文献詳細
文献概要
特集 早期理学療法―そのリスクと効果
早期理学療法―関節可動域へのアプローチ
著者: 瀧昌也12 内田成男1
所属機関: 1日下病院リハビリテーション科 2慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンター
ページ範囲:P.610 - P.617
文献購入ページに移動関節可動域障害は,骨関節疾患,脳卒中,脊髄損傷および神経筋疾患などのリハビリテーションのなかで最もよくみられる機能障害の1つである.この機能障害は,長期臥床や術後の長期固定など関節の不動により出現し,比較的早期に形成される.また,理学療法における日常生活活動をめぐるトレーニングや歩行練習を妨げる要因となり,これらの自立を阻害する因子ともなりかねない.
一方,急性期における過度な関節可動域運動(以下,ROMex)は過用・誤用症候を引き起こし,治療の遅れ,更には入院期間の延長ということにもなりやすい.例えば,慢性関節リウマチのような寛解と増悪を周期的に繰り返す炎症性疾患に対する積極的なROMexは腫脹や痛みを増悪させ,炎症の軽減を妨げることがある1).また,脳卒中片麻痺などの完全麻痺肢は筋緊張が低下して関節が不安定な状態にあり,過度なROMexは直接的に靱帯や関節包に機械的なストレスを加えることになる.したがって,このような場合に行うROMexは,関節周囲の軟部組織に容易に断裂,内出血をきたし,痛みを誘発する危険性が内在している.
上田ら3)は,廃用症候群を含む機能障害が重度なほど,また基礎疾患が重度なほど過用・誤用症候群が生じやすく,それを知っていれば「スパルタ的」なトレーニングなどは絶対に行えるものではないと述べ,理学療法士はこれらの障害を予防するためにも,可及的早期にROMexを開始することが良いとしている.
このように,ROMexを始めとする急性期理学療法の必要性は以前から指摘されているが,反面でリスクが大きいのも事実である.そこで本稿では,関節可動域を制限する諸問題について基礎知識を整理し,理学療法士が早期にROMexを実施する際のリスクと効果を中心に述べることとする.
掲載誌情報