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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル36巻11号

2002年11月発行

文献概要

原著

臨床実習成績に対する妥当性の認識と帰属要因の関連

著者: 宮本謙三1 宅間豊1 井上佳和1 上野真美1 宮本祥子1 竹林秀晃1 岡部孝生1

所属機関: 1土佐リハビリテーションカレッジ理学療法学科

ページ範囲:P.883 - P.887

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はじめに

 理学療法教育における臨床実習は,学内で行われる一斉教育とは異なり個別教育という学習形態で展開されている.そのため成績評価における客観性や公平性の確保が極めて困難であり,成績評価に対する懐疑的な意見も少なくない.指導内容や成績評価に同一条件を設定できない以上,成績結果に対する感情的な懐疑心は拭いきれない.

 こうした問題に対し,これまで成績評価方法の客観性に焦点を当て,統計学的な妥当性や信頼性の検討がなされてきた.しかしこれらは評価手続きの検証であり,個別教育の成果をいかなる観点から評価すべきかという本質的な問題を明らかにするものではない.教育評価が学生のために行われるものである以上,「どういった観点から評価すべきか」,あるいは「学生からみた妥当な評価とは」といった成績評価のあり方を吟味することも大切である.

 われわれは学生から見た成績評価の妥当性を,統計学的な妥当性ではなく主観的な妥当性としてとらえ,この妥当性を高めることが成績に対する懐疑心の払拭につながると考えている.ここで言う主観的な妥当性とは,成績評価が学生自身にとって納得のいくものであったか否かという評価のあり方の適切さを問うものである.そして,この妥当性の認識には学生のもつ成績結果の受け止め方,すなわち原因帰属(attribution)の傾向が大きな影響を及ぼしていると考えられる.

 原因帰属とは,個人の行動結果に対する解釈のあり方を指した心理学的な概念である.人は成功や失敗といった行動結果に向き合ったとき,自分の才能や努力の結果だと解釈したり,運の良し悪しで説明したりすることがある.こうした行動結果に対する解釈のあり方が,個人の持つ原因帰属の傾向である1)

 学習結果の原因帰属に関する研究は,Atkinsonの動機づけに関する研究から派生し,Rotterの統制位置の概念,すなわち運や外圧といった外的条件に責任を帰する「外的統制型」と,自己の能力や努力の程度という内的条件に帰する「内的統制型」の分類に始まる2).その後Weinerが,内的―外的という1次元の分類に加え,「安定型」と「変動型」という安定性因子を加味した2次元4要因のモデル(表1)を提示し3,4),教育心理学の領域で広く用いられている.しかし,原因帰属に関する研究の多くは,中等教育までの教科教育を対象にしたもので,理学療法教育に関するものは皆無といってよい5~8)

 臨床実習成績の主観的な妥当性とは,成績結果を学生自身が自らの学習行動に照らし合わせ,その成果として納得のいくところに成立する.そしてそこには,学生の持つ原因帰属の傾向と指導者の成績評価に対する考え方が反映されている.その意味で,どのような成績評価の視点,すなわちどのような帰属傾向をもたらす評価が学生にとって妥当な評価と認識されるのかを明らかにすることは,今後の臨床実習評価のあり方を検討するうえで重要な示唆を与えてくれるといえる.本研究は,学生からみた主観的な成績評価の妥当性と成績原因の帰属傾向を明らかにし,これらの関係性を把握しようとするものである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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