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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル35巻4号

2001年04月発行

雑誌目次

特集 理学療法におけるパラダイム転換

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.233 - P.233

 の4半世紀のあいだに,理学療法を取り巻く情勢や環境は著しく変化している.かつては,まず理学療法そのものを世に説明することが私たちの重要な仕事であった.すでに数千人のオーダーで新人が誕生する昨今では,想像できない時代である.いわば激動の波のなかで,従来のパラダイムの再検討がはじめられようとしている.

 この転換点の現在に在ることの意味を含めて,今号では多角的な領域から分析を行っていただいた.

パラダイム転換と理学療法

著者: 網本和

ページ範囲:P.235 - P.238

 パラダイムについて

 今日パラダイムという言葉は,きわめて一般的な用語として人口に膾炙している.例えば新聞の経済欄では「銀行中心に企業が株式を持ち合う市場構造から,国民が全体でリスクを負う株式パラダイムの転換が課題である」などと記されている.ここでいうパラダイムとは考え方,物の見方という程の意味であろう.

 しかしKuhn(1962)の定義は,「一定の期間研究者の共同体にモデルとなる問題や解法を提供する一般的に認められた科学的業績」をパラダイムとするものであり,限定的専門的な科学史的用語である.更にKuhnの業績について注目すべきことは,野家(1998)に拠れば,科学理論の転換が進歩の思想に基づいて連続的に起こるのではなく,断続的に起こり,またそれが通約不可能性を持つと主張する点であるという.ここでの通約不可能性とは,パラダイム転換の前後では同じ用語や概念を用いたとしても意味の変容が起こることを示している.

疼痛の機序と治療におけるパラダイム転換

著者: 鈴木重行 ,   平野幸伸 ,   長谷川祐一

ページ範囲:P.239 - P.246

はじめに

 疼痛は生体防御系として最も古い感覚神経系として知られている.しかしながら,疼痛の信号を伝達する神経線維は生体のなかでも最も細い神経系が司っているため,その反応は神経生理学的,免疫学的,組織学的に詳細に解明されていない段階である.更に,理学療法のごとく,疼痛反応が生体に起こっている状態で,外来性に何らかの刺激を与えたときの生体反応のメカニズムも十分に解っているとはいい難い,しかしながら,このような状態のなかでも,我々は疼痛で苦しむ患者に理学療法を提供し続けなければならない.幸いにして,各種実験手法の進歩により,疼痛周辺の事柄についても多くのことが解明されつつある.したがって,我々は疼痛周辺の知識を今一度整理し,事実を明確にし,疼痛に対する理学療法についてできる限り根拠に基づいた治療法を展開するとともに,臨床で新しい現象を発見したときでも,基礎医学で解明されている事実に立ち返り,理論展開するよう心がけなければならない.

 本稿では,現時点で解明されている疼痛周辺の機序と,理学療法領域では今まで気づかれなかった治療法も紹介しながら,理学療法の対象となる疼痛に対する理学療法の流れを考えたい.

筋力評価におけるパラダイム転換

著者: 山﨑裕司 ,   青木詩子 ,   横山仁志 ,   大森圭貢 ,   笠原美千代 ,   平木幸治

ページ範囲:P.247 - P.252

はじめに

 本稿では,現時点での筋力評価の問題点を大きく2つ取り上げ,それらにおけるパラダイムの転換を試みた.第一の問題点は,筋力評価結果が能力障害と関連づけられていないことである.そこで膝伸展筋力と移動能力の関連を検討し,どの程度の筋力低下が移動能力を障害するのかについて明らかにした.第二点は筋力評価機器の問題であり,客観性と利便性を兼ね備えた評価機器・評価方法を提案した.

 更に,それらの測定値と移動能力の関連についても触れた.そして,最後に筋力評価におけるパラダイムの転換が,我々理学療法士にもたらしてくれる有益性について考察した.なお,ここでの筋力評価は高齢者に生じた廃用性の下肢筋力低下を射程に置いて解説した.

