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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル34巻7号

2000年07月発行

雑誌目次

特集 福祉機器の適用基準

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.449 - P.449

 人類は石務時代から種々の道具を造り生活の一部としてきた例え,健常者であれ,障害者であれ,もはや道具無しには生活できない動物である.

 いわゆる「福祉機器」とは,患者・障害者のADLを高め,社会参加を拡大する一助として活用する機器である.この中には,介護機器を含むものもあるが,それらも総称して福祉機器と呼ばれている.当然ながら,福祉機器の活用は介護者を含む対象者の個々のニーズに的確に対応したものでなくてはならない.そのためには,福祉機器の適用基準を十分に考慮し,対象者の活動・社会参加に役立つものを提供することが求められる.

福祉用具の現状と適用技術

著者: 筒井澄栄 ,   香川幸次郎

ページ範囲:P.451 - P.456

 1.はじめに

 近年,医療技術の進歩により救命率が向上し,後遺症としての障害を随伴する人々や高齢障害者が急増する傾向にある.それらの人々は障害があっても,住み慣れた地域社会のなかでの在宅生活を希望することが多くなっている.このような状況のなかで,障害者や高齢者の日常生活を支援する福祉用具が数多く開発されている.福祉用具は障害をもつ人々の在宅生活を可能にし,その継続をもたらすものとして期待されている.国や都道府県は,「身体機能の維持」や「自立の促進」を促すものとして福祉用具を位置づけ,その給付内容や給付事業の拡大を図ってきている.

 福祉用具は,従来の身体の構造や機能を補うといった目的にとどまらず,在宅での自立生活の維持や生活の質(QOL)にも影響を与えるものと位置づけられ,開発や給付が行われている.その反面,福祉用具を導入したものの,使い勝手が悪い,役に立たないといった理由で使用を中止したという報告も数多くみられる.

 福祉用具には,住環境そのものに手を加えなければ使用できない大掛かりなものから,多少の工夫で十分な効果が得られるものまで多種多様なものがある.身体機能を代替・補完する機能のみならず,介護負担の軽減に寄与するものとして大きな期待が寄せられている.同居世帯の減少,女性の就労の増加等があいまって,これまで在宅介護を担っていた家族の介護力は低下し,それと連動する形で福祉用具に対する需要は急速に拡大している.

 そのような状況のもとで,利用者のニーズに即した福祉用具の活用システムを開発し,利用者や家族の生活支援に有効に機能する用具として明確に位置づけることがますます重要になっている.そこで本論では,福祉用具の基本的な考え方や問題点を整理し,利用者の立場に立った効果的な導入方法について私見を述べることとする.

歩行補助具の適用基準

著者: 吉村茂和 ,   相馬正之

ページ範囲:P.457 - P.467

 1.はじめに

 人類は,立位・二足歩行(以下,歩行)を獲得したことにより,自由となった上肢を用いて生存に優位な道具を使うことができたのか,それとも上肢で道具を使用するようになったため立位・歩行が強要されたのか.どちらが先かは定かではないが,これらの機能や能力は人類の特徴の1つとなっている.

 歩行は片側の下肢で体重を支持している間に他方の下肢を振り出して移動する二拍子の連続した動作である.歩行を可能とするためには,体重を支持する脚の存在,下肢関節の可動性,適度な下肢筋力および平衡機能など基本的な機能が要求される.しかも,立位・歩行となったため,身体の重心位置が高くなると同時に,支持基底面が狭小化し,動作によっては重心移動範囲が支持基底面を超えることもある.このような転倒の引き金にもなりうる不安定な姿勢を調整するために,複雑な動的姿勢制御機能も要求されている.

 歩行に必要とされる機能や複雑な機構などに僅かでも異常が生じた場合,歩行障害が引き起こされる.歩行障害が存在しているにもかかわらず,上肢で杖などを使用することによってどうにか歩行ができれば,歩行を望むのは珍しいことではない.このように,自由となった上肢をあえて犠牲にしてまで歩行による移動手段を獲得することは,個人にとって日常生活の全ての面で重要であるばかりか,理学療法を含めたリハビリテーション部門の重要な目標の1つとなっている.

