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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル36巻3号

2002年03月発行

雑誌目次

特集 介護保険制度下のリハビリテーション

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.147 - P.147

 2000年4月にスタートした介護保険は順風満帆というわけにはいかず,さまざまな問題を露呈した.ケアマネージャーの質および実質的な量の不足,サービス内容の貧困さ,訪問リハビリテーションなどのサービス提供者の不足,それぞれの連携の悪さなど,悩みは多い.しかし,自立支援の視点からスタートした介護保険制度は歓迎すべきシステムである.単に問題点を羅列するととどまらず,この制度をうまく生かしながら,リハビリテーションのあり方を改めて考え,進化していく糸口を求めてみた.

ケアマネージメントとリハビリテーションスタッフ

著者: 金指巌

ページ範囲:P.149 - P.154

はじめに

 介護が必要な高齢者が在宅で生活していくためには,さまざまなサービスや支援がなければ生活できないことはいうまでもない.まして利用者本人が自分で自立した生活を送ることが困難な高齢者であればなおのこと,現在どのようなサービスが存在し,自分にとってどのサービスが適しているかを理解し利用するサービスを選択し,利用の手続きまで行える高齢者はほとんどいないであろうし,その家族を含めても必要なサービスの利用まで行きつけるケースは非常に少ないことは容易に想像できる.

 このような状況下で,多様な介護サービスのなかから必要な社会資源を利用者の周囲に集め,サービス提供を行っていくためには,利用者各人のニーズを把握し,効果的なサービス利用につなげる役割を担う人間が必要になり,その専門職として「ケアマネージャー」が必要となり,その手法として「ケアマネージメント」が提案されたといえる.

 しかし,ケアマネージメントを担う専門職として新たに制度化されたケアマネージャーであるが,その職種や経験,個々の知識や能力等,質的な格差を指摘されており,必ずしも制度の趣旨にあった働きがなされているかどうか疑問を呈さざるを得ない.

 本稿では,まず介護保険制度におけるケアマネージメントの基本的な考え方と,在宅リハビリテーション(以下リハ)サービスの状況について述べ,現在のケアマネージメントの問題点と我々リハスタッフの関わりや,在宅のリハサービス自体の問題点等について論を進めて行きたい.

介護保険制度下の介護老人保健施設でのリハビリテーション

著者: 肥田秀昭

ページ範囲:P.155 - P.161

 入所について

 1)中間施設としての役割

 平成1年老人保健施設(以降,老健施設とする)は中間施設としての役割を担ってスタートし,急性期から回復期の医学的リハビリテーションによって獲得された身体機能や能力を補完しつつ,実際の生活場所でのADLへと適応を促してゆくことが期待された役割であったと思われる.当時は現在のように在宅関連のサービスは充実してはいなかったし,「在宅」という言葉さえ聞かれなかった頃であり,手厚い十分なリハビリテーションといえば入所環境の下で行うものという,やはりどこか医学的リハビリテーション的な入院加療的な“常識”がベースとしてあったように思い起こされる.

 在宅を進めるためには「不足したリハビリを補えばよい」「環境整備をすればよい」「介助方法の指導を行えばよい」と,とにかく目に見えるリハビリテーションを進め,在宅サービスを整えたが,それでも入所の長期化するケースが次々と現れた.また,同時にデイケアという在宅サービスに取り組むなかで在宅を促進・維持するために取り組むべき課題の広がりと奥深さを知るようになった.サービスを提供する側が在宅へのスムーズな移行を阻害している最も厄介な問題に取り組む術を持たなかったのであるから,如何に声高に「在宅」を叫ぽうとも,利用する側が長期入所を望むようになるのは当然のことだったのである.設立当初は「通過施設」とも呼ばれた老健施設は,社会的入院の問題を解決することも重要な役割であったが,病院の問題をそのまま施設に移しただけで,利用者は「通過」せずに留まってしまった.

