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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル35巻10号

2001年10月発行

雑誌目次

特集 リスクマネジメント

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.687 - P.687

 チーム医療で業務と責任が分担され,これが重大な事故の一要因になっていること,カルテ開示やインフォームドコンセント,自己決定権といった患者の権利意識と知識が向上し,医療訴訟のみならずquality assuranceを高める要請が強いことなどを背景に,医療現場でもリスクマネジメントの制度化が急務となっている.すでに米国では確立された分野であって,学ぶべきものは極めて多いが,危機管理に疎いわが国では,まずは意識改革が優先されなくてはならない.理学療法もこれを避けて通ることは許されず,本特集はその状況を総合的に知ってもらうという教育的目的を第一に企画した.

「医療におけるリスクマネジメント」とは何か

著者: 鮎澤純子

ページ範囲:P.689 - P.696

はじめに

 「さて今,日本の医療の現場で,事故防止に焦点を当てたリスクマネジメントという取り組みが進んでいることをご存じでしょうか?」……という少々失礼な書き出しで始めさせていただくのは,医療の現場の事故防止やリスクマネジメントの取り組みのなかで,理学療法の領域に携わる皆さんの参加が今ひとつ見えてこない気がするからなのです.だからこそ,医師でもなく,看護職でもなく,薬剤師でもなく,理学療法の領域の皆さんに読んでいただける本誌でのこの特集を大変嬉しく思っています.

 本稿を始めるに当たり,お願いが3つあります.

 お願い1:「理学療法の領域の事故防止にしっかり取り組んで下さい.」

 理学療法の領域には理学療法の領域独自の視点からの事故防止のノウハウが必要です.また,その領域と実践の場が今どんどん広がっていることを心して下さい.例えば,実践の場を地域リハビリテーションへ,そして病院といった医療機関から福祉施設へ,そして在宅へと広げているのであれば,その新しい領域,新しい実践の場での事故防止に注意していただきたいのです.

 お願い2:「リスクマネジメントにもしっかり取り組んで下さい.」

 事故防止はもちろんですが,事故発生時の対応,またその後の紛争・訴訟の防止と対応も大変重要です.「それでも事故は起きる」のであれば,なおさら,その後のことについてもしっかり取り組む必要があるはずです.

 お願い3:「そして理学療法の領域にとどまらず,それぞれの病院や施設で起きている医療事故の防止やリスクマネジメントに是非参加して下さい.」

 「うちの組織でも何かやっているみたいだけれど……」なんて醒めていないで下さい.理学療法の領域のノウハウには医療事故の防止に参考になるものがたくさんあるはずなのです.特に転倒・転落については,理学療法の領域の経験を是非病院全体に活かしていただきたいと思うのです.そして,理学療法の領域からの新鮮な視点で,事故防止に向けて,環境やシステムの見直し,組織の見直しに参加していただきたいのです.

 お願い1,お願い2に関わる「理学療法の領域」の視点からの報告が本稿のあとに続きます.何より貴重な教育現場,そして実践の現場からの報告の理解のために,また「お願い3」の組織の取り組みへの参加に向けて,本稿では「医療におけるリスクマネジメント」とは何かを整理することにします.

リスクマネジメント教育をどのように進めるか

著者: 岩月宏泰

ページ範囲:P.697 - P.705

はじめに

 近年,自治体病院,大学病院など高度な医療サービスを提供する施設での医療事故が相次いで報告されている.急に事故が多発したようにみえるが,今までにも類似事故は発生しており,メディアに取り上げられる機会が最近増しただけという見方が大勢を占める.それにともない,医療,保健,福祉のヘルスケア領域では事故予防のための組織的な取り組みとして,職員対象の「危機管理」や「リスクマネジメント」と銘打った研修や事故予防対策委員会の設置が急がれるようになった.また,リスクマネジャーの新たな配置や危機管理マニュアルが編纂されるなどして,一時的に職員のリスクに対する感性が高まったと考えられる.

