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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル35巻11号

2001年11月発行

雑誌目次

特集 症例報告

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.773 - P.773

 ■症例報告の意義と方法(石倉 隆,他論文)

 証拠に基づく医療(EBM)を実践するには,様々な症例の客観的・科学的データの蓄積が不可欠である.症例報告はEBMの第一歩であり,症例を報告した者のみならず報告を受けた者にも客観的・科学的データを提供し,EBMの支えになるものと思われる.ここでは一例の重要性,「なぜ?」と疑問をもつことの必要性を通して,症例報告を行う意義を考えてみるとともに,その方法について論述する.

症例報告の意義と方法

著者: 石倉隆 ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.775 - P.780

はじめに

 咋今,根拠に基づく医療(evidence-based medicine;EBM)が強調されている.これまでの理学療法では,臨床経験や直感的判断,つまり経験主義的な症例の予後判定や治療方針の決定がなされてきたことがある点は否定できない.このような状況から脱出し,より科学的な根拠に基づき客観的な予後判定や治療方針の決定などを進めていくことが,医療の質を高め,理学療法の信頼性を高める結果につながると考えられる.

 このためには,様々な症例の客観的・科学的データの蓄積が不可欠で,この蓄積こそがEBMを行う基礎となるのである.症例報告はまさにEBMの第一歩ということができ,これを報告することで,報告を受けた者のEBMの支えになるものと思われる.しかし,その意義や方法論が主観的思考に陥った報告であれば,これまでの経験主義的な治療と何ら変わりがないということになる.

 そこで本稿では,症例報告の意義と方法について実例を引用しながら説明し,個々の症例を通した客観的なデータの導出方法や一般化の方法について概説する.

歩行運動開始困難を呈した脳梁周動脈梗塞患者に対する理学療法

著者: 本多洋子 ,   松葉好子 ,   今吉晃

ページ範囲:P.781 - P.786

はじめに

 脳血管障害に随伴する症状のなかで,神経心理学的症状は運動障害,感覚障害などと共にリハビリテーションの阻害因子の1つとして重要である.今回我々は,脳梁周動脈梗塞後に歩行運動開始困難を呈した症例に対し,早期から神経心理学的症状に配慮しながら理学療法を施行した.その結果,座位・歩行能力の改善に至った症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

気管切開後長期経過者の発声練習の経験

著者: 千葉哲也

ページ範囲:P.787 - P.791

はじめに

 当クリニックは訪問看護ステーションを併設したリハビリテーション単科のクリニックで,午前中は外来,午後は半径約6kmの東京世田谷区全域で訪問活動を展開している(図1).世田谷区の2000年度の介護保険認定者数は人口78万人中約1万4,000人である.要介護4または5の認定を受けた者は約4,000人で,そのうち約45%が在宅生活を送っていることから,在宅リハビリテーションに対するニーズは高いことが予想される.

 2000年度のクリニックとステーションを合計したスタッフ数は医師2人,看護婦3.5人,理学療法士10人,作業療法士1人,言語聴覚士1人で,訪問利用者は296人であった.対象疾患の内訳をみると,脳血管障害が143人と約半数を占め,骨関節疾患も68人と多い.肺機能障害者は人工呼吸器装着5人,在宅酸素利用者10人と少なく,呼吸器疾患ではないが,排痰,発声などの問題で肺理療法を行う者も若干いる.

 今回,気管切開後長期間が経過したが,発声の希望があり,スピーチカニューレを使用しての発声練習を2例経験したので,共通の治療方法を5段階に分けて報告する.

