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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル37巻1号

2003年01月発行

雑誌目次

特集 脳卒中片麻痺患者の歩行

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.3 - P.3

 人を含む動物にとって「移動能力」の水準は,生活・生存自体の水準を定める重要な基本要因であることは周知のごとくである.ICFに準じて端的に考えると,患者の「心身機能・構造」を最大限度に回復させ,それらを「活動」と「参加」に反映させることである.しかし,それらの過程はたいへん複雑であり,なかなか理論的には進まないことが多い.そのような過程でEBMの視点で種々の角度からclinical reasoningを行い,ICFに準じた「脳卒中片麻痺患者の歩行」に関連する理学療法について考える機会になれば幸いである.

脳卒中片麻痺患者の歩行能力改善の推移

著者: 丹羽義明 ,   半田一登

ページ範囲:P.5 - P.9

 近年の診療報酬改定に伴い入院期間の短縮が余儀なくされ,脳卒中片麻痺(片麻痺)に対しても長期間にわたる漫然とした治療は過去のものとなり,経済効果の面からも在院日数短縮が迫られている.しかし,それにより医療費が節減されても,医療サービスの質や量が低下し機能回復が抑制されたのでは意味がなく,限られた期間でいかに治療効率を高めるかが求められている.二木は効率を高める方法として生産効率と配分効率とに分類しているが1),医療行為での生産効率の向上(一つの医療行為,例えば1回の入院という生産過程で従来よりも短期間に従来と同じかそれ以上の効果をもたらす方法)としては専門病棟での多職種チームによるアプローチやクリニカルパスの導入,リハビリテーション(リハ)の早期介入などがあろう.早期介入リハの効果について,二木ら2)は脳卒中の早期群と発症後2か月でリハを開始した群とを比較し,早期群で在院日数が48%,医療費が39%それぞれ節減されたことを報告し,長澤3)も早期介入により目標歩行レベルの達成が早くなされ在院日数が短縮することを報告している.また,早期介入と並行して効率のよいリハを展開する目的で,脳卒中の重症度や合併症の有無などにより患者を層別化し,発症後早期の座位保持能力など歩行獲得に影響を与える因子の検討から早期より機能的予後予測を行い,群別の治療体系からなるクリニカルパスの検討も進められている.本稿では発症後早期に理学療法開始となった片麻痺の経時的な歩行推移と歩行獲得に影響を与える因子の検討を行うとともに片麻痺のバランス評価としてのBerg Balance Scale(BBS)の有用性および予後予測の可能性について述べる.

発症後の期間別歩行獲得割合の比較

 当院入院の,発症から2週間以内に理学療法を開始した片麻痺患者で,3か月間経時的に評価が可能であった82名(男性51名,女性31名,平均年齢65.8±9.7歳)を対象とした.病型の内訳は脳梗塞54名,脳出血28名,麻痺側は右片麻痺43名,左片麻痺39名で,発症後2週の下肢Brunnstrom stage(Br-stage)はⅠ―11名,Ⅱ―14名,Ⅲ―8名,Ⅳ―15名,Ⅴ―21名,Ⅵ―13名であった.

脳卒中片麻痺患者の歩行能力に与える諸因子

著者: 成田寿次 ,   荒畑和美

ページ範囲:P.11 - P.15

 脳卒中片麻痺患者の発症者数は近年減少傾向にある1).しかし,急性期医療による救命率の改善や長期生存率の伸びなどにより様々な神経症状の後遺症を残した脳卒中片麻痺患者の有病者数は,逆に増加傾向にある.また,厚生労働省の調査では,手助けや見守りなどの介護を要する患者の原因疾患の第1位に脳血管障害(脳卒中など)が挙げられている2).介護量や介護の必要性を減らすためにも脳卒中片麻痺患者の急性期から在宅を含めた慢性期のリハビリテーションは重要であり,今後ますます需要が増えると考えられる.特に,歩行能力の獲得は,リハビリテーションの主要な目的の一つであり,患者,家族の期待も大きい.二木3)は,病院から自宅退院する条件の一つとして,リハビリテーションによる歩行の自立を挙げている.そこで,片麻痺患者の歩行能力に影響を与える要因の中で,日頃頻繁に取り上げられる身体的機能について文献考察を行う.

 さらに,近年,高齢者の人口増加に伴い高齢片麻痺患者は増加傾向にある4).高齢片麻痺患者の歩行に関する問題点についても,筆者らの知見をもり込みながら文献的検討を加える.

