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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル36巻9号

2002年09月発行

雑誌目次

特集 新しい下肢装具

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.643 - P.643

 下肢装具の活用は,効果的な理学療法を展開する上で欠かすことができない.入院期間の短縮化や超早期リハの普及とともに,どのような時期に,どのような目的で,どのようなタイプの装具を用いるかがポイントとなる.当然理学療法士には,装具をいかに運動療法の中に取り込み,相乗効果を高め得るかが求められており,そのためには最新の装具の開発状況や適応方法などを常に把握することが大切である.

 今回,新しい下肢装具の適応について取り上げ,装具の特徴とその効果的な活用方法を中心に企画した.

片麻痺急性期における早期長下肢装具療法

著者: 巽香織

ページ範囲:P.645 - P.650

はじめに

 近年,脳血管障害急性期治療の一環として急性期リハビリテーション(以下,急性期リハ)は当然のごとく論じられている.急性期リハにおいて長下肢装具(以下,KAFO)は歩行やADL自立を図るために,回復初期から運動療法に取り入られ,骨折装具同様に治療用装具として活用されている1,7,8).われわれはKAFOを利用し,早期起立・歩行練習を事施している.本稿では当院で行っている片麻痺急性期における装具療法について,長下肢装具を中心に,目的,適応,効果を紹介する.なお短下肢装具(以下,AFO)については次稿を参照されたい.

油圧機構を足継手に用いたAFOと理学療法

著者: 溝部朋文 ,   萩原章由 ,   島津尚子 ,   佐鹿博信 ,   山本澄子 ,   安井匡

ページ範囲:P.651 - P.657

はじめに

 油圧機構を足継手に用いたAFO(以下,油圧AFO)は油圧緩衝器により立脚初期の足関節底屈を制動し,推進力を維持しながら踵接地後の衝撃を吸収するという正常歩行パターンを事現できる可能性をもつAFOである.油圧AFOはDACS AFO(背屈補助付短下肢装具)のバネ機構を油圧機構に改良したものであるが,開発コンセプトについてはDACS AFO同様である.油圧AFOの機能を明らかにするために正常歩行における立脚初期の機能,従来のAFOの課題,油圧AFOの臨床への可能性について以下に示す.

 1.正常歩行における立脚初期の機能1,2)

 踵接地から足底接地にかけて身体には,①衝撃の吸収,②安定した体重負荷,③推進力の保存という三つの機能が要求される.これらを身体各部位の位置関係で示したのが図1である.足関節には床反力により底屈方向へのモーメントが働き,これに対し足関節背屈筋群が遠心性に収縮し足関節底屈を制動する.この制動により下腿が踵を支点に前方に傾き(heel rocker)推進力を保存し,同時に足関節が緩やかに底屈しながら足底が静かに床面に接地するという衝撃吸収の役割を果たす.下腿が前方に傾くことは結果的に膝関節を屈曲させることになり,膝関節伸筋群は遠心性に収縮しその屈曲を制動する.つまり衝撃吸収をしながら下腿と大腿を連結し近位部に推進力を伝える.股関節では伸筋が求心性に働き,heel rockerと協調して股関節が伸展することにより身体は踵を支点に倒立振り子のように前方に回転する.正常歩行ではこのようなメカニズムで踵接地時の衝撃を吸収しながら前方への重心移動を行っている.

 2.従来のAFOの課題

 片麻痺者がAFOを装着した際の歩行について考えてみたい.従来のAFOは表1に示すような異常歩行に対し,つま先離れの改善と立脚の安定を目的に底屈方向の動きを制限している場合が多い,このような場合,踵接地から足底接地にかけてAFOがひとつの剛体となって転がるため足関節での衝撃吸収ができない(図2).そのため踵接地の際に床反力から受ける足関節底屈方向へのモーメントはそのまま下腿を前方に押し出す力となり,膝関節より近位部で踵接地から足底接地にかけての衝撃を受けることとなる.山本ら3)は底屈に対して可橈性の低い固いAFOを用いた場合,膝折れを起こすかもしくは立脚相の間に常に膝関節伸展モーメントを発生し膝折れを防止せねばならず,遊脚相への移行をも阻害すると述べている.われわれの臨床経験の中でも近位部の安定が得られない状態で急激に膝関節だけが前方に押し出され骨盤が後退した不安定なアライメントで立脚中期から後期を迎えてしまう症例や体幹を前傾させてしまう症例,さらに下肢全体を強く伸展させ下腿後面をAFOに押し付けるようにして安定性を得て歩行する症例を目にすることが多い.

