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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル33巻8号

1999年08月発行

文献概要

講座 高次神経機能障害のリハビリテーション・4

注意障害

著者: 加藤元一郎1

所属機関: 1東京歯科大学市川総合病院精神神経科

ページ範囲:P.575 - P.581

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はじめに

 脳損傷例の臨床では,患者や家族から「ぼんやりしている」「仕事や作業がすぐに中断する」「集中力がない」などの日常生活上の全般性注意障害の訴えを聞くことが多い.また,物忘れの症候を持つ脳損傷例の多くが,注意や集中力の障害を自覚していると言われる1).更に,機能の再建を目指すリハビリテーションの場面でも,注意障害の要因は見逃すことができない.すなわち,「ぼんやりしていて指示が入らない」「課題への取り組みが長続きしない」「落ち着きがない」などの注意の異常が前景にでているケースが散見される.このような注意の障害に取り組むためには,まず,注意障害に関する正確な把握とそれへのリハビリテーションの方法の理解が必要である.

 注意は様々な認知機能の基盤である.ある特定の認知機能が適切に機能するためには,注意の適切かつ効率的な動員が必要である.また注意機能は,広く社会的生活を営むための様々な行動に介在し,これを統合する役割も持つ.したがって,脳損傷後の注意の障害は,多くの認知行動障害を引き起こす.しかし,全般性注意の障害と個々の神経心理学的障害(失語,失行,失認,健忘など)との関係は非常に複雑であり,注意障害が特定の神経心理学的障害の本質である場合から,単にそれに重畳している場合まで様々である.例えば,学習障害における注意障害の果たす役割は極めて重要であることは良く知られている.すなわち,記憶障害は,注意機能に大きな負荷をかける活動で顕在化することが多い.また,特定の認知機能が障害されていることが明白な場合でも,その背景にしばしば注意の障害が潜んでいることがあり,これが改善されることで認知行動障害の回復がみられることもある.更に日常生活上の問題や社会的な行動障害の改善を目指したリハビリテーションのプログラムには,注意障害の視点からのアプローチが必要となることも多い.

 しかしながら,このような注意障害への関心が脳損傷例の臨床に持ち込まれたのは近年のことである.この理由の1つは,注意の定義が困難であり,注意の異常を他の認知障害から厳密に分離することができないことに因るであろう1).注意の定義は曖昧であり,注意という言葉によって表される現象は多様な側面を持っている.したがって,まず注意機能の概念と分類について簡単に整理してみたい.なお,本稿では,方向性注意およびその障害(無視症候群)については触れず,話題を全般性注意(generalized attention)のみに限ることとする.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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