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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル34巻4号

2000年04月発行

雑誌目次

特集 義足―新しい技術と適応

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.223 - P.223

 ■下腿義足,大腿義足,股義足のソケット(東江由起夫論文)

 義足ソケットの最近の傾向について紹介した.下腿義足ではTSB式ソケットとライナーを用いたソケットの特徴と種類について,大腿義足ではIRCソケットに関してその特徴とアライメントについて,股義足では各々のソケットのデザインと適合のポイントについて解説した.

下腿義足,大腿義足,股義足のソケット

著者: 東江由起夫

ページ範囲:P.224 - P.231

 1.はじめに

 現在,下腿義足では全表面荷重支持式ソケット(Total Surface Bearing Socket,以下TSB式ソケット)が多く製作されるようになってきている.また,材料の進歩によってシリーコン等のライナーを使用したソケットも多く製作され,普及の一途をたどっている.大腿義足では坐骨収納型ソケット(Ischial-Ramal-Containment Socket,以下IRCソケット)が普及しており,最近では高い吸着性や断端の保護を目的にシリーコン等のライナーも積極的に使用されるようになってきている.股義足ではカナダ式ソケットが1954年以降ほとんど変わらないデザインで製作されている.

 そこで本稿では,最近の下腿義足ソケット(TSB式ソケット,シリーコン等のライナーを使用したソケット),大腿義足ソケット(IRCソケット),股義足ソケット(カナダ式ソケット等)について触れ,それらの特徴について紹介する.

膝継手の機構と義足歩行

著者: 関川伸哉

ページ範囲:P.232 - P.239

 1.はじめに

 近年,義肢パーツの種類は大変豊富となり,選択肢の幅も広がりつつある.そのような中で臨床現場にいる方々が一番知りたいことは,「Aさんに最もふさわしい義肢パーツは何なのか?」といったことであろう.例えば,断端長や年齢,筋力などを入力するとコンピュータが「Aさんには,○○膝継手がよろしいです!」と確かな答えが出てくるようであればありがたい.しかし現状では,そのようにはいかない.ただし,各セラピストの方々が,できるだけ多くのパーツに関する情報を持ち,かつ各義肢パーツの機械的な特性とそのパーツが義足歩行に及ぼすであろう影響を客観的に把握していれば,上記の問題に限りなく近いアプローチを行うことは可能である.

 筆者は,これまでに工学的サイドから義足膝継手(以下,膝継手)を中心とし,パーツの持つ機能特性と義足歩行との関連性について研究してきた1,2,12,14).そこで今回は,現状の膝継手を機能的に分類して解説するとともに,それらの膝継手と義足歩行との関連性についても解説していきたい.ただし,ここでは大腿切断者の平地歩行が中心であることと,歩行時を大きく2つに大別(立脚期と遊脚期)し解説する.

足の機能と足部の選択

著者: 江原義弘

ページ範囲:P.240 - P.246

 1.健常足の機能

 ヒトの歩行は後ろになる足(以後,後足)を支点とする前方転倒と,前になる足(以後,前足)を支点とする起き直りとの繰り返しである.この観点からみると,足部の機能はしっかりと地面にイカリを降ろして前方転倒と起き直りの回転軸を供給することである.このことを頭に入れながらまず健常者の足部の機能をみていこう.

 前足の接床に際して(図1),靴の踵や踵の軟部組織で接床の衝撃が吸収される.踵から接床することで足部は下方に回転でき,足関節は前下方に移動できる.足関節は無理やり底屈させられ,この際の背屈筋群の遠心性収縮で衝撃が吸収される.もし踵接地でなくフットフラットで接床すれば,足部は接床の瞬間に床に固定されてしまい,逃げ場が無くなって大きな衝撃が生じるであろう.

 踵から接床することで床反力が膝の後方を通るようになり膝の屈曲を誘発する.膝伸展筋群は遠心性収縮でこれに対抗し,ここでもまた衝撃の吸収が行われる.このように接床時の衝撃吸収は3ステップに模式化される.まず早い時期の機械的な衝撃は踵で吸収され,次の時期の体重を超えない衝撃が足関節で吸収され,最後の時期の体重を支える大きな衝撃が膝関節で吸収される.吸収作用の割合は足関節1に対して膝関節が3から4程度である.以上の時期が前足による起き直り支持の時期である.