 このような課題に対し,靴べら型AFOの足関節部のトリミングにより立脚初期に足関節底屈の動きを出すことも可能だが,技術的な難しさや立脚後期に不必要な背屈制動モーメントを生じてしまうという問題がある.

 山本ら4)は,AFOは立脚初期に適切な大きさの底屈制動モーメント注)を下肢に与えることが重要であることを明らかにし,DACS AFOを開発した(注:ちなみに底屈制動モーメントは従来背屈補助モーメントと表現されていたが,クレンザック継手のように足関節背屈方向の動きを補助するような誤解を招く表現であること,動きと力の関係をわかりやすく表現することをふまえて底屈制動モーメントとした).DACS AFOは反発力の異なる4種類のばねの交換と初期背屈角度の設定により底屈制動モーメントを調節することができ,立脚初期に足関節背屈筋群の制動を受けながら足関節が底屈するという正常歩行パターンに近づけることが可能である.使用者の装着感・歩きやすさといった点で良好な結果が得られているものの,外観・階段の降り難さや処方する側の種々の事情で普及していないのが現状である.

 3.油圧AFOの利点

 今回開発中の油圧AFOは,装着したままの状態でも底屈制動モーメントの大きさを無段階に調節することが可能である.したがって歩行練習を行う中で,歩容を評価しながらその場で底屈制動モーメントを個々の症例に適した大きさに調整することができる.また油圧機構が小さいためDACS AFOに比べ外観にすぐれ階段昇降時に邪魔にならないというように,臨床的に使用しやすい利点を有している.

失調症患者に対する装具と理学療法

著者: 福本和仁

ページ範囲:P.658 - P.666

はじめに

 運動失調を呈する疾患には,脊髄性(後索性あるいは深部感覚性),小脳性,前庭性,前頭葉性などがある.当然のことながら症状や重症度も多彩で,また神経学的にも失調症状の発現機序や病巣局在も異なる.また近年分子遺伝学の進歩により脊髄小脳変性症の遺伝子異常が同定されるようになり,従来の病型分類に疑問が生じている1,2).これは同一疾患名でありながら臨床症状や経過が異なることもあるということを意味し,単なる傷病名からの対応ではなく,より個々人の臨床症状を把握・評価し,病期に応じた治療計画を立てる必要がある3)

 さらに運動失調症の特徴としてimpairmentレベルの障害が必ずしもdisabilityレベルの障害と一致しないことから,評価や治療方針を立案する際,その病態を複雑なものにしている4,5).このような運動失調症の持つ複雑な病態を念頭に置きつつ,治療法の一つである装具療法について概説し,また失調症における不安定要素の運動学的分析から,姿勢歩行障害に対する装具や運動療法の適応について述べたい.また当院で開発した装具について紹介し,効果の機序や適応について若干の考察を加える.

ポリオ後症候群に対する下肢装具と理学療法

著者: 佐古めぐみ ,   横串算敏

ページ範囲:P.667 - P.672

はじめに

 ポリオ罹患後に数10年の症状安定期を経て,新たな筋疲労,筋萎縮,疼痛が現われ日常生活に障害をもたらすことがある.新たに出現した多彩な心身の症状は,ポリオ後症候群(post-polio syndrome,以下,PPS)として知られている.本邦における調査では,PPSは下肢麻痺がある患者に多く,特に移動に関係する日常生活動作に障害が見られることが明らかにされている1).PPSを有する患者に対しては,その病態に応じた装具,理学療法の処方が必要になる.本論文では,本邦におけるポリオ罹患の歴史とPPSの病態について概説し,ポリオ後症候群を持つ患者に対する下肢装具の処方,理学療法を行う際の注意点について述べる.

膝・足関節のスポーツ傷害に対する装具と理学療法

著者: 中江徳彦 ,   小柳磨毅

ページ範囲:P.673 - P.682

はじめに

 近年,スポーツ用装具の発達はめざましく,スポーツの現場でも装具が幅広く使用されるようになった.特にスポーツ用のコルセットやサポーターなどは,比較的容易に入手が可能となり,装具はスポーツ選手にとって用具の一部となってきている(図1).スポーツ用装具が普及した背景には,材料の進歩や生体工学に基づくデザインの開発,またテーピングに比べて低コストであるなどの要因がある.