 ところで,昨年報道された雪印乳業の「乳製品による食中毒事件」や三菱自動車工業の「リコール隠し」など大企業の一連の不祥事では,自社の経営危機に直面していながら社内の情報をほとんど把握していない意思決定者の姿勢に疑問を抱いた読者が多かったことと思う.また,多くの企業はこれらの事件を報道された企業に存在する文化による特別なものであり,「他山の石」としてとらえたのではないだろうか.

 これらの事件を通して,メディアは大企業といえども危機管理意識が希薄であることを知らしめ,意思決定者はリスク情報を収集するシステムを構築すること,およびリスクに対処する基本的方針を持つ重要性を指摘した.しかし,相変わらず新聞,テレビなどの各メディアでは企業の不祥事が報道され,企業の隠蔽体質やリスクに取り組む姿勢は余り改善されていないことを推測させる.

 このようにリスクに対するマネジメントの構築は日本の病院・施設を含む全企業に早急に普及させる必要のある課題といえるが,まず「危機管理」として訳されるリスクマネジメントおよびクライシスマネジメントの概念を整理してみよう.リスクマネジメントとクライシスマネジメントも経営管理の手法であり,これまでにも論者によって様々に定義されてきた.それらのうち,リスクを「起こり得る結果の変動」,クライシスを「異常損失の原因となりうる,差し迫った,または発生しつつある危険」と捉えた武井1)の定義を以下に紹介する.

 リスクマネジメントとは「組織の目標に沿って,リスクおよび不確実性のもたらす悪影響をリスクの確認・測定・処理技術の選択・実施・統制の過程を通じ,極小のコストで極小化するマネジメントにおける経営の安定化または保全機能である.」リスクマネジメントは単なる事故防止活動のみを指すわけではない.クライシスマネジメントとは「いかなる危機にさらされても組織が生き残り,被害を極小化するために,危機を予測し,対応策をリスクコントロール中心に計画し,組織し,指導(指揮・命令)し,調整し,統制する過程である.」

 図1(次ページ)に両者の関係を示したが,リスクマネジメントの目的には,損失発生前,発生中,発生後に分けられ,損失発生前には①経済的目標,②不安の軽減③外部から付与された責任を果たす,④社会的責任の遂行が考えられている.また,損失発生後の目的として,⑥企業の存続,⑦事業の継続,⑧収益の安定,⑨成長の持続,⑩社会的責任の遂行が挙げられる.

 一方,クライシスマネジメントの目的はリスクマネジメントの目的の10種に寄与することといえる.つまり,彼はクライシスマネジメントとはリスクマネジメントのなかにおける緊急事態対応の過程と位置づけており,損失制御としての役割を持つ技術の1つとも考えている.このように,クライシスマネジメントとリスクマネジメントには基本的な違いがあるが,情報社会において病院,企業などの組織を存続させるためには両者を併せて体系的,組織的,継続的に実行することが必要不可欠である.

 更に,意思決定者がリーダーシップを発揮して全職員に潜在的なリスクも経営そのものを脅かす危機へと容易に移行する可能性を帯びていることを周知させる必要がある.そこで次項では,リスクマネジメントおよびクライシスマネジメントの各理論を理学療法教育にどのように取り入れるかを検討するために,これまでの「危機」に対する姿勢を民俗学的視点および企業,病院・施設のこれまでの組織行動から考察する.

当院理学療法部門におけるリスクマネジメント(1)

著者: 渡辺京子

ページ範囲:P.706 - P.710

 院内リスク委員会発足

 1999年に発生した大学病院患者取り違え事故を契機に医療事故に対する管理システムの問題が社会的に注目され,当院でも様々な取り組みが実践されてきた.リハビリテーション(以下リハ)医療においてはハイレベルなリスクは少ないものの,高齢患者の増加による医療モデルの変化,病院の大型化による機能分化,多職種間の業務分担や協業の拡大による情報伝達・確認システムの複雑化,患者の知る権利拡大の機運など,我々を取り巻く医療環境は厳しくなっている.また,脳血管障害など急性発症に対する早期理学療法の増加や,歩行練習中の転倒や状態の急変など事故発生時の対応や予防などリスクマネジメントの重要性はますます高まってきている.

