デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者のQOL向上への取り組み―国立療養所岩木病院での実践
著者:
石川玲
,
塚本利昭
,
高橋真
,
山田誠治
,
宇野光人
,
工藤正美
ページ範囲:P.479 - P.484
1.はじめに
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy;DMD)は,筋ジストロフィー(筋ジス)のなかで患者数が最も多い1).DMDは遺伝性疾患であり,原因不明の骨格筋(心筋を含む)の萎縮・変性が不断に進展する2).1985年以降,病因に関する遺伝子レベルの研究はめざましく進歩している3)が,現在なお病因解明の途上であり,根本的な治療法は確立されていない. 本症では,処女歩行の遅れ,走るのが遅いなどの筋症状が乳幼児期から発現する.筋の構造的・機能的損失は児童期から思春期にかけて特に著しく,この間に患児は歩行や日常生活動作などの身体活動能力の殆どを失う.また,患児は自分の身体に裏切られる体験の連続と行動空間の狭小化などによって次第に自信を失い,自我が萎縮していくといわれている4).そのため,DMDのリハビリテーションでは,早期から運動機能と身体活動能力を可及的長期にわたって維持するように努め,心理的・社会的発達を促しながら,患者1人ひとりのQOL(quality of life)を高めることが肝要である.
本稿では,筆者らがこれまでに国立療養所岩木病院で行ってきた在宅および入院DMD患者に対するQOL向上の取り組みを紹介し,DMDのリハビリテーションにおける理学療法士の役割について述べる.なお,QOLは広範な概念であり,その構成要素も様々に報告されている5)が,ここでは,DMD患者と家族を支援する全ての取り組みをQOL向上の取り組みとして定義する.