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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル33巻7号

1999年07月発行

雑誌目次

特集 進行性疾患―QOL向上への取り組み

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.463 - P.463

 治療手段が見つかっていない進行性疾患へのリハビリテーションアプローチの基本的考えが,個々のADL機能を最大限維持することから,それらをも統合したQOLの向上・維持へと進みつつあるのは必然であろう.そこではチームを構成する職種すべてが患者の良質なQOLを目指して機能することが要求される.しかしながら,これは口で言うほど簡単ではない.障害は進行し,QOLの概念はあまりに幅広く,しかも個別的かつ抽象的だからである.そこで本特集では,代表的な進行性疾患を選び,多くの症例を経験し入院から在宅まで一貫したQOL向上に取り組んできたチームの理学療法士の目を通して,その包括的な取り組みおよび理学療法士の関わりを,より実践的かつより具体的にまとめていただいた.

慢性関節リウマチ患者のQOL向上への視点

著者: 安岡郁彦

ページ範囲:P.465 - P.470

 1.はじめに

 慢性関節リウマチrheumatoid arthritis(RA)は進行性疾患のなかでも患者数の多い疾患の1つである.多発性(全身性)炎症性疾患であり,その経過は過半数の患者で寛解と再燃を繰り返す.炎症期にはほとんど例外なく痛みに苛まれ,発症初期から患者の受ける苦痛は大きい.病悩期間が10年程になると,関節破壊に伴う機能障害により手術を必要とすることが多くなり,日常生活で介助を要する場面も増えてくる.患者は妻として母としての重い責務をもつ女性に多く,治癒に導く治療法がないという点で,身体的にも精神的にも,患者に非常に大きな苦痛を強いることになる.本稿では,RA患者のQOL向上のために何ができるのか,何をすべきかについて考えてみたい.

在宅脊髄小脳変性症患者のQOL向上に向けて

著者: 小町利治 ,   笠原良雄 ,   出倉庸子 ,   新美まや

ページ範囲:P.471 - P.478

 1.はじめに

 脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration;SCD)とは,小脳性または脊髄性の運動失調を主症候とし,小脳や脊髄の神経核や伝導路に病変の首座をもつ原因不明の変性疾患の総称である1).一般に経過は緩徐であるが進行性で,病型によっては遺伝性に発現する.また,自律神経症候や錐体路症候,錐体外路症候を示す例もあるなど,臨床像は極めて多彩である.しかし,進行性で長期経過をたどることから療養者本人・家族にかかる負担は大きい.そのため,療養者・家族の生活の質(QOL)の向上は大きな課題といえる.

 SCD患者のQOLをめぐっては幾つかの報告があるが2-11),今回,理学療法アプローチを述べるに当たり,質問紙によって得点化したQOLと,QOLに及ぼすと思われる種々の要因について,調査票を用いてアンケート調査を行った.本稿では,その結果と東京都立神経病院(以下,当院)での在宅診療の経験を踏まえて考察を加えることにする.

デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者のQOL向上への取り組み―国立療養所岩木病院での実践

著者: 石川玲 ,   塚本利昭 ,   高橋真 ,   山田誠治 ,   宇野光人 ,   工藤正美

ページ範囲:P.479 - P.484

 1.はじめに

 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy;DMD)は,筋ジストロフィー(筋ジス)のなかで患者数が最も多い1).DMDは遺伝性疾患であり,原因不明の骨格筋(心筋を含む)の萎縮・変性が不断に進展する2).1985年以降,病因に関する遺伝子レベルの研究はめざましく進歩している3)が,現在なお病因解明の途上であり,根本的な治療法は確立されていない. 本症では,処女歩行の遅れ,走るのが遅いなどの筋症状が乳幼児期から発現する.筋の構造的・機能的損失は児童期から思春期にかけて特に著しく,この間に患児は歩行や日常生活動作などの身体活動能力の殆どを失う.また,患児は自分の身体に裏切られる体験の連続と行動空間の狭小化などによって次第に自信を失い,自我が萎縮していくといわれている4).そのため,DMDのリハビリテーションでは,早期から運動機能と身体活動能力を可及的長期にわたって維持するように努め,心理的・社会的発達を促しながら,患者1人ひとりのQOL(quality of life)を高めることが肝要である.

