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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル36巻12号

2002年12月発行

雑誌目次

特集 運動障害がある場合の内部障害への対応

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.915 - P.915

 呼吸循環系の評価と運動耐容能改善のための運動処方は,神経・骨関節の障害を伴わないことを前提とした方法論が展開される場合が多い.しかし実際に理学療法士が対象とする例は,純粋な肺気腫や右心不全のみならず,加齢変化や脳卒中あるいは骨折などによる運動障害を伴っていることが多い.むしろ,運動障害に対する理学療法を行う中で内部障害に対応する確率が高いといえるだろう.代謝,嚥下など全身状態にかかわる管理・介入についても,運動障害を有する患者を対象とする.

 そこで本特集では,運動障害を有する場合の内部障害への対応を含めた理学療法の展開について,その評価と治療の実際について整理し,臨床的な応用性を高めることを狙いとした.

運動障害を有する患者の全身持久力低下に対する理学療法

著者: 有薗信一 ,   高橋哲也 ,   千住秀明

ページ範囲:P.917 - P.924

はじめに

 全身持久力とは,「重心の移動を伴う連続的あるいは不連続的な力やパワーの持続能力」と定義されている1).また,全身持久力は体力(行動体力)の構成要素のひとつであり,他の体力構成要素には,筋持久力,最大筋力,柔軟性,平衡感覚,敏捷性,身体組成などがある.これらの体力構成要素はそれぞれ独立した因子であるため,理学療法では,ただひとつの体力構成要素だけに注目するのではなく,各体力構成要素にも配慮しながら,評価・治療をしていく必要がある.

 実際に理学療法の対象となる内部障害をもつ患者は,肺気腫や心不全などの原疾患だけではなく,加齢の影響やdeconditioningによる筋力低下,バランス能力低下あるいは脳血管障害や変形性膝関節症などによる運動障害を伴っていることが多い.また,理学療法の対象となる患者は,発病前や手術前に比べADL制限や身体活動量の低下により,筋力や全身持久力などの体力が低下している.近年,対象患者の高齢化が進み,加齢の影響により体力が低下した患者も増えてきている.しかし,理学療法では全身持久力が評価されることは少ない.この理由として,運動機能に障害がある場合,全身持久力をどのように定義するかの検討が不十分なこと,また,主として健常者を対象に開発されてきた全身持久力の測定法をそのままの方法で適用することが困難なことが挙げられる2)

 本稿では,運動障害のある患者に対する全身持久力の評価の必要性や評価法の特徴や注意点について説明する.

運動障害を有する患者の拘束性呼吸障害に対する理学療法

著者: 増本正太郎 ,   大瀬寛高

ページ範囲:P.925 - P.929

はじめに

 臨床上運動障害や認知障害が主体の脳血管障害(以下,CVD)やパーキンソン病など中枢神経疾患患者が併発する重要な合併症の一つに肺炎・気管支炎など呼吸器疾患がある.これは気道感染や誤嚥に起因することが多いが,その背景として拘束性呼吸障害による呼吸予備能の低下や嚥下障害がある.今回運動障害に加え拘束性呼吸障害を呈する中枢神経疾患患者に対する理学療法介入のあり方について述べる.高齢期に発症することが多いこれら疾患では呼吸器に対する生理的老化の影響も無視できないため,まず加齢に伴う呼吸器系の変化を概観し,次にCVD患者にみる病態と理学療法を取り上げる.

運動障害を有する患者の代謝障害に対する理学療法

著者: 木村朗

ページ範囲:P.931 - P.937

はじめに

 加齢に伴う動脈硬化に起因する脳血管障害や心筋梗塞などは,運動器を直接介さずに動作遂行能力低下をもたらす.すなわち,神経調節系および循環代謝系の機能低下により,ときに運動器の機能を著しく障害する.また,直接運動器が障害され廃用によって代謝障害を来すことで運動障害と代謝障害が並存するケースもある.高齢者の比率が増加している理学療法の対象者を眺めたとき,これらは避けて通れないテーマの一つである.本稿では,これまで筆者なりに取り組んできた運動障害のある代謝障害,とりわけ耐糖能異常および糖尿病に対する理学療法の基本的な考え方を述べる.特に問題と思われた理学療法の成績をあえて示し,改善する手だてを示したので読者諸兄姉のアイデアを仰ぎたい.また,糖尿病性網膜症の悪化により失明に至ったケースに対し,理学療法士として関わっている現状を紹介し,かかる領域で理学療法士として創造的に発展するための問いを示す.

