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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル36巻11号

2002年11月発行

雑誌目次

特集 超高齢者の骨・関節疾患の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.827 - P.827

 超高齢者とは,90歳以上の高齢者を指すことが多いが,高齢がもたらすリスクの中をより長く生き抜いている幸運な人々といえる.超高齢になると骨のみならず,内臓機能や神経機能あるいは意欲といった精神機能等のすべてにおいてそれだけ老化が進んでいると考えるべきで,既に種々の疾患に罹患している可能性が高く,整形外科的治療は合併症を併発しやすく,その回復能力も低下していることを前提にしてアプローチしなくてはならない.理学療法を進めるうえで総合的かつ的確な判断が求められる.そのノウハウを学ぶ特集企画である.

超高齢者の骨代謝とその異常(オステオポローシス)

著者: 佐々木崇寿

ページ範囲:P.829 - P.834

 骨の老化と骨粗霜症の概念

 骨は骨格系を構成する石灰化した結合組織で,生体の支持器官であるとともに体液の恒常性の調節器官である.骨は常に改造を繰り返し,次のような役割を果たしている.1)骨格は軟骨と200個以上もの骨から構成され,生体の支柱となる脊椎(椎骨)は,頸椎,胸椎,腰椎,仙椎,尾椎の5種からなる.2)運動器としての役割を担うのは,得格筋の付着した長管骨(上腕骨,大腿骨など)や扁平骨(側頭骨,下顎骨など)である.3)脳を収容する頭蓋骨,脊髄を収容する脊椎,肺や肝臓などの臓器を覆う肋骨には,これらの臓器を外力から保護する役割がある.4)骨には大量のミネラル,すなわち生体中の全Ca2+の95%,PO4-の85%,Mg2+の65%,そしてNa+の25%が貯蔵されている.5)骨は生体中で最大のミネラルの貯蔵器官であるが,イオン交換により体液の組成を一定に維持している.例えばCa2+濃度は,血清中で3mmol/l,骨液中(骨組織中の組織液)で1mmol/l,そして細胞内で3μmol/lである.6)長管骨の骨髄では造血(血球形成)が行われているが,個体の老齢化に伴い,造血の盛んな赤色骨髄は徐々に脂肪組織に置換され,黄色骨髄(脂肪髄)となって造血能が低下する.

 骨は肉眼的形態から,長管骨(上腕,前腕,大腿,下腿などの骨),短骨(椎骨など),扁平骨(顎,顔面,頭蓋の骨や肩甲骨),不規則骨(手根骨や腫骨など),合気骨(上顎洞をつくる上顎骨)に分けられる.器官としての骨の基本構造は,外側から骨膜,骨質,骨髄の3組織からなり,長管骨と一部の扁平骨では,これに関節軟骨が加わる.

超高齢者の骨・関節疾患に対する総合的アプローチ

著者: 山本精三

ページ範囲:P.835 - P.841

はじめに

 わが国では平均寿命が男性78.07歳,女性84.93歳1)となり,世界一の位置は変わらないことと,出生率の低下および衛生・医療の進歩とにより稀に見る人口の急速な高齢化が進行している.高齢者とは65歳以上を一般的にいうが,そのなかで75歳未満を前期高齢者,75歳以上を後期高齢者と呼んでいる.後期高齢者では前期高齢者と比較して,合併症として重篤なものや複数の合併症を保有する頻度が多くなる.さらに90歳以上の超高齢者となると手術あるいは理学療法を行う際は,術前または理学療法前に十分に患者の評価や合併症管理をしておかないと手術や理学療法を十分に生かせないことになる.場合によっては合併症の発生や合併症の悪化を招き,術前よりも精神状態の悪化,さらには日常生活動作(ADL)の悪化を起こしうる.悪化に至らなくても手術により局所の機能が改善されたにもかかわらず全体としてのADLは改善しなかったりすることが起こりうる.

