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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル36巻6号

2002年06月発行

雑誌目次

特集 低出生体重児の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.387 - P.387

 今月号の特集は,「低出生体重児の理学療法」である.近年,わが国の少子社会化が進み,未来の日本社会がどのようになるのかが懸念される.一方,わが国の周産期医療の進歩によって乳幼児・新生児の死亡率が世界の中で最も低いという事実はたいへん喜ばしいことである.しかし,極低出生体重児において,脳の未熟性に起因する種々の障害が派生することも明らかであり,それらへの対応は今後の周産期医療の大きな課題となっている.本号では,低出生体重児に関する諸問題とそれらの理学療法のあり方についてこの分野を専門とする各執筆者に述べていただいた.

低出生体重児に対する周産期医療の現状と課題

著者: 山崎武美

ページ範囲:P.389 - P.394

はじめに

 周産期医療の進歩により,わが国の2000年の乳児死亡率は3.2,新生児死亡率は1.8(共に出生1,000対)であり世界トップの成績を維持している.しかし極低出生体重児,特に1,000g未満の予後については脳室周囲白質軟化症(Periventricular leukomalacia;PVL),未熟児網膜症,慢性肺障害など未熟性に基づく基質的な疾患や,明らかな基質的疾患を持たない児であっても知的発達遅延,学習障害,注意多動欠陥障害,愛情遮断症候群や被虐待児症候群が低出生体重児に多いことが報告されている.小川1)は低出生体重児に関する諸問題を掲げ,21世紀の周産期医療の課題としている(表1).

 かつては核黄疸,低酸素性虚血性脳症,頭蓋内出血,先天異常などが主な原因であった脳性麻痺は減少してきたが,近年,再び増加傾向にある.特に低出生体重児の脳性麻痺児が増えている.これは救命率が向上し,PVLを合併した極低出生体重児が増加していると考えられ周産期医療に大きな課題をもたらしている2,3).理学療法士はこの疾患に関して深い知識を持つことが必要であり,さらに総合的な低出生体重児の予後改善のためには胎児・新生児期の神経学的発達と行動学的発達の特徴を理解し,「基質的障害を排除する医療」と「発達を促進する包括的な医療・ケア」へ積極的に参加することが必要である.

NIDCAPの概念に基づいたNICUでの理学療法

著者: 井上彩子 ,   小林麻子

ページ範囲:P.395 - P.403

はじめに

 近年,低出生体重児の発達予後に関する多くの研究が行われてきた.環境と相互作用を行う能力を持つ低出生体重児にとって,光や音が溢れるNICU環境がその後の発達に大きく影響を与えると報告されている.それにより,子供の発達状態に合わせたケア環境や過程を調整するディベロップメンタルケアが注目され,個々の子供の能力を理解し,個々の子供に適したケアを提供するという意識が高まっている.一方,NICUでの低出生体重児やハイリスク児は病状が安定していないこと,複雑な行動を示すことから,能力を適切に理解することが難しい.そのため,理学療法士の治療的介入が子供たちにどのように受け入れられているか,また,それが適切なものであるかを判断することが困難であった.理学療法士の治療的介入を成功させるためには,子供の特徴や能力を適切に把握するとともに,介入時の子供の行動を見極める知識を必要とする.このように個別的に子供の能力を評価し理解するものとして,1981年にAlsによって,Newborn Individualized Developmental Care and Assessment Program(以下,NIDCAP)「新生児個別発達的養育および評価計画」が提唱された.

 NIDCAPの概念と方法を以下に紹介し,それに基づいた理学療法の実際を症例を通して報告する.

General movementsによる低出生体重児の観察評価

著者: 坪倉ひふみ ,   中野尚子 ,   小西行郎

ページ範囲:P.405 - P.410

 かつて小児神経学においては,ヒトの行動の発現は新生児に始まるとされ,その中心は原始反射であった.しかし1960年頃より臨床医学の中に超音波が導入され,胎動を直接観察することが可能となり,胎動に関する研究が本格化した.発達神経学の立場から胎動について研究したのがPrechtlである.また新生児・未熟児医療の進歩によって超・極低出生体重児の救命が可能となり,その神経学的予後を早期に診断し介入していく必要性が高まってきた.本稿では,Prechtlの研究やわれわれが得た知見をもとに未熟児・新生児の自発運動とりわけgeneral movementsの変化とその臨床的意義について述べる.

