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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル34巻8号

2000年08月発行

雑誌目次

特集 訪問リハビリテーションの実際

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.533 - P.533

 医療保険制度の変革,介護保険導入の中にあって,比較的短期間で病院におけるリハビリテーションを終了して在宅リハビリテーションへと展開していく方策が求められている.それを受けた訪問リハビリテーションでは,効率的で質の高いサービスを開発する必要がある実際には,対象者への関わり方は訪問側の形態や都合などで様々であり,チームアプローチの内容にも自ずと格差がみられることになる在宅ケアセンターと診療所の実践を通して,訪問リハビリテーションの問題点と実際の進め方を紹介する.また,訪問理学療法の適応を明確にし,地域ケアにおける理学療法士の果たすべき役割を解説する.今,病院におけるリハビリテーションも在宅リハビリテーションも変革せざるを得なくなっている.

在宅ケアセンターと訪問リハビリテーション

著者: 佐藤健三 ,   石川誠

ページ範囲:P.535 - P.540

 1.はじめに

 近年,疾病構造や社会構造の変化を背景に,我が国の保健・医療・福祉は変革の一途をたどっている1).そして高齢障害者に対するケアは,医療保険制度の大幅な改革と,公的介護保険制度をはじめとする医療費抑制政策にノーマライゼーションの思想が加わることで,施設収容主義を見直そうという気運が高まっている.更に,在院日数の短縮に伴って在宅ケアへの移行が急速に推進されるなか,リハビリテーション(リハ)前置主義の下,回復期リハ病床群制度が新設されたことは注目に値する2)(図1).

 しかし現状では,急性期・回復期・維持期リハの各ステージが混在した形でリハサービスが提供されているため,特に病院から在宅へ移行する際のソフトランディングが困難で,自宅に閉じこもり,寝たきりの生活となってしまう傾向がまだまだ強いのが実態である.

 本稿では,このような現状を克服するために医療法人近森会が取り組んでいる活動内容を紹介することにしたい.

診療所における訪問リハビリテーション

著者: 平山隆喜

ページ範囲:P.541 - P.547

 1.診療所のあゆみ

 「あいち診療所野並」は在宅医療を行う目的で,無床診療所として1990年7月に開設された.当初は医師と看護婦の2人だけで訪問診療や訪問看護を行っていたが,1年後の1991年7月より筆者が加わって,訪問リハビリテーション(似下,訪問リハ)が始まった.その後,作業療法士,言語聴覚士が参加して,現在,在宅患者79名のうち8割近くの対象者に訪問リハを行っている.

 在宅医療の質の向上を追求していくなかで,1993年10月には,利用者の要望に応えて,デイケア,ショートステイ機能を備えた現在の診療所が完成した(図1).

訪問理学療法の適応

著者: 備酒伸彦

ページ範囲:P.549 - P.554

 1.はじめに

 どのような機関・施設であっても,あるいは在宅であっても理学療法の本質に変わりはないと思う.ただ,それぞれの領域によって,考え方や発揮すべき技術には大きな相違がある.その意味で,今回,本誌編集室から与えられた「適応」というテーマは的を得たものであると思う.

 さて,在宅において理学療法をうまく適応するためには,他の領域,特に医療機関とはどのような違いがあるのだろうか.今回は地域ケアという観点も含めて考えていきたい.

とびら

『自分の時間』

著者: 澤田三津子

ページ範囲:P.531 - P.531

 札幌に住んで17年.上の2人の子供は本州(こちらでは内地と言います)で生まれましたが,道産子で高3の次女は「札幌大好き!」と気に入っているようです.有珠山の噴火が長期化し,鎮静化には向かっているものの自然の驚異を目の当たりにしました.

 そんな中,最近「ストレイト・ストーリー」という映画を観ました.小さなトラクターに乗って,絶縁状態にあった兄に会うため老人が数日間かけて旅をするというお話です.とてもシンプルなストーリーの映画ですが,旅先で出会う人々との心の触れ合いが素晴らしく,観終わってからも幸せな優しい気分になりました.時間がゆっくり流れていて,もっとゆっくり一歩一歩『時間』を大事にしたいと思いました.