 スポーツ用装具の目的は,①組織の保護,②機能の改善,③疼痛の軽減・除去であり,使用目的に応じて予防用,治療用,再発予防用に大別される.しかし装具が外傷発生や障害予防に有効であったとする報告1,2)がある一方で,装具装着による外傷発生率の上昇やパフォーマンスの低下など有効性に対して否定的な報告3~5)も多い.したがって装具の使用にあたっては,その機能と効果をはじめ,損傷組織の治癒過程や機能障害およびスポーツ動作の回復程度についても十分に理解しておく必要がある.

 本稿では膝・足関節のスポーツ傷害に対する装具の選択と理学療法について紹介する.

とびら

4月1日の混乱

著者: 嶋田誠一郎

ページ範囲:P.641 - P.641

 3月31日,おおよそ今月の初めから始まった診療報酬改定の情報とその情報不足に振り回されてきたが,今日やっと手元に届いた白本を睨みつつも明朝からの現実の対応を危惧しながら,その合間にこの原稿に臨んでいる.たぶん,今この時期,日本中の医療施設において,4月1日から始まる診療報酬改定への対応に頭を悩ませているのだろう.おそらく,この駄文が「とびら」を飾る頃にはこの混乱も過去のものとなっているのであろう.理学療法士になってから17年,診療報酬における理学療法は,ほとんどその体系は変わりもせず,診療報酬の中で薬価などが下がる中でも微増を続け,それが当たり前のように感じていた(おそらく先輩諸兄も同じでは?).

 理学療法士1人当たり1日複雑12人の枠が1日18単位となった点のみでみると,単純に言って25%前後の減収である.なんとか減収を最低限にするにはどうすればよいかを少ない情報の中で考え,一方で明日からの改定に伴う算定方法の変更への対応や諸書類の変更に追われてきた月末であった.

入門講座 コミュニケーション技術・3

理学療法現場におけるコミュニケーション分析のすすめ

著者: 沖田一彦 ,   菅原憲一 ,   越智淳子 ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.683 - P.688

はじめに

 現代では,すべての医療専門職に患者と効果的なコミュニケーションを図る能力が強く求められている1,2).医療現場におけるコミュニケーションの重要性は,以下の3点に要約できる.すなわち,1)それなしには医療者の知識・技術を診療に生かすことができない,2)それ自体に治療(癒し)の役割がある,3)医療のあり方が,一方的な“おまかせ医療”から医療者と患者のコミュニケーションに基づく医療へと変化してきている,である3)

 このような事情が理学療法士(以下,PT)にも当てはまることは言うまでもない4,5),医療におけるコミュニケーションが医療者による型どおりの“技術的面接”によってではなく,会話を通した患者との相互作用の形で複雑に成立している事実を考えれば,効果的なコミュニケーションの展開のためには,様々なタイプの研究を実施して実際に行われているコミュニケーションの内容を分析し,その結果を教育に生かしていくことが不可欠となる6).しかしながら,理学療法現場におけるコミュニケーションを分析した研究は,欧米においては見受けられるものの7~11),わが国においてはまだ極めて少ないのが現状である.

 そこで本稿では,理学療法現場で実施可能なコミュニケーション研究の方法を,筆者らが手がけてきたものを含め紹介するとともに,それを行うことの意義について解説する.

理学療法の現場から

来年40歳,さてこれから…

著者: 縄井清志

ページ範囲:P.689 - P.689

 臨床から教職に転身して思うこと

 臨床から教育に転身してそろそろ2か月になります(2002年5月現在).

 進学に伴って決断した転職でしたが,今でも病院での仕事に戻りたいと思うことがあります.臨床と教育(臨床教育)と研究と家庭+αのバランスの難しさはありましたが,上司や後輩,実習生ら「前線の仲間」と酒を飲みながら話をしていた日々が懐かしく思えます.決して今が充実していないわけではないのですが,何か,臨床から離れたことに後ろめたい気持ちが生じています(学生を通して理学療法の必要な人に貢献しているとは思っていますが).ところで,教員になると研究の時聞が十分あるものかと思っていましたが,実際にはなかなか難しいものと知りました.なんといっても教員1年目は授業計画の作成や準備が大変です.それに,実習生の相談も頻繁にあり,思ったように時間が使えず「今年の学会エントリーは控えればよかった」と思っている次第です.さて,医療環境の変化について日常感じることと言えば,「リスクマネジメント」「職域の拡大・連携」「満足度」「EBM」「インフォームドコオペレーション」などの言葉が浮かびます.中でもPS(patient satisfaction患者満足度)が最も重要といえるでしょう.なぜならば,医療環境の変化はおおむねPSを考慮した結果生じているものと思われるからです.理学療法の領域では,理学療法を必要とする人にとって,どのようなあり方が最もよいのかを考えてゆくことがPSと言えるでしょう.教職に転身してPSを直接感じることが少なくなりましたが,学生を導く役割lであるからこそ,船頭は方向を間違えないようにしなくてはいけないな,と感じています.

