icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル33巻9号

1999年09月発行

雑誌目次

特集 脳科学の進歩と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.615 - P.615

 最近の脳科学の進歩にはめざましいものがある.神経可塑性の概念はいよいよ脳障害後の機能回復まで実証しようという時代になってきた.学習や行動における脳のメカニズムも明らかにされつつある.それらを理学療法士が知識として保有しているか否かは,障害の理解と理学療法の展開に何らかの違いを生む可能性があると言えよう.認知領域を中心に理学療法分野にも脳科学の発展の影響はみられる.しかし,理学療法全般的には脳科学の進歩に対応はできていない.本特集では理学療法に関係の深い研究領域を取り上げて解説し,理学療法への展開のヒントを示していただいた.

脳科学の進歩と理学療法

著者: 久保田競

ページ範囲:P.616 - P.620

 1.はじめに

 脳に何らかの障害があって,脳機能の低下があり,同時に運動機能の低下や喪失が起こった場合,治療によって脳機能や運動機能を回復させることができることがある.このことは,19世紀の末にすでに知られていたことである.しかし,なぜ機能回復が起こるのか,最近までまったく解らなかった.したがって,機能回復のための治療は経験的に行われてきた.そのため,種々のやり方が行われ,その優劣が論じられてきた.しかし,治療効果を科学的に判定する方法が確立されていないため,いろいろな見解が今でも共存している.

 1970年ごろから,神経系を多面的に研究する分野が生まれてきた.この分野では,我々の精神現象を神経系の働きとして,分子,細胞,システムのレベルで理解しようとする.これ以前の脳研究は,解剖学,生理学といった,独特の研究技術と方法論をもった学問分野で行われていたのが,種々の方法論で,多面的,包括的,総合的に研究されるようになった.このような分野は神経科学(neuroscience(s))と呼ばれている.北米で神経科学会が設立され,最初の学会大会が開かれたのは1971年であるが,その後の発展は目覚ましく,今や巨大科学となっている.神経科学のなかの研究で成果のあがっている精神過程の1つに「学習や記憶」がある.この研究で生まれてきた,脳の働きについてのの概念の1つに「神経可塑性」(neural plasticity)がある.

 我々の精神過程が変わるのは,神経系が変わる性質をもっているからで,その基礎にあるのは,神経系をつくる要素である神経細胞のシナプスの可塑性(plasticity,modifiability)である.シナプスに形態学的,生理学的変化が起こるから,神経細胞の働き方が変わり,神経系の働きが変わり,精神過程が変わるのである.神経可塑性の証拠となる実現事実は1970年ごろから出始め,1990年ごろには確固たる概念となった.最近になって機能の発達や老化にも,この概念が適用されている.今や神経系で,神経細胞がシナプスでつながってできている神経回路ができあがると,固定的で変わらないものと考えることはできない.脳が変わり,働きも変わる.しかも動的に.

 「神経可塑性」の概念が,脳障害後の機能回復にも適用されるようになった.その最初の報告が1996年,Nudoらによって示された3).人工的につくった運動野の脳梗塞で,手指の麻痺が起こったが,手指を強力に使わせることで,手指を支配する運動野の面積が広くなったのである.すでに他の運動を起こすのに働いていた運動野の神経細胞が,手指を動かすように働いたためと考えられた.この背景に,運動野の神経細胞につくシナプスの変化があると想定されるが,その実態はまだ明らかにされていない.人間の運動野に,同じような梗塞があれば,同じことが起こると考えられる.同じメカニズムで運動機能の回復が起こると期待できるのである.

 Nudoらの研究は,リハビリテーション医学の分野で重要なことを明らかにした.脳障害のあとの機能回復の一部を,脳の働きとして理解したことになる.筆者は1996年をリハビリテーション元年と呼ぶのがよいと考えている(Nudoらの業績を筆者がボバースジャーナル1)に紹介してある.)

 理学療法士を含めて,リハビリテーション医学に関係している人は,今や神経科学を勉強して,なぜ機能回復が起こるのか,そのメカニズムを理解しなければならなくなった,理解した上で,新しい治療法を開発していかねばならないことになった,と筆者は考えている.

