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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル35巻12号

2001年12月発行

雑誌目次

特集 理学療法の効果判定

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.857 - P.857

 医療界ではEBMという言葉が氾濫している.理学療法の領域でも問われるようになっている.しかし,それらを論じる以前に,理学療法の科学性や理学療法の効果の有無について明らかな手続きを踏んだ検討がなされていないのが現実である.ある方法によって得られた変化を効果として客観的に示す方法を,しかも多くが共有できるエビデンスとして提示していく必要がある.理学療法効果をどのように考え,客観的に証明していくのか,その方向性と具体的方策を中心に解説した.

理学療法の効果判定―発達障害児の療育に焦点を当て

著者: 今川忠男

ページ範囲:P.859 - P.864

 「これまで」の療育と効果判定

 発達障害児の「これまで」の療育とは,例えば脳性まひのこどもたちが持っている機能障害にのみ焦点を当てた手技であり,理学療法というより各種「訓練」法と呼ばれるものが主流を占めてきた.それらには,これまでPhelps,Fay,Doman,Kabat,Rood,Bobath,Vojta,PORTAGE,Petoなどを一群として列挙できる.それぞれには我田引水的に強調した理論背景があり,いわく「筋の伸長,装具,整形外科手術」「系統発生進化運動パターン」「対角線および螺旋的運動の固有受容器神経筋促通」「個体発生学的発達順序に従った運動のための感覚刺激」「異常反射抑制と正常運動促通」「反射反応,特に触覚,伸張,圧迫,抵抗による刺激を加えた寝返り,および這い這い運動」「誕生から6歳までのこどものための580項目の発達段階技能からなる家庭教育計画,訪問教師による教育と両親とこどもによる練習」「運動と言語機能を包括した指揮者と呼ばれる指導者による集団全日教育指導課程」といったものである.

 この脳性まひの「訓練」法の有効性に関する研究が長年にわたって繰り返し要求されてきた.多くの研究が脳性まひと診断されたこどもたちを対象として行われてきた.すべての研究は従来からの集団調査形式で行われ,2集団に分類したこどもたちの比較と複数の評価尺度を用いている.評価尺度のうちいくつかは有効性が疑わしいものもあった.これらの研究はすべて結果において否定的か結論が出ないかのどちらかであったが,脳性まひ児の両親や介助者にとっては「訓練」法を求め続けるのをあきらめさせるものではなかった.

筋スパズムに対する理学療法効果と判定

著者: 増本正太郎

ページ範囲:P.865 - P.870

はじめに

 理学療法士は筋・筋膜痛等を訴える患者に臨床場面で遭遇した場合,筋スパズムを意識する,しないにせよ,緊張が亢進した筋や筋膜組織の深さと広がりを触診して筋名を同定,筋を栄養する血管など循環組織,同筋を支配する末梢神経,神経根が延びる髄節レベル,椎間関節や仙腸関節の関節可動性にまで意識が及ぶことだろう.

 筋スパズムに対する緩和療法には,抗痙攣剤・抗炎鎮痛剤やパップ剤のほか温熱・寒冷,経皮的電気刺激(Transcutaneous Eelectrical Nerve Stimulation,以下TENS)といった物理療法,筋電バイオフィードバック療法,マッサージや関節機能不全に対するモビリゼーションなど徒手療法,ストレッチをはじめとした運動療法などがある.ただ,筋スパズムを現象として確実に捉えて理学療法効果を報告した研究論文はわずかしかない.本稿では筋スパズムに対する治療効果判定に関する課題と踏まえるべきポイントを中心に解説したい.

腰痛に対する理学療法効果と判定

著者: 荒木秀明

ページ範囲:P.871 - P.878

はじめに

 社会に及ぼす影響の大きさにもかかわらず,腰痛には依然,不可解な部分が多い.過去からその問題に対して頻繁に取り上げられてはいるが,腰痛のマネージメントに関しては未だ議論に事欠かない.

 本稿では,①4年間(1997~2000年)の腰痛に関する文献を回顧し,“Evidence-Based Physiotherapy”として簡単にまとめた.②多くの腰痛の原因のなかから仙腸関節性疼痛に着目し,仙腸関節性疼痛に対する理学検査手技を紹介した.③確定診断のgold standardである二重診断ブロックを用いて,理学検査の診断的妥当性について検討した.