 一方,高齢者の骨関節疾患の手術は,待機的手術と救急・準救急手術に大きく分けられる.待機的手術を行う疾患は膝,股関節の人工関節置換術などが主体となるリウマチあるいは変形性関節症疾患さらには頸椎,胸腰椎の変性疾患である.救急・準救急手術を行う高齢者の疾患は,大腿骨頸部骨折などの骨折外傷や外傷などにより急性発症の麻痺を起こす脊椎疾患などである.原則として,救急疾患である大腿骨頸部骨折などの骨折外傷に対しては,手術により早期に機能回復が可能となる治療法が大切である.後期高齢者,特に女性では既に骨粗鬆症が存在しており,大腿骨頸部骨折の発症機転として室内での立った位置からの転倒という外力の少ない外傷によるものが大部分である.さらに男性においても高齢化に伴い,骨折の発生頻度が増加している.大腿骨頸部骨折を一度起こした患者では,反対側の大腿骨頸部骨折を起こす頻度が高く,予防が重要である.骨折の予防には骨粗鬆症の治療,転倒予防,転倒のリスクファクターの改善や治療などがある.

 次に骨関節の疾患に限ってみても待機的手術の脊椎手術,人工関節手術などでは,手術前に他の骨関節疾患の合併を評価しておかないとADLが改善しないことがある.変形性膝関節症は脊柱管狭窄症を合併することは稀ではなく,一方の手術治療後最も障害の強い部位は改善しても,それまで臨床症状を強く呈してなかった別の部位の症状が強くなり,ADLの改善の妨げとなることは後期高齢者においてよく経験することである.

 このように高齢者,なかでも後期高齢者では,手術する部位だけでなく,内科的合併症,精神的機能,他の骨関節疾患の合併を評価して総合的にアプローチすることが大切である.

超高齢者の大腿骨頸部骨折手術後の理学療法

著者: 盆子原秀三 ,   梶原一

ページ範囲:P.843 - P.848

はじめに

 高齢者化社会にあるわが国では,年々不意の転倒による大腿骨頸部骨折患者が増加しつつある1).対象患者の平均年齢もそれに伴い上昇し,今回のテーマである90歳以上の超高齢者の大腿骨頸部骨折患者にもしばしば遭遇するようになった.

 近年,高齢者における大腿骨頸部骨折に対しては,長期臥床による合併症の防止を目的として,術後早期より荷重歩行を積極的に行い,早期歩行能力の獲得を目指す傾向にある2).また,クリニカルパスの導入による円滑な医療が求められつつある.しかしながら年齢が高くなるにつれて,受傷前の歩行自立の割合は減少し,また,全身的合併症を伴う症例も多く,慎重な対応が求められる.

 今回,超高齢者,特に90歳以上の大腿骨頸部骨折患者の症例を通して理学療法プロセスにおける留意点について述べたい.

超高齢者の膝障害と理学療法

著者: 斎藤幸広 ,   内田賢一 ,   友井貴子 ,   濱野俊明 ,   畠中佳代子

ページ範囲:P.849 - P.854

はじめに

 超高齢者は高齢者の延長にあり,その高齢者の概念の一つとして「高齢期者は中年期の命とりになる疾病を克服してきたいわば恵まれた集団である.ハイリスクグループは,高年に至らず淘汰されてしまっている」1)と述べられている.超高齢者となるとさらに加齢とともに体力・運動能力の低下により内部障害の疾患に罹患しやすくなる2)ことは容易に想像される.また骨粗鬆症や関節の退行変性による超高齢者の膝障害がもたらす活動性や自立性の低下がひいてはQOLの低下を招くことになる.超高齢者に対する理学療法は高齢者に対する理学療法と基本的に変わることはない.しかし,より早期からの理学療法の必要性と潜在的に存在する呼吸,循環および骨関節疾患など合併症の対応を十分考慮しておく必要がある.また長期入院は抑うつ状態など精神機能障害をもたらすことはよく知られ,理学療法を実施する際心理的状況の変化を見逃さず把握しておくことが必要となる3).超高齢者の膝疾患としては変形性膝関節症(膝OA),関節リウマチ(RA),骨折などがあげられる.本稿ではこれらの膝障害の問題点を検討し実際の理学療法について述べ,症例を供覧する.