 本稿では,筆者らがこれまでに国立療養所岩木病院で行ってきた在宅および入院DMD患者に対するQOL向上の取り組みを紹介し,DMDのリハビリテーションにおける理学療法士の役割について述べる.なお,QOLは広範な概念であり,その構成要素も様々に報告されている5)が,ここでは,DMD患者と家族を支援する全ての取り組みをQOL向上の取り組みとして定義する.

緩徐進行型成人筋萎縮症患者のQOL向上への取り組み―K-W病患者との関わりを通じて

著者: 中田正司 ,   宮村綾子

ページ範囲:P.485 - P.490

 1.はじめに

 平成7年12月,政府の関係19省で構成する障害者対策推進本部により決定された「障害者プランーノーマライゼーション7か年戦略1)」は,平成5年に策定された「障害者対策に関する新長期計画」を具体的に進めていくための重点施策実施計画と位置づけられている.その基本的考えは,ライフステージのすべての段階において全人間的復権を目指すリハビリテーションの理念と障害者が障害のない者と同等に生活し,活動する社会を目指すノーマライゼーションの理念を実現することにある.そのため7つの視点(表1)に基づき,施策の重点的な推進を図ることとした.

 これらの視点からも伺えるように,我々理学療法士の業務は,地域リハビリテーション,Quality of Life(QOL)というキーワードから切り離しては考えられなくなってきている.

 QOLとは,一般的に生活の質,人生の質,生命の質などと訳される概念である.しかし,神経筋疾患の多くは進行性であり,いまだ治療法が確立されていないため,患者は自身の機能・能力の低下と常に対峙せざるを得ない状況におかれている.神経筋疾患患者に関わる理学療法士は,QOLの向上を最終的な治療目標に据えて患者と接するものの,QOLの概念があまりにも幅広く,また個人の価値観や置かれている状況によりQOLのとらえ方が多様であるため,現実に目の前にある問題の解決に苦悩しながら,臨床場面を過ごしているのが現実ではないだろうか.

 本稿では,Kugelberg-Welander(以下K-W病)の青年に対し,約10年間にわたる入院,在宅生活に理学療法士がどのように関わっていたかを報告するとともに,それらを振り返りながら,緩徐進行型成人筋萎縮性疾患患者のQOLについて述べることにする.

筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者のQOL向上への取り組み

著者: 川村博文 ,   伊藤健一 ,   山本昌樹 ,   石田健司

ページ範囲:P.491 - P.495

 1.はじめに

 筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)は,現状では病態の予後,自然経過は不良であり,病状の進行に伴い,全身の筋力が低下し,四肢・体幹の運動機能,移動能力,コミュニケーション機能,嚥下・呼吸能力が障害される.これらにより日常生活動作(以下ADL)の著しい低下,生活・生命の質(以下QOL)の著しい障害をきたしてしまい,最終的には生命の危機に晒されることとなる1,2)

 ALS患者が高いレベルのQOLを獲得し,更に向上させつつ有意義な人生を過ごすことができるように支援することは至難なことではあるが,医療・福祉・保健が取り組むべき重要課題である.ALSの有効な治療法が未だ確立されていない現状では,ALS患者のQOLに関わる現実的な問題点として,入院・施設療養環境,在宅療養環境,患者・家族への支援体制,ALS情報ネットワークシステムなどの不備が挙げられる.

 本稿では,当部で経験したALS患者のQOL向上への取り組みのなかで身体的・心理的アプローチを具体的に解説した.更に,筆者が関わってきた日本ALS協会,日本ALS協会高知県支部,高知県難病団体連絡協議会などの活動が果たす役割を述べて,今後のALS患者のQOL向上に関わる取り組みの方向性を模索したので報告したい.

とびら

PTとしての管理業務

著者: 川島敏生

ページ範囲:P.461 - P.461

 私の勤務する病院は地域の中規模総合病院であり,リハビリテーション科は総員18名の総合承認施設である.約12年前,前任の上司が突然退職し,その3日前には考えもしなかった科の管理・運営が,経験浅い若僧の私に任されることになり現在に至っている.「とびら」の執筆を機会に,理学療法士として行う組織の管理・運営について,自分の反省を含めながら考えてみた.