介護保険制度下の訪問リハビリテーション

著者: 橘田将一

ページ範囲:P.162 - P.166

 現場で聞く声

 介護保険が施行されてはや2年が経過した.介護保険に関係のあるなしに関わらず,私たち理学療法士の仲間も徐々に増えており,世間一般でのPTに対する知名度も徐々に高まりつつある.在宅の現場でも,昔と違ってPT・OTによるリハビリテーションを受けたことがないという利用者も少なくなり,特に介護保険が施行されてからは訪問リハビリテーションサービスのニーズも非常に多いものとなっている.

 在宅というフィールドで活動していると,あらゆる人からのさまざまな声を耳にする.特に病院に勤務していたときと違い,現場が利用者宅だと,現在の医療や福祉に対する直接的な意見や批判が話しやすい環境になっていると思われる.主に利用者・家族から聞かされるリハビリテーションに関するものを以下にまとめてみた.

介護保険制度下の一般病院におけるリハビリテーション

著者: 木次清次

ページ範囲:P.167 - P.173

はじめに

 今回,「医療保険によって診療を行う病院にあって,介護保険がどのように影響しているか」という内容の原稿依頼を受けた.なかなかの難題である.日頃の臨床において,スタッフから介護保険制度について相談されたり,自らも問題に遭遇すことが多いため細かな問題点を列挙するのは容易であるが,「どのように影響しているのか」というのは,問題点の検討とは少しニュアンスが異なるように思う.

 「影響」という言葉を辞典で調べてみると,「効果を与えること,その与えられた効果」と解説されている.更に「効果」という言葉を調べてみると,「良い結果,望ましい結果」と記されている.筆者は生来,物事を比較的良い方向に捉えてしまう癖があるようで,今回の課題も「介護保険制度が与えている良い結果」という前向きな姿勢で解説させていただくことにした.

とびら

「PTはプロのサディスト」か

著者: 八坂勇司

ページ範囲:P.145 - P.145

 数年前に読んだ宮部みゆきの推理小説「火車」のなかで,主人公が理学療法士を指して「あいつらは,プロのサディストだ」と愚痴をいう場面があります.主人公は刑事で,犯人逮捕時に損傷した膝を手術し,術後外来で女性理学療法士からROMexを受けていて,あまりの激痛に耐えかねたのか,帰宅してから出た言葉でした.10年くらい前の作品と推測するのですが,世間一般の風評はそういうものかと,やや残念な気もします.

 が,最近でも,理学療法を受けにくる患者のなかには,誰に教えられたのか,リハビリは痛い,疲れると思い込んでいる方がおられます.確かに昔は,かなり暴力的な?治療が行われていたとも聞きます.にもかかわらず,治療費を頂き,苦痛を与えても帰り際には礼をいわれる.感謝さえされる.こんな良い商売はない.やはり「プロのサーディスト」か.

入門講座 関連領域の基礎知識・3

老年科領域

著者: 小林義雄

ページ範囲:P.175 - P.180

 序:高齢者におけるリハビリテーションの考え方

 リハビリテーションを行ううえで高齢者に接する機会は多く,卒後数年ともなると現場ではすでに多くの高齢者に接しているはずである.それだけに高齢者に関する知識は必須であり,理解を深める必要がある.

 また,リハビリテーションを適切に行ううえで患者の有する臓器疾患を理解することは欠かせないが,リハビリテーションの目標はあくまで患者の社会復帰であり,それに関わる心理的状況,社会的状況,経済的状態をよく把握しておく必要がある.臓器疾患の治療とリハビリテーションによって在宅に移行できても,その後のフォローがなされていなければ,再び入院の憂き目に遭うことも度々ある.

 特に高齢者の疾患は完全な治癒が望めないことが多々あり,リハビリテーションの目的としては機能的な回復,それも高齢者が抱える様々な問題を考慮に入れたうえでの機能改善が優先される.本稿では,高齢者を対象としたリハビリテーションを行う際に特に留意すべき点について,各臓器疾患別に解説していくこととする.