 理学療法の臨床場面では,歩行障害のある患者に対して,歩行に必要な基本的な機能や複雑な機構を維持・強化するような治療が行われる.平行棒内外において立位保持,立ち上がり,一側下肢への体重負荷および歩行練習などが開始され,一時的な歩行練習の過程,あるいは永続的な歩行補助手段として杖などの歩行補助具を使用することになる.しかし,歩行の補助手段として歩行補助具が単独で使用されることは少なく,多くの場合,下肢の義肢装具と併用されている.

 歩行補助具の明確な定義はないが,歩行障害のある者が歩行を確保する目的で身体の一部(多くは上肢)を歩行補助のために使用し,移動の際に身体の一部のごとくに身体と共に移動する自立支援型の道具(用具)と解釈できる.この解釈からすれば,歩行補助具には杖類,クラッチ類,歩行器(車)類などが含まれ,本稿でもこれらを歩行補助具として扱うことにする.手すり,平行棒なども非常に安全な歩行補助具といえるが,設置場所における歩行に限定され,身体と共に移動する自立支援型の道具という観点からすると,一部要件に欠けるため,歩行補助具には含めないことにする.また,健常者がファッション感覚で使用するステッキ(杖)類,視覚障害者が杖先で歩行路の安全を確認する盲人安全杖も歩行補助具には含めない.

 本稿では,歩行補助具の分類と機能,歩行補助具と疾患(障害),歩行補助具使用に必要な条件などについて述べる.

車いすの適用基準

著者: 小嶋功

ページ範囲:P.468 - P.476

 1.はじめに

 福祉用具全般に関してその適用を考える時に留意しておかなければならない事項としては,①使用者自身の自立や生活拡大に結びつくもの,②介護者の介護量軽減を図れること,③様々な生活環境場面や住宅構造に応じた使用形態に対応できること,などがあげられる.

 とりわけ車いすに求められる機能的要素としては,使用者の座位保持能力や移動(移乗)能力,更に住宅構造や生活機器と福祉用具機器関連,職業,余暇などとの使用形態に基づいた適切な選択が求められる.理学療法士は,ベッド上での端座位姿勢が保持できるようになると,座位保持はADL自立への基点と捉え,移動・食事・排泄・整容の早期自立はもとより,精神的活動,全身機能の改善や廃用症候群の予防などを目的に,車いす座位保持姿勢や操作指導を日常的に行っている.

 市販されている各種車いすを個々の身体的・生活環境的な条件からの適用を図るためには,車いすの特性ならびに給付形態,使用側からみた車いす適用について熟知しておくことが肝要である.本稿では,車いすの適用基準を考える際に必要な事項について概説してみたい.

介護用ベッドの適用基準

著者: 丸田和夫

ページ範囲:P.477 - P.483

 1.はじめに

 介護用ベッドには様々な機能が求められてきているが,安易にそこを生活の場としてはならないと考えている.ベッドは本来寝るための道具であり,介護の容易さだけを考えてベッドを選択することは避けるべきであろう.寝具としてのベッドには,利用者本人の寝心地と起居動作の容易性という重要な役割がある.介護用ベッドを選択適合する際には,「人にやさしい」寝具として,ベッド本来の機能を正しく理解して検討してほしい.

 そこで,本稿では人間生活工学を基にした理学療法学の視点から介護用ベッドの適用基準について筆者の考えを述べてみたい.

トイレ関連福祉機器の適用基準

著者: 藤井智 ,   渡邉慎一

ページ範囲:P.484 - P.491

 1.はじめに

 排泄は人として必要不可欠な行為で,他の身の回り動作と比較しても実施頻度が高いため,介護負担の大きい行為である.排泄機能障害や運動機能障害によりトイレでの排泄が困難になり,やむを得ずおむつやポータブルトイレを利用していることも多いが,適切な福祉機器の利用や環境整備によってトイレでの排泄が可能になることも少なくない1)

 本稿では,我々の在宅サービスの経験をもとに,便器へのアプローチ,便器での座位姿勢,排泄後の清拭などの場面で活用される福祉機器とその適用について,トイレ以外での排泄方法や一般の設備機器も一部含めて記述する.なお,カテーテルやストマ用品,おむつなどについては他書を参照されたい.