脳卒中片麻痺に対する理学療法効果と判定―理学療法効果判定の指標としてのFRT,TUGTの可能性

著者: 須藤真史 ,   藤田由香 ,   貴田貴子 ,   浅利尚美 ,   工藤育子 ,   野宮育美 ,   對馬均 ,   対馬栄輝

ページ範囲:P.879 - P.884

はじめに

 近年,Evidence Based Practice(根拠に基づく臨床活動)の必要性が強く認識されるようになったことから,臨床研究は治療効果の検証という側面に重きが置かれるようになってきた1-4).このEvidence Based Practiceの意図は,臨床活動を実践するにあたって,勘や経験に頼るのではなく,最新で最適な根拠を基に行おうという点にある.

 しかし残念なことに,理学療法の臨床では厳密な形で無作為化臨床試験を行うことには困難が伴うため,理学療法にEvidence Based Practiceを行うのに十分なevidenceの蓄積があるとはいい難い.こういう状況にあるからこそ,我々は自らの手でevidenceを結実させ,蓄積することがまず必要であるといえよう.

 Evidenceに基づく理学療法を志向することは重要であるが,我々が今めざすべきなのは,evidenceユーザーではなくevidenceメーカーであり,自らの臨床のなかから帰納的にevidenceを探し出し,明らかにしていくことに他ならない.

 ところで,脳卒中片麻痺患者では随意運動の回復段階の評価とともに,平衡反応に代表される姿勢維持能力の評価が重要とされる5,6).これには,足圧中心位置の動揺を指標として,その移動距離や移動面積を計測したり,各種のバランス維持動作の遂行能力を指標とするテストが行われたりしている.なかでも,Functional Reach Test(以下,FRT)7,8),Timed Up and Go Test(以下,TUGT)9)は,立位や歩行における動的バランスを評価する指標として,その簡便さと有効性が明らかにされてきている.

 以上の観点から,本稿では,脳卒中片麻痺の活動性につながる立位や歩行時の動的バランス能力に注目し,片麻痺に対する理学療法のevidenceの探索を試みることにする.

慢性進行性疾患に対する理学療法効果と判定

著者: 桐山希一 ,   今井真由美 ,   梅本かほり ,   清水兼悦 ,   吉田敏一 ,   蕨建夫 ,   加藤正道

ページ範囲:P.885 - P.890

はじめに

 パーキンソン病(Parkinson's disease;PD),脊髄小脳変性症(spino-cerebellar degeneration;SCD)あるいは多系統萎縮症(multiple system atrophy;MSA)といった慢性進行性疾患のリハビリテーションでは疾病による障害がつねに存在する.したがって,リハビリテーション治療は脳卒中の急性発症後における後遺症に対するモデルは適応とならない.

 PDは疾病に特異的な症候を有するが,これらは他の変性疾患または多発性脳梗塞さらに正常加齢においても認められる現象である1).したがって,そのリハビリテーションにおいては,他の変性疾患または多発性脳梗塞にも共通する,非特異的な理学療法がある.いわば予備的能力を活用してADLを維持し,QOLの向上を図る非特異的な理学療法が,変性疾患には第一に選択される.例えば重度の起立性低血圧に代表される,自律神経系機能を含めた呼吸・循環障害に対する理学療法が基本となる.

 本論文では,慢性進行性疾患の廃用症候群を伴う障害において,我々はどのような理学療法が実践できるかを,PD症例を基に示す.ここでは「なにを,どのように」治療するかという理学療法プログラムも,「いつ,どれくらい」行うかという日常生活のスケジュールのなかで位置づけることが重要である.

 更に,疾患に特異的な理学療法場面に即した治療効果判定として,当院における歩行分析方法をMSAの治療効果の分析として紹介する.

とびら

英会話を学びながら思うこと

著者: 佐竹將宏

ページ範囲:P.855 - P.855

 理学療法の世界に入って,やってみたいと思ったことのひとつに海外での生活があります.入学と同時に英語による専門用語が飛び交っていたので,その夢が自然と沸いて出ても不思議ではないのですが,最近,海外へ行く機会があり,一念発起,英会話学校へ通い始めました.

