icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル34巻5号

2000年05月発行

雑誌目次

特集 認知と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.303 - P.303

 認知障害を狭義にとらえれば失行・失認を伴う患者の理学療法が想像されるが,本企画では覚醒・知的機能・健忘・運動記憶・注意・遂行障害などの要素を含んだ認知と理学療法を広く検証する.理学療法対象者の高齢化などから,何らかの認知障害を有する患者に対する理学療法を積極的に展開する必要があり,この企画が,急性期の多彩な症状,通過症候群,慢性・維持期の外来理学療法など多くの場面,対象への効果的な理学療法への一石となれば幸いである.

認知障害に対する理学療法

著者: 網本和

ページ範囲:P.305 - P.311

 1.認知障害をめぐって

 認知障害の理学療法について,すぐさま明晰な形で想起し得るものはそれほど多くはないであろう.なぜなら,認知障害(cognitive dysfunction)という概念が包含している範囲は,いわゆる失認症状にとどまらず,意識障害,注意障害,記憶障害,知的機能障害,情動障害など極めて広範なものだからである1)

 また,これらの評価と治療に関わる理論的背景としての,実験神経心理学と認知心理学の出会いに相当の時間が費やされたため2)とも考えられる.更に認知リハビリテーションの技法の開発やその成果についての報告が近年多くなされている3-6)にもかかわらず,理学療法の領域では,ごく最近になって注目を集めてきた7,8)ということが背景になっている.

痴呆症患者の日常生活活動の評価と支援

著者: 博野信次

ページ範囲:P.313 - P.320

 1.痴呆とは

 痴呆とは,いったん発達した知能が脳の器質的障害のため慢性持続性に広範に病的に低下した状態である.すなわち,痴呆とは特定の疾患名ではなく臨床的状態像である.

 痴呆の中核症状は知能すなわち認知機能の障害である.認知機能には記憶,見当識,言語,行為,構成,注意,視覚性認知,実行機能,判断,抽象的思考,計算など様々な機能があるが,DSM-Ⅲ-R1)(表1)やICD-102)(表2)などの診断基準に示されるように痴呆の診断にはその複数の障害が必須である.例えば記憶障害のみが存在する状態は痴呆ではなく,健忘症候群であると診断する.

 痴呆の認知機能障害は慢性持続性であることが必要で,意識障害と区別される.しかし,痴呆では譫妄などの意識障害がしばしば合併するため注意を要する.痴呆では意識障害のない時点においても認知機能障害を認めることが診断上必要である.また,以前は痴呆は不可逆性であるとされていたこともあるが,現在は不可逆性は痴呆の必要条件とはされていない.

前頭葉症状を呈する患者の理学療法

著者: 千葉哲也 ,   和田義明

ページ範囲:P.321 - P.327

 1.はじめに

 前頭葉はヒトの脳のなかで最も大きく,全ての大脳皮質のなかでも最高次である.また,前頭葉とくに前頭前野の発達には7~8歳までかかり,ヒトの脳のなかで最も良く発達し,未分化な部位でもある.一般に“前頭葉症状”と称されるものは,この前頭前野の障害によって生じるものを指し,運動野での単純な麻痺などは含まれない.この前頭前野では,左右の機能の違いは症状的に示されているものもあるが,言語中枢のようにはっきりと区別されているものではない.

 前頭前野の損傷により生じる症状はより低次の認知,行為といった障害より様式特異性に乏しく,種々の機能の障害の形式として表現されることが多い.すなわち,概念ないし“セット”の転換の障害(高次の保続),流暢性の障害,ステレオタイプの抑制の障害,複数の情報の組織化障害などとして表現される1)

 また近年,遂行機能という概念が話題になっているが,これは意志,計画の立案,目的ある行動,効果的に行動することをその構成要素とする2).前頭葉症状はこのような遂行機能障害と必ずしも一致したものではないが,オーバーラップするところも多く,認知リハビリテーションの領域で最近しばしば話題になっている.

 実際の疾患では,神経心理学的な狭義の“前頭葉症状”に加えて,Gegenhalten,把握反射といった前頭葉徴候,覚醒・情緒障害,健忘などが組み合わされて出現することから,リハビリテーションの立場からは,臨床上よくみられる症状を念頭に置いてアプローチすることが望まれる.

頭部外傷の認知機能と理学療法

著者: 大谷武司 ,   宮嶋武 ,   三沢孝介 ,   植西一弘 ,   原拓也 ,   鈴木陽子

ページ範囲:P.328 - P.334

 1.はじめに

 頭部外傷(head injury)は,交通事故や高所からの転落などによる,頭部または全身への外部からの強力な打撃によって生じる.この強力な打撃により,脳挫傷,硬膜下血腫等の局所病変やびまん性軸索損傷が発症し,皮質および皮質下に広汎な損傷を与え,身体機能の低下や意識障害,重度の麻痺をきたす.