脳卒中片麻痺患者の歩行分析法

著者: 濱本龍哉

ページ範囲:P.17 - P.19

 片麻痺患者の歩行は理学療法士にとって大きなテーマであり,これまでも様々な報告がある.歩行分析の方法としては,歩容の観察,歩行速度,歩行率,左右の歩幅,重複歩距離といった多くの臨床場面で可能な検査測定を基にしたものと,3次元動作解析機器,床反力計などの機器を用いたより詳細なものがある.多くの場合われわれは,機器を用いた研究報告などを参考に,臨床において観察された内容および測定可能な歩行のデータを運動学的,運動力学的な観点からとらえ,中枢神経系の障害を考慮したうえで分析している.

 本稿では過去の文献を紹介し,片麻痺患者の歩行分析にあたっての考え方を整理していきたい.

脳卒中片麻痺患者の歩行能力の改善に及ぼす下肢装具

著者: 平山昌男 ,   加藤順一 ,   永田安雄 ,   神沢信行

ページ範囲:P.21 - P.27

 近年,脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)の機能障害や能力障害に対するアプローチのひとつとして装具療法の重要性が再認識され,その中で最も使用頻度が高い下肢装具の特徴や機能については多くの報告がみられる1~3).装具療法は運動療法と併用することでその効果がさらに高まり,日常生活上で重要な起立や歩行において下肢装具の果たす役割は大きい.患者が有する障害の程度と装具の機能を最良に組み合わせることが理学療法士の重要な役割のひとつである4)

 本稿では片麻痺患者の下肢装具の作製目的と時期,処方の動向などについて臨床でよく用いられる長下肢装具(knee ankle foot orthosis:以下,KAFO)と短下肢装具(ankle foot orthosis:以下,AFO)を中心に述べ,併せてわれわれの装具作製時の取り組み方や留意点,そして装具装着が歩行能力に及ぼす効果について報告する.

半側空間無視を有する脳卒中片麻痺患者の歩行能力―実用移動能力と歩行練習到達レベルの比較

著者: 北里堅二 ,   入江泰子 ,   赤星智美 ,   金子真一

ページ範囲:P.29 - P.34

 脳卒中片麻痺患者の移動能力に影響を及ぼす因子についての研究は数多くある.近藤ら1)は,脳卒中片麻痺患者の移動能力の到達段階に影響を与える要因として,以下の4項目をあげている.つまり, 1)年齢,既存疾患などの背景因子, 2)運動麻痺,感覚障害,意識障害および高次脳機能障害などの障害の重症度, 3)廃用性障害,転倒・骨折などの,回復過程で付随して起こってくる問題, 4)理学療法アプローチ法を含む医学的管理に関わる問題,である.

 これらの中で,高次脳機能障害に関しては,脳卒中片麻痺患者の機能予後やリハビリテーション遂行上の阻害因子として十分認識はされている2,3)ものの,理学療法的アプローチが体系化されているとは言いがたい.高次脳機能障害の中で,左脳障害の失語症とともに高頻度に出現する右脳障害の半側空間無視においても例外とは言えず,試行錯誤の中から徐々にいくつかのアプローチ法が生まれつつある状況といえよう.

とびら

小さな努力を積み重ねて

著者: 川原田里美

ページ範囲:P.1 - P.1

 「ランドセルを買ってもらったよ.」小学校に入学する子どもたちは期待に胸を膨らませ,瞳を輝かせる.障害をもつ子どもたちも全く同じだ.青森県でも,養護学校ではなく地域の普通学校に通う子どもが年々増えており,理学療法士として精一杯の支援をしている.

 一人の子どもの支援を通して,障害をもつ子どもと家族を最も悩ませ困難をもたらすものは,周囲の無理解や建物の構造,既成の教育制度などの社会的制約だということを学んだ.社会的制約を改善しなければ,子どもが持っている能力を最大限に発揮することはできないし,私たちの支援が真に役立つことはないということを痛感した.