 英会話学校は明るく活気があり,待合室では講師との気軽な会話が交わされています.しかし,英会話のできない私には話しかけて欲しくありません.レッスン中には,よく「あなたの好きなことは何ですか」と聞かれます.あなたの好きなスポーツは何?あなたの好きな食べ物は?動物は?場所は?色は?音楽は?歌手は?俳優は?……次から次と何が好きかを聞かれます.どんな動物が好きかと聞かれてもこの年になって思うことでもなく,困ってしまう質問も多くあります.答えられないときは沈黙しかありません.

入門講座 映像情報の活用法・6

今後の展望

著者: 夏目健文

ページ範囲:P.891 - P.896

 1.はじめに

 最終回では,まずオフラインにおける映像情報の活用として,3次元動作解析とDVDについて取り上げる.次にオンラインや電波を通しての映像情報の活用として,遠隔医療システムについて取り上げる,更に,最近注目されているコンピュータビジョンの研究成果の1つ仮想化現実(Virtualized Reality)についてふれる.

講座 「まち」をつくる側からの提言・6

地方都市におけるバリアフリー化の実践

著者: 木村一裕

ページ範囲:P.897 - P.901

 1.はじめに

 地方都市と大都市の交通環境を比較すると,大都市圏や地方中枢都市では鉄道やバス等の公共交通が整備されているのに対し,地方都市では,公共交通のサービス水準が低く,自動車交通が果たす役割が相対的に大きいことがあげられる.このことは,自動車を利用することのできない地方都市の住民は,モビリティの点において非常に不利な状況に置かれていることを意味している.

 高齢者や障害者は,自動車を利用できる環境にある人は多くはなく,これらの人々は,バス等の公共交通やタクシー,あるいは家族やボランティア団体等による送迎に頼らざるを得ない環境にある.更に乗合バスについては,生活路線の維持方策の確立を前提に,遅くとも平成13年度までに需給調整規制が廃止され,バス路線の参入・撤退が容易になることから,高齢者・障害者のみならず,地域住民の交通をどのように確保するかということは,自治体にとってきわめて重要な課題となっている.

 秋田県鷹巣町は,住民参加によって,着実に福祉のまちづくりが進められている町の1つである.本稿では,同町におけるまちづくり活動,交通環境整備の活動を紹介し,地方における今後の交通確保について考察してみたい.

Treasure Hunting

地域住民の啓発にたゆまぬ情熱―鶯 春夫氏(橋本病院/うぐいすリハビリ研究所)

著者: 編集室

ページ範囲:P.903 - P.903

 編集子の手元に1枚のうぐいす色の名刺がある.今年の5月,広島市で行われた第36回日本理学療法学術大会の際にお目にかかって頂戴したものである.その人物が今月ご登場いただいた鶯春夫氏である.氏の仕事ぶりは本誌9月号特集「自営理学療法士の活動」で報告していただいたので,目にとめた読者も多いことと思うが,ここでは理学療法士としての氏の歩みとユニークな活動内容を紹介することにしよう.

あんてな

国立専門学校の将来像

著者: 額谷一夫

ページ範囲:P.904 - P.905

 これまでの流れ

 日本には理学療法士を養成する国立専門学校は10校あります.厚生労働省立が9校,文部科学省立が1校で,いずれも3年制をとっています.学校数の急増に伴い現在(2000年4月)理学療法士養成校に占める国立専門学校数の割合は約1割弱,また養成定員からみると4.5%となっています1).いずれもその設立年は古く,1963年の国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院の開校を皮切りに一番新しい国立専門学校でも1965年の理学療法士及び作業療法士法成立から17年後に開設されています.

 このため,厚生労働省立の9校はこれまで3,332名の理学療法学科卒業生を輩出し2),これは現在の理学療法士有資格者の約16%を占めています.また,厚生労働省立以外の教育機関で働く理学療法士数は9校で260名にのぼり2),教育研究施設で働く常勤理学療法士の推計約34%を占めていると考えられます.

1ページ講座 介護保険のポイント・12

介護保険の現状と課題

著者: 香川幸次郎

ページ範囲:P.906 - P.906

 平成12年4月にスタートした介護保険制度は約1年半が経過した.走りながら制度を改善していくとされた介護保険制度の実態や問題点が徐々に見えてきている.1ページ講座の最終回である今回は,介護保険の現状と問題点を概括し,今後の課題について述べてみたい.