入門講座 クリティカルパス・4

実践例・2 脳血管障害のクリティカルパス

著者: 河崎靖範 ,   槌田義美 ,   古閑博明

ページ範囲:P.555 - P.561

 Ⅰ.はじめに

 リハビリテーション(以下リハ)分野において,整形外科疾患,心筋梗塞については,治療期間を考慮したプログラムが既に報告されている.しかし,脳血管障害(以下CVA)については,機能回復に個人差があるうえ,高次脳機能障害などの合併症や,社会的背景などの問題もあり,期日を考慮したプログラムはほとんど確立されていないのが現状である.

 当院の理学療法科では,平成9年4月から,過去5年間のCVA患者のADL,入院期間等を分析し,CVA患者のリハプログラムのマニュアルを作成した.そのマニュアルを1年間運用し,それを基にクリティカルパスへと発展させた.

 このクリティカルパスは下肢の運動機能についてBrunnstrom Stage(以下Stage)別に6段階に分類したものである.このパスを平成10年4月から12年2月までの約2年間使用し,その効果と問題点を検討した.本稿ではその検討結果を報告する.

 なお,平成12年3月からは,このStageをADLの獲得レベルに応じて7段階に分類したものを作成し使用している.このクリティカルパスについては本文後半で紹介する.

講座 運動発達障害・2

運動発達とその障害―教育学的視点から

著者: 中原凱文

ページ範囲:P.563 - P.568

 「今日の子供達は,体格は立派であるが,体力がない」と評されることが多く聞かれる.これは「身体の発育と発達のバランスの悪い状態」,または「形態と機能のバランスが悪い」ということができる.運動においても,「運動を行おうとする意図(目的)→命令系統→発現された行動→その結果(修正)」等が,バランス良く流れないと上手くできない.「発育」は時間経過に伴った形態的,構造的な変化を表し,「発達」は時間経過に伴った機能的変化を表すものである.子供の発育・発達は,生活環境,生活習慣,栄養学的状況,遺伝,種族等の多くの条件が相乗作用するため,本稿における「運動発達」の年齢を,WHOによる人間のライフサイクル1)(図1)の幼児期から青年期の範囲で述べることとする.

紹介

高齢者の入院後に生じるせん妄について

著者: 苫野稔 ,   黒住健人 ,   寺尾和也 ,   崎山保 ,   芳賀峰子 ,   志茂亜希子 ,   神野泰

ページ範囲:P.569 - P.571

はじめに

 急速な人口の高齢化に伴い,入院患者に高齢者が占める割合も増加しており,65歳以上の高齢者の整形疾患に対しても手術療法を施行する例が多くなっている.

 それに伴って,入院前には精神機能に問題のなかった高齢者が,入院・手術を機に短期間のうちに進展する一過性の見当識・記銘力障害1)などのせん妄様症状(以下せん妄)が生じ,安静が保てず問題となる例が増加している.

 本研究の目的は,受傷前の能力や入院後の環境変化がせん妄発生に及ぼす影響について検討することである.

雑誌レビュー

“Physical Therapy”1999年版まとめ

著者: 石井慎一郎 ,   石嶺友恵

ページ範囲:P.572 - P.578

はじめに

 1999年版“Physical Therapy”(vol.79)のまとめを報告する.全12冊にResearch Report39編,Case Report8編,Professional Perspective5編,Up date7編,Technical Report2編が掲載されている.

 各号に掲載されているResearch Reportについて,その要旨を簡単に紹介する.また,Research Reportの各論文の参考文献をあたり,引用論文の傾向について調査した.

TREASURE HUNTING

異文化体験をべースに広がる夢―小林義文氏(福井県立病院リハビリテーション室)

著者: 編集室

ページ範囲:P.579 - P.579

 今月ご登場いただいた小林義文氏が,地域での難病患者支援活動や国際協力分野で幅広く活躍されていることは,多くの読者がご存じのことと思う.とりわけ開発途上国を中心に展開されているCBR(地域基盤型リハビリテーション;Community Based Rahabilitation)活動には,尽きることのない夢を持ち続けておられるようだ.海外青年協力隊員として得た,マレーシア・サバ州での多くの人々との出会いと異文化体験が氏の「ものの見方」に幅を持たせているという感じなのだ.