 理想的な管理・運営とは,人間関係が良好でスタッフがやる気を持ち,個人の能力を最大限に発揮できる職場を築き上げることと考える.その結果として,質が高く患者に納得してもらえる医療サービスを提供することであろう.しかし,現実は厳しく,ましてやにわか作りの管理者ではなかなかうまくいかず,ストレスで胃を荒らしたこともあった.特に,科としての要望が病院管理サイドに認められないとき,個人としての本音の意見より組織を考えた言動になってしまうとき,臨床の時間に多くの雑用もこなさなければならないときなど,「何で自分がこのような仕事をやらなくてはいけないのか」と悩むことも多かった.

入門講座 パソコンによる学術情報整理学・3

表計算ソフトによるデータ分析―Microsoft Excelを用いて

著者: 谷浩明

ページ範囲:P.496 - P.502

 Ⅰ.はじめに

 現在,パーソナル・コンピュータは,DTP,データベース,インターネットなど様々な形で私たちの生活のなかに浸透してきている.特にここ10年間でのハード,ソフトの進歩は,まだコンピュータがパーソナルと呼ばれるにはいささかマニアックであった時代を知る者にとっては,隔世の感がある.

 こうした進化の歴史にあって,表計算ソフトは,ワープロ・ソフトとともに,パーソナル・コンピュータの標準化の早い時期から普及しているアプリケーションの1つである.

 本稿は,初めてパーソナル・コンピュータと表計算ソフトを使って,データ分析をしたいと考えている初級者に実際の利用方法の一部を紹介するものである.なお,対象アプリケーションはMicrosoft社のExcel 97(以下Excel),OSはWindows 95/98を使用した.

雑誌レビュー

“Physical Therapy”1998年版まとめ

著者: 山野香

ページ範囲:P.503 - P.508

はじめに

 1998年の“Physical Therapy”は全12冊に77編の論文が掲載されている.掲載論文の構成は表に示すとおりである.例年と比べて全体的にシンプルな構成となっている印象を受けるが,ふたを開けてみると例年どおり多彩なテーマであふれている.

 1998年の特集のテーマは“腰痛”で,7,8月号に7編の特集論文が掲載されているほか,一般論文でも腰痛や脊柱に関するものが例年より更に多くなっている.そこでこれらも特集とあわせて紹介する.

 また,その他の研究報告の要旨を分野別に紹介するほか,症例報告,Updateなど短編論文については主題のみ紹介する.

 なお,文中の[ ]の( )内の数字は論文の掲載号を示し,それに続く数字は通巻のページを示す.

TREASURE HUNTING

新設病院ばかりを経験してきた開店男―荒木 茂氏(石川県リハビリテーションセンター)

著者: 編集室

ページ範囲:P.509 - P.509

 新しいことに取り組むということは,未知の経験に挑戦するだけに,やり甲斐とともに一種の緊張感がついてまわるものだ.今月ご登場いただいた荒木茂氏はご自身“開店男”と称されるように,石川県立中央病院,小松市民病院,そして石川県リハビリテーションセンターの新設に関わり,リハビリテーション部門の開設,システムづくりに当たってこられた.当然“やり甲斐”に倍するご苦労は覚悟のうえなのだろうが,どうも頼まれると断れないお人柄なのか「よっしゃ」「よっしゃ」を連発して新設病院の土台づくりに汗を流されたそうだ.

プログレス

高齢者の感染予防対策―最近の進歩

著者: 渡辺修一郎

ページ範囲:P.510 - P.511

 1.はじめに

 衛生水準の向上や栄養状態の改善,予防接種の普及などにより感染症は減少してきた.しかし,社会環境の変化,特に人・物の移動の迅速化・国際化,高齢化,医療の高度化などに伴い,輸入感染症や日和見感染,様々の耐性菌,新興・再興感染症が問題となるなど,感染症はいまだ大きな脅威である.世界的にも感染症による死亡は総死亡の3分の1を占め,最大の健康問題の1つである1).この状況のもと,明治20年に施行された伝染病予防法にかわり,平成11年4月より「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」が施行されている2)

 高齢者では,集団生活を営むハイリスク者を中心に,毎年インフルエンザにより大きな被害を受けている.筆者らの調査では,1996/1997シーズンには特別養護老人ホームの36%にインフルエンザ様疾患の発生をみている3).本稿では,インフルエンザを中心に,高齢期に問題となる感染症予防対策の最近の動向をとり上げる.