入門講座 理学療法ワンポイントアドバイス➊

意識障害

著者: 前田秀博 ,   八並光信 ,   高橋友理子 ,   丸田和夫

ページ範囲:P.35 - P.44

 「意識」という言葉の意味はとても広く,哲学,心理学的な要素をも含んでいる.医学分野における「意識」の最も基本的な意味は,個体が外界に対して注意を向け,対象を認知し,それに対して応答しうる状態と説明されている1).対極にあるものとしては,生理的な睡眠と疾患による意識消失があり,その中間に意識障害がある.意識の中枢としては,脳幹網様体賦活系と視床下部が大きく関与しており,上行性脳幹網様体賦活系と視床下部賦活系からのインパルスが視床を経由して大脳皮質の活動を維持・調節することで,意識の清明さが保たれている(図1)2).したがって,これらの経路や機能がなんらかの原因で障害されたときに意識障害が発現する.意識障害とは外界からの刺激に対する応答が低下した状態をいうが,当然ながら生理的睡眠との鑑別が前提となる.また意識される範囲は意識野と呼ばれ,基本的には意識野の明るさ(清明度)で意識障害の程度が表現される.

意識障害の分類

 通常,われわれが捉える意識障害は,混濁(意識の清明度の障害)と変容(意識の方向性の変化)に大別される3).つまり意識野が暗くなれば混濁,注意が意識野の中心に集中せず他の方向に向き,他の精神現象も加わった状態が変容と表現され,混濁は単純な意識障害,変容は複雑な意識障害に分類されている1)

1ページ講座 理学療法用語~正しい意味がわかりますか?

EBP

著者: 小島肇 ,   黒川幸雄

ページ範囲:P.45 - P.45

 EBP(evidence-based practice)はEBM(evidence-based medicine)から生まれた派生語である.EBMという言葉は1991年にGuyattが初めて使用し,その後Sackettらのグループがその概念および方法論を整理,普及させたことから,1990年代後半に医療関係者に急速に浸透した1)

 EBMは「入手可能で最良の科学的根拠を把握した上で,個々の患者に特有の臨床状況と価値観に配慮した医療を行うための一連の行動指針」と定義されている2).すなわち,患者からの情報(patient preference)を十分把握し,論文などの外部の根拠(research evi-dence)で補完した臨床専門知識・技術(clinical exper-tise)を駆使して診療に当たる臨床問題解決手法である.

プログレス

痴呆患者に対する集団指導と個別指導―理学療法士のかかわり

著者: 上村佐知子

ページ範囲:P.46 - P.48

 2000年の実態調査によると,理学療法の対象疾患としての「痴呆」は第5位であった1).これまで「痴呆」を有する障害老人に対する理学療法は,残存機能の維持・向上や転倒予防を目的に実施されてきたが,一部では精神的な効果(認知能力の改善,情動の安定,問題行動の鎮静,生活のリズムの形成など)も期待されている2,3).もし,そうであるのならば「痴呆」そのものに対する理学療法の効果は,効率も含めてさらに検討されなければならないと考える.

痴呆の分類と臨床症状

 痴呆は,一般にアルツハイマー型痴呆や脳血管性痴呆などに分類される.また,中核症状である認知障害のほか,問題行動となる不穏・徘徊などの周辺症状を有することが多く,臨床場面では,これら対するアプローチが必要となる4).中等度以上の痴呆患者に対する中核症状への治療は,薬物治療も含めて効果的な進展はみられていないが4),周辺症状に対しては,薬物療法と同様にリハビリテーションの効果が示されているものもある5,6)

理学療法の現場から

バリューイノベーション,value innovation,価値の革新

著者: 備酒伸彦

ページ範囲:P.49 - P.49

 地域ケアサービスを推進するうえで理学療法士は何をしなければならないのか.

 この小論では,現場での実践的な事柄から離れて,「地域ケアの場面でサービスを提供する理学療法士として保つべき基本的な姿勢」について,「バリューイノベーション,value innovation,価値の革新」という語をテーマに考えていくことにする.

 書店のビジネス本コーナーを眺めると「イノベーション」というカタカナが目に飛び込んでくる.試しに,例えばアマゾンドットコムで,イノベーションを入力して検索すると100件を超す書籍がヒットする.経済状況の目まぐるしい変化や,社会の成熟化とそれに伴う消費動向の多様化など,ビジネスの分野では「革新」ということを毎日考えていないと通用しないのかもしれない.

学校探検隊

広い視野を持った誠実な医療の専門家を目指して

著者: 吉村静馬 ,   奥本碧

ページ範囲:P.50 - P.52

学院の沿革

 東に広島,西に福岡,南に愛媛と三方を理学療法士養成教育の古豪に囲まれたこの山口に本校ができたのが平成8年4月.2002年4月現在,全国で150数校の養成校がある中でも既に開講時期を逸した感があり,老舗といわれる多くの養成校が教育内容・教授陣を充実しつつある厳しい状況での開校であった.幕末の混乱期をひっくり返し明治維新の立役者を輩出した土地柄でもあり,時代の先端を歩きたいと常に血が騒ぐ県民性か,新しいコンセプトの養成校ができるものならばと平成6年12月に意を決しての参入であった.