超高齢者の脊椎圧迫骨折および脊柱管狭窄症における理学療法

著者: 徳永泉 ,   野畠啓明 ,   前川俊彦 ,   岩破康博

ページ範囲:P.855 - P.861

はじめに

 わが国は高齢化社会を迎え,骨粗鬆症を有する患者は2000年に1,200万人に達したといわれている.高齢者は,長年の習慣,背筋力の低下,脊椎圧迫骨折(以下,圧迫骨折)などのために姿勢は円背・後彎となりやすい.また間欠跛行を特徴とする脊柱管狭窄症は,腰背部痛,下肢の痛みやしびれ感のために身体活動性が低下している.これらの疾患では,体幹や下肢の筋力低下にバランス不良も伴って,ADL(activities of daily living;日常生活動作)やQOL(quality of life;生活の質)の低下となる.これらが進行すれば廃用症候群から寝たきりともなるため,これら2疾患は高齢者の自立,社会参加,ケアの面からも重要な疾患である.しかも,高齢者は他の病気や障害を伴い日常生活を送っていることも多く,生活環境や心理的要因も絡んで,対応に苦慮することも少なくない.

とびら

地球との対話

著者: 井上保

ページ範囲:P.825 - P.825

 今年の夏は猛烈に暑かった.25度を下らない寝苦しい熱帯夜と,気温が日の出とともにグングン上がり,30度をはるかに超えた日が続いた.

 地球温暖化,都市のヒートアイランド現象などの地球環境問題がとりあげられ,省エネや個々の生活スタイルの変容などが対策として叫ばれているが一向に効果が上がっていないようだ.職場は完全冷暖房,患者や利用者のために空気調整が欠かせない.通勤の車や電車バスなどの交通機関にも自宅にも,商店街や飲食店街にもエアコン.猛暑のわりには屋外のわずかな徒歩による移動以外はどこへ行っても快適な環境が保障されているというのが現実である.

理学療法の現場から

臨床現場から教育の現場へ

著者: 矢野秀典

ページ範囲:P.862 - P.863

 臨床から教育の現場への転向

 14年間(!) 横浜市内の地域密着型救急総合病院リハビリテーション科で私が勤務した年数です.何気なく(?)勤めていましたが,このように活字にしてみると,かなり長い年月のように思えます.この4月に現在所属するPT養成校に移動して約半年.14年に比べると半年などかなり短いはずなのですが,今,病院での臨床を振り返ってみるとずいぶんと懐かしい気がするのが不思議です.忙しい職場ではありましたが,リハビリテーション科のスタッフ,薬局のスタッフや看護師たち,それと脳神経外科の平元 周先生をはじめ医局の諸先生方に恵まれ楽しく仕事ができたと思います.そして,何といっても患者さんに恵まれました.

 臨床の中で自分が一番大切にしてきたことは,「患者さんに良くなってもらいたい,そのためには自分は何をするべきか,何ができるかを考える」ことです.このことは,PTの新人さんや臨床実習の学生さんにもできる限り伝えるようにと心がけてきました.ところが,実際には,患者さんにとって良い結果が出ず,悩んだことも多くありました.しかし,患者さんが良くなったり,患者さんや家族から感謝の言葉をかけられたときには喜びであり,臨床に対する勇気も出てきました.おそらく,臨床に携わっているPTの諸先生方は皆同じ気持なのでしょう.これがPTの醍醐味であると確信しているし,他のコ・メディカルの職種にはないPTの面白さなのでしょう.

プログレス

環境と呼吸器障害

著者: 山下弘二

ページ範囲:P.864 - P.865

はじめに

 科学技術の進歩により,人間の生活環境(ライフスタイルなど)は大きく,しかも急速に変わってきている.今後も人間の生活環境はより快適で利便性に優れた環境へと変化を続けると思われる.しかしながら,このような一見快適とみられた生活環境やライフスタイルの変化は,人間に恩恵ばかりもたらしたわけではなく,生活習慣病やストレスの増加など多くの健康問題を生みだしている.また,大気汚染,地球温暖化からダイオキシンなど多くの環境問題も人間の健康に大きな影響を与えるようになった.

 呼吸器は外界の環境に曝された臓器という特徴から,呼吸器障害(呼吸器疾患)の発生には環境因子が大きく影響している.そこで本稿では環境やライフスタイルに起因する呼吸器障害について概説する.