 理学療法士に,神経科学とくに神経生理を教えられる人は,残念ながら日本人にはほとんどいない.理学療法士の学会が,どうすればよいのか真剣に考えねばなるまい.理学療法を行う場合,最近の脳研究の成果を避けることはできないと思われる.

中枢神経系の階層性と運動

著者: 森茂美

ページ範囲:P.621 - P.630

 1.はじめに

 運動制御motor controlの観点からみると,我々の身体は数多くの関節をつなぐ約800の骨格筋で作られている.肘関節elbow jointを例にとると,その動きは位置positionと速度velocityで決まるが,機械的には約100の自由度degrees of freedomをもち,空間内では少なくとも200の大きさdimensionをもっている.身体bodyがこれだけ多くの自由度をもつ関節でつながる集合体であると考えると,前腕・上腕・下腿・上腿などのいわゆる運動分節motor segmentsの動きをそれぞれに関連づけながら機能的につなぎ合わせること(coordination)が運動の遂行に際して必要となる.

 その場合に中枢神経系はどのような仕組みで数多くの骨格筋活動を制御しているのだろうか?この疑問に答えるため階層性制御hierarchical controlという概念がJackson(1884)によって最初に提出され1),その後この概念はBernstein(1967)によって更に発展した2).本稿では偉大な先覚者であるJackson博士(1835-1911)とBernstein博士(1896-1966)の階層性制御にかかわる基本的な考え方を紹介し,その一方では最近明らかにされている重要な研究成果を紹介する.

脳の側性化と行動―局所性脳萎縮疾患からみた脳の機能局在とその障害

著者: 福井俊哉 ,   河村満

ページ範囲:P.631 - P.644

1.はじめに

 脳の機能局在(localization)と側性化(lateralization)についての知見は,古くから主として脳血管障害例における臨床症状と病巣との対比,および,脳皮質の電気的刺激などの手法を用いることにより蓄積されてきた.これに対して,変性性の脳病変や脳腫蕩例は障害部位の範囲を限定することが困難であることから,局在や側性化についての研究材料としては不適切であるとみなされていた.変性性脳疾患の代表と考えられているAlzheimer病(以下AD)を挙げてこれを説明してみよう.ADの主症状は痴呆であり,その「痴呆」の概念は「知能全般の低下状態」とされている.このことから,「AD=脳の変性疾患=知能の全般的低下状態をきたす疾患」という認識が生じ,ADつまり変性性脳疾患は脳機能の局在性を解明するための題材としては不向きであるという見解が一般的であった.

 ところが最近,画像診断法の進歩が1つの理由で局所性の脳萎縮を呈する疾患が注目されるに従い,このような変性性痴呆疾患に対する考え方が大きく変化しつつある.局所性脳萎縮を呈する変性疾患は1900年初頭にPick病として報告されたが,その後はADほどに関心を寄せられてはいなかった.しかし,1970年代後半より臨床神経学,神経病理学など様々な立場において,Pick病に代表される局所性脳萎縮疾患に対する関心が高まり,最近ではこれらの疾患群はADに相対する疾患単位として確固たる地位を築きつつある.そこで,本稿ではこれらの局所性脳萎縮疾患についての考え方を紹介し,それに関連した歴史的背景,臨床症状,画像所見,病理像などを論じ,更に変性性痴呆疾患の検討から示唆される脳の側性化と行動について考えてみたい.

大脳辺縁系と学習・記憶

著者: 山本経之 ,   青田正樹 ,   田代信維

ページ範囲:P.645 - P.652

 1.はじめに

 ヒトや動物の行動は大部分,学習された行動能力を持続的に蓄えられた記憶を基盤に営まれている.この記憶は外来からの刺激の強さや感情などの内因的要因によって変容することが知られている.ネコのスイッチ切り学習を発見した中尾は,学習には情動がその基本にあるとして,情動の形成と解消を大脳辺縁系と視床下部・脳幹との機能として図1のように位置づけた1).大脳皮質で分析された情報は,扁桃体で評価と仕分けを受けて,視床下部へ伝わり,それに相応しい情動を発動させる.また,大脳皮質から中隔・海馬系へ入る情報は,これまで蓄積された記憶と照合して最も適した処理方法を決める.Gray2)も同様の仮説を立てており,更に処理方法が決まると,視床下部へ情動抑制信号を送り,情動は終結すると考えている.情動形成過程と連動して古典的条件づけ学習が起こり,情動解消過程と連動してオペラント条件づけ学習が起こると中尾はいう.大脳辺縁系は感情の高揚と関係する内側辺縁系(medial limbic system)と感情の抑制と関係する底外側辺縁系(basolateral limbic system)の2つに分けられている.認知体験の記憶には底外側辺縁系が必須と考えられており,その中心をなすのがPapez回路である.