 山口市は人口13万人の西の京都といわれ,大内義隆氏がこよなく愛した小さな都市である.県庁所在地としては全国一人口の少ない市というくらいの知名度ではあるが,新しいもの好きの多い都市である.また,県の中央部に位置し,県下のどの地域からも約1時間という交通事情に恵まれた所でもあり,理学療法士を夢見る県内出身者が学生数の5割を占める.

あんてな

発達障害児に対する地域基盤型の療育活動立ち上げと実践

著者: 田原邦明

ページ範囲:P.53 - P.55

 もし「療育過疎」という言葉があるなら,私たちの住む兵庫県北部,但馬(たじま)地域は,まさにそれにあてはまります.

 現在1市18町からなる但馬地域の高齢化率は26.4%で,その中の5町では30%を超えています.このように高齢化率が高い但馬地域では,これまで高齢者に対する地域福祉施策が中心にすすめられてきました.しかし,同じくこの地域で生活する発達障害児にはというと,あまり目を向けられていない状況が続いていました.「発達に遅れがある子どもは,小さいうちに十分な機能訓練を受けなければならない」,「24時間介護を必要とする子どもたちをかかえ,家族に緊急事態が生じたとき,世話をしてくれる人がいないし,預かってもらう機関が地元にはない」といった深刻な不安を,障害児をもつ家族はいつも抱えていなければいけませんでした.

講座 質的研究・1

質的研究の背景と概観

著者: 宮田靖志

ページ範囲:P.57 - P.62

臨床の知を探る質的研究1)

 多くの医療関係者は,自分たちの学問分野は科学的知識に基づいていると考えている.そこでは生物医学的方法で証明することができる事実が知識として扱われる.そのような知識とは,条件をコントロールすることができ,なんらかの方法で測定可能であり,統計学的手法により分析可能な問題や現象を研究して得られるものである.例えば,「心不全の予後改善のためにA薬は有効かどうか」,「膵がんの診断に際してBという画像診断はどの程度の感度・特異度があるのか」,「熱性痙攣の小児は将来てんかんを発症することになるのだろうか」,といった疑問は,大規模臨床試験を実施して数量化した結果を得ることができる.この結果を科学的知識として臨床の場に用いるのである.これはわれわれが今までに慣れ親しんできた方法であり,このようなパラダイムの中で,科学的根拠に基づいて医療を行う大きなうねりが現在EBMという形で結実してきている.

 しかし,EBMが広く受け入れられても,患者ケアの臨床的判断や臨床行為は単に科学的根拠に基づくだけでは全く不十分であることを臨床現場に従事する医療者は十分承知している.「この癌患者さんは今何を感じているのであろうか」,「この糖尿病患者さんはなぜ指示を守ってくれないのだろうか」,「この脳卒中後遺症患者さんはどのようにして社会に適応していくのであろうか」,などといった疑問はいわゆる科学的知識として答えを得ることはできない.ここでは,個々の患者をひとりの人間として全体的に理解し直す必要がある.

特別寄稿

精神疾患と理学療法―デンマークでの体験

著者: 山本大誠 ,   奈良勲 ,   岡村仁

ページ範囲:P.63 - P.68

 日本では理学療法士の数が増加し,理学療法業務は多岐に及んでいる.その中でも研究に関わる理学療法士が増え,研究の発展に伴い科学的根拠に基づいた理学療法を行えるようになってきた.しかし,理学療法の研究分野では精神病者を対象とした研究は非常に少ない.

 2001年広島市で開催された「第36回日本理学療法学術大会」では,精神病者を対象とした演題がいくつか発表された.また,近年では精神疾患に関する特集が「理学療法ジャーナル」などにも取り上げられるなど(34巻6号),精神疾患にかかわる理学療法の関心が高まってきたといえる.しかし,それらの内容は身体的な問題点に着目しており,精神病者の身体的な健康,体力の増進,あるいは肥満症や糖尿病などの2次的な合併症に対する理学療法がほとんどである.精神病者の身体的健康は非常に多くの問題を抱える分野でもあり,健康管理などの観点から,これらの問題に対する理学療法は非常に重要といえる.