低出生体重児に対するポジショニングと環境

著者: 木原秀樹

ページ範囲:P.411 - P.418

はじめに

 わが国では,1950年代以降,社会経済状態の安定とともに,保健・医療水準の向上が図られ,近年の新生児・周産期医療の発展により,新生児死亡率(出生1,000対)は,1970年の8.7から1997年には1.9まで低下した.当院でも超低出生体重児(1,000g未満)の死亡率は2.7%(2001年)であり,わが国は1970年以来,世界一の新生児医療水準を維持している1).また,総出生数が著しく減少するなかで,低出生体重児の出生数は増加傾向にある.1997年において総出生数に対し,低出生体重児(2,500g未満)は7.9%,極低出生体重児(1,500g未満)は0.60%,超低出生体重児(1,000g未満)は0.22%の出生があり1),総出生数の約1%,100人に1人の新生児は低出生体重児として新生児集中治療室(NICU:neonatal intensive care unit)への入院を経験する時代になっている.

 低出生体重児は神経系の発達が未成熟なため,ストレス応答能力が低いことが指摘され2),その状態は児の発達や呼吸循環調整に影響することが示唆されている,医療技術の著しい進歩による救命と引き換えに,医療環境は生育に適した状態からかけ離れ,NICUは児に対しとても快適とはいえない場となった.ポジショニングを中心に,NICUの環境が低出生体重児に与える影響について考える.

PVL児の出産予定日における神経学的評価の特徴

著者: 烏山亜紀 ,   河村光俊

ページ範囲:P.419 - P.425

はじめに

 近年,低出生体重児の生命予後は著しく改善されてきているが,脳性麻痺をはじめとする神経学的予後の発生は依然大きな問題として残っている.特に,最近では極低出生体重児における脳性麻痺の相対的な増加が指摘されており,その原因として脳室周囲白質軟化症(periventricular leukomalacia:以下,PVL)がクローズアップされるようになった1).しかし最近では画像診断の進歩によりPVLや脳室内出血(intraventrcular hemorrhage:以下,IVH)などが早期に確認され,明らかに脳障害を合併している低出生体重児の早期発見につながっている.

 その一方で新生児集中治療室(neonatal intensive care unit:以下,NICU)にかかわる理学療法士は増えつつあるが,新生児期からの早期介入はまだまだ発展途上であり,これら脳障害をもつ,あるいは新生児期には異常が発見されず,後に脳障害と診断される児の新生児期の状態を評価し,その特徴を検討した報告は少ない.

 新生児期から児の神経学的状態を評価する目的としては,画像と組み合わせることで脳障害の早期の診断を行うことに注目が集まっているが,私たち理学療法士は脳障害の診断だけでなく,新生児期に脳障害が強く疑われる児,脳障害の可能性は低いが運動や行動に多くの未熟性を示し,その後の発達になんらかの障害を残す可能性の高い児のケアと治療,またその後のフォローの方法につながる評価であることに重点を置くべきである.

 今回は特にPVL児の新生児期の神経学的症状に注目して,早期からの特徴について検討した.

とびら

「全体」を診る視点

著者: 長野聖

ページ範囲:P.385 - P.385

 「地域リハビリテーション」という言葉が聞かれるようになって久しく,地域になんらかの形で携わる理学療法士(PT)の数は増加しています.世の中のリハビリテーションに対するニーズも,病院だけでなく地域にも目が向けられているようになっています.しかしながら,地域で行う理学療法に目を向けると,PTがどのようにこれらを推進し,寄与していくのかについては手探りの状態であり,地域の中でPTの役割を確立することが急務の課題であると思われます.そこで,地域保健・医療にかかわりが深い公衆衛生学を通して,地域リハビリテーションにおけるPTのあり方について勝手ながら述べさせていただきます.

入門講座 関連領域の基礎知識・6

眼科領域

著者: 後藤晋

ページ範囲:P.427 - P.432

 高齢になるほど目の病気は多くなり,視力低下,視野異常といった様々な視覚障害が現れる.老眼になると,目の調節力が衰えてきて焦点を合わせにくくなり,目がかすむ,新聞の字が見づらいなどの症状を訴える.しかしながら,これは老化現象の一つであり,目の病気ではない.

 本稿では,最初に眼の基本的な構造と主な働きを説明し,視覚障害の特性について概説する.次いで,加齢に伴って発症する代表的な眼疾患を採り上げ,各々の病態とそれらがもたらす視覚障害について略述する.最後に,視覚障害者リハビリテーションに関し,身体障害者手帳と視覚補装具についても簡単に紹介する.