とびら

多趣味でありたい

著者: 前田眞一

ページ範囲:P.447 - P.447

 人間は少なくとも1つや2つは趣味を持っているのが一般的でしょう.また,無趣味という人は数少ないであろうと思われます.なぜなら,趣味には多種多様のとらえ方があると考えられるからです.それでは趣味とは何か?「広辞苑」によると,①感興をさそう状態.おもむき.あじわい.②ものごとのあじわいを感じとる力.美的な感覚のもち方.このみ.③専門家としてではなく,楽しみとしてする事柄.と記載されています.

 そこで私は,趣味を大きく三種類に分けることができると考えています.1)動的なもの(健康増進のための各種身体運動など),2)静的なもの(芸術などの創作・鑑賞,読書,囲碁・将棋・マージャン・オセロなど),3)実益を兼ね備えたもの(ギャンブル性を除く,その他諸々),などです.私の場合は実益を兼ねたものが主流といえます.

プログレス

パソコンによるリハビリ業務支援システム

著者: 弓岡光徳

ページ範囲:P.492 - P.493

 Ⅰ.はじめに

 この「プログレス」欄は,医学・医療の新しい知見や動向を解説するページということらしいのですが,ここでは,いかに,素人がパソコン相手にリハビリ業務支援ソフト作りに奮戦したか,ということをお伝えしたいと思います.

1ページ講座 診療記録・7

業務集計 その2

著者: 荒木茂

ページ範囲:P.494 - P.494

 1)はじめに

 今回は,業務集計をどのように活用するかについて述べてみたい.いくらデータを蓄積しても,何らかの形にまとめないと他者に情報として伝えることができない.また,データをいろいろな角度から扱えるような形式で蓄積しないと活用の範囲が広がらない.データ群のなかからいろいろな帳票が出力できることが望ましい.筆者の施設では専用のソフトを使って日報などの集計を行っている.どこの施設でも必要とされる業務集計は共通していると思われるが,統一した規格は今のところなく,それぞれの施設で工夫して行われている.

TREASURE HUNTING

地域のリハビリ発進基地をめざして―尾崎和洋氏(社会福祉法人聖風会千種川リハビリテーションセンター)

著者: 編集室

ページ範囲:P.495 - P.495

 「縁は異なもの,味なもの」という格言は,男女の仲だけでなく人と職業との間にも当てはまりそうだ.尾崎和洋氏が理学療法士をめざして高知医療学院に入学したのは37歳,それまでは13年間,兵庫県の中学校で体育教師を務めていた.それが何故,理学療法士に?志望のきっかけが何とも面白いのである.

 「公立病院に理学療法士が欲しいんだ.君は体育をしているのだから,リハビリのことはわかるだろう,やってみないか」とある日,町長から声を掛けられた.理学療法士の何たるかも知らないまま,大学病院の先生を紹介されて話を聞くと,これがまた何ともやり甲斐のある仕事,すっかりその気になってしまったそうだ.いつも困った時に行く「お寺」に出掛けて相談,「人助けだからやりなさい,学校にも合格しますよ」とのご託宣.奥さんからも「あんたが本気なら借金してでも行かしたる」と激励されたそうだ,町長も町長だな,という気がしないでもないが,奥さんの剛毅にもなかなかどうして感心させられたものだ.

あんてな

スポーツ理学療法の現在

著者: 片寄正樹

ページ範囲:P.496 - P.497

 筆者がスポーツ医科学と関わりだしたのは15年前になる,膝前十字靱帯損傷再建術後の高校スキー選手との出合いであった.競技へ復帰したい一心でひたむきに努力する患者の日々の姿をみながら,スポーツ医科学の世界に足を踏み入れた.自分が提供できるプロフェッショナルサービスを追求するプロセスであった.この15年の月日で,理学療法士のスポーツ医科学領域での立場は大きく変容したように思う.冬季スポーツにおけるナショナルチームレベルの医学サポート体制においては理学療法士の関与がないケースを探すのが難しいほどである.ナショナルレベル,冬季スポーツに限ることなく,全国的に理学療法士によるスポーツ医科学領域での様々な活躍が始まっているのは周知のとおりであり,今後ますます広がりをみせていくものと考えられる.