プロスタサイクリン持続静注療法開始後に理学療法を施行した原発性肺高血圧症の1症例

著者: 内昌之

ページ範囲:P.792 - P.794

はじめに

 原発性肺高血圧症(primary pulmonary hypertension;PPH)は,肺血管収縮を伴う原因不明の肺血管抵抗上昇によって右心不全を引き起こす進行性の難治疾患で1),診断後5年以内に大半の症例が死亡に至る2-4).プロスタサイクリン(prostacyclin;PGI2)は強力な血小板凝集作用と血管拡張作用を有し,PGI2の持続静注療法は肺血管抵抗・肺動脈圧を減少させる.米国で1982年にRubinらによる臨床試験結果が報告され5),本邦では1999年1月に承認された.これにより,従来運動負荷は禁忌とされてきたPPHに伴う心不全症例に対して,積極的な運動療法が可能となった.

 我々はPGI2持続静注療法開始後早期より,歩行持久性の改善,胸郭の可動性拡大と呼吸筋の筋力改善,廃用性筋力低下の改善,上肢の筋力と姿勢の改善,心理的効果等を目的として運動療法を施行し,運動耐容能の改善を認めた1症例を経験したので報告する.

5P-症候群の理学療法経過

著者: 上杉雅之

ページ範囲:P.795 - P.798

はじめに

 5P-症候群(Cri Du Chat症候群)は,仔ネコ様の泣き声,精神運動発達遅延,特異な顔貌を特徴とし,1963年にLejeuneら1)によって最初に報告された.その後German,Caperssonらにより5番染色体の短腕部分欠失に由来するものであることが確認され2),最近では,遺伝学の発達により5番染色体の短腕部分の欠失範囲と臨床症状の相関について報告3-5)されるようにまでなった.

 しかし,多くの遺伝学的報告とは対照的に,5P-症候群に対するリハビリテーションの必要性は唱えられている2-7)ものの,理学療法的視点に立った報告はわずか3例8-10)にとどまっている.

 本論文では,比較的良好な発達を示した5P-症候群の理学療法経過について報告する.

高齢者のリハビリテーションゴール設定を考える

著者: 吉井智晴

ページ範囲:P.799 - P.802

はじめに

 高齢者のリハビリテーションのゴール設定では,疾患そのものの特性だけでなく,痴呆の程度,高齢者のおかれている環境や介護者の状態に左右される場面が多くみられる.骨折等で一度入院すると,その後の生活に復帰するまでに多くの時間がかかる1).入院中は慣れない環境で高齢者の能力を最大限に発揮できないためゴールが低く設定されがちで2),退院してから時間をかけて改善してくるということがある.また,慢性疾患で病歴が長くなると,ゴール設定が暖昧になり,単調なリハビリテーションになりやすい.

 当苑では,福祉の基本理念である「自立への援助」を目標に,年齢に関係なく,本人のニーズと心身の状況に合わせて,積極的に理学療法を実施している.今回は入院中に十分な理学療法が行えず,誰もが「車いすゴール」と思った高齢者が,元のADLレベルまで回復した症例と慢性期片麻痺患者の5年間の筋力強化を中心とした理学療法で効果が得られた症例について報告する.

受容が困難であった不全頸髄損傷の1例

著者: 原水恵 ,   伊勢眞樹

ページ範囲:P.803 - P.808

はじめに

 脊髄損傷者は,新しい人生観を見い出すまでの受容過程において損傷高位や麻痺の形態による影響を大きく受けるため,その特徴を理解し,個人レベルで適切な援助を行うことが必要である.

 今回,受容過程で生じた心理的反応に対し心理的援助としてのプログラムを実施し,効果が得られた不全頸髄損傷の症例を経験したため,Finkの述べる心理的段階を参考に8,10),ショック期,防衛的退行期,自認期,適応期の4期に分けて経過を分析し,症例の特徴およびアプローチについて,QOLの評価等をもとに考察する.

パーキンソン病を伴った側弯症の治療

著者: 高橋護

ページ範囲:P.809 - P.813

はじめに

 本邦において側弯症は日常的にみられるほど一般的な疾患ではなく,ましてパーキンソン病を合併した患者の治療に関する論文は,調べた範囲内ではみられなかった.

 当症例報告は,側弯症が高度でパーキンソン病を伴い治療に難渋している症例である.本症例に対してPNF法を中心として治療を行っている.