プログレス

パーキンソン病者における歩行障害に対する理学療法戦略

著者: 柴喜崇

ページ範囲:P.690 - P.691

 歩行障害

 パーキンソン病者の初期症状として,静止時振戦とならび歩行障害があげられる.歩行障害は,高頻度にみられる静止時振戦といった顕在症状よりも日常生活活動を阻害する因子として問題とされている1)

 パーキンソン病者の歩行の特徴に小刻み歩行がある.程度の差こそあれ罹患初期から必発であることは一致している.小刻み歩行以外の歩行障害としては,歩行開始時にみられるすくみ足,歩行時にみられる突進現象などがあるが,突進現象の割合はパーキンソン病者の15%程度であるといわれている2)

1ページ講座 理学療法用語~正しい意味がわかりますか?

呼吸

著者: 千住秀明

ページ範囲:P.692 - P.692

 1.呼吸運動の背景

 呼吸運動(breathing exercise)によって横隔膜の機能が改善することをHofbauce L(1925)1),Cooper A(1937)2)が報告して以来,医学の分野に呼吸運動が用いられてきた.この呼吸運動の方法は,腹部周囲筋を収縮させ,腹圧を高め,横隔膜を挙上させ,肺の収縮力を援助する方法であった.

 現在の呼吸運動の基本的方法は,Barach AL(1955)3)によって確立された.彼は呼吸運動を,口すぼめ呼吸(pursed lip breathing),横隔膜呼吸(diaphragmatic breathing),腹圧呼吸(abdominal breathing)に分類し,横隔膜呼吸は練習肢位が臥位で吸気時に横隔膜の運動を強調した呼吸,また腹圧呼吸は練習肢位が坐位で上体を15度前傾姿勢,ベルトを使用した運動と記載している.

プラクティカル・メモ

簡単にできる「杖掛け」の製作

著者: 川岸雅之

ページ範囲:P.693 - P.693

 T字杖という物は歩く時には都合がいいですが,立ち止まって他のことをしようとすると置き場所に大変苦労します.片麻痺のある人では,T字杖が使えても,杖が倒れると困るのでわざわざ四点支持杖を使うこともあるくらいです.そのようなT字杖を取りつける市販品もいろいろありますが.値段が高かったり,機能が足りなかったりしてあまりお勧めできません.

 それで今回は,簡単な構造で机などの平らなところや車いすの背もたれのような薄いところでも掛けられる金具を作りました(図1,2).

学校探検隊

期待される理学療法士に

著者: 砂川勇 ,   谷田惣亮

ページ範囲:P.694 - P.695

 滋賀県と本校の周辺

 滋賀県は日本のほぼ真ん中に位置し,全面積の6分の1を琵琶湖が占めている.西は比叡・比良連峰,北は伊吹山・霊仙山,東は鈴鹿山系,南には信楽山地に囲まれ,それぞれが境界をつくり山城・丹波・若狭・美濃・伊勢・伊賀と接している.したがって古くから日本を東西に移動するためには必ず踏み入れなければならない土地であり,人々の移動・文化の交流という観点からも滋賀県はまさに日本の辻として発展してきた足跡がある.

 本校は,琵琶湖の東側つまり湖東の地に位置し,鈴鹿山系の山裾にあたる.ここには比叡山延暦寺を頂点とした天台宗寺院が,山裾10kmぐらいの間に百済寺・金剛輪寺・西明寺の伽藍がそびえ立ち,一般には「湖東三山」として知られている.とりわけ聖徳太子が創建(西暦606年)されたと伝えられている百済寺は,本校と隣接しており四季折々の風情に富み,春にはコブシと椿,初夏には藤の花,夏は千年菩提樹の花,秋には燃えるような紅葉が私たちの目を楽しませてくれる.