講座 臨床実習指導の創意工夫・3 理学療法のエキスパートを育てる―臨床実習をめぐる私の工夫

当院における実習指導の実際―学生が残してくれた課題から/少人数理学療法部門における臨床実習指導の工夫

著者: 金井昭博 ,   田中聡 ,   山田英司

ページ範囲:P.181 - P.188

 1.はじめに

 理学療法士養成教育は,学校での学内教育と,臨床実習施設における臨床教育との連携によって達成されることは言うまでもない.そして臨床実習の位置づけが重要であることは,理学療法士であれば誰もが疑う余地がないことである.また,臨床実習は学生にとっても理学療法士になるためには「避けては通れない通過点」としてだけではなく,実習指導者との出会いや指導方法,担当症例を通じて学んだこと,問題解決のために努力したことなど,理学療法士としての将来に大きな影響を持つ.

 実際に筆者も臨床実習において,理想とする理学療法観や理学療法士像を描いた.そして学生を指導する立場になった現在も,その体験で得たものは大きく影響している.

 近年,理学療法士養成教育においては,養成校の急増や指定規則の改定による臨床実習時間の減少など様々な問題が生じている.特に臨床実習では,実習形態や内容,臨床実習指導が果たす役割が議論されている.いずれにせよ,学生が少しでも充実感を味わえる臨床実習にすることが実習指導者の役割であると考えている.そこで本稿では,当院での臨床実習指導の実際について紹介し,実習指導者の立場から私論を述べる.

プログレス

生体肺移植の現在

著者: 伊達洋至

ページ範囲:P.189 - P.192

はじめに

 日本における肺移植は最近数年間で,大きな発展を遂げた.1998年10月に岡山大学において,日本で初めての両側生体部分肺移植が成功した1).2000年3月に待望の脳死者からの肺移植が大阪大学2)と東北大学3)で成功した.

 更に,2001年3月には岡山大学で小児に対する両側生体部分肺移植が成功した.2001年12月現在までに22例(脳死肺移植9例,生体部分肺移植13例)が施行され,全例が生存中である.生体移植が脳死移植に先行するのは,生体肝移植にもみられる現象で,ドナー不足が深刻な日本の特徴といえよう.ここでは,岡山大学で施行した11例の生体肺移植の結果を含め,生体肺移植の現況をまとめる.

理学療法の現場から

専門性=多様化?

著者: 古川卓憲

ページ範囲:P.193 - P.193

 近年,医療環境が大きく変化しようとしているなか,理学療法士の職域も,保健・医療・福祉の分野に大きく広がりを見せています.我々のような一般病院のなかでさえ,療養病棟や回復期病棟,通所リハ,訪問リハなど業務内容の多様化が進められています.と同時に,最近はスタッフ間の理学療法士としての意識や考え方にも少しずつ相違が生じるようになってきているのを感じます(当然のことでしょうが).

 一方で,理学療法士の専門性をめぐる議論が各種の研修会や学会で行われています.この傾向は21世紀に入ってとりわけ顕著で,いわば多様化する環境のなかで専門性を問うという難しい時代になってきていることを痛感します.更に,EBMに代表されるように科学的根拠に基づく医療が要求されたり,WHOの障害分類が改変されたりと,理学療法を取り巻く環境もより複雑多様化しています.それだけに,我々理学療法士個人の責任の重さを感じます.だからこそ,理学療法の専門性について強く意識が働くのだと思います.

学校探検隊

厳しさの中に

著者: 山元総勝 ,   照屋聡

ページ範囲:P.194 - P.195

 概略

 本校は,沖縄県の太平洋側,那覇から東方約15kmの与那原町板良敷に位置する.緑豊かな大里城址公園を背にし,眼下に広がる紺碧の中城湾は思わず息をのむ美しさである.7階建ての校舎は,各フロアーに絵画や彫刻が置かれ,さながら小さな美術館のようである,特に,6階の美術ホールには,モネやゴッホ,レンブラントの絵画が掛けられ,中城湾の展望とともに心を和ませてくれる.

特別寄稿

理学療法士としての私の歩み

著者: 武富由雄

ページ範囲:P.197 - P.205

はじめに

 日本のリハビリテーション医学・医療の創成期から現在まで,その一翼を担う理学療法士として,私はおよそ40年の間,理学療法士の身分制度の制定,日本理学療法士協会の設立と学術事業の遂行,養成校の大学制度化,社会活動などに関わり,各場面で遭遇した多くの人たちの支えによって歩みを進めることができた.本稿では,理学療法士としての私の歩みの一端を述べることにする.

