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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル37巻10号

2003年10月発行

雑誌目次

特集 身体と環境

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.837 - P.837

 近年の理学療法では,身体機能を単独で扱うよりも,環境や,身体と環境を有機的に関連づける課題のなかで相対的かつ包括的な評価と介入が行われている.ここでいう環境は,物理的な要素のみならず,身体内部の環境,自然環境,生活環境,人間関係,社会制度などを含んだ幅広い概念である.

 本特集では,効果的な理学療法を進めるうえで環境をどのように捉えて具体的な介入を展開していけばよいのかについて,課題志向型アプローチの意味と生態心理学からみた身体と環境の関係について概観し,脳障害・運動器障害・発達障害の中で具体的に身体と環境がどのような関係にあるのかを示していただいた.

課題志向型アプローチにおける身体と環境

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.839 - P.844

 近年,脳の科学,認知科学,行動科学,運動学習理論などの接近で,中枢神経障害患者の理学療法のあり方が変革してきている.運動療法あるいは運動学習の究極的効果は,日常的な環境のなかで行動としていかに表現されるかで問われるべきである.つまり,理学療法室以外の生活あるいは社会環境という因子をいかに活用していくかも考えなければならない.より実際的な場面で理学療法を積極的に行うことによって,著しい能力あるいはパフォーマンスの改善をみることは珍しいことではない.運動制御の反射・反応モデルや階層理論に拠り所を求めたこれまでの理学療法は変革期を迎えている.

 以下,課題志向型アプローチへと至った各要因の変遷を整理しながら,その意義について述べる.

生態心理学における身体-環境―不全頸随損傷者の事例研究を通して

著者: 高橋綾

ページ範囲:P.845 - P.850

 筆者は2000年6月~10月にリハビリテーション病院で一人の頸随損傷者を縦断的に観察させていただく機会を得た.それまで運動障害者と直接接する機会をもたなかった筆者には,そのひとつひとつの動きに考えさせられることが多かった.動きを撮らせていただいたビデオを繰り返し見る中で,ひとつわかったことは,日常生活で必要とされるどんな動きも,周囲にある環境とのかかわり合いであるという事実だった1)

 観察は食事の自助具を作りながら行われた.自助具を作っていく過程で,その患者の動きが,食物や自助具の素材や形態によって変わり,環境の微細な特徴に大きな影響を受けることがわかった2).この患者にとっては,ケーキをフォークで切ることや,カップを持ち上げたりすることが困難で,健常者がなにげなく利用している環境特性に対処していくのに,運動障害をもつ患者は努力を要した.それは対象物の操作だけでなく,座位姿勢などの基本動作でも同様だった.例えば車いすのクッションの圧力を時折調節しながら体幹を支持することは,地面との関係を持続的に保つことであり,重力という環境の主要特性とのかかわり合いである.運動障害をもつ患者の動きの観察から,その身体が出会っている環境という存在が筆者には見えてきた.

脳障害における身体と環境

著者: 宮本省三

ページ範囲:P.853 - P.861

 脳障害後の運動機能回復は「運動学習(motor learning)」である.運動学習とは「経験によってもたらされた行動上の適応変化」と定義される.この行動上の適応変化をもたらしているのは「脳(中枢神経系)」である.決して関節や筋肉が学習するわけではない.

身体と環境との相互作用

 脳障害における身体と環境という主題を考えてゆくための出発点としてひとつのエピソードを記しておこう.ある病院に,50歳代で脳卒中片麻痺となり,20年以上長期入院している70歳代の女性がいる.彼女が社会復帰できない理由についてはここでは触れない.彼女の人生を一言で語ることはできない.彼女は雨の日を除いて,毎日早朝と夕方に病院の周辺を散歩している.一本杖を持ち,分廻し歩行で歩き続けている.歩いた歩数は数え切れない.彼女の身体(足)は環境(地面)との相互作用を20年間繰り返し反覆している.しかし,その歩容は20年前も今も相変わらず分廻し歩行のままである.セラピストは,単に身体と環境との相互作用を反覆するだけでは,運動学習や運動機能回復が生じないことを肝に命じておくべきである.

運動器障害における身体と環境

著者: 亀尾徹

ページ範囲:P.863 - P.869

 世界保健機構の国際障害分類(ICF)改訂に伴い,活動,参加制限の因子としての様々な身体状況,環境要因,心理社会的要因などを含めたマネージメントが重要視されるようになった.理学療法士(以下PT)にとって,患者の呈する臨床的要素(症状,兆候,病歴など)について評価・考察を行うことは極めて重要であり1,2),環境についてもそれらを左右する有力な情報として扱われてきた.

 運動器疾患の理学療法においては,症状を惹起している原因組織に目が向けられる傾向が強い.環境についても原因組織の損傷メカニズムに関連した生体力学的な要素が重要視される.しかし患者の臨床像は原因組織の損傷に加え,それを増幅,または持続させる因子に大きく影響されたものとして現れる.運動器疾患に関連する環境を考える場合,原因疾患の組織を除いたすべての要素を「環境」ととらえることができる.