講座 理学療法に生かすICF・6(最終回)

理学療法プログラムに生かすICF(2)―リハビリテーション・プロセスへの患者・家族の主体的関与・決定

著者: 大川弥生

ページ範囲:P.696 - P.703

 1.はじめに

 前号1)に引き続き目標指向的アプローチについて,目標設定のプロセスの重要な部分である,患者・家族の主体的関与・決定を中心として述べる.前回の図をご参照いただきたいが,リハビリテーション(以下,リハ)チームが行なう評価にはじまって“参加”の予後予測(複数)に至るプロセス全体は,図の左下を占める大きな四角形の枠内にあり,その枠全体が左側にある「患者・家族の主体的関与・決定」と双方向の矢印で結ばれている.これは従来のわれわれの類似の図2~4)では予後(心身機能・構造,活動,参加の各レベルにつき,それぞれ複数)からしか患者・家族に向かう矢印がなかったものを今回修正したものであるが,これはリハの全過程への患者・家族の主体的関与をいっそう強調し,誤解の余地をなくすための修正である.

 また,大きな四角形のなかの右下の「している“活動”の予後予測」と「参加の予後予測」(いずれも複数)から出て右端を上行して上の主目標・副目標A・副目標Bにいたる矢印(前号では矢が抜け欠けていたが誤り)に対して,「患者・家族の主体的関与・決定」から矢印が達している.これがインフォームド・コオペレーション3~8)の最も重要なポイントである,十分な説明とディスカッションをふまえての,専門職チームから提出された複数の実現可能な予後予測(目標の候補)である「活動・参加」のセットの中から患者・家族が熟慮の上で一つを選択するというプロセスである.しかもこの「チームによる複数の選択肢の提示」は図には示していないが,目標設定だけで終わるのではなく,目標実現のための大方針やそれを具体化したプログラムの設定,さらには個々の技術の選択についても行なわれるのである.これが専門職チームの専門性と患者・家族の自己決定権の両者の尊重・両立の上に立った共同決定であり,それを実現するための共同の努力のプロセスである.

 このような持続的な協力関係を支える「共通言語」2,9,10)がICFである.ICFはリハに携わる専門職の間での,またそれらと行政などとの間での相互理解とコミュニケーションのための共通言語という意味も大きいが,いっそう大きな意味をもつのは専門職チームと患者・家族との間の協力のための共通言語としての意義である.もちろんこれはICFが初めて提起したものではなく,むしろ1980年のICIDH以来の20数年間に起こった患者・障害者の権利尊重,特に自己決定権とその前提としての「知る権利」の尊重・保障の重視がICFに至る改定のプロセスに大きな影響を与え,ICFに「共通言語」としての役割を刻印したのである.

 したがって目標指向的アプローチにおける目標設定プロセスの重要な一部としての患者・家族への説明は,専門家集団が行なうすべての評価結果,予後予測の結果,さらにそれらを支える各種のプログラムと予後学にまで及ばなければならない.そして単に「説明した」という形式を整えるのではなく,インフォームド・コオペレーションとして患者・家族に正しく主体的に参加してもらい,理解してもらう努力をはらわなければならない.そしてその過程自体を促進する技術においてICFの活用が効果的ツールとなる.

学会印象記 第39回日本リハビリテーション医学会学術集会

実証に基づいたリハビリテーション

著者: 石川朗

ページ範囲:P.704 - P.705

 リハビリテーション医学の実証と発展―

 第39回日本リハビリテーション医学会学術集会が,三上真弘教授(帝京大学医学部リハビリテーション科)を学会長のもと,「リハビリテーション医学の実証と発展」をメインテーマとして,5月9日からの3日間東京国際フォーラムで開催されました.例年は6月に開催されていますが,サッカーワールドカップのため,約1か月早められたようです.

 学術集会の主なプログラムは,会長講演の他,木村淳先生(アイオワ大学)による「臨床電気診断法の波形分析」,養老孟司先生(北里大学)による「脳の可塑性について」,松下隆先生(帝京大学)による「イリザロフ法による下肢機能障害の改善」の特別講演があり,シンポジウムでは「脳性麻痺の機能予後」,「介護保険と介護及び地域リハビリテーションへの提言」,「高齢下肢切断者へのリハビリテーション」の3テーマで,パネルディスカッションでは「21世紀における歩行解析の展望」,「痙縮の新しい治療法」,「脳卒中の装具療法:私のスタンダード」,「経頭蓋磁気刺激の臨床応用」,「リハビリテーション医療・福祉分野における近未来ロボット技術のインパクトJの5テーマで,さらにワークショップでは「装具:各種プラスチック製短下肢装具」,「介助犬」の2テーマで行われ,各会場で活発なディスカッションがありました.