高次神経機能測定におけるパラダイム変換

著者: 杉下守弘

ページ範囲:P.253 - P.256

 高次神経機能障害とは,失語症,失行症,失認症,健忘症など,大脳の部分的損傷で生ずる心理的障害を指すと考えて良いであろう.したがって,高次神経機能というと,言語,高次運動,知覚,記憶などの機能を指すと思われる.本稿は①高次神経機能障害の測定という問題と,②高次神経機能が行われている時,正常脳はどのような活動をしているかという正常脳の高次神経機能測定を対象として,これまでのパラダイムとその問題点を論じたい.

理学療法研究法におけるパラダイム転換

著者: 大渕修一

ページ範囲:P.257 - P.263

はじめに

 来るべき少子高齢化社会に向けた社会保障制度の見直しが急速に進められている.特に医療費の削減は最優先課題であり,理学療法の現場でも実感できるものになってきた.このような医療費削減を背景として,エビデンスベーストメディスン(evidence-based medicine;EBM)をやや短絡的に利用した米国型の医療費削減手法が紹介されるにつれ,十分なエビデンス(治療効果に対する科学的な評価)を持たない理学療法は危機にさらされるのではないかと恐怖を覚える.第35回日本理学療法士学会では「理学療法の効果判定」を主題に積極的な意見の交換が行われ,こうした危機感は現実のものであることを伺わせる.少なくとも,理学療法は変革の時期にあることは間違いない.

 とはいえ,ただやみくもに変革をすればよい訳ではなく,中長期的な視野にたって方向性を見極め,21世紀の国民の福祉に対する理学療法士の役割を明確にすることがなければ,いたずらに不安を増大させるばかりである.この時期にこれまでのパラダイムを振り返りこれからのパラダイムに思いを寄せることは,何にもまして重要なことだといえる.また,この作業は,研究者のみにその任があるのではなく,理学療法士がそれぞれ行うべき性格のものであると考えている.そこで筆者はこの随筆を問題提起としたい.

 ところでパラダイム(paradigm)とは,トーマス・クーンの定義によれば,「一般に認められた科学的業績で,一時期の間,専門家に対して問いや答え方のモデルを与えるもの.……また,ほかの対立競争する科学研究活動を棄てて,それを支持しようとする特に熱心なグループを集めるほど,前例のないユニークさをもつもの」であるとされており1),専門家集団に存在する一種のドグマとしての意味合いで紹介された2).理学療法を含む医学は応用科学であり,医学の進歩は,自身の進歩というよりは周辺科学の進歩に依存することが大きい.分子生物学やナノテクノロジーの進歩はこれまでの理学療法を根本的に変革させてしまう本来の意味でのパラダイムを提供する可能性を含んでいるが,こうした科学論は私の手に余るものであるし,発展の方向性が予測不可能な部分も多分に含んでいる.

 そこでここでは,パラダイムをドグマを打ち崩すほどの革命的な科学的業績というよりはむしろ,専門家集団が共有しうる考え方という意味で捉え,特により卑近な社会保障制度の変革と,それに対する理学療法士の役割の変化を考えるうえで重要であると考えているパラダイムについて焦点をあてて述べたい.

とびら

「地域理学療法事始め」

著者: 望月かほる

ページ範囲:P.231 - P.231

 「ご退院おめでとうございます」「有り難うございます」.意気揚々とご自宅に戻られます.在宅で過ごすこと1か月余り,今度は外来でお目に掛かる.「入院中はあんなに歩けたのに,家に戻ったら全然歩けないんです.ベッドから起きるのも大変なんです.今度は外来のリハビリに通いますから宜しくお願いいたします」.こんなことが続くと,この方の入院中の機能訓練はなんだったんだろうと考えざるを得なくなる.

 老人保健法が施行された1983年,縁あって東京都練馬区に就職.自分は地域において理学療法士として何をすべきか,何が出来るのか,悩む日が続きました.半年間位は前の職場で働いている夢を見たり,今思えば神経性大腸炎だったんですね,急行電車を手前の駅に臨時停車してもらったこともありました.

