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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル35巻2号

2001年02月発行

雑誌目次

特集 公的介護保険

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.85 - P.85

 長い議論の末,21世紀のわが国を救う切り札として,平成12年4月1日から公的介護保険がスター卜した.大プロジェクトゆえに多くの点は問題を残したままの見切り発車である.走りながら3年毎に見直しを図るリハビリテーション医療は高齢者介護の社会化と自立支援を目的とする本制度と密接な関係を持ち,理学療法サービスは直接的な役割を担う.しばらくは,本制度の影響と適応と問題をモニターし続けることになるであろう.約半年が経過した時点での現状の報告と提言を各領域からいただいた.

介護保険下のリハビリテーション

著者: 浜村明徳

ページ範囲:P.87 - P.98

はじめに

 介護保険制度が開始され約半年が経過した.介護認定に基づきケアマネジャーがプランを作成,援助がスタートするという新しい仕組みにまだ慣れない状況が続いている.

 しかし,この4月には回復期リハビリテーション病棟が新設され,リハビリテーション治療の居場所が確立されたように思われる.また,地域リハビリテーションの支援体制づくりも徐々に広がりを見せる状況となってきた.更に,老人保健法の機能訓練事業は介護予防的地域保健活動としてモデルチェンジしようとしている.

 21世紀を迎えた今,リハビリテーションを取り巻く環境が大きく変化してきた.介護保険は契約関係のなかでどのようなリハビリテーションを提供するのかという新たなテーマを提供している.また,地域リハビリテーションの推進も必然のこととなりつつある.

 このような状況のなかで,リハビリテーション専門職としてどのように活動してゆくか,確かな道筋は掴んでいないが,課題や方向性などを論じてみたい.

介護施設運営における介護保険の実態と今後

著者: 牧田光代

ページ範囲:P.99 - P.104

はじめに

 介護保険法が2000年4月に施行された.その介護報酬額等から経営上の問題やサービスの質の維持が危ぶまれている.今回,介護施設,特に筆者の所属している通所介護施設を中心に,経営および運営面から介護保険について考察しながら,在宅ケアにおける理学療法ならびに通所介護施設の現状と今後のあり方について述べる.

介護保険下の在宅リハビリテーションの実態と理学療法士の役割

著者: 盛雅彦

ページ範囲:P.105 - P.110

はじめに

 平成12年4月1日から介護保険制度がスタートした.国は過去に保健や福祉の分野において,その時世を背景に既存の法律では対応が不十分であるとして新しい法律を登場させてきた.しかし一方で,どこかで取り組まれていた事業が効果的であるとわかったときに,それを手本として新たな制度を作り全国に通知するという手法も行っている.要介護予防や自立支援などの発想,コーディネーターとしてのケアマネージャーの位置づけや連携の必要性などは,決して新しい発想ではなく,既にリハビリテーション(以下リハビリ)の分野ではいわれていたことであり,「在宅」に長く携わってきた者にとっては当然理解されていたと思われる.

 今回は,在宅療養している心身障害高齢者の在宅リハビリについて,訪問サービスとしては保健事業の訪問指導や訪問看護ステーションと連携した経験から,また,通所サービスでは保健事業の機能訓練や老人保健施設の実地指導に携わった経験から理学療法士として在宅リハビリのあり方について提言してみたいと思う.

介護保険下の民間施設における理学療法士の役割

著者: 平岩和美 ,   畑野栄治

ページ範囲:P.111 - P.117

 平成12年4月にスタートした介護保険のケアマネジメントのなかにある問題指向型・目標指向型アプローチは元来,理学療法士が得意とするところである.そこでは,我々理学療法士にどのような役割が求められているのだろうか.どんなところに理学療法士の視点を活かしたらよいのであろうか.筆者は現在,広島市東部にある老人保健施設(以下,老健施設)に勤務している理学療法士であり,ケアマネージャーでもある.