第36回日本作業療法学会

21世紀の指針を示す参加企画型学会

著者: 霜井哲美

ページ範囲:P.706 - P.707

 日本全体がWorld Cupに盛り上がろうとする中,5月29日から6月1日の4日間にわたり,広島において第36回作業療法学会が開催された.会場は広島国際会議場,アステールプラザの2施設で宮前学会長のもと,3,300名の参加者が集まった.今回,私は初めてこの学会に参加する機会を得たので,学会の概要と印象について私の主観を含めて報告する.

 今回の学会の印象は大きくは二つに集約される.ひとつは学会長の開会宣言で挨拶されたように,学会のプログラムが豊富に盛り込まれていたことである.内容は講演・セミナーのような発表形式と,ワークショップ・アクティビティ実演・技術講座・ケース検討・ラウンドテーブルなど,参加企画型の内容が設けてあり,参加者の様々な要望に応える非常に多彩な形式であった.もう一つは,新しい内容や他職種が聴講しても非常に意義ある内容であったことである.私自身がすべてを聴講することは不可能で,仕事内容に関することを中心に聴講し,特に印象深かった部分を報告する.

特別寄稿

日本の理学療法の国際化

著者: 田口順子

ページ範囲:P.709 - P.714

 援助を受けた側からの出発

 今春の青年海外協力隊員の募集が5月末で締め切られた.応募総数は4,452名と例年なみだが,160職種に及ぶ中で理学療法士の応募者は23名と,1名ではあるが要請数を上回った.作業療法士も13名の要請に対して12名の応募と理学療法士を凌ぐ勢いで,このような現象は初めてのことである.

 昨今,理学療法士・作業療法士の国際感覚と関心の高さが感じられる.これまでの先進国との交流に目を向けていた傾向から国際協力活動に期待できる時代に入ったのだろうか.

雑誌レビュー

“Physiotherapy”(2001年版)まとめ

著者: 竹井仁 ,   池田由美 ,   堀川博代 ,   中俣修 ,   古川順光

ページ範囲:P.715 - P.720

はじめに

 “Physiotherapy”は英国の理学療法士協会が毎月発行している学術誌である.2001年版87巻(8,9,10号は欠本)の“peer-reviewed papers(professional articles)”について,その内容を概観した.“peer-reviewedpapers”は,昨年と一昨年と同様に日本理学療法士協会による7つの専門領域部会別に分類したので比較していただきたい(表1).本稿では各号の全タイトル訳(表2)およびその中で興味ある論文を取り上げ要約を掲載した.

資料

第37回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2002年3目3日実施) 模範解答と解説・Ⅲ―理学療法(3)

著者: 伊橋光二 ,   大島義彦 ,   内田勝雄 ,   八木忍 ,   伊藤友一 ,   三和真人 ,   百瀬公人 ,   小野武也 ,   鈴木克彦 ,   南澤忠儀

ページ範囲:P.721 - P.727

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文献抄録

ページ範囲:P.728 - P.729

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.732 - P.732

 今年の夏ば猛暑を超え天候異変を感じるほどの暑さですが,皆様のところではいかがでしょうか.都会では実然の雷鳴と集中豪雨でヒートアイランド現象が危惧されていますが,単なる気温上昇のみでなく自然界を支えている動植物の生態系への影響も心配です.合理的で快適性と利便性を追求しすぎるライフスタイル,生活の価値観を見直すときではないでしょうか.しかしながら本誌が届く頃の初秋になると国民の多くは異常気象についての懸念を忘れ,対策が後手にならないよう願っています.

 さて,今月号の特集は「新しい下肢装具」です.義肢装具の開発の現状をみると,義肢領域ではシリコンソケットやインテリジェント膝継手など材質,部品の進歩は目覚しいものがありますが,装具領域では,ハード面よりもむしろ刻々と変化する病状に対して最適な装具を用いた理学療法をいかに実施するかという治療用装具としての位置づけに重点がおかれています.それだけに装具の処方時期や調整機能を有しているかがポイントとなるため,本号ではこのような観点を踏まえて第一線の臨床現場でご活躍されている方に執筆をお願いしました.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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