 更に,骨折,血気胸等の多発外傷の合併,長期臥床による遷延性覚醒障害や沈下性あるいは嚥下性肺炎等が全身状態の悪化を招き,回復を遅延させる.また,慢性的な覚醒レベルの低下は認知障害を重度化させ,行動障害による社会的不適応の原因となる.

 当院では,頭部外傷を負った患者に対し,早期歩行獲得を目的として,覚醒レベルの向上,廃用症候群の予防のために,可及的早期から離床および起立訓練を主体とした理学療法を施行している.しかし,歩行を獲得した症例のなかに,覚醒障害は改善したものの,認知障害が残存した症例がみられた.

 そこで本稿では,前半で頭部外傷の覚醒・認知機能の障害像を中心に,これに関連する記憶障害,運動機能障害の特徴について,文献考察をしながら解説し,後半では,当院で早期理学療法を実施した場合の,①覚醒レベルの経時的変化と早期起座・起立直後の覚醒反応,②覚醒障害とその他の阻害因子が歩行獲得に及ぼす影響,③歩行獲得に要した日数,④歩行獲得症例の退院時のADL自立度に対する覚醒・認知障害等の影響について報告する.

遂行機能障害のリハビリテーション

著者: 鹿島晴雄 ,   加藤元一郎

ページ範囲:P.335 - P.340

 高次脳機能障害の認知リハビリテーション(Cognitive Rehabilitation)ないし神経心理学的リハビリテーションへの関心と需要は急速に高まりつつある.記憶や注意の障害また痴呆に対するリハビリテーションも多くの病院で行われはじめているが,なお試行錯誤の部分があり,今後,検討すべきことは多い.その中でも“遂行機能のリハビリテーション”は最も検討,実践されていない領域である.本稿では,まず遂行機能につき概説し,次いでリハビリテーションに関する報告を紹介したい.

とびら

二足のわらじ

著者: 新居田茂充

ページ範囲:P.301 - P.301

 近年,厚生省主導で推進されている平均在院日数短縮化は,回復期に退院せざるを得なくなる患者さんを増やすだけでなく,消化不良感を抱く理学療法士を増やすことにもならないだろうか.そこで,介護支援専門員(ケアマネジャー)として患者さんの生活に関わってみるのはどうだろう.

 私がケアマネジャー試験を受けたのは,時代の流れに乗って平成10年のことだった.その時点ではまだ実務に就く予定もなく,ペーパーケアマネジャーを務めるつもりだったが,勤務先の事情により理学療法士とケアマネジャーの二足のわらじを履くことになった.まだ歩きだしたばかりだが,自戒を込めて,ケアマネジャーの仕事を改めて考えてみた.

入門講座 クリティカルパス・1

クリティカルパスとは

著者: 阿部俊子

ページ範囲:P.341 - P.345

 Ⅰ.はじめに

 最近,クリティカルパスやクリニカルパスという言葉がかなり聞かれるようになった.看護職や病院経営者を中心に,医師,薬剤師などの専門職の間でも関心が強まっている.クリティカルパスというのは,その導入効果としてのメリットの切り口が多くあるために,やや誤解したり混乱されているようだ.ここではクリティカルパスという名称を用いるが,これはクリニカルパスと基本的に同じもので,グローバルスタンダードとしてはクリニカルパスのほうが広義の意味を持つ.

TREASURE HUNTING

施設リハと在宅リハの連携づくり―高橋 誠氏(片木脳神経外科リハビリテーション部)

著者: 編集室

ページ範囲:P.349 - P.349

 本年3月末までの高橋誠氏の所属は(株)総合リハビリテーションサービス.いわゆる「開業に近い状態」で在宅リハビリ支援に取り組み始めたのが平成4年ということだから,実に8年余にわたって地域に根を下ろした活動を続けてこられたことになる.複数の病院勤務のなかでご自身に正直な仕事に巡り合えずに独立に踏み切ったのに,なぜ今,病院勤務に復帰するのか.高橋氏の問題意識の背景には,8年間の地域リハビリテーションのご経験(試行錯誤といったほうが正確か?)が潜んでいるようだ.

プログレス

リハビリテーション工学最前線

著者: 山本敏泰

ページ範囲:P.350 - P.352

 1.「リハビリテーション工学」とは?

 リハビリテーション工学(Rehabilitation Engineering)という言葉が雑誌や報告書に登場してきたのは1970年代中頃からで,1978年には,北米リハ工学協会(Rehab. Eng. Society of North America;RENSA)の第1回カンファレンスが開催されている.日本においてもその頃,労働福祉事業団労災義肢センター(リハ工学センターの前身)が作られ,義肢等の研究開発が進められていた.当時のリハ工学の大きな目的の1つは,障害者の運動能力を拡大し,代替することであったように思われる.その後,生体・生理工学,バイオメカニズム,ヒューマン・インターフェース,人間工学等の比較的基礎的な分野の研究会活動のなかで,リハに関連する問題が具体的に検討されるようになってく.因みに,日本リハ工学協会が設立されたのは1985年である.