 今回,報告する機会を得たので,患者の治療経過と治療内容について報告する.

とびら

何のために,誰のために

著者: 加藤浩

ページ範囲:P.771 - P.771

 理学療法(学)は科学です.科学である理学療法学には研究が求められます.この研究を実りあるものにするためには,まず,理学療法の共通の“理念”と明確な“目的”を構築することが必要です.なぜなら,理念そして目的をしっかり持ってから始める研究と,とりあえず始める研究では,結果は違ってきます.そして,その差は年月が経てば経つほど開いてくるからです.

 研究とは,理念そして目的があって初めてそれを達成する手段となりえるのです.理念,目的なくして研究はありえません.しかし,現実は研究が重視され,理念,目的があやふやになっているような気がします.いや,理念,目的があやふやだから,研究が独り歩きをして“何のために”,“誰のために”それをしているのか見失うことが少なくないように思います.

講座 「まち」をつくる側からの提言・5

車いす利用者のための経路選択支援システムの開発

著者: 南正昭 ,   田村洋一

ページ範囲:P.814 - P.818

 1.車いす利用者の社会参加の支援に向けて

 交通バリアフリー法の施行から既に1年が経過しようとしている.しかし各自治体における取り組みは,必ずしも十分な進展をみているとはいえない.なぜ,その街で毎日の生活を送っている身体障害者や高齢者の方々の存在を前提とした街づくりをすることが,これほどまでに困難を極め,決して十分とはいえない法律を制定するのに長い年月を要するのであろうか.

 1つには,費用負担の問題が立ちはだかっている.例えば,同法において1つの柱として掲げられた駅前空間の整備について,障害物を除去し面的なバリアフリー化を実現するための施設整備は,駅ならびに駅前道路の施設管理者に多大な費用負担を求めることになる.街路等の公共施設の整備は通常,各自治体の予算制約の下で公共事業として実施される.その予算配分は補助の有無や他の事業とのバランスを考慮し,政策的に決定される.政策が市民の民意の反映であるとするならば,その街のバリアフリー化の水準は,後々にはその街の市民の身体障害者や高齢者への配慮の深さを直接的に表現することになるだろう.

Treasure Hunting

勤労者医療の場に理学療法の存在感を!―砥上恵幸氏(労働福祉事業団山口労災病院勤労者リハビリテーションセンター)

著者: 編集室

ページ範囲:P.819 - P.819

 今月の登場人物は山口県士会長の砥上恵幸氏である.理学療法関連の各級機関の役員を長年務めておられるから,どこかであの円満なお顔にお目に掛かった読者も多いことと思う.

 砥上氏は昭和35年,福岡県大牟田市生まれの41歳.大方の読者はご存じないだろうが,「60年安保闘争」と三池炭鉱の長期ストライキで日本中が騒然としていた年が昭和35年である.産炭地の大牟田は不況のどん底,ご両親は散髪屋の3男坊として生まれた氏に,せめて名前くらいは幸せに恵まれるようにと「恵幸」と名づけたそうだ.

あんてな

兵庫県理学療法士会における公益活動の取り組み

著者: 八木範彦

ページ範囲:P.820 - P.821

 兵庫県士会における公益事業開催の検討は,組織の社団法人化を意識し始めたことが発端です.当士会は平成元年に法人認可の取得のための活動を開始し,主管する兵庫県文書課に出向きました.主管課の息の長い指導と士会の地道な努力の積み重ねの結果,特に公益事業が活発に行われるようになったのはここ4,5年のことです.それは主管課から公益法人における事業内容の具体的なイメージが提示されたことが1つの要因となりました.

 そもそも公益法人の事業とは,積極的に不特定多数の者の利益の実現を目的とするものであり,この目的に照らし,定款等に明確にされている適切な内容の事業であると示されています.更に主管課から,兵庫県や各自治体主催事業に参画すること以上に,自らの企画と予算によって事業が展開されることが重要であると指摘されました.これらの条件を満たすことを念頭において,毎年事業計画を検討しています.