 当医療法人は地域リハビリテーション(以下,地域リハ)に取り組んでおり,訪問看護ステーション,通所リハビリテーション(以下,通所リハ),通所介護,訪問介護,在宅介護支援センター居宅介護支援事業所,有床診療所などから構成されているが,平成4年の開設時から取り組んできた実践のなかから,介護保険下の民間施設における理学療法士の役割について提言したい.

〈現場からの提言〉

1.介護保険下の訪問リハビリテーションサービスの現状と問題点

著者: 下津光史

ページ範囲:P.118 - P.120

はじめに

 介護保険が施行されて医療・福祉制度は大きく変革した.今回,介護サービスのなかでも特に希少といわれている訪問リハビリテーションサービス(以下,訪問リハ)が介護保険によりどのような影響を受けたか,当訪問看護ステーションの状況を基に報告する.そして,なぜそのような状況に変わっていったのか総括し,そのうえでより多くのセラピストが訪問リハ業務を行える土台として訪問リハステーション制度の設立が必要であることを提言したい.

2.介護保険下の療養型病床群におけるリハビリテーション

著者: 横山司 ,   岩切真紀

ページ範囲:P.121 - P.123

はじめに

 宮崎温泉リハビリテーション病院(以下,当院と略)は,介護保険適応病棟が3病棟(①病棟56床,③病棟56床,⑤病棟50床)162床,医療保険適応病棟が1病棟28床,計190床で,理学療法Ⅱ,作業療法Ⅱの施設基準をもつ療養型病床群である.

 以下,当院における施設内リハ,退院患者に対する取り組みや今後の課題について述べる.

とびら

感性のアンテナ

著者: 遠山明子

ページ範囲:P.83 - P.83

 「感性」これは私がずっと大切にしてきた言葉です.「感性」を辞書で引いてみると,①感受性,②知識を形成する,対象を直観的に受け入れる能力とあり,更に「感受性」を引いてみると,外界の刺激を心に受け取る能力とあります.そして,「感性のアンテナ」これは私が創った言葉です.「感性のアンテナ」とは,「自分のなかにあり,外界(人・物・自然・その他のあらゆるもの)の発している信号を自分の心に感じ,受けとめようとする働きを助けるもの.よりたくさんの信号を受け取ろうとするもの」と私は捉えています.

 まだ肌寒いベランダに暖かく差し込む陽射しに春の匂いを感じ,青く澄みきった空の高さに秋の訪れを感じる.友人や家族のちょっとした表情やしぐさに,感情や環境の変化を感じてきました.言葉で言い表せないもの,目で明瞭に見ることができないもの,それを感じる心,感じようとする心.そんな心を,私は理学療法士としていつも持ち続けよう,大切にしようと心がけてきました.

入門講座 生活習慣病・2

肥満症

著者: 深川光司 ,   坂田利家

ページ範囲:P.125 - P.130

 1.はじめに

 肥満は身体に脂肪(体脂肪)が過剰に蓄積した状態である.体脂肪の寡多を判定するには,国際的にも通用する体容量指数(BMI;body mass index)注1)が広く一般に用いられている.肥満を摂取カロリーと消費カロリーのバランスから考えると,摂取カロリーの過剰または消費カロリーの低下から,1日に消費する以上の余剰なカロリーが体脂肪として蓄積され肥満になる.運動障害があれば当然運動障害のない人と比べて,消費カロリーの低下が生じやすく,それだけ肥満になりやすいと考えられる.

 肥満はすべて健康障害につながるのかというと,必ずしもそうではない.糖尿病,高血圧症,虚血性心臓病といったコモン・ディジーズ(common disease)を合併している肥満,あるいは合併する危険性の高い内臓脂肪注2)型肥満や食行動異常を伴う肥満などは治療が必要になるので,このような肥満を肥満症として区別する.

 運動障害のある患者にとって,肥満は運動機能回復の障害になる.その場合,治療上も減量が必須となり,肥満症として取り扱われる.運動障害のある肥満症患者が減量するうえで,運動障害を有していることに対する配慮が必要になる.本稿ではまず,肥満症の定義と成因について述べ,次に運動障害を有する肥満症の治療について述べたい.