入門講座 生活習慣病・4

高血圧症

著者: 荒川規矩男

ページ範囲:P.265 - P.269

 1.高血圧症と血圧値分類

 血圧とは,心臓から送り出された血液が血管壁に与える圧のことで,心臓が収縮し,血液が血管に送り出された時の圧(収縮期圧)が正常では120mmHg前後,心臓が拡張した時でもまだ血管内には圧(拡張期圧)が70mmHg前後残っている.

 精神的に興奮したり,肉体的に力んだりすると,血圧は一過性に上がるが,それがいつまでも上がりっぱなしで,収縮期圧が140mmHg,拡張期圧が90mmHgの線をいずれか一方でも越えると,高血圧症という.これは1993年にWHO(国際保健機構)とISH(国際高血圧学会)が共同して,それまでの定義を改訂して決めたもので,今日では世界中でこれが基準となっている(図1)1).そして収縮期圧が20ミリずつあがるごとに軽症→中等症→重症となり,拡張期圧のほうも10ミリずつ上がるごとに同様にグレードアップする1)

 一方,収縮期圧140/拡張期圧90mmHg未満であれば正常血圧であることも1993年の改訂以来変わりないが,そのなかの高血圧の直下の区域(すなわち,収縮期圧が139~130mmHg,拡張期圧が89~85mmHg)を「正常高値」と呼ぶこととなった2)

新人理学療法士へのメッセージ

本当に大切なものは目に見えない

著者: 佐藤みゆき

ページ範囲:P.270 - P.271

 歓迎新人ご―行様

 新人の皆さま理学療法士の世界へようこそ!あなたも遂に,この泥沼のようなブラックホールのような奥のふか~い世界の扉を開けてしまったのですね.ご愁傷様.私も十数年前,この世界に足を踏み入れてしまった者です.実習時代の私は,「失敗したぁ.動作分析?観察力とは私の最も苦手とする力.しかもそれをレポートするんだって?」障害者の役に立ちたいという理由でPTを目指した私には衝撃的な出来事.間違っちゃった,絶対自分には向かない.でもな,ここまで来ちゃったしな.親に学費も出して貰っちゃったしな.勇気のない私はとりあえずPTになることに.「結婚したらやめちゃおー.」

 社会人になってやっぱりできない動作分析.それでも,とりあえずやるにしても,いい加減なことはやりたくなかった私は親切な先輩PTに恵まれて丁寧に教えていただいた.「やってれば見えるようになる」と励まされながら3年(お世話になりました).本当に動作が見えるようになった.(と思った)その頃の私は,「なーんだ単純だな,こんなの素人だってちゃんと教えてもらえばできるよ.PTとかいって専門集団ぶって偉そうにしてるけど,大して中身のないようなことを,さも学問であるかの如く,つまらないことを研究と称してやってるばかな集団だな」と思っていた.(尊敬する先輩諸氏殿,本当にごめんなさい.)

『武論尊に学ぶ信念』

著者: 今井覚志

ページ範囲:P.272 - P.272

 僕は7年目の理学療法士です.「理学療法士は〇〇であるべき」などと偉いことは言えません.ですから,理学療法に関連した自分自身の反省や考えを,思いつくままに羅列したいと思います.

講座 最新電気生理学・1

体性感覚誘発電位(Somatosensory Evoked Potentials;SEP)の臨床応用

著者: 松永義博

ページ範囲:P.273 - P.278

 1.はじめに

 体性感覚誘発電位(Somatosensory Evoked Potentials;以下SEP)は生体における感覚神経機能を検索する方法であり,1947年,Dawsonがヒトの尺骨神経および外側膝窩神経を電気刺激し,重積法を用いて頭皮上よりその誘発電位を導出・記録することに成功し,その後1952年に電子計算機による加算平均法を用いてSEP内の小さな振幅の初期陽性電位を導出・記録することに成功したのが端緒とされる.それ以来,基礎的,臨床的研究が活発に行われるようになり,現在では各分野で広く神経機能的補助診断法として臨床応用されている.