 平成13年4月の介護保険事業報告(暫定)によると,第1号被保険者数は4月末現在で2,247万3,297人で,要介護(要支援)認定者数は第1号被保険者で249万1,311人,2号被保険者で9万1,148人である.第1号被保険者に占める第1号被保険者認定者の割合は11.1%であり,認定者総数に占める第1号被保険者の割合は96.5%である.

報告

昇段能力と膝伸展筋力の関係

著者: 青木詩子 ,   山﨑裕司 ,   横山仁志 ,   大森圭貢 ,   笠原美千代 ,   平木幸治

ページ範囲:P.907 - P.910

はじめに

 段差昇降は加齢や活動量の低下による下肢筋力低下によって障害されやすい活動であり,下肢筋力と密接な関連のあることが報告されている1,2).また,沢井ら3)は高齢者が社会活動に積極的に参加できるだけの下肢筋機能の指標として階段や昇段能力を挙げている.諸外国で行われている人口調査1,4-7)でも,高齢者の動作能力を把握するための指標として昇段能力を用いているものが多い.しかし,いずれの先行研究においても,昇段に必要な下肢筋力水準について具体的な数値を提示したものはない.

 筆者らは,これまで運動器疾患のない高齢者を対象に,歩行自立に必要な下肢筋力について検討し8),これらを把握することが高齢者の筋力強化の必要性を明らかにしたり,動作障害の原因を分析したりするうえで必要なことを述べてきた9).本研究では,このような観点から昇段能力と膝伸展筋力の関連について検討したので報告する.

資料

第36回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2001年3月2日実施) 模範解答と解説・Ⅵ―理学療法・作業療法共通問題(3)

著者: 乾公美 ,   武田秀勝 ,   乗安整而 ,   宮本重範 ,   橋本伸也 ,   吉尾雅春 ,   田中敏明 ,   小塚直樹 ,   青木光広 ,   石川朗 ,   高柳清美 ,   片寄正樹 ,   小島悟

ページ範囲:P.911 - P.916

プログレス

代償運動と代償動作

著者: 宮本省三

ページ範囲:P.918 - P.919

 代償運動と代償動作は,リハビリテーションの臨床において日常的に観察される現象である.ここでは,その病態運動学的なメカニズムと運動療法の考え方について解説する.

書評

―井上泰(著)―学生のための疾病論―人間が病気になるということ―臨床で役立つわかりやすい病態生理学読本

著者: 石倉隆

ページ範囲:P.878 - P.878

 臨床家として病院に勤務していた頃,カルテや処方箋に記された疾病の病態生理についての理解が乏しく,専門書を紐解いていたことを思い出す.理学療法士は,疾病に起因する機能・能力障害の概要は十分に理解していると思われるが,その生理学的機序や内科的な病態を理解しているかといわれればいささか心もとないものである.しかし,内科的な部分も含めた疾病の病態生理を理解することは,科学的根拠に基づく理学療法が求められている昨今では非常に重要なことであり,患者の体調やリスク管理を行なう上でも欠かすことのできない知識である.とはいうものの,様々な疾患が理学療法の対象となる現在において,全ての疾病の病態生理を理解することは頭底困難なことであると思われる.

 筆者はこれまで病態生理の理解のために書物に頼ることが多かったが,この手の教科書や専門書は基本的な知識の不足も手伝って,非常に難解なものが多かったように思う.しかし,今回刊行された井上泰先生による「学生のための疾病論一人間が病気になるということ」は,理学療法士の病態生理の苦手意識を払拭させる一冊になりそうである.

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文献抄録

ページ範囲:P.920 - P.921

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.924 - P.924

 21世紀最初の年が終わろうとしています.今年は明るい年であることを願ったのですが,今生きている者にとっては消しても消せない,恐らく人生の中でも忘れることのできない辛い1年であったと思います.人間にはいろいろな価値観や人生観,あるいは生き方があってよいわけですが,ニューヨークの事件だけはあってはならないこと.未曾有の事件が人類の破滅につながらないことを祈るしかありません.

 さて,師走になると来年こそは来年こそはと思いつつ早何年.このような反省の色に染まっているのは私だけでしょうか?毎年この時期には大いに反省し,この部屋の整理整頓,早々の脱稿等々,翌年の飛躍(というほど大げさな課題でもないのに)を誓うのですが,むしろ年々,悪化傾向をたどっているように感じています.これはもはや生活習慣病.この慢性疾患を治すよい方法をご存じの方にはぜひご教示願いたいと思います.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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