入門講座 福祉用具・2

車いす処方と駆動・姿勢要素

著者: 山中正紀

ページ範囲:P.867 - P.872

はじめに

 車いすは歩行障害者のための移動用具として位置づけられているが,車いすを必要とする人たちにとっては,寝る,座る,立つ,歩くといった基本的な日常生活動作のうち,座位以降の動作が困難となり座位生活が主体となる.したがって,車いすは単なる移動用具ではなく生活上不可欠な用具であり,そういう意味では生活用具ともいえる.また車いすを必要とする対象者は,脊髄損傷をはじめ,片麻痺,脳性麻痺,筋ジストロフィー症,また虚弱高齢者など多種多様で車いすに対するニーズも増加している.したがって,車いす処方は介護者も含めた使用者個々のニーズに合致した車いすをいかに処方・選択できるかが重要である.車いすはその製作方法によって種類が分かれるが,本稿ではそれぞれの処方上の留意点について説明するとともに車いすの採寸,車いすの駆動・姿勢について簡単に述べる.

あんてな

平和カップイン広島・国際交流車いすテニス大会における理学療法サービス活動

著者: 森田哲司 ,   門田正久 ,   佐々木昭 ,   河原睦枝

ページ範囲:P.873 - P.875

 これまでの流れ

 平和カップイン広島・国際交流車いすテニス大会(以下,ピースカップ)は,「広島から世界にPeace」をスローガンのもと,広島県車いすテニス協会(似下,HWTA)の主催で開催され,2002年で13回目を迎えようとしています.毎年秋に,国・内外から多数の選手が集まり,4日間にわたる熱戦が繰り広げられています.ピースカップは,2002年から競技ランクが一つあがり,世界で4番目に値する大会になったため,今年の試合内容はよりレベルアップすると思われます.ピースカップにおける理学療法サービス(以下,PTサービス)活動は,1996年に広島県で「第51回国体ひろしま大会」が開催され,続けて「第32回全国身体障害者スポーツ大会・おりつる大会」(以下,おりづる大会)が開催されたことをきっかけとして始まりました.おりづる大会では広島県理学療法士会(以下,県士会)が協力することになり,その活動の一つとして「スポーツ理学療法室」が設置されました.この大会でかかわった競技の中に車いすテニスがあり,その時に広島県の一人の選手から,「ピースカップにおいても,PTサービスを行ってもらいたい」という要望が出ました.この選手から依頼を受けた理学療法士(以下,PT)がスタッフを集め,ピースカップに出向いたのが,PTサービス活動のそもそもの始まりでした(といっても,最初は4名が集まっただけなのですが…).1997年からは正式にHWTAからの要請があり,ピースカップでの活動が具体化してきました.また,県士会としての事業化も実現し現在に至っています.

1ページ講座 理学療法用語~正しい意味がわかりますか?

「運動器」,「運動器」と「感覚器」,「筋再教育」

著者: 岡西哲夫

ページ範囲:P.876 - P.876

 1.運動器

 運動器とは,解剖学では身体各部の運動に携わる装置として,例えば,骨格筋と骨格(靱帯・関節を含む)というように整然と区別されている.しかし,筋の力が腱から骨に伝えられ,関節運動となるとき,これら運動器は,関節,筋,神経各系統の組み合わせとなって共同して働く.つまり,臨床的には,運動器は一つの機能単位として取り扱う必要がある.例えば,徒手筋力テストはこのような機能単位の働きの成果として発生する関節トルクを測っていることになる.その際,筋力は,筋の骨への附着の位置とか,関節角度変化に伴うモーメントアーム(関節の回転の中心から筋の力発揮方向までの距離)の変化や,筋の長さと張力の関係によって大きく変化する.