プログレス

重度障害者スポーツ―最近の動向

著者: 増田和茂

ページ範囲:P.580 - P.581

 1.はじめに

 今年はパラリンピックの年であり,2年前開催された長野パラリンピックが記憶に新しい.そして,リハビリスポーツから競技スポーツの存在が強調され,多くのメディアを通じて多くの人々が感動し,障害者スポーツのイメージを大きく変えた.そのスポーツは市民スポーツの仲間入りをも意味し,皆のスポーツへ波及する契機となりうることも認識された.それらの状況のなかで,パラリンピック出場を目標とする重度障害アスリートはまだ少ないが,重度障害者スポーツの大会や講習会は数多く実施され,その競技数,参加者数は確実に増えており,活動は充実の方向にある.

 重度障害者の定義は臨床や社会的スケールによって違いがあるが,これまでスポーツ参加が困難であった頸髄損傷,脳性麻痺,脳卒中などを中心に,重度障害者スポーツの最近の動向を紹介する.

Q & A

理学療法アシスタント(助手)の業務内容について

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.582 - P.582

 Q 無資格者はアシスタントとしてどの程度理学療法に関わることができますか.法的側面も含めて教えてください.当院では物理療法のみに関わってもらっています.(F生/奈良県)

 A ご存じのように,理学療法士及び作業療法士法によって理学療法士は名称を独占していますが,理学療法行為は業務独占ではありません.つまり,理学療法は誰が行ってもよいということになります.一般の人々も,打撲をすれば氷で冷やしたり,手でさすったりしますが,これらも理学療法になります.このような日常的な理学療法までも制限することはできません.更に,理学療法士誕生までの経緯もあって,我が国の病院などにおける理学療法も,医師の指示さえあれば,医療従事者の誰が行ってもよいことになっています.

資料

第35回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2000年3月3日実施) 模範解答と解説・Ⅱ―理学療法(2)

著者: 高橋正明 ,   沼田憲治 ,   関屋曻 ,   宮川哲夫 ,   福井勉 ,   柳澤美保子 ,   金承革

ページ範囲:P.583 - P.588

1ページ講座 診療記録・8

診療記録と情報開示

著者: 渡辺京子

ページ範囲:P.589 - P.589

 2000年問題では,我々がいかにコンピュータに依存しているか認識させられた.医療の世界でも,臓器移植や医療過誤事件が相次ぐなか,患者の知る権利,カルテ開示をめぐる議論が盛んに行われている.医師と患者のコミュニケーションのあり方としてインフォームドコンセントが重要視されているのも,その反映といってよいだろう.

あんてな

WHO国際障害分類改定について(お知らせ)

著者: 上田敏 ,   佐藤久夫 ,   大川弥生

ページ範囲:P.590 - P.591

 I.はじめに

 障害者(障害児を含む)のQOL(人生の質)向上をめざして障害分野の諸問題にいかに対処するかは現代社会の大きな課題である.これは特に少子高齢化社会を迎え「健康で活力ある長寿社会」を建設する努力のなかでますます大きな問題となっている.その点で世界保健機関(WHO)が1980年に制定し,現在改定作業中の「WHO国際障害分類」が大きな示唆を与えるものと考えられる.

初めての学会発表

今後につないでいきたい学会発表体験

著者: 石田水里

ページ範囲:P.592 - P.593

 平成12年5月19・20日の2日間にわたり,鹿児島市を会場に第35回日本理学療法士学会が開催されました.

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文献抄録

ページ範囲:P.594 - P.595

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.598 - P.598

 三宅島や神津島ではまだしばらくマグマの影響が残りそうですが,北海道の有珠山ではやっと終息の見通しが立ってきました.修学旅行生も洞爺湖に帰ってきたようです.風光明媚な洞爺湖地域は国内だけでなく,近年では多くの外国の方々にも旅の思い出を残してくれています.信じられないようなSNOWブランドの転落で,イメージも産業も最悪の状態ですが,自然が一番の資源である北海道です.昭和新山がそうであったように,有珠山の噴火が転じて,地域の方々に恵みのものとなることを期待したいと思います.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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