運動障害を有する患者の腎機能障害に対する理学療法

著者: 重田暁 ,   村木孝行 ,   日原信彦 ,   石田暉

ページ範囲:P.939 - P.945

はじめに

 腎臓病については,これまで運動負荷が与える腎機能への悪影響を懸念して必要以上に身体活動を制限する指導がなされることが多かった,しかし,1997年に日本腎臓病学会から提唱された「腎疾患患者の生活指導・食事療法に関するガイドライン」1)では,生活指導の基本方針の部分において腎臓病に対する長期間の運動負荷の影響は明確にされていないとしながらも,より具体的な内容となっている.また各種腎疾患の実際の生活指導では病期,病態を正しく把握し,個々の患者の経過を観察して必要に応じて修正していくことが挙げられている.

 そこで本稿では,腎機能障害患者への対応について,筆者らの経験から,腎移植を施行した症例と,透析治療を導入し,かつ脳血管障害を合併した症例を呈示する.さらに,腎機能障害患者の特徴について触れ,特にリスク管理の観点から高齢者および運動障害を有する腎機能障害患者の理学療法について述べる.

運動障害を有する患者の嚥下障害に対する理学療法

著者: 吉田剛

ページ範囲:P.947 - P.953

はじめに

 Davis PMは著書である『STEPS TO FORROW』の中で‘忘れられた顔’という章を加え,理学療法士として日々接していて顔面麻痺があるのを見て知っていても,上・下肢の麻痺や歩行に治療時間の多くを割き,問題点としてクローズアップしていないことを指摘している.

 嚥下障害についても同様で,嚥下障害により誤嚥性肺炎を引き起こしてから呼吸理学療法を行うことは多いが,嚥下運動障害として真正面から取り組む報告は少なく,言語聴覚療法や看護に依存しがちである.

 また,嚥下障害へのアプローチには,食物を使う直接的アプローチと食物を使わない間接的アプローチがあるが,歩行障害に対する歩行練習と歩行を阻害する因子へのアプローチにたとえることができる.すなわち歩行練習という直接的アプローチの反復だけでは十分な問題解決はできず,歩行阻害因子への間接的アプローチだけで直ちにパフォーマンスが改善するわけではない.間接的アプローチで運動しやすい準備をしてから,直接的アプローチを行いパフォーマンスにつなげることで初めてタスクに合った活動ができるのである.理学療法士が嚥下障害にかかわる場合,間接的アプローチが中心になるが,これが準備であることを認識しパフオーマンスにつなげるための段階をどう準備するか考える必要がある.

 脳血管障害(以下,CVA)でもワーレンベルグ症候群のように歩行可能な重度嚥下障害者がいるが,本稿では,嚥下障害を概観したうえで全身の運動障害を有する例を対象として,嚥下運動障害との関係を考えてみたい.

とびら

やさしい「改革」の道への転換を

著者: 佐藤礼人

ページ範囲:P.913 - P.913

 ここ1~2年,「構造改革」の嵐がこの国に吹き荒れ,この国のあり様を大きく変えようとしている.

 医療もこの「改革」のただ中にある.2002年7月に行われた健康保険法などの改正も「改革」の流れの中で行われた.参議院では与党側の参考人からも改正に反対する意見が出たが,健康保険本人の窓口3割負担,高齢者の完全1割負担(高所得者は2割負担),保険料引き上げなどが決められ,国民を医療から一歩遠ざける改正となった.「改革」を進める人々は「保険財政を持続可能にするため」の改正だと主張していたが,医療機関から足が遠のけば,早期発見・早期治療が遅れ,病気や障害が重症化し,必要な医療費は逆に増大する.その結果,このまま推移していけば,「保険財政が持続不可能」となる時期がいずれ訪れることになる.

入門講座 福祉用具・3

歩行補助具

著者: 谷口英司

ページ範囲:P.954 - P.960

はじめに

 今回の入門講座の最終回は「移動関連機器」と題して,杖,歩行器,移動用リフトについて,理学療法の臨床場面に限らず生活場面での汎用性を踏まえた適用の考え方と選び方のポイントを述べていく.

 移動関連機器は高齢人口の増大,介護保険の導入により年々種類が増え,利用者にとっては機器選択の種類が増える反面,理学療法士にとっては適応や選び方に苦慮するところである1~3).今回の入門講座が臨床場面,生活場面における機器選択の一助となれば幸いである.