切断者の特性からみた義足の選択―膝継手と足部の組み合わせ

著者: 高橋茂 ,   土屋辰夫 ,   森井和枝 ,   江原義弘 ,   丸田耕平

ページ範囲:P.247 - P.253

 近年,機能性に優れた義足パーツや特徴的な膝継手が次々と登場し,残存機能やニーズに合った義足を選択し使用することが容易になった.しかし一方では,身体機能やニーズの適切な評価や判断,膝継手の機能や調整方法を十分に理解しないで選択し使用したと思われる義足使用者に接する機会も増えた.

 このような状況を改善したいという気持ちと,より適切なパーツを使用してもらいたいという気持ちから,本稿では,一定の基準をもって膝継手の選択が可能となるようなフローチャートを紹介し,また,メーカには自社製品の膝継手の使用範囲と推奨する足部との組み合わせを提示してもらい,更には当センターにおける活動別の膝継手処方と使用状況について分析し,その結果と事例紹介などをもとに,切断者の特性と適切な義足の選択について提示することにした.

義足歩行(1)―大腿切断を中心に

著者: 長倉裕二

ページ範囲:P.254 - P.261

 1.はじめに

 大腿切断者の歩行指導において膝継手の機能を知ることは重要である.この膝継手の機能は継手の開発とともに高機能化してきている.そのため我々理学療法士は,継手の選択や歩行指導に困惑することが多い.また,切断者の義足部品を選択する場合に,切断者の能力にあった機能か,義足作製後に義足の機能を発揮させるための使用方法に間違いがないかなど,確かめる手段に乏しいのが現実である.ここでは,義足部品の機能的な分類を中心にその歩行指導方法について,当センターにおける臨床経験と資料を基に若干の私見を交えて報告したい.

義足歩行(2)―股切断を中心に

著者: 畠中泰司 ,   延藤実穂 ,   安藤徳彦 ,   根本明宜

ページ範囲:P.262 - P.268

 1.はじめに

 ここ数年,義足は殻構造から骨格構造に移り変わりシステム化が進み,外観が改良され,重量も軽減化し,各種部品の選択が可能となってきている.また,エネルギ蓄積型足部の開発とその普及にみるように,各部品の開発が盛んである.特に膝継手は,これまでの機能と異なる立脚相制御機構を備えた継手が開発され,臨床で用いられるようになってきている.このことにより,義足装着者の歩行や走行などの能力は飛躍的に向上してきている.

 我々は,新たに開発され使用が可能になった膝折れ防止機構付き多軸膝継手(以下,膝折れ防止付き継手)を1996年より片側骨盤切除,股関節離断の切断者に処方してきた.そして,これまでの経験を整理し,この継手の効果や義足歩行を獲得するための指導方法についての若干の知見を報告してきた1-4)

 これまでの経験から,膝折れ防止付き継手のような一般的に高機能と称されている部品を使用する場合は,ソケットの適合,アライメントの設定方法,足部等との組み合わせの問題を改めて検討する必要があると考えている.また,高機能であるからといって,それを使用すれば直ちに高いレベルの活動が獲得できるものではなく,そこには部品の特性を発揮させるための最適な援助が必要であるとも考えている.

 今回はMcLaurinにより発表5)されて以来,股義足の代表である殻構造のカナダ式股義足について概説し,当科の股義足の処方状況,膝折れ防止付き継手を用いた場合の歩行獲得に向けた指導方法などをこれまでの経験を中心に述べることとする.

とびら

理学療法に理論の構築を

著者: 高橋仁美

ページ範囲:P.221 - P.221

 我々が臨床で行う理学療法に,科学性が要求されることは言うまでもない.しかし,日々実践している理学療法は,その有効性が客観的に確認されているわけではない.主観的な評価原理から経験的に伝えられてきた理学療法がほとんどではないだろうか.現存の理学療法は,科学の方法論をもって吟味しなければならない対象であることを認識しておく必要があると考える.