症例報告

運動発達の改善がみられた滑脳症児の理学療法経過

著者: 上杉雅之

ページ範囲:P.69 - P.72

 滑脳症をはじめとする重度の中枢先天性奇形児に対する理学療法は,変形,拘縮などの予防が中心となることが多い.しかし,本症例は重度精神遅滞,眼振,重度の低緊張と軽度の痙縮を有していたにもかかわらず,座位を獲得するなどの良好な発達経過を示した.

 また,滑脳症はまれな疾患であり1~3),加えて,リハビリテーションの必要性は唱えられている4)ものの理学療法の視点に立った報告はない.

 そこで本論文では,滑脳症児の理学療法経過について報告する.

書評

―宇野 彰(編著)―「高次神経機能障害の臨床実践入門」

著者: 前川喜平

ページ範囲:P.27 - P.27

 最近,高次神経機能障害,高次脳機能障害の用語が盛んに使用されている.小児神経領域では,広義にはIQ70以上,狭義にはIQ85以上の小児にみられる高次脳機能障害と定義されている.先天性書字困難症,先天性読字困難症,先天性計算障害などと共に,広範性脳機能障害に基づく自閉症,Asperger症候などがこれに属する.小児神経を専門としている私にとって,成人神経学の知識で如何に発達障害を理解するか,成人神経学と小児神経学を如何にドッキングさせるかは私の長年の夢であった.

 局在診断(Being),神経症候学(平山惠造),ベッドサイドの神経の診方等で成人神経学を勉強した私にとって本書のタイトルは非常に魅力的である.成人神経学と小児神経学の最大の相違は,成人神経学は完成された神経組織の障害に基づくものであるのに対し,小児神経学は発展途上の障害に基づく点である.胎生期から完成されるまでの障害の時期・程度・範囲により多様な症状を呈するのが特徴である.成人神経学の基礎である局在診断の知識はあまり役に立たず,脳障害の概念で理解せざるを得ないのが現状である.

―奈良 勲(編集),大成淨志・川口浩太郎(編集協力)―「理学療法士のための運動処方マニュアル」

著者: 乾公美

ページ範囲:P.72 - P.72

 近年,理学療法士の職域の拡大に伴い,四肢体幹の運動器障害や脳卒中片麻痺に代表される神経障害のみならず呼吸・循環・代謝不全を対象とする内部障害に対する理学療法が積極的に行われている.医学の進歩により,疾病構造が変化していることは今に始まったことではないが,理学療法士が治療の対象としているクライアントの高齢化や重複障害化が進行している.78歳,男性,糖尿病,右下腿切断術後1週間のクライアントの運動療法プログラムをどのように立てればいいのだろうか.このクライアントを担当する理学療法士には,糖尿病に関する基礎知識,末梢循環障害を考慮した運動量(運動強度),下腿切断に対する運動療法,下腿義足に関する知識等が求められる.運動強度が過ぎれば左下肢に阻血性の痛みを訴え,最悪の場合には左下腿の切断の危険性が生じるだろう.このような場合,どのようにして運動強度を設定すればよいのだろうか? そうした疑問に本書は的確な示唆を与えてくれる.

 本書は,序,実地編,基本編に分けて書かれているが,実地編に大部分の頁が割かれている.まず序では,「運動の功罪」と題し,生活習慣病と医療費の増大,生活習慣病に対する運動の効果,中高年の運動中の事故とその対処について述べ,本書を執筆した意図を明らかにしている.実地編では,第1章で「健常者に対する健康維持増進のための運動処方」について記述されており,中高年者や女性の生理学的な特徴と運動処方の留意点について書かれている.特に妊婦の運動処方の項は興味深い.第2章では,肥満者の減量のための運動処方,糖尿病患者,高脂血症,高尿酸血症,高血圧症,虚血性心疾患,その他の心疾患,呼吸器疾患,腎疾患,肝疾患,片麻痺患者に対する運動処方が其々の疾病の定義,病態,治療,運動処方の有効性,適応と禁忌,運動処方の実際,留意点について記載されている.基本編では,第1章で「運動処方の運動生理学的基礎」について,第2章で「運動処方総論」について述べている.通常,総論的な事項が前に置かれるが,各論の後に総論を置いた点に著者らの企図を感じる.

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文献抄録

ページ範囲:P.74 - P.75

編集後記

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.78 - P.78

 今月号の特集は,「脳卒中片麻痺患者の歩行」である.

 人を含む動物にとって,「移動能力」水準は,生活・生存自体の水準を定める極めて重要な基本要因であることは周知のごとくである.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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