Treasure Hunting

理学療法をベースに福祉の世界に―吉井智晴さん(特別養護老人ホーム正吉苑リハビリテーション部)

著者: 編集室

ページ範囲:P.131 - P.131

 21世紀2回目,今月の本欄では,嫌なことや困難にぶつかっても,いつも「何とかなる」と思って公私共に乗り切ってきたとおっしゃる吉井智晴さんにご登場いただき,その「何とかなる」精神の一端を垣間見させていただくことにする.

あんてな

臨床理学療法研究会の紹介

著者: 藤川孝満

ページ範囲:P.132 - P.133

はじめに

 理学療法はリハビリテーション医学の1つとして,障害をもった人々と共に発展してきた.しかし今日においては,社会構造の複雑化,新たな疾患の出現,医学の驚異的な発展など,理学療法を取り巻く環境は目に見えて変化している.

 こうした状況のなかで,より良い「理学療法」というものを提供していくためには,対象者のみならず,我々理学療法士も障害の予防,治療という観点から自己努力を重ねていく必要がある.その方法論は千差万別であるが,勉強会形式もその1つといえる.この勉強会形式とは,ある共通のテーマを決め,各自がそのテーマについて目的意識をもって参加し,互いに検討していくというものである.

 ここでは,以上のことを考慮して設立した臨床理学療法研究会発足の経緯と活動内容を紹介する.

1ページ講座 介護保険のポイント・2

申請から利用までの手順

著者: 香川幸次郎

ページ範囲:P.134 - P.134

 申請から利用までの手順は大きく2つの段階から成り立っている.前者は保険者である市町村による要介護認定であり,後者はサービスの利用である.

 要介護認定は,被保険者である利用者が市町村に保険給付(介護サービス)の申請を行うことから手続きが開始される.申請は本人,家族および指定居宅介護支援事業者または介護保健施設が本人に代わって手続きを行うことができる.市町村は申請を受け,市町村の職員または介護支援専門員を当該被保険者宅や介護保健施設・病院等に派遣し,面接調査を行う.面接調査の内容は,厚生省が定めた様式に基づき,項目が設定されている基本調査(日常生活における各動作の要介護状態や問題行動および特別な医療等85項目)を中心に行われるとともに,基本調査項目で介護に影響を与える状況等を記載すること(特記事項)や生活全般を調べる概況調査を実施する.

講座 応用行動分析学・2

理学療法における応用行動分析学の基礎―2.技法の展開

著者: 山本淳一

ページ範囲:P.135 - P.142

 1.オペラント行動とレスポンデント行動

 1)オペラント行動とレスポンデント行動

 連載の第1回目では,応用行動分析学の理論と技法の基礎的なところについて述べてきた.今回は,第2回目として,理論を新たな視点からもう一度整理し,また新たな技法について述べていくことにする.

 人間の行動は,オペラント(operant)行動とレスポンデント(respondent)行動とに分けられる(注1).オペラント行動は随意的行動ともいわれ,「先行刺激(A),行動(B),後続刺激(C)」の3項関係によって成立,維持しており,特に行動をした結果与えられる後続刺激によって支えられている行動である.このような環境刺激と行動との関係を「3項随伴性(three-term contingency)」または,「行動随伴性(behavior contingency)」と呼ぶ.

報告

頸椎椎弓形成術術後における装具非使用下での早期運動療法の経験

著者: 井上慶子 ,   坂本浩樹 ,   早田尊彦 ,   橋本伸朗 ,   野村一俊 ,   平野真子

ページ範囲:P.143 - P.146

はじめに

 頸椎椎弓形成術後の治療に抵抗する頸部痛1,2)の原因として,頸椎装具外固定期間の影響があげられる.木家らは,装具を使用せず早期離床し良好な結果を得たと報告3)している.当院では1998年7月より術式を変更することなく,術後の運動療法を装具非使用下で行っているので,その短期治療成績を報告する.