 リスクマネジメントは事故・紛争・訴訟の防止活動だけでなく,「起きてはならないことを起こさない」ために取り組むシステムとして存在しなければならない.リスクの評価・分析・対応というプロセスを通してまず医療の質を確保し,病院組織を損失から守るためには,①情報収集とその共有により些細なミス(エラー)を見逃さずにマイナス情報を収集ないし吸い上げるツールを持つこと,②収集した情報をもとに過去に生じた事故事例を検討,そこから予防策を学んで同じ過ちを繰り返さないこと(再発防止の徹底),③誰が事故を起こしたかではなく,何が事故を招いたかを労務管理,人事管理,薬品管理など病院全体のシステム管理のあり方を検討し改善を図ること,④事故事例をもとに事例検討会等を開催して職員教育を徹底することなどが大切である.

当院理学療法部門におけるリスクマネジメント(2)

著者: 谷内幸喜

ページ範囲:P.711 - P.714

はじめに

 「医療事故」という言葉が,ここ数年ニュース・新聞などのマスコミからしばしば聞かれるようになってきた.このことは最近,医療事故が多発していることを意味するのだろうか?おそらく医療現場に身を置く者なら,誰しもそのようには思っていないだろう.

 医療事故そのものは,医学がこの世に誕生して以来,大かれ少なかれ常に存在していたものと推測される.それが最近になって目立ってきたとしたら,これまで医療現場(病院)の特殊な権威主義的組織構造がそれらを隠蔽してきたといえないだろうか.

 日本経済の構造的破綻を背景に,近年,一貫して医療費抑制政策がとられ,医療の抜本的改革を求める声が大きくなっている.病院組織もその流れを回避することはできず,競争社会のなかに組み入れられ,従来型の権威主義的組織は崩壊しつつある.こうした状況の下で,医療現場でも「サービス」という言葉がようやく定着しはじめ,接遇,環境整備,事故対策といったことに組織的に取り組むようになってきている.

 当院においても,地域住民を視野に入れながら日本の社会保障の一翼を担うべく,ここ数年,医療の質を向上させ,それを全国に発信していける施設づくりを目標に院内各部署でシステムづくりに努めている(図1,次ページ).そして共通理念の下で進むべき方向性や目標を定め,国際標準化機構(ISO)9001を取得した.

 本稿では,その一部である当院のリスクマネジメントシステムを紹介する.

当院理学療法部門におけるリスクマネジメント(3)

著者: 花岡利安 ,   栗原かおる ,   日向康子 ,   小林恒夫 ,   臼井健二 ,   金井彬

ページ範囲:P.715 - P.719

はじめに

 リハビリテーション医療の領域においてリスクマネジメントという概念は1960年代,理学療法士・作業療法士法が制定された当時から存在していた.しかし,その多くは脳卒中を中心とした対象疾患に対するリスクマネジメントであり,システムとしての論議はここ数年のことである.

 当院がリスクマネジメントシステムの構築に向けて具体的に活動を開始したのは,日本医療機能評価機構の「病院機能評価」(1996年運用調査,1999年本調査)の受審が直接の動機である.リハビリテーション科においても,アクシデントレポートやその処理システムは存在していたが,同評価機構から事故予防システムに関する不備の指摘を受け,具体的検討を開始した.

当院理学療法部門におけるリスクマネジメント(4)

著者: 藤谷尚子

ページ範囲:P.720 - P.723

はじめに

 平成11年1月におきた患者を取り違えるという重大な事件をはじめ,これまでの医療事故の反省の上に立って,横浜市大は医療安全管理の徹底に努め,附属の2病院における医療安全対策の見直しと改革に真剣に取り組んできた.

