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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル36巻5号

2002年05月発行

文献概要

特集 高齢者の転倒

高齢者の加齢変化と転倒要因

著者: 星文彦1

所属機関: 1東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科

ページ範囲:P.307 - P.314

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はじめに

 わが国においては,超高齢化社会を迎え介護保険制度の充実が急がれているが,同時に介護保険制度の対象にならないための健康高齢者に対する健康増進事業あるいは介護予防事業が始められている.高齢者の転倒は,寝たきりや要介護状態の要因となり,高齢者の健康増進とともに転倒予防対策が急務となっている.わが国における高齢者の転倒に関する詳細な研究は多くはないが,施設生活者と在宅生活者の違いはあるものの概ね20%の転倒発生率のようである1,2).アメリカの高齢者にとって,転倒とそれに由来する骨折や靱帯損傷などの傷害は,最も重大な医学的問題として取り上げられ,50歳を越えると少なくとも女性では40%,男性では13%が骨折を経験している.さらに高齢になり,90歳以上になると6名に1人が股関節骨折を被っている.股関節骨折あるいは椎体骨折後5年の死亡率は20%で,70歳を越えるとその死亡率はさらに増加する.多くの死亡は,骨折後6カ月で起こるとされ,骨折後1年では,40%が自立歩行が不可能で,60%が基本的なADLのうち少なくとも1つ困難なものがある.80%はIADLに支障を来たしており,骨折前の身体機能に回復した者は50%であるという報告がある.また,転倒後症候群として,精神的トラウマが活動性の制限要因となり,自信喪失や転倒への不安の訴えは転倒者の50%に及ぶと報告されている3,4).わが国における理学療法やリハビリテーション医療はだいぶ充実されてはきているが,高齢者の比率が高い地方では,まだ十分な対策がなされているとは言えない.アメリカにおける転倒状況に関する詳細な報告に従えば,高齢者の転倒に関する対策はますます必要不可欠なものと考えられる.高齢者の転倒要因は,老化現象や疾病に伴う障害などの個人に由来する内的要因と,家庭内生活環境や外出時の環境変化などの外的要因との相互作用,また身体状況と外的環境との不適応などによると考えられる.また,活発な生活を送っている高齢者は,臥床ぎみの不活発な生活を送っている高齢者に比べ転倒する確率が高いといわれるが,精神的に活動性が高い高齢者であっても加齢に伴う転倒に関連する身体機能や認知機能などの変化が内的要因として存在することを示しており,それにより環境との不適応が生ずると考えられる.

 本稿では,転倒に寄与すると思われる加齢に伴う身体機能の変化を中心に,高次神経機能の変化や環境要因,また高齢者に多い薬物などの要因について概説する.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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