 筆者は昨年春までの約2年半カナダアルバータ大学リハビリテーション医学部に留学する機会を得て,カナダにおけるスポーツ理学療法学の教育,臨床,研究を体験し,そのシステムを検討する時間を得ることができた.カナダは米国の隣国であること,そして旧英国領であることから,米国,英国,オーストラリアでトレーニングを受けた理学療法士も少なくはなく,少々大袈裟にいえば世界各地のスポーツ理学療法に関する情報交換ができた.この経験は,日本のスポーツ理学療法の現状におりる流れを客観的に振り返り,日加格差,および日本と先進諸国との格差を認識し,その国際トレンドを眺める良い機会になった.

入門講座 クリティカルパス・3

実践例・1 心筋梗塞のクリティカルパス

著者: 山口悦子

ページ範囲:P.499 - P.507

 1.はじめに

 当院は循環器の専門病院であり,開院当初から常に循環器専門看護婦を育成する制度を構築する努力をしてきた,当院で取り組んでいるクリティカルパスは,DRGs/PPS導入を見越したものではない.看護の質を維持し,また向上させるにはどうしたらよいかといった看護業務の改善に取り組んできた経緯から必然的にクリティカルパスを導入するに至った.

講座 運動発達障害・1

運動発達とその障害―医学的視点から

著者: 北原佶

ページ範囲:P.509 - P.515

はじめに

 運動発達については,いろいろな立場からの分析,解釈が可能である.多くの文献は,乳幼児期からの運動行動の変化を記載するなかで,運動発達の特徴を検討している.姿勢反射・反応の推移や姿勢保持機能の成熟,それらの背景となる中枢神経系の成熟については,既に多くの文献がある.また,運動発達障害の診断についても多くの教科書があるので,本稿では簡単に触れることにする.

 本稿では,まず運動発達を捉えるうえでの「運動」と「発達」について記する.つぎに移動運動を例に運動発達の特徴を抽出する.また運動発達の機序を説明する1つとして,運動パターンの出現・消退を例に動的システム理論を検討する.そして最後に,運動発達障害の特徴とそれへの治療方法を述べることにする.

資料

第35回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2000年3月3日実施) 模範解答と解説・Ⅰ―理学療法(1)

著者: 高橋正明 ,   沼田憲治 ,   関屋曻 ,   宮川哲夫 ,   福井勉 ,   柳澤美保子 ,   金承革

ページ範囲:P.517 - P.525

ひろば

無視できない虫ゴム知識

著者: 北薗真治

ページ範囲:P.498 - P.498

 1昨年,地方新聞の一面に,老人ホームの入所者が車椅子のプレーキ故障により転倒して死亡,遺族が市当局に抗議したという内容の記事を目にした.

 車椅子のブレーキ故障は,医療・介護の現場でよく見かけるが,整備ができる人物は意外と少ない.新聞報道の事故も,整備方法を知らない,行えないために放置された結果という可能性は否めない.

書評

―鹿島晴雄/加藤元一郎/本田哲三(著)―認知リハビリテーション

著者: 岩田誠

ページ範囲:P.507 - P.507

 認知リハビリテーションという言葉は,最近になって用いはじめられてきた新しい言葉である.高次大脳機能障害に対するリハビリテーションのうち,失語症のリハビリテーションだけはある程度体系化され,方法論的にもしっかりした基盤の上に築かれていたが,失行,失認,注意障害,健忘などのその他の高次大脳機能障害に対するリハビリテーションについては,散発的な工夫は多々あったものの,ハッキリと体系化された方法論は提唱されてこなかった.

 しかし,著者らが本書の中で紹介しているごとく,近年様々な疾患によって生じた高次大脳機能障害のリハビリテーションの需要が高まるにつれて,その方法論に対する科学的なアプローチが必要となり,その結果生まれてきた知識体系が認知リハビリテーションという言葉で呼ばれる分野である.

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文献抄録

ページ範囲:P.526 - P.527

編集後記

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.530 - P.530

 今月の特集は「福祉機器の適用基準」である.

 理学療法・リハビリテーション医療・介護保険の領域において,患者・障害者・要介護者などのADLを高め,社会参加を拡大する一助として福祉機器を効率的に活用することは重要なことである.そのためには,対象者の個々のニーズを的確に把握して,それに準じた福祉機器を提供する必要がある.なかでも,高価な福祉機器が提供されても,十分に利用されずに埃りを被ったまま放置されていることがあるが,経済性という面からみればたいへん無駄なことであり,専門家として恥ずべきことである.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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