 理学療法が「理学療法学」という学問として市民権を得るためには,物理学におけるニュートン力学がそうであるように,理学療法における一般的法則を明らかにする必要があろう.理学療法を科学とするには,物質の世界の法則に従うべきものと同じような体系づけが要求されるのである.

TREASURE HUNTING

全ての障害者にスポーツの夢を!―増田基嘉氏(大阪府立身体障害者福祉センター機能訓練室)

著者: 編集室

ページ範囲:P.269 - P.269

 パラリンピック長野大会での日本選手の活躍ぶりは未だに記憶に新しい.そして今年はシドニー大会.今頃は大会参加をめざす障害者アスリートが日本の各地で厳しいトレーニングを重ねていることだろう.

 今月ご紹介する増田基嘉氏は障害者スポーツを裏方として支える理学療法士.メディカルサポートの面で欧米諸国との間に格段の差があるといわれている我が国の障害者スポーツの発展に情熱を傾けている.

プログレス

顎関節症への理学療法アプローチ

著者: 橋本修一

ページ範囲:P.270 - P.271

 1.はじめに

 いわゆる顎関節症(temporomandibular disorders;以下TMD)とは,開口制限,顎関節雑音(クリック音),開口時や咀嚼時の痛みを主症状とする筋骨格系疾患である.我が国では現在,主に歯科医師によって,薬物療法,スプリント療法,咬合調整などの治療が行われているが,米国では,理学療法士や心理専門家がTMDの治療に積極的に参加している.

 筆者は1997年,米国に出かけて,歯科医師の処方箋により理学療法士が顎関節症の治療を行っている現場を見学することができた.本稿では,その時の経験と,1997年5月から99年3月までの間に,弘前大学医学部附属病院リハビリテーション部において治療を行った19例について分析した結果1)から,TMDに対する理学療法アプローチの実際を紹介する.

1ページ講座 診療記録・4

コンピュータ管理による診療記録

著者: 渡辺京子

ページ範囲:P.272 - P.272

 理学療法(以下PT)診療録(以下カルテ)の目的は,実施した診療を記録し,診療請求の根拠とすることで,患者に対する責任を明らかにし,臨床業務の証拠として法的に自分を守ることにもつながる.PTカルテには日々の経過記録として,実施時間,複雑・簡単の種分け,具体的な訓練内容,特記事項,カンファレンスの討議内容,追加指示等を記載する.また,カルテ記録も,診療業務の一部とみなすことができる.

入門講座 人工呼吸器管理下の患者の理学療法・4

神経筋疾患に対する非侵襲的人工呼吸療法下の呼吸理学療法―進行性筋ジストロフィー症を中心に

著者: 増本正太郎 ,   笠原良雄 ,   草野勝

ページ範囲:P.273 - P.277

 Ⅰ.はじめに

 進行性筋ジストロフィー症の障害部位は骨格筋に止まらず,呼吸筋や心筋にまで及び,拘束性換気障害に対する呼吸管理が身体的・精神的負担の軽減やQOL向上に欠かせない課題となっている.呼吸不全が進行すると喀痰の喀出困難が自覚され,頻呼吸や呼吸補助筋の活動が目立ち始めるとともに,放置するとCO2ナルコーシスに陥る.

 近年,気管切開や気管内挿管を行わない非侵襲的陽圧換気療法が在宅人工呼吸療法(home mechanical ventilation;HMV)にも採用され,普及段階に達している.本稿では神経筋疾患に対する非侵襲的人工呼吸療法下の呼吸理学療法について述べる.

講座 臨床にいかす動作分析・4

骨・関節系疾患の動作分析

著者: 石井慎一郎 ,   石井美和子 ,   赤木家康

ページ範囲:P.279 - P.289

はじめに

 骨・関節系疾患を考える場合,対象となる機能障害を関節生理学的に不適切な力学対応の結果として捉えると障害構造を理解しやすい.重力環境における身体運動は,厳密に力学の法則に従う.何らかの原因でこの対応が関節生理学に合致しない場合,最も非生理学的な対応を強いられている関節に病変が生じると考えると,治療戦略が立てやすくなる.