理学療法の現場から

消費者(利用者)インセンティブのもと枠を越えられるのか

著者: 髙見彰淑

ページ範囲:P.433 - P.433

 利用者への情報提供と品質管理

 現行の公的保険診療は,ある一定水準の医療サービスを基軸に公平性が前提となっている.理学療法も一定の単位時間で定額の出来高払いがなされている.しかしその内容が,一定水準のもとで保持されているのかどうかは不透明な点が多い.これはプログラムの相違ではなく,医療のクオリティ格差の問題である.利用者である患者が,一定水準以上のサービス提供が受けられたかどうかが不明瞭なのである.一般の商品やサービスのように利用者が自由に選択することは,情報公開の少ない病院機能枠の中では困難であり,利用者本位に医療を受けることができない可能性がある.事実,急性期病院である当センターから,複数のリハビリテーション専門機関転院の際,多くのケースは選択因子として,自宅や駅に近いなどの交通利便性を重視し,病院機能,リハビリテーションシステムの評価もしくは情報収集に対す意識は希薄な印象を持つ.さらに,紹介元の医療機関も情報不足の傾向があるように思われる.

学校探検隊

九州リハビリテーション大学校は永久に不滅です

著者: 橋元隆

ページ範囲:P.434 - P.436

○由緒ある土地柄

 北九州市は小倉,足立山麓の丘陵に建てられ,春は桜,秋は紅葉に囲まれ,さらにはるか南東には風光明媚な周防灘が一望に眺められる景勝の地にある(図1).この地は歴史的にもリハビリテーションにゆかりの深い土地柄である.奈良時代末期から平安時代初期に活躍した和気清麻呂という官僚がいる.769年,時の権力者僧道鏡が宇佐八幡(大分)の託宣と称して皇位を望む事件が起きると,この和気清麻呂が宇佐に赴き,神託によってその野望を砕いた.そのため一時大限国(鹿児島)に流されることになるが,その時逃げられないように足首を切られる(たぶんアキレス鍵であろう).途中,治療のために立ち寄ったのが企救国(小倉)の山の麓にある安部山温泉であった.温泉につかり,野原を駆けるイノシシにまたがり治療に励んだとか,おかげで思わぬ早さで立って歩けるようになり,その山を足が立つ山「足立山」と名づけたそうである.奈良時代に物理療法と運動療法が時の官僚によって実践された足立山の麓に,時を経て昭和24年労働災害者のための日本最初の労災病院,そしてリハビリテーション医療の聖地といわれた九州労災病院が立てられ,昭和41年九州リハビリテーション大学校が設立されたのも単なる偶然ではないであろう.ちなみに和気清麻呂はのちに医道を家業としたと歴史書には記されている.

1ページ講座 理学療法用語~正しい意味がわかりますか?

重心

著者: 福井勉

ページ範囲:P.437 - P.437

 「重心」は理学療法士がよく用いる言葉である.定義は「質点系の運動に対する重力の効果を考える場合に,その質点系を構成する質点全部が集中したと考えても運動が変わらないような点で,質量中心と同じ点」1)である.わかりやすくいうと,「重さの中心」と言い換えられよう.立位では骨盤内に位置することは良く知られているが,様々な姿勢ではどこに存在するかわかりにくい.計測機器を用いた場合,一般的には上腕,前腕などというように分節ごとの質量中心の空間座標と分節の質量比率から身体全体の重心を計算することが行われる.身体全体の運動を考える場合,この重心に重力が作用すると考えることができる.重力は地球の中心に引かれる万有引力であり質量に比例する.重心から鉛直下方に伸びた想定線を重心線と呼び,平衡状態にある場合,重心線は支持基底面内を通過する.

 重心は分節質量の空間分布により変化するため,姿勢の変化は必ず重心位置の変化を伴う.例えば立位で両上肢を下制した状態から挙上すると重心は上に移動する.同様に立位で頸部を屈曲すれば重心が下方移動する.

プログレス

ダイナミック・アライメントからみたスポーツ動作と外傷発生の関係

著者: 宮下浩二

ページ範囲:P.438 - P.439

 スポーツ動作と外傷発生

 スポーツ外傷は,様々な要因が関与して発生する.表1のような要因が単独もしくは複合して,スポーツ動作に悪影響を及ぼし,外傷の発生に至ることが多い1,2)

 スポーツ動作が達成すべき目的を効率的に行えない場合,つまり非効率的な動きに陥った際に外傷が発生しやすくなる.関節運動が過剰であったり,制限を受けたりすることにより,運動連鎖における各関節の連動が阻害され,ストレスが身体局所に集中することにより痛みや不安感の訴えが生じてしまう.