 この導出法は大きく2つの方法に分けることができる.1つは基準電極を手背,肩,膝などの頭部以外に設置する方法(遠隔電場電位,far-field potentials)と基準電極を耳朶,前額部等に設置する方法(近傍電場電位,near-field potentials)であり,前者は頭皮上の1個の記録電極から皮質下起源のより多くの場所からの電位を記録・導出することができるが,心電図や筋電図などが混入しやすいため安定した電位が得られにくい.一方,後者では,限られた部位からの導出になるが,より安定した電位の記録・導出が可能である.いずれも電極を体表面に設置することで非侵襲的に行うことが可能で,より安全な方法であるが,皮膚におけるインピーダンスの影響を受けるため前処置が必要であり,更には多くの加算回数が必要であることから,ある程度の測定時間を必要とする.

 もう1つの導出法が,侵襲的方法である脊髄電位導出である.これは脊髄硬膜外腔に記録電極を設置・固定し,刺激電極を末梢神経および脊髄硬膜外腔等に設置して脊髄の上行性,下行性電位を導出・記録するもので,より鋭敏な波形の導出が可能である.しかも多くの加算を必要とせず,測定時間が短くてすみ,周囲の皮膚,皮下組織の電気抵抗を受けずに瞬時に導出できるので,主に脊椎・脊髄手術時のモニタリングや脊髄機能を評価するのに用いられている.

 筆者は従来より,体表面導出法による体性感覚誘発電位を脳血管障害や脊椎・脊髄疾患等に対して行ってきた.本稿では,その導出手技およびデータの解釈などについて,自験例を提示しながら述べることにする.

Treasure Hunting

行政の場で「予防」の時代の理学療法を考える―久富ひろみさん(東京都多摩市健康福祉部在宅福祉課)

著者: 編集室

ページ範囲:P.279 - P.279

 「ふと気がつくと,娘が自分で選んだ道を歩もうとしていました.その志望動機が書かれた文章を読むと,私が歩んできた道をしっかり見つめていてくれたのでした.その結果の選択でした.」

 久富ひろみさんから送られてきたメモの冒頭部分である.今どきこんな親子関係があるのかとの思いが一瞬脳裏をかすめたが,「何もいわずとも,子どもは親の生き方をしっかり見ている」という久富さんの指摘のほうがやはり当たっているなと直ぐに納得したものでした.

あんてな

岩手県の内部障害研究会の活動

著者: 中田隆文

ページ範囲:P.280 - P.281

 研究会の始まり

 これから紹介する研究会の活動は,全国各地で活動されている研究会とは少々趣きの変わったものといえよう.まず,この研究会は内部障害研究会という名称で活動しているが,理学療法士協会の生涯学習のプログラム専門領域研究部会とは異なり,独自の研究会とし存在している.もちろん研究会で扱うテーマは内部障害であり,活動の主体が理学療法士であることに違いはない.全国にはこんな形の研究会活動をしている理学療法士もいるのだとご理解していただければ幸いである.

 そもそも岩手県の理学療法士の間で,内部障害について勉強をしないかという話が持ち上がったのは平成10年のことだった.最初に呼びかけをされたのは,岩手医科大学附属循環器医療センターの佐藤滋先生だった.佐藤先生は同センター心臓リハビリテーション室の業務に開設当初から従事し,循環器疾患の理学療法をテーマをこれまで種々の研究をされてきた.曲がりなりにも呼吸障害の理学療法に携わってきた筆者も,県内で内部障害の勉強会を行いたいと考えていて,渡りに船とばかり,研究会立ち上げの準備にかかった.

1ページ講座 介護保険のポイント・4

認定調査

著者: 香川幸次郎

ページ範囲:P.282 - P.282

 介護保険では,保険給付(介護サービス)を受けるためには,被保険者が市町村の窓口に要介護認定の申請をしなければならない.市町村は申請を受けて,職員等を被保険者の居住先(自宅や施設等)に派遣し,要介護認定に係わる調査を行わせる.調査は当該市町村の職員が行うほか,介護保険施設および指定居住介護支援事業者に委託でき,これら施設,事業者に所属する介護支援専門員(都道府県が実施する認定調査に関する研修を修了)が調査を行うこととなっている.