1ページ講座 介護保険のポイント・11

福祉用具の貸与・給付

著者: 香川幸次郎

ページ範囲:P.822 - P.822

 在宅での介護や要介護者等の自立を支援するために,介護保険では福祉用具の貸与や給付,そして住宅改修費の支給が制度に組み込まれている.福祉用具とは,「心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障がある要介護者等の日常生活上の便宜を図るための用具および要介護者等の機能訓練のための用具であって,要介護者等の日常生活を助けるためのものをいう」と定められている.

 福祉用具の貸与は,他の在宅サービスとともに介護計画の一環に組み込まれ,指定福祉用具貸与事業者(福祉用具専門相談員の配置や消毒施設等の整備が義務づけられ,都道府県が指定する)から貸与される.個々の用具の単価は定められておらず,実勢貸与価格が用いられ,利用料として利用者は1割相当額を支払う.

入門講座 映像情報の活用法・5

映像をパソコンに取り込んで活用する(2)

著者: 夏目健文

ページ範囲:P.823 - P.828

 今回は,映像情報のネット上での様々な活用と著作権や遠隔システムについて取り上げる.

原著

内側型変形性膝関節症に対する距骨下関節弾性固定付き足底板の効果について

著者: 戸田佳孝 ,   金秀貴 ,   月村規子

ページ範囲:P.829 - P.833

 目的

 変形性膝関節症(膝OA)は中高年の多くの人口が罹患する一般的な関節疾患である9).米国のシングフォード市での調査からは45歳から64歳までの女性の12%が単純X線像で膝OA像を示し,6%が症候性の膝OAであったという4).膝OAは内側大腿脛骨関節にのみ生じることが多く,内側関節単独罹患型(内側型膝OA)は外側単独罹患型の10倍であったとの報告もある1)

 内側型膝OAに対する非手術療法の代表としては外側楔状足底板があり,理学療法でも活用されることが多い.そのなかでも最も普及している足底板は,靴の中敷き型足底板であろう.しかし,靴中敷き型足底板の作用は,踵骨を外反させることによって大腿骨頭中心から踵骨を結ぶ荷重線(ミクリッツ線)が膝関節を通過する部分を変化させ,損傷軟骨への負荷を軽減することであり,大腿脛骨角における内反変形を外反矯正する作用は有さない3,11,17).つまり,靴中敷き型足底板の作用は大腿脛骨角における内反変形を手術的に矯正する高位脛骨骨切り術とは基本的に異なる.

 著者らは,靴中敷き型足底板が大腿脛骨角を変化させない理由は,距骨下関節に固定性がないため,踵骨における外反矯正力が距骨や脛骨に伝導されないのではないかと考え,距骨下関節8字型弾性固定バンド付き足底板(バンド型足底板)を考案した12,13)

 過去の研究結果では,装具業者が採型後作製した靴中敷き型足底板を3か月間以上装着していた26例をバンド型足底板装着に変更したところ,靴中敷き型足底板を装着していた時よりも大腿骨脛骨角が有意に矯正され,Lequesne重症度指数を用いた8週間装着後の疼痛指数も有意に改善した8,12).また,誕生日の奇数日の者にはベルト型足底板,偶数日の者には靴中敷き型足底板を装着させた8週間の前向き調査の結果からもバンド型足底板を装着することによって,靴中敷き足底板では得られなかった大腿骨脛骨角の有意な矯正や,8週間装着後のVisual analogue scaleの有意な改善が観察された13)

 しかし,実際には足底板装着前後における単純X線上の足部アライメントの変化を測定していなかったため,どのような機序でバンド型足底板によって大腿脛骨角が外反矯正されるのかは不明であった.また,靴下のような素材で距骨下関節を弾性固定した場合でも大腿脛骨角が外反矯正されるのか否かという課題も残された.