講座 理学療法に生かすICF・3

ICFの基本的な考え方をリハビリテーションの実際にいかに生かすか(2)―リハビリテーション(総合)実施計画書に体現されたICFの理念(2)

著者: 大川弥生

ページ範囲:P.441 - P.447

 1.リハビリテーションの過程は複雑 唯一のプログラムを決めるためのツール

 本誌の特集1)で既に詳しく述べているが,リハビリテーションとはその患者の人生を大きく左右する重大な過程である.それは非常に複雑な多数の因子からなるが,それらの因子を整理してまとめあげ,たった一つの(唯一の)プログラムを定めて進めていくものである.そして当然のことながらそのプログラムとは疾患や障害の種類が同じであれば誰にでも共通というものではなく,個々の患者によって大きく異なる個別的・個性的なものである.

 この複雑で重大な思考過程それ自体が,リハビリテーション医療における専門的技術として位置づけられるべきものと筆者は考えている.そしてそのような問題整理のための非常に切れ味の鋭い有効な武器が,生活機能分類・構造なのである.武器という強い表現を用いるのは,この整理を通して個々の患者にとっての唯一無二の,最良のプログラムをたてることは,非常に手ごわい作業だからである.

あんてな

町ぐるみの地域リハビリテーション推進活動―岩手県藤沢町の取り組み

著者: 佐藤正廣

ページ範囲:P.451 - P.453

 藤沢町は,岩手県最南端の宮城県境,北上川の東岸,南部北上山系に連なる中山間地帯に位置します.人口10,512人,世帯数3,000,高齢化率30.5%(平成14年1月1日現在)と高齢化・少子化の進むどこにでもある田舎町です.

 藤沢町では,「町民みんなでつくる町づくり」を行政施策の基本に,自治会を中心とした住民自治活動を展開し,住民参加の町づくりを進めています.そのひとつに,福祉医療センターを中心に医療,保健,福祉を支える「健康と福祉の里づくり」の取り組みがあります.今回はこの取り組みを中心に紹介します.

新人理学療法士へのメッセージ

患者さんに勝る教科書なし!

著者: 永井久美子

ページ範囲:P.454 - P.455

 無事に国家試験を合格され,新しく理学療法士となられた皆様,おめでとうございます.本号が発行される頃は新しい職場で,理学療法士としてのスタートを切っておられることでしょう.これからの理学療法士としての職業人生をそれぞれの場所で共に頑張っていきたいですね.今回は,私が入職1年目に感じたことなどを少しでも皆様にお伝えできればと思います.

応援しています

著者: 熊丸めぐみ

ページ範囲:P.456 - P.457

 国家試験を無事に合格し,晴れて理学療法士となったみなさん,おめでとうございます.心よりお祝い申し上げます.このメッセージを読まれるころには,もう職場にも慣れたころでしょうか?毎日楽しく働いていますか?それともたくさんの患者さんを目の前に四苦八苦していますか?私も理学療法士になってまだまだ経験が浅いので,新人のころを昨日のことのように思い出します.こんな私が,今まで経験してきたことや普段から感じてきたことを思ったままに書きつづってみました.このなかから少しでも,みなさんに伝わるものがあればと思っています.

ひろば

スリランカの義足事情―Jaipur foot programmeを見学して

著者: 中久木康一

ページ範囲:P.449 - P.450

 2001年に半年ほどスリランカに滞在したが,古都キャンディの街中でも足を切断したままの人を見かけることが多かった.そんな折,現地のギャミセーワ協会でボランティアスタッフであった嶋根卓也さんに紹介していただき,郊外にある義足の施設を見学させていただいた.

 Jaipur foot programmeは,スリランカ最古の社会福祉団体であるFriend-in-need Society(FINS)によって,1985年にコロンボに設立された義足や補装具を作製するための施設である.それまで義足を製作できる施設は軍の施設以外にはなかったが,現在ではFINSがコロンボ以外にもキャンディを含む全国7カ所でサービスを提供している.キャンディにあるJaipur foot programmeは中央州において唯一の施設である.1992年に開設され,土地は政府から,建物はノルウェーのODAから,器材はロータリークラブから提供を受け,水道は大統領基金で設置された.

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文献抄録

ページ範囲:P.458 - P.459

編集後記

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.464 - P.464

 先般,世界理学療法連盟の理事会に出席するためにケニアのナイロビを訪問した.アフリカ訪問は南アフリカ訪問以来2度目である.その際に二つの病院で理学療法部門を視察する機会を得た.いわゆる「発展途上国」として,日本の理学療法部門と比較すると,設備や理学療法体系は立ち遅れている.医療制度も日本のそれに比べ未整備である.一方,日本の医療費を先進国と比べるとまだ低い.下を見たり上を見ると世界の中における日本の医療費を含む医療制度の位置付けが認識できる.

 それにしても,ケニアの病床の50%程度がエイズ患者で占められていることを極めて深刻に受け止めた.アフリカの他の国でも同様だと聞く.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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