 最近は,超音波断層法の開発から,リアルタイムでこのような筋収縮中の筋線維や腱組織の動態を観察することが可能となった.例えば,垂直飛び動作や歩行において腓腹筋の強い張力発揮が見られる相については,腱組織が伸張され筋線維は長さをほとんど変えないで活動する傾向が観察された.この事実から,パフォーマンスの向上は,従来,筋の伸張-短縮サイクルによる筋力増強効果によって説明されていたが,実際は,筋線維は等尺性収縮を維持しながらパワー発揮に有利に機能し,腱組織は伸張とそれに続く短縮による速度発揮に貢献しているものと解釈されている1).すなわち,筋と腱は全体として,つまり筋腱複合体(muscle-tendon complex;MTC)としてパワー発揮,引いてはパフォーマンスに有利な状態をつくり出していると考えられている.

講座 理学療法の倫理・2

ターミナルケアの倫理

著者: 岡本珠代

ページ範囲:P.877 - P.882

 1.はじめに

 前回はインフォームド・コンセント(IC)を中心とするリハビリテーション・ケアの倫理的あり方を考察した.今回は,ICが必ずしも字義どおりには実現できない対象者の医療における倫理を考える.ターミナル期は通常がんなどの末期状態を指すが,ここでは後期高齢者を対象とするケアも含めて考える.ICはクライエントの自律の確立が前提となるが,高齢であったり,ターミナル期にある人々は,判断力や行動力の外見的な衰えから,ICの適用範囲から不当にはずされてしまうことがある.また,リハビリテーション・ニーズも無視されてしまいがちである.一般の人々を支配している,「ターミナル期が人生行路の諸段階の中で生命の下降線をたどる過程の終着点にすぎず,人としての活動や作業ニーズも極小化へ向かうだけである」という考えは誤解である.そのような観点がケアを規定すると,クライエント本人のふるまいも周囲の人の行動も貧しくする.どんな時期にあっても,正当な人間観と人権の確認が必要であるが,対象者が人権を主張したり抗議できないときにこそ,その人の尊厳の尊重を第一に考えるケアが求められる.その認識から痴呆期,ターミナル期のケアを見直すと,新しいリハビリテーション倫理の視点が得られるのではないかと思われる.

原著

臨床実習成績に対する妥当性の認識と帰属要因の関連

著者: 宮本謙三 ,   宅間豊 ,   井上佳和 ,   上野真美 ,   宮本祥子 ,   竹林秀晃 ,   岡部孝生

ページ範囲:P.883 - P.887

はじめに

 理学療法教育における臨床実習は,学内で行われる一斉教育とは異なり個別教育という学習形態で展開されている.そのため成績評価における客観性や公平性の確保が極めて困難であり,成績評価に対する懐疑的な意見も少なくない.指導内容や成績評価に同一条件を設定できない以上,成績結果に対する感情的な懐疑心は拭いきれない.

 こうした問題に対し,これまで成績評価方法の客観性に焦点を当て,統計学的な妥当性や信頼性の検討がなされてきた.しかしこれらは評価手続きの検証であり,個別教育の成果をいかなる観点から評価すべきかという本質的な問題を明らかにするものではない.教育評価が学生のために行われるものである以上,「どういった観点から評価すべきか」,あるいは「学生からみた妥当な評価とは」といった成績評価のあり方を吟味することも大切である.

 われわれは学生から見た成績評価の妥当性を,統計学的な妥当性ではなく主観的な妥当性としてとらえ,この妥当性を高めることが成績に対する懐疑心の払拭につながると考えている.ここで言う主観的な妥当性とは,成績評価が学生自身にとって納得のいくものであったか否かという評価のあり方の適切さを問うものである.そして,この妥当性の認識には学生のもつ成績結果の受け止め方,すなわち原因帰属(attribution)の傾向が大きな影響を及ぼしていると考えられる.

