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特集 脳科学の進歩と理学療法
大脳辺縁系と学習・記憶
著者: 山本経之1 青田正樹1 田代信維2
所属機関: 1九州大学大学院薬学専攻科(薬効解析学) 2九州大学大学院医学系研究科精神病態医学(精神神経科)
ページ範囲:P.645 - P.652
文献購入ページに移動ヒトや動物の行動は大部分,学習された行動能力を持続的に蓄えられた記憶を基盤に営まれている.この記憶は外来からの刺激の強さや感情などの内因的要因によって変容することが知られている.ネコのスイッチ切り学習を発見した中尾は,学習には情動がその基本にあるとして,情動の形成と解消を大脳辺縁系と視床下部・脳幹との機能として図1のように位置づけた1).大脳皮質で分析された情報は,扁桃体で評価と仕分けを受けて,視床下部へ伝わり,それに相応しい情動を発動させる.また,大脳皮質から中隔・海馬系へ入る情報は,これまで蓄積された記憶と照合して最も適した処理方法を決める.Gray2)も同様の仮説を立てており,更に処理方法が決まると,視床下部へ情動抑制信号を送り,情動は終結すると考えている.情動形成過程と連動して古典的条件づけ学習が起こり,情動解消過程と連動してオペラント条件づけ学習が起こると中尾はいう.大脳辺縁系は感情の高揚と関係する内側辺縁系(medial limbic system)と感情の抑制と関係する底外側辺縁系(basolateral limbic system)の2つに分けられている.認知体験の記憶には底外側辺縁系が必須と考えられており,その中心をなすのがPapez回路である.
一口に「記憶」といっても多様であり,保持時間の違いを始めとした様々な観点からの区分がなされている.この中でもAltzheimer型老年痴呆にみられる初期の記憶障害は,短期記憶または作業記憶と呼ばれる記憶の選択的な障害であることが特徴的である.
本稿では著者らが創意・工夫して独自に考案した3-panel runway装置および3-lever operant装置を用いての作業記憶に焦点をあて,大脳辺縁系の海馬・中隔野・扁桃体および視床下部の大脳辺縁系諸核が担う学習・記憶における役割について概説する.
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