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講座 理学療法に生かすICF・6(最終回)
理学療法プログラムに生かすICF(2)―リハビリテーション・プロセスへの患者・家族の主体的関与・決定
著者: 大川弥生1
所属機関: 1国立長寿医療研究センター老人ケア研究部
ページ範囲:P.696 - P.703
文献購入ページに移動 1.はじめに
前号1)に引き続き目標指向的アプローチについて,目標設定のプロセスの重要な部分である,患者・家族の主体的関与・決定を中心として述べる.前回の図をご参照いただきたいが,リハビリテーション(以下,リハ)チームが行なう評価にはじまって“参加”の予後予測(複数)に至るプロセス全体は,図の左下を占める大きな四角形の枠内にあり,その枠全体が左側にある「患者・家族の主体的関与・決定」と双方向の矢印で結ばれている.これは従来のわれわれの類似の図2~4)では予後(心身機能・構造,活動,参加の各レベルにつき,それぞれ複数)からしか患者・家族に向かう矢印がなかったものを今回修正したものであるが,これはリハの全過程への患者・家族の主体的関与をいっそう強調し,誤解の余地をなくすための修正である.
また,大きな四角形のなかの右下の「している“活動”の予後予測」と「参加の予後予測」(いずれも複数)から出て右端を上行して上の主目標・副目標A・副目標Bにいたる矢印(前号では矢が抜け欠けていたが誤り)に対して,「患者・家族の主体的関与・決定」から矢印が達している.これがインフォームド・コオペレーション3~8)の最も重要なポイントである,十分な説明とディスカッションをふまえての,専門職チームから提出された複数の実現可能な予後予測(目標の候補)である「活動・参加」のセットの中から患者・家族が熟慮の上で一つを選択するというプロセスである.しかもこの「チームによる複数の選択肢の提示」は図には示していないが,目標設定だけで終わるのではなく,目標実現のための大方針やそれを具体化したプログラムの設定,さらには個々の技術の選択についても行なわれるのである.これが専門職チームの専門性と患者・家族の自己決定権の両者の尊重・両立の上に立った共同決定であり,それを実現するための共同の努力のプロセスである.
このような持続的な協力関係を支える「共通言語」2,9,10)がICFである.ICFはリハに携わる専門職の間での,またそれらと行政などとの間での相互理解とコミュニケーションのための共通言語という意味も大きいが,いっそう大きな意味をもつのは専門職チームと患者・家族との間の協力のための共通言語としての意義である.もちろんこれはICFが初めて提起したものではなく,むしろ1980年のICIDH以来の20数年間に起こった患者・障害者の権利尊重,特に自己決定権とその前提としての「知る権利」の尊重・保障の重視がICFに至る改定のプロセスに大きな影響を与え,ICFに「共通言語」としての役割を刻印したのである.
したがって目標指向的アプローチにおける目標設定プロセスの重要な一部としての患者・家族への説明は,専門家集団が行なうすべての評価結果,予後予測の結果,さらにそれらを支える各種のプログラムと予後学にまで及ばなければならない.そして単に「説明した」という形式を整えるのではなく,インフォームド・コオペレーションとして患者・家族に正しく主体的に参加してもらい,理解してもらう努力をはらわなければならない.そしてその過程自体を促進する技術においてICFの活用が効果的ツールとなる.
前号1)に引き続き目標指向的アプローチについて,目標設定のプロセスの重要な部分である,患者・家族の主体的関与・決定を中心として述べる.前回の図をご参照いただきたいが,リハビリテーション(以下,リハ)チームが行なう評価にはじまって“参加”の予後予測(複数)に至るプロセス全体は,図の左下を占める大きな四角形の枠内にあり,その枠全体が左側にある「患者・家族の主体的関与・決定」と双方向の矢印で結ばれている.これは従来のわれわれの類似の図2~4)では予後(心身機能・構造,活動,参加の各レベルにつき,それぞれ複数)からしか患者・家族に向かう矢印がなかったものを今回修正したものであるが,これはリハの全過程への患者・家族の主体的関与をいっそう強調し,誤解の余地をなくすための修正である.
また,大きな四角形のなかの右下の「している“活動”の予後予測」と「参加の予後予測」(いずれも複数)から出て右端を上行して上の主目標・副目標A・副目標Bにいたる矢印(前号では矢が抜け欠けていたが誤り)に対して,「患者・家族の主体的関与・決定」から矢印が達している.これがインフォームド・コオペレーション3~8)の最も重要なポイントである,十分な説明とディスカッションをふまえての,専門職チームから提出された複数の実現可能な予後予測(目標の候補)である「活動・参加」のセットの中から患者・家族が熟慮の上で一つを選択するというプロセスである.しかもこの「チームによる複数の選択肢の提示」は図には示していないが,目標設定だけで終わるのではなく,目標実現のための大方針やそれを具体化したプログラムの設定,さらには個々の技術の選択についても行なわれるのである.これが専門職チームの専門性と患者・家族の自己決定権の両者の尊重・両立の上に立った共同決定であり,それを実現するための共同の努力のプロセスである.
このような持続的な協力関係を支える「共通言語」2,9,10)がICFである.ICFはリハに携わる専門職の間での,またそれらと行政などとの間での相互理解とコミュニケーションのための共通言語という意味も大きいが,いっそう大きな意味をもつのは専門職チームと患者・家族との間の協力のための共通言語としての意義である.もちろんこれはICFが初めて提起したものではなく,むしろ1980年のICIDH以来の20数年間に起こった患者・障害者の権利尊重,特に自己決定権とその前提としての「知る権利」の尊重・保障の重視がICFに至る改定のプロセスに大きな影響を与え,ICFに「共通言語」としての役割を刻印したのである.
したがって目標指向的アプローチにおける目標設定プロセスの重要な一部としての患者・家族への説明は,専門家集団が行なうすべての評価結果,予後予測の結果,さらにそれらを支える各種のプログラムと予後学にまで及ばなければならない.そして単に「説明した」という形式を整えるのではなく,インフォームド・コオペレーションとして患者・家族に正しく主体的に参加してもらい,理解してもらう努力をはらわなければならない.そしてその過程自体を促進する技術においてICFの活用が効果的ツールとなる.
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