プログレス

呼吸理学療法の効果―最近の知見

著者: 宮川哲夫

ページ範囲:P.961 - P.964

はじめに

 近年,EBM(evidence-based medicine)が提唱され,種々の治療ストラテジーのエビデンスが見直されるようになってきた.また,いろいろな学会からそのエビデンスに基づいたガイドラインやプロトコルが示されるようになってきている1~3).それによりケアの標準化がなされ患者のアウトカムを有意に改善できるかどうかが次の論点である.ここでは呼吸理学療法の効果について,そのエビデンスと最新の知見を概説する.

1ページ講座 理学療法用語~正しい意味がわかりますか?

理学療法学教育の中での「教育評価」と「教育内容」

著者: 清水和彦

ページ範囲:P.965 - P.965

 教えるべきものが明確であるとき,教育活動は「目標の設定」,「内容の決定」,「方法の工夫」,「評価の実施」,の4過程で構成される.教育活動全体に対する総合的評価は教員の学生評価にとどまらず,少なくとも学生による教員評価としてフィードバックを受ける.また,今日的には各教科の評価はもちろん,広くカリキュラム,学科,学校の各段階でのパフォーマンスとして,教員とその組織によって自己点検・自己評価され,さらに第3者機関からの評価を受ける.

 様々な領域の教育活動に共通して評価は重要視される.これは,評価という教育活動全体の見直し作業という担保があって初めて教育活動の全過程が正常に保たれるからであり,このため教育にあってはこれまで評価方法に力点が置かれた解説がなされている.

理学療法の現場から

「しま」にすむ人々とともに

著者: 田中努

ページ範囲:P.966 - P.967

はじめに~下五島はどんなところ

 長崎から西へ120キロのところにある五島列島最大の島,福江島.そこからさらに船で1時間のところにある奈留島に私の勤務する病院があります.下五島地区は奈留島から以南の福江島,久賀島,そしてその周りに点在する島々から構成されています.下五島地区での高齢人口は約1万3千人と,全体の25.6%を占めており,高齢化率は日本のトップクラスへ向け快走中です.

 個人的に,海に囲まれた離島の最も特徴的なことを紹介すると,ちょっとした外出の際,在宅で過ごされている患者さんと会う機会が多く,生活の一部を直接見ることができるということでしょう.提供してきた理学療法が役に立っているかどうか,初めて自己評価が問われるときでもあります.われわれが行っている理学療法は病院で満足されるだけでは意味がなく,その人の生活に生きて初めて意味をなすものであり,それを自分の目で見ることができるということほど素晴らしいことはないと思います.反面,ちょっと羽目を外して騒いだときなど翌朝には病院中に伝わっているという恥ずかしいこともしばしばありますが….

学校探検隊

学院の紹介と特徴

著者: 内山孝夫 ,   金子清和

ページ範囲:P.968 - P.969

 学院の概略

 晴陵リハビリテーション学院は,平成7年4月に理学療法学科40名,作業療法学科40名,昼間部3年制の学校として開校しました.

 わが校は,新潟県の真ん中にあたる長岡市にあり,電車利用の場合は,上越新幹線長岡駅からバスで25分ぐらい,また車では関越高速道路長岡インターから5分ぐらいの便利な場所です.

あんてな

欠格条項の見直しと残された課題

著者: 竹下義樹

ページ範囲:P.970 - P.972

 #はじめに

 ごく最近,関西の医科大学で学ぶ全盲の学生と知り合った.彼は全盲に加え,四肢麻痺も有している.病気療養のため留年を余儀なくされたが,現在卒業と医師国家試験の受験に向けて努力中である.まさに,医師法の欠格条項が削除されたことによって,彼の点字受験と医師免許の取得が現実のものとなりつつある.しかし,国家試験の受験と免許取得までにはいくつもの障壁(バリア)が予測される.

 障害のある人の社会参加を阻む欠格条項を含む制度は,平成10年時点で国が指摘したものだけでも63に上る.ただし,ここで注意しなければならないのは,障害のある人の社会参加を阻んでいるものは前記の63の制度にとどまるものではなく,通知通達や要綱などによって排除されているものを含めれば200を超えているということである.しかし,ここでは平成10年以後改正の対象とされてきた前記の欠格条項を中心に私の考えを述べることにする.

 欠格条項がこのように多く設けられてきたのはなぜなのであろうか.そこに合理的な理由ないし根拠が存在したのであろうか.そうした分析は欠格条項を撤廃し,障害のある人の社会参加ないし自己実現を保障するうえで不可欠である.なぜなら,障害のある人の社会参加や自己実現を保障するためには,単に欠格条項の撤廃(あるいは内容の変更)で十分であるかどうかが問われているからである.また,社会のコンセンサスが得られるかどうかという点で,そうした分析は不可欠である.