リレーエッセー 先輩PTからのメッセージ

専門職の目的,方向性をもって

著者: 野々垣嘉男

ページ範囲:P.512 - P.512

 当院に36年間勤務して無事に定年退職.現在,名古屋柳城短大で教職につきながら,市町村の保健福祉指導等を行い,理学療法の役割を広めるよう頑張っています.

講座 高次神経機能障害のリハビリテーション・3

無視症候群

著者: 石合純夫

ページ範囲:P.513 - P.519

はじめに

 無視症候群とは,病巣と対側の空間あるいは身体における出来事に対する認知,知覚,行動,運動の変化を指し,主に右半球損傷後に起こる1).無視症候群には,半側空間無視,消去現象,病態失認,運動無視,半側身体失認などが含まれる.このうち,半側空間無視の頻度が最も高い.半側空間無視が発症後1か月以上持続する場合には,リハビリテーションの阻害要因となることが多いので,重点的に解説したい.病態失認,運動無視,半側身体失認は,急性期中心にみられる症状である.消去現象は,症候学的には興味深いが,それ自体が問題となることは少ないので解説を省略する.

1ページ講座 理学療法評価のコツ・7

疼痛

著者: 鈴木重行

ページ範囲:P.520 - P.520

 臨床あるいは研究でわれわれ理学療法士が疼痛を評価する目的は,①その時点での疼痛の程度を客観化するため,②経時的な変化による理学療法の効果を判定するため,③疼痛の原因を探るためなどである.しかし,臨床の現場では種々の要因により,疼痛の程度を客観化することはあまりされず,疼痛が「強い」「弱い」あるいは「増強した」「軽減した」と理学療法士が判断し,カルテに記載しているのが現状であろう.疼痛をより客観的に把握するには,既存の各評価法の特徴を理解して日常的に使用することと,疼痛の病態について考える習慣を身につける必要がある.

資料

第34回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1999年3月5日実施) 模範解答と解説・Ⅰ―理学療法(1)

著者: 猪田邦雄 ,   小林邦彦 ,   辻井洋一郎 ,   河村守雄 ,   鈴木重行 ,   木山喬博 ,   講武芳英 ,   河上敬介 ,   肥田朋子 ,   石田和人

ページ範囲:P.521 - P.529

 問題1〔1〕

 (解説)初回の座位訓練は自覚症状や反応の遅延,顔色,チアノーゼなどの徴候に注意し,まず段階的にギャッチアップさせることから始め,他動的に患者を起こして端座位をとらせる.

ひろば

伝える難しさ

著者: 仲井人士

ページ範囲:P.470 - P.470

 皆さんは立場が変わることによって,なにか新しいことに気が付いたという経験はありませんか?

 私は今春,とある養成校を卒業し,病床数149床の,その地域においては中核的存在をなす病院に就職しました.当院では複数の養成校から理学療法士を目指す学生の実習を受け持っています.私も昨年お世話になった一人ですが,実習生に対して最初に行われるのがオリエンテーションです.その内容には,院内の案内,物理療法の説明,訓練室内の機器の取り扱い方法などの説明があります.そして例年のごとく,今年も入職数日後には臨床実習が始まり,実習生がやってきたのです.

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文献抄録

ページ範囲:P.530 - P.531

編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.534 - P.534

 WCPT'99国際会議が終わりました.これを書いている時点では参加者の数などの公式発表は出されていませんが,大盛会のうちに終了したことは間違いないと思います.日本のPTも力が付いたと感心しました.それ以上に,世界のPTの積極性には本当に驚かされました.日本のPT参加者から印象を聞きますと,学会がどうのというより,やはりおのれのぶつかった語学の壁の厚さが際だって印象に残ったようです.日本からは若いPTの参加が目に付きました.彼らの,語学力を克服して世界に進出しようとするチャレンジ精神に火をつけたという点では,これ以上ないほどの効果があったと思います.今後のPTを発展させる上で大変意義深く,学会長を始めとする組織運営関係者には大変な苦労があったと思いますが,心から敬意を表します.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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