1ページ講座 理学療法用語~正しい意味がわかりますか?

筋緊張

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.206 - P.207

 1.筋緊張(筋トーヌス)

 筋緊張とは筋を他動的に伸張したときに筋に生じる反射力である.伸展性,被動性,硬度からみることができるが,筋活動によるものと筋の粘弾性によるものがある.骨格筋の筋緊張は常に変動しているが,臨床的にはできるだけ筋活動を伴わない安静時の筋緊張を伸展性,被動性の観点から評価する.

報告

部分荷重歩行における股関節の関節合力変化―Chiari骨盤骨切り術後症例

著者: 永井良治 ,   野上正太 ,   上田信弘 ,   奥村哲生 ,   井上明生 ,   山本耕之

ページ範囲:P.209 - P.213

はじめに

 大転子を切離して側方から侵入するChiari骨盤骨切り術(以下Chiari手術1-4))の利点は,骨盤骨切り部で末梢骨の内方移動により,体重心のレバーアームを短縮させ骨頭にかかる力を減少すること,外反骨切り術など合併手術が容易に行えて骨棘や増殖性変化部位を荷重面として利用できることなどである.また大転子の側方移動によって外転筋のレバーアームを延長し,全体として荷重面の拡大と骨頭にかかる応力を軽減させる効果がある(図1).当院では,かなり進行したものでも,青壮年期であればChiari手術が積極的に行われている.術後は2週目よりトゥタッチ歩行(toetouch gait),全荷重となるには前・初期関節症で3~4か月,進行・末期関節症で6~9か月であるが,臨床において部分荷重歩行と関節合力の関係は明確でなく,力学的な解析を展開する必要が感じられた.

 本稿の研究目的は,部分荷重歩行時に,股関節の関節面には実際どの程度の負荷が加わっているのか,力学的に検討し,理学療法を進めるうえでの一助にすることである.

書評

―内山靖・小林武・間瀬教史(編集)―計測法入門:計り方,計る意味

著者: 居村茂幸

ページ範囲:P.173 - P.173

 計ること,つまり計測の歴史は古代エジプト人がナイル川の流量を計測したことから始まったといわれています.

 なぜ計るのか?そこには計測する理由があるからに他なりません,私ごとですが,H反射の研究に没頭した時期があり,mV,msecという非常に細かい値の変化に生体の意味を結び付けようと苦慮したことを思い出します.

―Serge Tixa(著)奈良勲(監訳)―触診解剖アトラス 下肢

著者: 黒澤和生

ページ範囲:P.192 - P.192

 臨床での実際的な業務に役立つ有用な1冊

 本書はスイスのオステオパシーローザンヌ校のSerge Tixa教授が著された本を奈良勲が監訳した翻訳版である.オステオパシー(osteopathy)とは,人体のホメオスタシスを増大し,自らの治癒力で病気を治していこうとする学問体系であり,手技による治療を主体とする療法である.徒手的治療手技に関心のある方であれば,マッスルエナジーや筋筋膜リリースなどがオステオパシーの技術であることをご存知であろう.

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文献抄録

ページ範囲:P.214 - P.215

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.218 - P.218

 春,3月,弥生,なんとも暖かい,温かい空気が漂う響きがあります.これから前を向いて生きていこうとする人にとても優しい季節です.卒業式や送別会はこれからさらに前を向いて旅立つ儀式.不安も多いことでしょうが,仲間達は新しい人たちの参入を心待ちにしています.新天地では積極的に人間関係を築き,自らを成長させるスタートにしてください.私は黄色のフリージアがとても好きです.ひとつひとつは楚々として小さな花ですが,フリージアを胸に刺した人とすれ違ったときに甘い香りが心地よく残ります.どんなに小さな人でも,新人でも,自身を見失わずに自己表現し,存在感をアピールしてください.前向きに生きようとする人間関係の基本です.幸いにもこの時期に武富由雄氏から特別寄稿をいただきました.氏の優しい表情の中に潜む厳しい視点と卓越した指導力は類をみないと感じています.じっくりと氏の歩みをご覧いただき,これからのエネルギーにしてください.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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