 第三者機関である医療安全委員会の設置をはじめ,安全管理マニュアルの見直し,医療事故報告システムの確立,安全対策委員会,安全管理室の設置,各部門リスクマネジャーの設置,医療事故公表基準の策定,倫理委員会の設置など多くの制度改革がなされ,また講演会開催など,職員に対する安全管理教育にも力が注がれている.

 安全対策の推進を図るために設置された安全管理対策委員会の下部組織として各部署にリスクマネジャーが置かれており,当リハビリテーション部では,筆者が現在その任務に当たっている.

 そこで今回,PT部門におけるリスクマネジメントについて主に組織的な観点から述べる.

とびら

飽和状態にしないためにも

著者: 林秀俊

ページ範囲:P.685 - P.685

 今日の医療において,EBM(Evidence-Based Medicine)の重要性が広く認識されている.理学療法の分野でも同様である.

 PT協会は平成11年度より「理学療法の効果に関するプロジェクト」を立ち上げ平成15年には最終報告を行うとしているし,私が所属する福岡県士会も平成13年,14年度は「科学的根拠に基づいた理学療法」というテーマで学術活動を行っていこうと決め,各種研修会,専門領域研究部会などでもそのテーマに沿った企画で動こうとしている.

入門講座 映像情報の活用法・4

映像をパソコンに取り込んで活用する(1)

著者: 夏目健文

ページ範囲:P.725 - P.731

 1.はじめに

 今回より2回に分けて,映像をパーソナルコンピュータ(以下パソコン)に取り込んで活用する実例を取り上げる.

 本稿では,筆者が普段行っている編集作業の流れに沿って,映像をパソコンで処理する方法,必要なソフトウエア(以下ソフト)とその利用法,そして映像を活用するうえでの大切な視点について述べる.

Treasure Hunting

年をとってもロック爺でいたい―谷 浩明氏(国際医療福祉大学保健学部理学療法学科)

著者: 編集室

ページ範囲:P.733 - P.733

 今月の本欄にご登場していただいた谷浩明氏の音楽好きはつとに有名,今でもバンド活動を続けていて,元同級生や後輩から呆れられているほど.ご自身,音楽が「生活の一部」といっても違和感が無くなったと仰るように,音楽への入れ込み様はどうも尋常ではないようだ.継続することや挑戦することに意味があると教えてくれたのも音楽,無駄を排除して近道を探したい誘惑にかられた時に自分を保っていられたのも音楽のおかげ,そして年をとってからもロック爺でいられれば幸せというほどなのである.

あんてな

テレヘルスによる理学療法指導―別海町との経験から

著者: 石川朗 ,   仙石泰仁 ,   大柳俊夫 ,   神智恵美

ページ範囲:P.734 - P.735

 概要

 医療・保健・介護の分野では,その業務の適切な遂行のために,患者情報はもちろんのこと医学・心理学・福祉学などに関わる知識の集積と,関係者間の情報共有が重要である.北海道は広大な大地を有するが故の地域間での様々な格差が生じており,医療従事者や様々な研究機関なども都市部に集中している状況もその1つである.このため,1人の患者に関わる専門職数などの違いによるサービス内容の質的な地域間格差が生じ,また,専門職の質的な向上を図るために必要不可欠な卒後教育や情報提供,診療支援システムを構築することが都市圏以外では難しい状況にある.

 更に,このような地域の特質以外にも,介護保険に関わる業務であるケアプランの策定に際して必要となる専門職間の綿密な討議が,実際には一堂に会する機会が持てず十分な討議をする時間が取れなかったり,ケアマネージャが多大なる労力を払い関係機関との連絡を行う現状も,実運用1年を経過して指摘されている.

 我々はこのような保健医療従事者に対する情報共有,協調作業,教育支援などを促進する目的で,高度情報通信技術を利用して様々な実験的な取り組みを行っている.本稿では,その概略を紹介するとともに,その意義や将来的展望について報告する.