 そこで今回の研究では,内側型膝OA患者に対する靴下型による距骨下関節固定付き足底板とバンド型足底板装着による単純X線での大腿脛骨角の変化とともに距踵部角ならびに距骨傾斜角の変化を比較検討し,距骨下関節弾性固定の下肢アライメントに与える影響を考察することとした.

雑誌レビュー

“Australian Journal of Physiotherapy”(2000年版)まとめ

著者: 田中敏明 ,   小島悟 ,   高柳清美

ページ範囲:P.835 - P.840

はじめに

 “Australian Journal of Physiotherapy”は,オーストラリア理学療法協会の機関誌として年4回発行されている.本年度は46巻となる.主な構成内容は論説4編,原著論文・報告21編,論文解釈16編,書評16編,講座2編,症例報告,トピック,短報,書簡等となっている.本稿では原著論文・報告を中心にその要旨に基づいて紹介する.なお,各論文紹介の最後の( )内には筆頭著者名,原文タイトル,通巻頁を記載した.

プログレス

装具開発の最近の動向

著者: 山本澄子

ページ範囲:P.842 - P.843

はじめに

 装具は臨床の場で非常に多く使用されているが,ハイテクを利用した製品が次々と開発される義足と比較して開発が遅れているのが現状である.2001年7月に英国で行われた国際義肢装具学会の展示を参考にして,誌面の都合上,短下肢装具に限定して最近の動向を紹介する.新しい開発はプラスティック装具が中心である.ここでは,「プラスティックのカラープリント」「超軽量装具」「新しい足継手」の3点について述べる.

資料

第36回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2001年3月2日実施) 模範解答と解説・Ⅴ―理学療法・作業療法共通問題(2)

著者: 乾公美 ,   武田秀勝 ,   乗安整而 ,   宮本重範 ,   橋本伸也 ,   吉尾雅春 ,   田中敏明 ,   小塚直樹 ,   青木光広 ,   石川朗 ,   高柳清美 ,   片寄正樹 ,   小島悟

ページ範囲:P.844 - P.849

書評

―奈良勲(編)―理学療法のとらえかた Clinical Reasoning

著者: 嶋田智明

ページ範囲:P.849 - P.849

 診療行為を科学的に検証する動きは,1970年代よりアメリカで統計学を基礎に発展した.さらに定量的に医療従事者が行う診療の意思決定分析のプロセスを検証する手法が開発された.すなわち,医療従事者の勘や経験に基づいているとされる診療がどのような定量的評価にあるかを検証してきたのである.これは他流試合を通しての医療従事者の臨床能力を向上させようという動きでもあった.

 その一つ,Clinical Reasoning(クリニカル・リーズニング:臨床的推論)は多くの医学的情報を収集・分析し,これを解釈・統合することで最終的に安全で合理的かつ効果的な診療行為に至るための臨床実践の基盤となる洞察プロセスであると考えられる.これは何の疑問もなく受け入れられている一般的な理論や手技を応用する際の危険性を軽減するのに役立つ.またこの理論は,臨床所見と医学的知識,およびそれぞれから出てくる判断や治療における誤りを是正するのに重要であり,きちっとした臨床的推論を欠く臨床実践は単なる技術的な作業といっても過言ではない.

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文献抄録

ページ範囲:P.850 - P.851

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.854 - P.854

 「1例恐るべし」とは砂原先生の言葉である(臨床医学研究法序説).さまざまな治療の客観的効果を実験的に検証すべきであるとの主張の文脈で,しかし臨床家であれば,どんな教科書の示すところよりも,たった一例の自分の受け持った患者さんの経験がものをいう,それゆえ「恐るべし」なのである.

 症例報告はどちらかといえば,実験的研究に比べてややもすると科学的論拠に乏しいものと考えられがちであったことは否めない.しかし石倉論文が指摘しているように,「さまざまな症例の客観的・科学的データの蓄積が不可欠で,この蓄積こそがEBMを行う基礎と」なるのであって,むしろ日々の臨床経験の中にこそ重要な意味が横たわっていると考えられよう.このような認識に基づいて本号の特集「症例報告」は企画されたのである.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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