 一口に「記憶」といっても多様であり,保持時間の違いを始めとした様々な観点からの区分がなされている.この中でもAltzheimer型老年痴呆にみられる初期の記憶障害は,短期記憶または作業記憶と呼ばれる記憶の選択的な障害であることが特徴的である.

 本稿では著者らが創意・工夫して独自に考案した3-panel runway装置および3-lever operant装置を用いての作業記憶に焦点をあて,大脳辺縁系の海馬・中隔野・扁桃体および視床下部の大脳辺縁系諸核が担う学習・記憶における役割について概説する.

とびら

「変わった」こと,「変わる」こと

著者: 沖山努

ページ範囲:P.613 - P.613

 我々は,この数年間でいくつかの変化に遭遇した.「昭和から平成」へ,「バブルから大不況」へ,そして「震災前から震災後」へ,どんな変化も「変わりつつある」と感じるより,何かの瞬間に「変わった」ことを実感するものである.つまり,世の中は一定のリズムで変わり続けるのではなく,あることがきっかけで大きく変わるもののように思える.

入門講座 パソコンによる学術情報整理学・5

再検査法による“測定の信頼性”の検討方法

著者: 関屋曻

ページ範囲:P.653 - P.659

 理学療法の領域では評価が重要な位置を占め,関節可動域測定,徒手筋力測定,反射検査,日常生活活動評価など様々な検査・測定が行われる.これらの測定に基づいて治療方針の決定,予後予測,効果判定,患者の層別化等がなされるため,測定の信頼性は保証される必要がある.また,理学療法では量的尺度(間隔尺度や比率尺度)だけでなく質的尺度(名義尺度や順序尺度)を用いることが多いため,両尺度の信頼性の指標が必要である.しかし測定の信頼性を検討する考え方や手続きが理学療法の領域に十分に浸透しているわけではない.そこで本稿では,まず信頼性を考えるときの基本的な考え方を述べ,後半でパソコンを利用した具体的計算方法に進む.基本的な考え方と手続きを中心とし,統計学的な議論は最小限に留める.統計学的基礎に関心がある場合には文献を参照して頂きたい.ここでは統計ソフト“Stat View J-4.5”と表計算ソフト“エクセル98”を用いるが,他のソフトウエアでも基本的な手続きやディスプレイに大きな違いはない.

1ページ講座 理学療法評価のコツ・9

ADLの評価

著者: 下斗米貴子

ページ範囲:P.660 - P.660

 日常生活活動(日常生活動作Activities of Daily Living;ADL)の評価は,能力障害の評価として,リハビリテーション医療における各種治療手段の選択とその効果判定,ゴール設定等に広く利用されている.

 ADL評価の方法は,長年の歴史のなかで数多く発表されているが,現在では,FIM,Barthelインデックス,PULSES等が一般的であり,個人がどの程度,課題遂行能力を有しているかを評価する目的で利用されている.表現方法としては,自立,介助(介護側から),依存(障害者側から)の要素を考慮して,それぞれの評価基準が使われる.

TREASURE HUNTING

「緊張と緩和」を信条として―稲村一浩氏(星ケ丘厚生年金病院リハビリテーション部)

著者: 編集室

ページ範囲:P.661 - P.661

 今月は大阪生まれの大阪育ち,少々説明を要するが“ぼけとつっこみ”の理論を信条として理学療法の道一筋15年を歩んでこられた稲村一浩氏にご登場いただく.この理論はどうやら「緊張と緩和」という言葉と同義語のようで,「緊張」があってこそ,「緩和」としての笑いが生きてくるということらしい.人生もストレス(緊張)に曝され,それを克服していくところに味わいがあるというわけだ.