1ページ講座 介護保険のポイント・10

介護サービス計画

著者: 香川幸次郎

ページ範囲:P.736 - P.736

 介護保険の目的は,要介護高齢者等がその能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう支援することにある.そのためには,サービスの提供自体を主眼とした考え方から,利用者のニーズに基づいたサービスの提供や利用者の選択が保障されなければならない.介護保険制度ではこうした考え方のもと,ケアマネジメントを導入し,介護サービス計画に基づいたサービスの提供が義務づけられている.ケアマネジメントの定義は諸家によって異なっているが,竹内は「自立とQOL(本人と家族)を目指して,そのためにニーズをしっかりととらえてサービスを行う総合的援助である」と述べている.

 ケアマネジメントの過程には,アセスメント,計画の立案,サービスの実施,そしてモニタリングが含まれ,以下のような手順が示されている.①要介護高齢者等から居宅介護支援事業所に居宅サービス計画の作成依頼がなされる.②事業所に勤務する介護支援専門員(ケアマネジャー)が利用者の自宅等を訪問し,心身の状況,サービス利用の希望を聞き取り,課題分析(アセスメント)を行い,問題点の抽出や解決すべき課題を把握する.③次にケアマネジャーが立案した介護サービス計画原案をもとに,サービス提供者や利用者ならびに家族の参加を得てケース担当者会議(ケースカンファレンス)を開催し,問題点や課題および計画原案についての意見交換が行われ,原案の修正等が行われる.④次いでサービス提供者との具体的な実施の調整が行われ,利用者の承認を得てサービス計画が決定される.⑤そして,サービス計画に基づいて訪問介護等の具体的なサービスが提供され,⑥その後サービスの継続的な把握(モニタリング)が実施されるとともに,課題や問題点が解決されたかどうかの再評価が行われ,必要に応じて計画の見直しがなされる.こうした一連の手順が示されているが,③のケースカンファレンスの開催は進んでいないのが現状である.

講座 「まち」をつくる側からの提言・4

自動車による郊外の移動

著者: 山田稔 ,   秋山哲男

ページ範囲:P.737 - P.742

 1.はじめに

 我が国では,これまでの交通政策の大部分が道路整備であった.特に戦後の急速な自家用車の普及に伴い,それに対応すべく,安全で渋滞のない自動車交通の環境の整備が目指されてきた.

 1970年代の後半から,交通事故や幹線道路沿道の生活環境の問題がクローズアップされ,また新規道路用地の確保が困難になってくるに伴って,ただ漫然と自動車の増大に対して道路整備で対応するのではなく,各種の交通手段を組み合わせた総合的な交通体系整備の重要性が指摘されるようになった.

 しかし,その一方で,都市への人口の集中と,都市周辺部の比較的地価が安価な場所への住宅立地がいまだに続いている.そのため,ごく一部の大都市や,都市の中心地区を除く多くのところで,公共交通の整備や運営の困難,交通サービス水準の低下,自家用車への一層の依存といった悪環環が繰り返されてきている.

 自宅最寄りバス停でのバスの頻度が低いといったような,公共交通サービスの低下に対しては,例えば買い物などの外出頻度を抑えたり,徒歩圏域で用を済ませるといったような,生活そのものを妥協している人も少なくはない.更に,公共交通が存在しないケースも多く存在する.その場合には,生活に必要な交通を行うためには,自らが運転できる車を保有しているか,あるいは家族に送迎してもらうことが必要になってくる.しかし,家族に送迎してもらうこともなかなか容易なことではない.

 ここで特に留意すべきことは,低所得者,高齢者,また特定の種類の障害を持つ人たちにとって,経済的あるいは身体的制約から,自ら車を運転することが困難な場合が多いという点である.すなわち,公共交通サービスの不十分さがもたらす問題が,社会のなかの特定の人たちに大きく降りかかってくるという特徴があることである.