 認定調査内容は,概況調査と基本調査および特記事項の三者で構成されている.概況調査は①調査対象者の住所や年齢,性別といった属性,②現在受けているサービス(介護保険で給付されるサービス等)や,③調査対象者の主訴,家族状況,住居環境,虐待の有無等である.こうした情報から,対象者の生活の状況を知ることができる.認定調査の中心は基本調査であり,介護の手間の観点から調査するものである.基本調査は9群から構成されており,第1群は上下肢や関節の麻痺や拘縮の有無,第2群は寝返りや歩行といった移動動作,第3群は立ち上がりや片足立ち,浴槽の出入りや洗身といった複雑動作,第4群は食事や嚥下,排泄の介助といった特別な介護の有無,第5群は口腔清潔や更衣,居室の掃除や金銭管理といった身の回りに対する介護の有無,第6群は視力・聴力,意志の伝達や記憶,場所の理解といった意志疎通,そして第7群は昼夜逆転や徘徊,不潔行為といった問題行動に関する項目である.このほかに,特別な医療に関する項目として,点滴の管理や褥瘡の処置,カテーテルの管理等の12項目が,日常生活自立度に関する項目として,障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)と痴呆性老人の日常生活自立度の二者が設けられている.このうち,1群から7群の73項目および特別な医療12項目のデータを用いて一次判定の基準となる要介護認定基準時間が算出される.

原著

下肢スポーツ傷害の評価におけるアライメントと筋力の検討

著者: 川島敏生

ページ範囲:P.283 - P.288

 目的

 下肢スポーツ傷害の理学療法評価において,下肢のアライメントや筋力の測定は重要である.アライメントは静的アライメントと動的アライメントに分けられるが,スポーツ傷害の発生を考えた場合,荷重下での動的アライメントの異常が問題となる1).一方,下肢の運動様式はSteindler2)によりOpen Kinetic Chain(以下OKC)とClosed Kinetic Chain(以下CKC)に分類された.現在はOKCは非荷重での単関節の運動様式,CKCは荷重位での多関節の運動様式とされている3)が,スポーツ場面を考えた場合,CKCの筋力がOKCより重要となる4)

 しかし,臨床場面で静的アライメントの測定やOKCの筋力測定は行えるが,動的アライメントの定量化やCKCの筋力測定は難しい.そこで今回,動的アライメントの定量化を試み,静的アライメントと動的アライメントの間に相関関係が認められるか否かを検討した.

 また,CKCとOKCの筋力測定を行い,両者の間に相関関係が認められるか否かを検討した.これにより相関関係が認められれば,日常臨床で行われている静的アライメントやOKCの筋力測定から動的アライメントやCKC筋力を推測することが可能ではないかと考えた.更に,その発生において個体要因が指摘されている膝前十字靱帯(以下ACL)を損傷5-8)した者に対して同じ評価を行い,健常者と比較することでACL損傷発生における個体側の機能的・器質的要因を検討した.

プログレス

痴呆症の運動療法

著者: 白石浩 ,   友田宏幸 ,   田北昌史 ,   長尾哲彦 ,   岡田昌弘

ページ範囲:P.290 - P.293

はじめに

 昨年厚生省から発表された「平成11年老人保健施設調査の概況」によると,老人保健施設の入所者のうち痴呆症状が認められる人の割合は85.7%であったという.ちなみに特別養護老人ホーム入所者のそれは80.5%であり,ともに入所者の80%以上が痴呆症状を有しているという状況である(図1).痴呆症状のある高齢者では寝たきりの割合も高くなっており,QOL維持のために理学療法士が果たすべき役割は重要であるといえる.

 本稿では,痴呆患者の移動能力障害を中心に,最近のトピックも含めて,その運動療法について解説する.