あんてな

臨床歩行分析研究会の活動

著者: 石井慎一郎

ページ範囲:P.662 - P.663

 I.研究会の活動趣旨

 本研究会の前身である臨床歩行分析懇談会は1982年11月に発足した(1997年,臨床歩行分析研究会と改称).本研究会の設立趣旨は,「歩行分析に携わる医学系,工学系,企業の研究者が,それぞれの領域におけるニードを明確にして,それに見合った分析手法の可能性を模索し,歩行分析を臨床で活用できるものにする」ことである.

リレーエッセー 先輩PTからのメッセージ

共通語探しでPTをPR

著者: 葛西清徳

ページ範囲:P.664 - P.664

 「どうしてリハビリ科だけ日本語ではないのですか?」「リハビリをするのに資格や免許が要るのですか?」「仕事をしていて楽しい時とか辛い時はどんな時ですか?」etc,etc.中学生の病院体験学習のオリエンテーションの時にたまたま出る質問である.確かに看護科,薬局,(診療)放射線科,検査科,透析室,臨床栄養科,業務課,管理課などは日本語でカタカナではない.地動説を唱えて投獄されたガリレオ・ガリレイのリハビリ(破門の取り消し),オルレアンの少女ジャンヌ・ダルクの異教徒からのリハビリ(市民権の回復)などの話を持ち出して説明し,「医療関係ではいろんな人が様々な和訳を試みた.例えば,整肢医療,克服訓練,回復指導,社会復帰,機能訓練,療育,更生指導,更生医療.云々.

講座 発達障害・1

脳機能の発達障害

著者: 穐山富太郎 ,   福田雅文 ,   木下節子 ,   深町亮 ,   大城昌平 ,   鶴崎俊哉

ページ範囲:P.665 - P.673

はじめに

 脳性発達障害児の疫学調査によると,脳性麻痺児,精神遅滞児の発生率1-3)は出生児1,000人に対し,それぞれ1.8~2人,20~30人とされている.

 1990年10月から1993年9月までの3年間に出生した,長崎県在住の3~6歳児49,222人を対象とした実態調査4)によると,脳性麻痺,精神遅滞,重症心身障害の有病率は,対象児1,000人に対し,それぞれ2.76人,13.5人,1.6人となっている.このところ,周産期医療の進歩により脳性発達障害児の発生は減少の傾向にあるといわれるが,成熟児からの発生の減少に対し,未熟児からの発生はむしろ増加しており,全体としては減少していない.

 近年,脳の可塑性に関する研究知見5,6)から,これら脳性発達障害児に対する超早期療育の有効性がますます重要視されるに至っている.

 新生児期からの療育開始のためには,胎児期も含めた新生児の脳の成熟過程を理解するとともに,それらに対応した臨床的評価が欠かせない.評価の対象は,自発運動,原始反射,新生児行動,姿勢反応などである.

 以下,脳障害の予防および早期評価・療育の視点から新生児の脳の成熟過程,胎生期から新生児期にかけての行動発達,原始反射と自発運動,姿勢緊張・反応,超早期診断・療育について順次述べる.

プログレス

スリングセラピー

著者: 中島雅美

ページ範囲:P.674 - P.676

 1.はじめに

 最近スリングセラピーという手技の講習会が全国的に行われるようになってきている.筆者は現在スリングセラピー研究会の一員として勉強させていただいているので,この場を借りてスリングセラピーについて簡単に紹介してみたい.

 もともとスリングは,理学療法の目的を達成するために臨床で考案工夫された道具の1つである.最も有名なものとして1940年代の第2次大戦中に,戦傷者の理学療法を行うなかでロンドンで考案されたGuthrie-Smith懸垂訓練装置がある.またもう1つ,HKY式オーバーヘッドフレーム滑車おもり運動練習装置が,スリングだけでなく多くの運動が行える万能訓練装置として本邦で開発された.

 しかしこれらは,フレーム等が固定式で多くの滑車やロープを必要とし,装置の着脱も面倒で,結果として現実に使用されていない.今回紹介するノルディスクスリング装置を使用したスリングセラピーは1992年にノルウェーで考案され,欧米諸国とくにドイツで広まっているが,既存の理学療法技術にスリングの特性を採り入れたものである.