 障害によって失われた能力を改善するための様々な工学的支援の輸はやがて,医療施設,地域社会,教育の場,そして家庭生活へと時間的・空間的な広がりをもつようになり,リハ工学の領域では,訓練機器・システム,自助具,コミュニケーション・エイド,車椅子,姿勢保持装置,自動車,義肢装具と電気刺激,教育関連機器,住宅等の分野で様々な支援技術・サービスが提供されるようになった.一方,1990年代に入ると,我が国では,急激な高齢化の進行に対応すぺく,地方,国レベルで種々の福祉政策を実施するとともに,1993年には工学的な技術支援に関する福祉用具法が施行され,福祉機器開発が推進されるようになった.

講座 臨床にいかす動作分析・5

神経系障害における動作分析

著者: 松田淳子 ,   吉尾雅春

ページ範囲:P.353 - P.360

はじめに

 中枢神経疾患をはじめとする神経系疾患による障害は,随意運動障害,姿勢反応障害,異常筋緊張,失調症,感覚障害,高次神経機能障害など,多彩な障害を呈する.加えて,個々の症例の生活習慣や年齢,発症からの期間により,体力や合併症状も異なる.神経系障害の範疇だけには止まらないこれらの障害があいまって,姿勢調節,動作遂行の障害を呈する神経系疾患症例の評価は,定量的な評価だけでは理学療法に結びつけていく情報は得にくく,動作分析が欠かせない評価項目になっている.

 しかし,多彩な障害像を呈するだけに,動作分析は個々の理学療法士の知識,考え方,価値観あるいは環境などに影響されやすい.実施にあたって,できる限り客観的な事実に基づいた偏りのない評価をしたい.

 ここでは動作分析を進めるための手続きと課題について述べる.

1ページ講座 診療記録・5

外来・在宅訪問患者の診療記録と情報交換

著者: 中村一平

ページ範囲:P.361 - P.361

 1)はじめに(社会的背景を踏まえて)

 カルテ開示をめぐる論議が盛んななか,各医療機関ではインフォームドコンセントへの取り組みが活発化している.当然,説明する側としては治療計画や経過記録を綿密に作成・整理しておくことが求められる.今回は,ややもすれば不備になりがちな,外来および在宅訪問患者の診療記録等について,筆者の考えと方法を紹介する.

新人理学療法士へのメッセージ

真摯な気持ちで

著者: 後閑浩之

ページ範囲:P.362 - P.363

 新人理学療法士の皆さんおめでとうございます.おそらく,この原稿を皆さんが読まれる頃には,職場や進学先にも少し慣れて周りを見る余裕が出てきていることと思います.仕事はどうですか?自信満々にやっていられる方もいらっしゃるのでしょうが,学生生活との違いや臨床の場面でのとまどいを感じていらっしゃる方もいるのではないかと思います.

 皆さんはどうして理学療法士になったのですか.私は大した理由もなくただ何となく学校に入ったというのが本当のところです.こんな私が,長い間理学療法士をやっているのはなぜなのだろうとふと考えますが,おそらく,やればやるほど解らないことが出てきて,勉強をしてもしても足らないような気がしてやめるにやめられない状態になって今日に至ったような気がします.

悩みながらすすめ!

著者: 目黒力

ページ範囲:P.364 - P.366

 まずは国家試験本当にお疲れさまでした.私も学校に勤めていると,学生と常に接し自分の10年前,国家試験勉強に没頭した?PTの学生時代を昨日のことのように思い出します.今回そんな時代を振り返る機会を与えられましたので,思うままに書いてみたいと思います.

書評

―今川忠男(著)―発達障害児の新しい療育―こどもと家族とその未来のために

著者: 西脇美佐子

ページ範囲:P.311 - P.311

 著者は1973年から小児理学療法士として働いてきた.最初の21年は肢体不自由児施設で,その後,重症心身障害児施設・旭川児童院に移って6年,最近では倉敷中央病院NICUの子どもたちの早期療育にもかかわり,まさに障害を持って生まれてきて,障害を持ちながら人生を歩み,障害を持ったまま亡くなっていく人たちの生涯を見てきた.その著者の最大の関心事は子どもの持っ障害ではなく,障害を持った子どもであり,彼らの自立を援助することである.彼らの自立を援助するために,「彼らが抱えている問題を解決するにはどうしたらよいのだろうか」がいつも著者の出発点である.その解決法を求めて試行錯誤を繰り返し,その卓越した語学力をもって文献をむさぼる.解決の糸口になると思えば世界にも出向いていく.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.368 - P.369

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.372 - P.372

 本号がお手元に届く頃には鹿児島学会の最終準備に余念がないものと思われます.

 本特集「認知と理学療法」の企画意図は,認知障害と理学療法との関係が,一部の興味を持つセラピストによる失行・失認の評価とイコールではないこと,理学療法とって認知障害に対する積極的な介入(内的構造の吟味と時系列を重視した治療・指導的接近)が極めて重要であることを検証することでした.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?