 本稿ではまず,このような自家用車に依存せざるを得ない現状について触れたうえで,今後に考えられる個別交通のあり方について述べる.

症例報告

大腿切断者に対するC-LEG膝継手の使用経験―インテリジェント膝継手とのエネルギー消費の比較

著者: 山田英司 ,   田中聡 ,   江村武敏 ,   竹内豊計 ,   関川伸哉 ,   宮本賢作 ,   辻伸太郎 ,   森諭史

ページ範囲:P.743 - P.746

はじめに

 下肢切断者にとって,義足は日々の生活のなかで欠かすことのできない身体の一部であり,日常生活をいかに快適に過ごすかは,義足の性能に委ねられているといっても過言ではなく,特に大腿義足においては膝継手の機能が歩行能力を著しく左右する1)

 今回我々は,インテリジェント膝継手(ナブコ社製N1-C111,以下インテリジェント)を経て,C-LEG膝継手(Otto Bock社製,以下C-LEG)を導入した大腿切断者の理学療法を経験した.その結果,義足使用者の歩行能力の向上と高い満足度を得ることができた.そこで,C-LEGを導入した経緯を報告するとともに,本症例における両義足装着時のエネルギー消費について検討したので報告する.

資料

第36回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2001年3月2日実施) 模範解答と解説・Ⅳ―理学療法・作業療法共通問題(1)

著者: 乾公美 ,   武田秀勝 ,   乗安整而 ,   宮本重範 ,   橋本伸也 ,   吉尾雅春 ,   田中敏明 ,   小塚直樹 ,   青木光広 ,   石川朗 ,   高柳清美 ,   片寄正樹 ,   小島悟

ページ範囲:P.747 - P.752

雑誌レビュー

“Physiotherapy Canada”(2000年版)まとめ

著者: 前島洋 ,   堤恵理子 ,   田中幸子 ,   金村尚彦 ,   吉村理

ページ範囲:P.753 - P.757

 “Physiotherapy Canada”はカナダ理学療法士協会発行の機関誌である.年4回発行され,各号に8,9編の論文が掲載されている.掲載論文は主に理学療法の臨床,教育に関する原著論文および総説的論文より構成されている.今回,誌面の関係で全論文のレビューは難しかったが,各号ごとに原著論文を中心に可能な限り多くの論文を詳細に紹介した.紹介した論文以外にも,北米における理学療法を取り巻く動向を体感できる報告も多く,ご一読をお勧めしたい.

プログレス

PNFによる集中的運動療法の機能回復効果

著者: 弓場裕之 ,   白浜幸高 ,   二俣麻里子 ,   川平和美

ページ範囲:P.758 - P.761

はじめに

 近年のニューロサイエンスの発展によって,残存神経組織の機能変化や軸索,樹状突起の伸長,シナプス結合性の強化等による脳の可塑性が麻痺の回復に重要な役割を演じていることが知られるようになってきている1-5).しかし,理学療法手技の1つであるファシリテーション手技はその神経生理学的根拠に基づいて発展しているにもかかわらず,そこでは伝統的な健側強化運動が依然として支持されているのも事実である.その理由として,客観的データの不足,特に片麻痺に対する治療効果の具体的なデータがほとんど無く,基本動作と結びつけた報告が大半で,従来の健側強化運動と比較してあまり差異がない6-9)という評価しかなされていないことが挙げられる.

 今回我々は,従来の伝統的運動療法を入院時より継続しながら,麻痺側下肢の随意性を高めるためにPNFに基づいた集中的分離促通運動(以下,集中的運動療法)を2週間ずつ2回追加併用し,より高い随意性の獲得と筋力の向上を認めた.この誌面を借りて若干の修正を加えた集中的運動療法の内容とその効果について報告する.

初めての学会発表

日常臨床にいかしたい学会発表経験

著者: 廣澤隆行

ページ範囲:P.762 - P.763

 2001年5月24,25,26日の3日間にわたって,第36回日本理学療法学術大会が「平和都市」広島の地で開催されました.