学術大会の地とことん紹介

広島にきんさい!!―見て歩き食の広島,水と緑の平和都市

著者: 久保高行 ,   永尾進

ページ範囲:P.294 - P.299

 第36回日本理学療法学術大会の開催地・広島は,安土桃山時代の天正17年(1589年),毛利輝元が中国山地に源を発する太田川の河口に築城を始めて「広島」と命名したことに由来し,江戸時代には浅野家42万石の城下町として栄えました.また,太田川の6本の支流が貫くデルタ地帯には無数の橋がかけられ,その光景はさながら美しい「水の都」を彷彿とさせるものがあります.

 広島市は第2次世界大戦で,世界初の原爆被爆地となり街全体が廃墟と化しましたが,市民の不屈の努力により現在では水と緑の美しい街に復興しました.そして,高度経済成長のなかで都市機能の集積を図り,また周辺町村との合併により市域を拡大し,昭和55年(1980年)には全国で10番目の政令指定都市に移行するとともに,平成6年(1994年)には,当広島県理学療法士会もアジア競技大会を側面から援助しながら,成功させるなど,中四国地方の経済,文化,行政の中心都市として発展を続けています.

書評

―川久保清(著)―運動負荷心電図―その方法と読み方

著者: 村山正博

ページ範囲:P.288 - P.288

 循環器病学を専攻した後,私に最初に与えられたテーマが運動負荷心電図であったが,それが縁で運動心臓病学が終生のテーマとなった.当時,無線搬送によるテレメータ心電図が始まった頃であり,私の学位論文は「運動負荷中及び後の空間的ST-T変化の研究」であった,その頃の最大のテーマは虚血反応判定法と運動負荷試験の方法に関するものであったが,それらの方法や基準の標準化を図る目的で1975年(昭和50年)に木村栄一先生(当時,日本医大教授)を世話人代表として「循環器負荷研究会」が発足した.その後,テーマの範囲も広がり,この研究会は現在まで隆盛が続いている.運動負荷試験は虚血評価にとどまらず心機能評価・治療効果判定,運動処方の作成,さらにスポーツにおけるメディカルチェックの領域で広く利用されるに至り,また評価指標も心エコー図,核医学的指標,呼気ガス分析,代謝産物などまで広がっている.しかし,簡便かつ記録が正確で情報量の多い運動負荷心電図が基本であることは間違いない.

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文献抄録

ページ範囲:P.302 - P.303

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.306 - P.306

 今年の春は特に花粉が大量に飛んでいるそうで,インフルエンザがあまり流行しなかったので急に病気になった気分です.この花粉のことを除けば4月のこの時期は大好きな季節のひとつで,桜花の陰に新入生やフレッシュマンを迎えようとしているところです.なにやら大学の開始を秋からにしようとする動きもあるやに聞きますが,卒業と新学期の時期がこの花の季節にあるという経験は,少なくとも小生にとっては動かしがたいものであり,ひとつのパラダイムなのかもしれません.

 さて今号の特集は,「理学療法におけるパラダイム転換」です.小生はこの企画の立案担当であったいきがかり上,ひとつの項目を執筆せざるを得ない「幸運」を引き当ててしまい,とても苦労しました.しかし,小生担当以外のそれぞれの論文は,その領域の水準を凌駕する力作と思われます.鈴木論文では疼痛の治療に関し,理学療法士の提供する内容の画一性についての警鐘が発せられています.山﨑論文はいわば氏のこれまでの研究業績の1つの到達を示すものであると思われます.特に筋力評価の結果を能力障害の予測に連結させるという視点は注目に値するものといえるでしょう.杉下論文では,高次神経機能を評価する方法のこれまでの問題点と現在の最新の治験を極めて具体的かつわかりやすい表現で述べられています.技術革新がパラダイムを転換することの典型例をここにみることが可能です.大渕論文では,ドグマとパラダイムの危うい関係が論じられ,曲解されたEBMという興味深い指摘がなされています.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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