講座 理学療法の倫理・3

倫理ディレンマ事例の検討

著者: 岡本珠代

ページ範囲:P.973 - P.978

 理学療法士として,臨床的にまた日常的に遭遇する問題のすべてが倫理問題というわけではない.しかし,人間関係の中で起こるあつれきは解消を必要としている.利害や価値観の衝突も本質を見極めればある程度解消することができる.また,日ごろから事例検討をすることによって,現実の問題によりよく対処できる.

症例報告

在宅呼吸理学療法と液体酸素システムによりADLの改善を認めた一例

著者: 白石多佳子 ,   大和田潔 ,   藤枝裕子 ,   西村美枝 ,   山ノ内聖一

ページ範囲:P.979 - P.982

 高齢化や社会的制度の変化に伴い在宅医療の必要性が高まり,その患者数は増加してきている.慢性呼吸不全は在宅医療が導入されることが多く,在宅酸素療法の使用例も多い.しかしながら,在宅酸素療法そのものの物理的制限が呼吸困難感とともに患者のactivities of daily living(ADL)を制限し,外出などの妨げとなっていることも多い,今回われわれは,呼吸不全の不安が強く,また,適切な指導を受ける機会もなく,呼吸機能およびADLが非常に低下していた患者に対し,呼吸理学療法,肺機能の評価,さらに機動性を増す液体酸素システムを導入することにより,著しい改善を認めた一例を経験したので報告する.本症例は,呼吸理学療法の施行が在宅医療下の患者のADL改善を図るに当たって重要な意味を持つことを示唆していると考えられた.

資料

第37回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2002年3月3日実施) 模範解答と解説・Ⅵ―理学療法・作業療法共通問題(3)

著者: 伊橋光二 ,   大島義彦 ,   内田勝雄 ,   八木忍 ,   伊藤友一 ,   三和真人 ,   百瀬公人 ,   小野武也 ,   鈴木克彦 ,   南澤忠儀

ページ範囲:P.983 - P.990

書評

―Brian R Mulligan著 細田多穂・藤縄理・赤坂清和・亀尾徹監訳―マリガンのマニュアルセラピー

著者: 竹井仁

ページ範囲:P.937 - P.937

 セラピストにとって,徒手療法は体性機能異常に対する有効な治療手技の1つである.なかでも関節モビライゼーションは,関節機能異常に対して用いられる.関節モビライゼーションは大きく3種類に分類される.1つ目は,セラピストが他動的に患者の関節を動かすKaltenbornやMaitlandに代表されるような方法,2つ目は,関節機能異常の原因となる筋群を,患者自身の等尺性筋収縮後弛緩を利用して自動的に関節のアライメントを正常化するMuscle Energy Technique,そして3つ目が,患者が症状を出す姿勢と動作を,痛みを出さないようにモビライゼーションしながら行ってもらうMulligan Conceptである.

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文献抄録

ページ範囲:P.992 - P.993

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.996 - P.996

 2002年最後の雑誌をお届けします.

 特集は「運動障害がある場合の内部障害への対応」です.特集テーマはその内容を正確に表すことはもちろんですが,キャッチコピーとして読書の皆様にその意図を魅力的に伝える役割をもっています.“名は体を表す”“看板に偽りあり”などその注目度が高いだけにセンスが問われるところでもあります.難しい内容を誰にでもわかる洗練された言葉で表現できることは,真の理解がなされたことの証ともいえましょう.

 特集は,5名の理学療法士にご執筆いただきました.有薗・他論文では,全身持久力の評価を中心に詳細な解説をいただきました.表には具体的な方法が示されており,臨床的に応用しやすいものがまとめられています.増本・他論文では,拘束性呼吸障害について詳細に解説されています.高齢者や脳血管障害を対象者とする理学療法士には,参考になる内容です.木村論文では,代謝障害を中心に解説されていますが,理学療法のあり方にも一石を投じています.近年の高齢者に対する運動(療法)には,高強度負荷による筋力増強が支持され,わが国でも様々な医療機器の開発とともにそのプロトコールが紹介されています.一方,木村氏が述べているLIEP(低強度運動療法プログラム),LLL(局所長時間低強度)プログラムは生活習慣とあいまって重要な概念です.1本のロープが失明者の意欲と活動性を引き出したことを,豊かな時代であるからこそ大切にしたいと感じました.重田・他論文では,腎機能障害患者の症例検討を中心にわかりやすく解説されています.吉田論文では嚥下障害に対する理学療法について具体的に解説されています.脳血管障害で嚥下障害を有する例は少なくなく,全身をみるなかでその評価と治療を一般の理学療法士が行必要性と効果が述べられています.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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