 こうした障害構造の解釈を成立させるためには,解剖学を基盤とした構造の理解と運動学を基盤とした動き方の理解,力学を基盤とした力の理解が必要となる.本稿では,骨・関節系疾患における力学対応の分析と,その結果として引き起こされる非生理学的運動の分析方法について解説をする.

新人理学療法士へのメッセージ

新しいライフステージのはじまりへ

著者: 日下隆一

ページ範囲:P.290 - P.291

 残雪の下に節分草が咲き始めたという記事を目にした.四季をそれぞれに分ける日を節分というが,その掌ほどの低い茎と幾重かの細葉に薄黄色や白い小さな花をいだく節分草は,立春の頃に咲く多年草の草花で,古来より日本人はこの立春の前日を特別な季節の変わり目とし,1年の境と考えていたようである.まさに春に芽生え,冬枯れる一年草の如く,一年が春に始まり冬に終わるという概念は,私たちの遺伝子の中に強く息づいている感がある.また,物事の区切りとしての節目も同様に,現代社会でも重要な事柄として取り扱われている.個人が生まれ,家族に育まれ,学校に通い,地域社会の中で言語や行動様式さらには価値規範といった文化を習得しながら,やがて地位や役割を獲得して社会の成員となっていくことが社会化であるが,この全過程であるライフサイクルは,幾つかの異なったライフステージから成り立っている.このライフステージの異質性を本人とそれを取り巻く家族,地域社会,所属する集団,組織などが相互に確認,理解するために行われるのが入学,卒業,成人,就職,結婚,還暦などといった通過儀礼である.

患者さんとのよりよい人間関係のために

著者: 池添冬芽

ページ範囲:P.292 - P.293

 このたび見事に国家試験に合格された新人理学療法士の皆さん,心からお祝い申し上げます.すでに新しい職場において,様々な問題を抱えた患者さんを目の前にして,四苦八苦している頃かと思いますが,皆さんは患者さんとのコミュニケーション,うまくとれていますか? お互いの信頼関係は持てていますか?

 理学療法士と患者さんとの人間関係づくりは,その後の理学療法の展開を左右する重要な段階であるといえます.そんなことは,皆さん養成校での講義や臨床実習,あるいは研修会などにおいて繰り返し聞いていることと思います.

書評

―天児民和(著)―整形外科を育てた人達

著者: 蒲原宏

ページ範囲:P.294 - P.295

 目をみはるような日進月歩の医科学研究の真っただ中では現在があっという間に過去となってゆく.そのなかで過去をふり返るのは「故ヲ温テ新シキヲ知る,以て師ト為ス可シ」という中国の古典『論語』の箴言とは知っていても,先端医学の研究と両立してその学問の足跡の調査と研究を実践することは言うべくして難しい.それには長い,地味な資料調査が欠かせないが,超多忙な研究者,教育者,臨床医学者として活動しながらそれを実践されたのが,本書の著者,故天児民和先生(1905-1995)その人である.

 その長年の努力の結晶が,134人の整形外科医の伝記と骨折治療の近代史をまとめた570頁からなる『整形外科を育てた人達』の大著である.前者は雑誌「臨床整形外科」で1983年から1994年まで12年間131回の連載に更に3人の小伝を追加し,後者は同誌の1969年から1970年まで5回の連載論文である.著者の逝去直後から出版が熱望されておりながら4年余の歳月が過ぎ去った.

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文献抄録

ページ範囲:P.296 - P.297

編集後記

著者: 安藤徳彦

ページ範囲:P.300 - P.300

 最近の義足のソケット,継手,足部のハードの充実と普及は著しく,各種雑誌でもホームページでも新しい製品が次々と紹介されている.しかしこれら新しい各種部品の選択・組み合わせ,アライメントの取り方,装着訓練になると,情報はまるで欠如している.情報化社会などと言われながら我々治療者にとって最も重要な情報の伝達が遅れているのが実情である.幸いなことに最近になって若手研究者と技術者によって全国規模と各地域別の情報交換会や研究会が開催されている.これは非常に嬉しいことである.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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