 原因帰属とは,個人の行動結果に対する解釈のあり方を指した心理学的な概念である.人は成功や失敗といった行動結果に向き合ったとき,自分の才能や努力の結果だと解釈したり,運の良し悪しで説明したりすることがある.こうした行動結果に対する解釈のあり方が,個人の持つ原因帰属の傾向である1)

 学習結果の原因帰属に関する研究は,Atkinsonの動機づけに関する研究から派生し,Rotterの統制位置の概念,すなわち運や外圧といった外的条件に責任を帰する「外的統制型」と,自己の能力や努力の程度という内的条件に帰する「内的統制型」の分類に始まる2).その後Weinerが,内的―外的という1次元の分類に加え,「安定型」と「変動型」という安定性因子を加味した2次元4要因のモデル(表1)を提示し3,4),教育心理学の領域で広く用いられている.しかし,原因帰属に関する研究の多くは,中等教育までの教科教育を対象にしたもので,理学療法教育に関するものは皆無といってよい5~8)

 臨床実習成績の主観的な妥当性とは,成績結果を学生自身が自らの学習行動に照らし合わせ,その成果として納得のいくところに成立する.そしてそこには,学生の持つ原因帰属の傾向と指導者の成績評価に対する考え方が反映されている.その意味で,どのような成績評価の視点,すなわちどのような帰属傾向をもたらす評価が学生にとって妥当な評価と認識されるのかを明らかにすることは,今後の臨床実習評価のあり方を検討するうえで重要な示唆を与えてくれるといえる.本研究は,学生からみた主観的な成績評価の妥当性と成績原因の帰属傾向を明らかにし,これらの関係性を把握しようとするものである.

初めての学会発表

充実した3日間

著者: 佐藤友則

ページ範囲:P.888 - P.889

 日韓共催ワールドカップの余韻が残る静岡市で,第37回日本理学療法学術大会が2002年7月4~6日の3日間にわたり開催されました.本大会は「医療環境,の変化と理学療法」をテーマに,837題の演題発表がなされ,理学療法の方向性について活発な議論がかわされました.今回の学術大会は私にとって初めての口述発表の場となり,忘れられない3日間となりました.ここでは,発表に至る経緯や学術大会に参加した感想を感じたままら綴りたいと思います.

雑誌レビュー

“Australian Journal of Physiotherapy”(2001年版)まとめ

著者: 玉利光太郎

ページ範囲:P.890 - P.897

はじめに

 2001年のAustralian Journal of Physiotherapyは,論説4編,原著論文20編,文献批評14編などを中心に構成されている.本稿では,原著論文の中から,神経系,骨関節系,評価計測,心肺系に関する論文11編を,批評を加えながらレビューしてみたい.

資料

第37回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2002年3月3日実施) 模範解答と解説・Ⅴ―理学療法・作業療法共通問題(2)

著者: 伊橋光二 ,   大島義彦 ,   内田勝雄 ,   八木忍 ,   伊藤友一 ,   三和真人 ,   百瀬公人 ,   小野武也 ,   鈴木克彦 ,   南澤忠儀

ページ範囲:P.898 - P.905

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文献抄録

ページ範囲:P.906 - P.907

編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.912 - P.912

 敬老の日,もうすぐ90歳を迎える父親のご機嫌伺いに静岡の片田舎を訪れた.近くに居を構える姉たちが何かと面倒を見ているが,春に連合いを亡くし,今は一人で生活をしている.雨が降らなければ早朝に約1時間の散歩をする.どんなものかと一度ついてまわった.海岸で拾った手頃な流木をつきながら,前を向いて歩いているときは異常と思えるほど規則正しいテンポでとにかく早い.しかし景色に見とれるとツツッとつまずいたり,ふらっとよろける.まだ立ち直れるが,他人が不安を感じるには十分である.こんな父だが,風邪を引きやすく,油断をすると痛風が出る.もともと血小板が少ないにもかかわらず,この8月に電池切れでペースメーカーの取り替えをした.やっと出血がおさまったようだが,とにかく病院にかかることは多い.この父が,これまでは1か月約3000円の外来負担限度額が10月から完全に定率1割負担となる医療改正に強い不安を感じていた.寿命をまっとうするまでの医療費や生活費の蓄えは十分にあるはずなのに,なんで不安なのかと疑問に思い,話を聞くと,自分の子供や孫達の将来の生活に対する不安,今後の日本がどうなるかの不安なのである.よく考えると,超高齢まで生きている人の自己中心的な俗っぽい不安というものを見たことがない.しかし,わが国の将来や,今であれば経済,金融に対してはわがことのように心配するのである.歴史を生きた超高齢者の不安を取り除けないようだと日本の景気は上向かないように思う.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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