 本大会では「21世紀の理学療法―臨床・教育・研究の展望―」をメインテーマヒして,口述発表317題,ビデオ発表8題,ポスター発表525題,発表演題総数850題と昨年の鹿児島学会より更に大きなものとなり,今後の理学療法の行方について活発な討論が行われました.また,本大会より「日本理学療法士学会」から「日本理学療法学術大会」と名称も一新され,21世紀に向け新しいスタートを切ることになりました.

 そこで今回,本大会での私の発表体験と発表に至るまでの経過を振り返ってみたいと思います.

学会印象記 第35回日本作業療法学会

作業療法技術の科学的展開をめざす

著者: 灰田信英

ページ範囲:P.764 - P.765

 第35回日本作業療法学会が6月21日から23日の3日間にわたり,金沢市文化ホールを主会場に金沢市内4施設で開催された.学会は生田宗博(金沢大学医学部)学会長のもと,約2,500名の参加者が集った.私はこの学会に参加する機会を得ましたので,以下にその概要と印象を報告する.

ひろば

新人の立場から実習生を見て感じたこと

著者: 西尾奈美

ページ範囲:P.731 - P.731

 私はこの春,無事国家試験に合格し,晴れて理学療法士になることができた.思えば養成校に入学してからの3年間,この時をどれほど待ち望んでいたことか.実際理学療法士として働いてみてはや半年が経過したが,学生の時に思い描いていた理学療法士には程遠いのが現状である.

 そんななか,私の勤めている施設にも6月から学生さんが実習に来ている.ついこの間まで学生であったのに,今では学生さんから“先生”と呼ばれる立場になってしまった.しかも,その学生さんは私より年上なのだ.私は高校卒業後すぐ養成校に入ったので,私より年上という学生もよくいる.事実,同級生も自分より年上の方が半数ぐらいを占めていた.そのような学生さんに“先生”と呼ばれ,敬語で話されているのだ.

書評

―〈JJNブックス〉馬場元毅(著)―絵でみる脳と神経(第2版) しくみと障害のメカニズム―神経分野に携わる人すべてに勧める手ほどき書

著者: 寺本明

ページ範囲:P.752 - P.752

 神経学は難解であると思われている.神経学はその論理性故に,ある程度論理が飲みこめるまでは理解がしづらい.

 そのため,神経系の構造と機能をわかりやすく解説しようとする試みが数多くなされてきた.しかし,図解にしてもカラーアトラスにしても,どれ1つとして通常の教科書の記述の域を出ていない.ただ図表を多くしただけのものが大半である.

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文献抄録

ページ範囲:P.766 - P.767

編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.770 - P.770

 21世紀最初の暑い夏が終わりました.あれだけ暑いにもかかわらず蝉の声があまり聞かれない不思議な夏でした.聞かれないといえば,何にでも付けられた21世紀最初という言葉もいつの間にかどこかにいってしまったようです.単に色あせたというよりも,新世紀早々に引き起こされた5%を超える最悪の失業率と株価低迷の先行き不安が21世紀のイメージとして定着しないように,無意識の力が働いているような気がしてなりません.

 一方この夏はわが国にとって新世紀の華々しい出来事もありました.次期主力ロケットH2A一号機打ち上げ成功のニュースです.技術が最先端になればそれだけ余裕のないところにシステムが構築されるため,ハイリスクになるのは仕方ありません.しかし,一機一千億円もするような衛星を打ち上げるわけですから失敗が許されないことも事実です.ロケットの打ち上げ成功は,リスクマネジメントの最たるものではないでしょうか.続けて二度の打ち上げ失敗があり,その後もミスが続いて打ち上げが延期され,わが国の先端技術に対する信頼性は危うく地に落ちるところまで追いつめられ,関係者にとっては背水の陣,今までになく用意周到な準備を期したのだそうです.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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