑張ろうということを書いていきたいと思います.そんななかで,皆さんに何かを伝えることができたら,また共感していただけたら幸いです.

プログレス

力学的平衡理論,力学的平衡訓練

著者: 福井勉

ページ範囲:P.368 - P.370

 理学療法では障害を持つ人の運動機能から問題点を抽出するプロセスが最も重要であろう.何故かという疑問と,それはこの理由のためだといった自問自答を繰り返し,そして先輩達の良きアドバイスを受けながら臨床家として成長していく.成長の過程では,先輩のアドバイスに納得したり,あるいは納得できなかったりする.同時に自分の解釈に納得したと感じても,別のケースではその解釈では説明できない場合もある.ともかく,理学療法士として仕事をしているのだからどうして今そのような訓練をしているのか,自分なりに納得したいのは極めて自然の理であると思う.

 「運動」というあまりにも深遠な課題に対して,謙虚に勉強していくとともに,臨床活動では知識だけでなく観察能力,更には「推論」が要求される.解釈をする上で論理の飛躍はなるべく避けたいと思うけれども,結果が伴わない場合や,あるいは論理の伴わない結果もある.これらの悩みをもつ理学療法士は多いのではないだろうか.そこであるパラダイムに乗ったり,降りたり,ああでもないこうでもないと悩んでしまう.

 研究活動ではまだ臨床研究が少ない.私自身は「理学療法の臨床感のない,理学療法士の研究」をしている人を見ると,結局はその人の価値観に委ねられているのかと心配になるときがある.臨床なくして理学療法士があるはずはなく,理学療法もないはずと思うのだが……

Case Presentations

貧血による胎児仮死で低酸素脳症を引き起こした1症例

著者: 中筋八千代 ,   寛山佳史

ページ範囲:P.371 - P.376

 Ⅰはじめに

 脳性麻痺の主な原因としては,周産期の胎児仮死,低出生体重等による低酸素脳症や脳血管障害が挙げられるが,稀に貧血1)によるものもあり,その報告は少ない.早期発見早期治療の臨床に携わっている筆者らにとっても,ここに紹介する症例は初めての経験であった.

 乳幼児期は日々刻々変化するので,毎回の治療場面で分析・評価し,理学療法を実施することが基本である.また同時に,臨床経験を重ねると,初期評価時にある程度の予後予測が立てられるので,将来を見据えての理学療法を展開することが必要だと考える.そのためには,「臨床から学び,仮説をたてて治療し,検証する」ことが重要であるが,本症例の経験はそのことを再確認させてくれた.

ひろば

一主婦がPTデビューして思ったこと

著者: 桝田真理恵

ページ範囲:P.314 - P.314

 子どももまあまあ大きくなったので,パートの仕事をすることにした.しかし,とんでもないところに足を突っ込んでしまった.

 乳幼児健診に,発達相談,機能訓練事業に在宅訪問,老人ホーム入所者の機能訓練……どれもこれも,「生活」という現実が目の当たりあって,今,必要とされるから,逃げたくても逃げられない.

書評

―松井俊雄(著)[生き生きケア選書]老いのスケッチ―痴呆性老人とデイサービス―“関係障害”としての痴呆を描くケアエッセイ

著者: 三好春樹

ページ範囲:P.324 - P.324

 齢をとれば誰でも呆ける.目がうすくなるのと同じように物忘れをし,耳が遠くなるのと同じに尿道括約筋がゆるんでお漏らしをする.問題が生じるとしたら,そうした,老いという自然過程とうまく付き合っていけないことからではないか.近代社会が,そして核化した家族が.

 また,呆け老人,時々引き起こす激しい問題行動は,そうした,物忘れをし,お漏らしをする自分に,当の自分自身が付き合えないという,“関係障害”によるのではあるまいか.これが私の現場から作り上げた痴呆論である.

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文献抄録

ページ範囲:P.378 - P.379

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.382 - P.382

 第33巻5号の特集は,「学際的分野での理学療法士の研究活動」です.

 理学療法の科学的基盤は,多くの学問領域と密接な関連を持ちつつ形作られています.これまで既存の医学生物学的領域の知識を応用することが多かった理学療法士も,自らが積極的に学問的な確立にも関わるようになってきました.この背景には大学・大学院での理学療法学専攻の開設や,科学的実証に基づく医療の推進など社会情勢とも無関係ではありません.また,学際領域としての理学療法を模索することは,理学療法固有の研究テーマを系統的に検討すことを押し進める原動力ともなります.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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