プログレス

脳細胞のアポトーシス

著者: 石田和人

ページ範囲:P.147 - P.149

 アポトーシス(apoptosis)は1972年,Kerr,Wyllie,Curieらにより細胞死の形態的特徴として初めて報告された.その後,分子生物学の急速な発展や細胞死に対する関心の高まりから,アポトーシス研究は過熱状態といえるほど進展し,分子メカニズムを主とした機能的側面についての研究が進んだ.また,脳科学の分野においても,アポトーシスはその生理学的側面である神経の発生や分化と深く関わり,脳虚血や神経変性疾患など脳の障害との関連が数多く報告され,神経細胞死メカニズムの一因として注目されている.

学会印象記 第7回QOL・ADL研究大会

新しい人生の再構築に向かって―対象者の人生と私の人生と

著者: 森上紀子

ページ範囲:P.150 - P.151

 初めて見るナナカマドに迎えられ札幌に着いた.「QOL向上のためのADL評価と技術」がテーマの小さな大会広告を目にしたとき,お腹が空いた子供が御飯の炊けるにおいに吸い寄せられるように参加を決めた.「11月になって根雪にならないと葉が落ちないんです.雪とナナカマドの赤い実のコントラストの美しさをお客さんに見せてあげたいな」タクシーの運転手さんの言葉に出会いの嬉しさを感じた.10月28,29日に札幌医科大学で行われた第7回QOL・ADL研究大会に参加した私の印象を皆様にお伝えしたい.

書評

―斎藤清二(著)―「はじめての医療面接」―コミュニケーション技法とその学び方

著者: 神津忠彦

ページ範囲:P.142 - P.142

 対話は治療を構成する重要な要素のひとつである.医師を志す者はもちろんのこと,すでに長い間医師として診療に携わってきた者であっても,患者と向き合う場における自らの在り方を学び,振り返り,向上を求めて研鑽し続けることは,プロフェッショナルとしての義務であり,喜びでもある.

 医学・科学技術・医療・社会が激しく変化する中で,日本でも医学教育改革が急ピッチで進んでいる.言うまでもなく,改革の主眼のひとつは良医の育成にある.知識偏重の伝授型教育から脱却し,医師に期待される臨床技能や,態度,習慣,考え方を身につけさせるための,バランスのとれた医学教育が模索されている.その中で医療面接に関する教育については,態度ばかりでなく,その根底にある心の在り方までも含んだ領域であるだけに,ともすれば教員にも学生にもある種の戸惑いを惹き起こしやすい.その意味で本書は,医療面接をめぐる学習を開始しようとする学生ばかりでなく,教育に携わる教員にとっても好適なガイドブックとして,生涯にわたる良き伴侶となるであろう.

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文献抄録

ページ範囲:P.152 - P.153

編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.156 - P.156

 新しい世紀を迎えたとたん,全国を覆うすごい寒波が押し寄せ,もしかして不安が先立つ新世紀を占っているのかと嫌な予感もしましたが,本誌が発行される2月には,夢多き新世紀を語り合えることを期待したいと思います.それにしても,地球温暖化が重大な議題になっている今,何か変ですね.

 本誌特集は公的介護保険を取り上げました.公的介護保険が難産だったように,この企画も難産でした.最初は介護保険スタートに合わせて発行というアイデアもありましたが,あれだけ多くの不満が解決せぬまま経過しており,せっかくご執筆いただいても発行時期に予期せぬ現実が生じたらという心配があって,発行の時期を1年近く遅らせました.その間じっと介護保険の動向を眺めていましたが,そのスタートは驚くほど静かで,かえって拍子抜けしてしまいました.しかし,やはりわが国全土を対象とした膨大な実験みたいなものですから,ご執筆いただいた約半年後というのはまだまだデータをそろえている段階で,簡単には実態が浮かび上がらず,その影響がどのように及んでいるのかもつかみにくく,ご執筆には大変なご苦労があっただろうと思います.改めて厚くお礼申し上げます.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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