雑誌レビュー

“Physiotherapy”1998年度版まとめ

著者: 前田哲男 ,   吉元洋一 ,   高江玲子 ,   佐々木順一 ,   大渡昭彦

ページ範囲:P.677 - P.682

はじめに

 英国理学療法協会の機関誌“Physiotherapy”1998年度版のまとめを行った.まとめ方としては,1月号から各論文のタイトルと抄録をページ順に記述した.昨年5月に編集室から“Physiotherapy”1998年度版レビューの依頼があり,その後筆者らは,週に1~2回1編につき30分程度の抄読会を行い,その内容をまとめた.

資料

第34回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1999年3月5日実施) 模範解答と解説・Ⅲ―理学療法(3)

著者: 猪田邦雄 ,   小林邦彦 ,   辻井洋一郎 ,   河村守雄 ,   鈴木重行 ,   木山喬博 ,   講武芳英 ,   河上敬介 ,   肥田朋子 ,   石田和人

ページ範囲:P.683 - P.688

 問題67〔2〕

 (解説)「運動療法の実際」(荒川規矩男,南江堂)に国際心臓連合(ISFC)の運動療法の効果が示されている.それによるとイ,ウ,エ,は誤りでア,オは正しい.

学会印象記 第33回日本作業療法学会

来るべき時代に向けた新しい作業療法の胎動を実感

著者: 對馬均

ページ範囲:P.690 - P.691

 学会概観

 去る6月17日から23日までの3日間,弘前市において「高齢者・障害者の自立生活~その支援~」をメインテーマに,第33回日本作業療法学会が開催された.この3日間で発表された一般演題は415を数え,学会テーマに焦点を合わせた4つの特別講演,学会長講演のほか,教育講演や一般市民を対象とした公開シンポジウムも設定されるなど,中身の濃いプログラムが用意されていた.そのため,学会の準備・運営を担当した青森県作業療法士会の最大の課題は会場の確保であったようだ.しかし,準備委員会の努力により,名勝弘前公園を取り囲む形で3つの会場が設定され,会場問の移動用にシャトルバスを運行することで,何とか開催にこぎつけたとのことであった.

 学会テーマとして掲げられた「高齢者・障害者の自立生活~その支援~」は,世紀末の変革期にある我が国の社会情勢を考えると,まさにタイムリーなテーマだったといえよう.開会式の挨拶において,日本作業療法士協会会長寺山久美子氏は「長寿を如何にしたら元気に自立し充実して過ごせるか」を大きな課題としてとらえ,作業療法の立場からその「自立への処方箋」について学術的に検証していくことの意義を説いた.また学会長の清宮良昭氏は,「介護」ではなく「自立生活」とした意図が,高齢者・障害者の主体性に視点を置き,在宅生活の中で困ったときにその解決を導くことを作業療法の中核ととらえたためであることを強調した.そして,これまでの病院や施設中心の作業療法では家庭に密着した生活能力の指導を十分行えないのが実情であったが,公的介護保険導入により,生活に密着した作業療法を行う環境が整い,高齢者の自立支援が確立することを願うと結んだ.

書評

―鈴木重行(編集)―IDストレッチング Individual Muscle Stretching

著者: 柳澤健

ページ範囲:P.630 - P.630

 ストレッチングに関する成書は数多く出版されているが,この「IDストレッチング」ほど理学療法士にとって有益な書は他にないと思われる内容である.筋肉の解剖学・生理学的な基本知識が理解し易く記載され,個々の筋ストレッチング法が鮮明な写真とイラストで表現されている.

 筋ストレッチングには,①反動をつけたバリスティック・ストレッチング,②静的ストレッチング,③ホールドリラックス(PNFストレッチング)の3通りがある.①は伸張反射を助長し筋緊張が逆に亢進してしまうことから,現在の理学療法では②と③が使用されている.本書ではべーシック法(②)とコントラクト法(③)の2手技を使用している.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.692 - P.693

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.696 - P.696

 楽しい夏だったでしょうか.

 今年の札幌は例年になく蒸し暑い日が多く,最高気温がわずか23℃の日に海水浴に行った数年前とはあまりに違いすぎる夏でした.このまま地球温暖化の影響が強くなっていくのではないかと不安になり,つい先日大型ゴミに出してしまったエアコンに未練が残っています.札幌では暑い日は10日くらい,エアコンは無用と思っていましたが,近い将来,北海道でも各戸必需品になるのかもしれません.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?