発達障害における身体と環境

著者: 久保雅義

ページ範囲:P.871 - P.877

 「発達障害」には「運動」,「認知」,「感情/情緒」さらに「言語」の障害など幅広い領域が含まれ,かつそれらがお互いに影響を及ぼしながら同時に別々の速度で変化をしていくため,一つの要素だけを個別に取り上げて評価し介入していくということは,実際に子供たちに接する最前線ではあり得ないことですが,今回は特に理学療法の領域で関連が深いと考えられる「運動」に焦点を当てて考えていきたいと思います.特に,運動発達障害の理解には,運動発達そのものの理解が大前提ですので,本小論では「発達に伴い観察される運動パターンの変化」と「環境」のかかわりについての理論的な背景から始め,最後に理学療法的介入を考えるにあたってのヒントとなると思われる一つの例をあげています.

「運動」とは何か

 まず,「運動」というものを純粋に運動学的にとらえると,時間の経過に伴う四肢および体幹のジオメトリーの変化であって,そのメカニズムはニュートン力学で支配される物理で十分にカバーされています.その意味では人間の運動と,例えば歩行ロボットアシモ(http://www.honda.co.jp/ASIMO/)の運動の間にはいささかの違いもありません.質点や剛体の質量と大きさなどの物理的特性とそれにかかわる力の総和,そして運動方程式がすべての面倒をみてくれます.整形外科の領域などでは,このような意味での「運動」の理解が大きな意味を持つでしょう.

とびら

患者さんの苦情

著者: 浅野達雄

ページ範囲:P.835 - P.835

 私たち理学療法士は,患者さんやそのご家族との触れ合いのなかで,苦情を聞くことがある(苦情とは「他から害や不利益などをこうむっていることに対する不平や不満」またそれを表した言葉を言う.「苦しい事情」)(大辞泉,小学館).

 患者さんからの苦情の原因がこちらの落ち度による場合は,まずはお詫びをして患者さんに許してもらうことが大切である.小さな苦情でも早く対処しなければ大きな苦情になる.そしてその原因を十分に検討し,再発の予防を心がけることである.苦情の大小によっては,上司に相談して院長に報告することもある.

紹介

高齢者介護研究会の報告について―リハビリテーションへの苦言と提言

著者: 大川弥生

ページ範囲:P.879 - P.881

 本年7月10日に,「高齢者リハビリテーション研究会」(座長:上田 敏,委員全20名)が,中村秀一厚生労働省老健局長の私的研究会として発足し,筆者も委員の一員となった.これは2年後の介護保険の抜本的な見直しをも視野に入れて,高齢者リハビリテーションのあり方全体を考えようという趣旨のものと言ってよく,本年末までに一応の結論をまとめる予定になっている.またこの研究会は,6月26日に発表された高齢者介護研究会の「2015年の高齢者介護―高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて」と題する報告書1)を受けて,その趣旨である「高齢者の尊厳」をリハビリテーションによって支える方策の検討を目指すものである.

 高齢者介護研究会は,同じく老健局長の私的研究会で,座長の堀田 力氏(さわやか福祉財団理事長,元ロッキード事件主任検察官,元法務省大臣官房長)以下10人の委員からなる.この研究会は高齢者介護全般について精力的に審議を進め,優れた内容の報告書をとりまとめた.そして委員にリハビリテーションの専門家がおられないにもかかわらず(あるいはむしろそれゆえに?),リハビリテーションの現状への厳しい苦言と暖かいゆきとどいた提言をしてくださっており,リハビリテーションに携わるすべての人の必読の文章であるといって過言ではない.ここでこの報告書のリハビリテーションに関する部分を全文紹介するとともに解説を加えたい.

ひろば

障害者スポーツからユニバーサル・スポーツへ

著者: 関根弘和 ,   西村圭治 ,   矢吹知之

ページ範囲:P.882 - P.882

 2003年2月「第5回アジア冬季競技大会・青森2003」の開催に引き続き,3月に「2003ジャパンパラリンピック・アジア国際障害者スポーツ交流大会」が開催された.アイススレッジホッケー,アルペンスキー,クロスカントリースキーの計3種目に,国内外から約150人の選手が参加した.また延べ300名以上のボランティアも参加し大会を盛り上げた.八戸市が主会場となったアイススレッジホッケーには,韓国ナショナルチームも参加し,熱戦を繰り広げた.私どもはアイススレッジホッケー競技の事務局として,会場設営,参加選手の支援,ボランティアの総括など,大会運営に携わった.会場内に仮設した理学療法クリニックでは,八戸市近郊の理学療法士の有志の皆さんによる理学療法などがボランティアとして行われ,円滑な大会進行にご協力いただいた.パラフォト(国際障害者スポーツ写真連絡協議会)は,連日の熱戦をホームページ(http://www.paraphoto.org/)で伝えた.

 障害者スポーツ(アダプテッドスポーツ)には,健常者スポーツに障害者が適応する種目と,新たに障害者向けに設けられた種目がある.例えば本大会では義肢を装着して競技に出場する場合のアルペンスキーは前者に,アイススレッジホッケーは後者に該当する.アイススレッジホッケーが,健常者が行うアイスホッケーと大きく異なる点は,スレッジ(ソリ)に下肢が固定され,動作が完全に制限されることにある.これは,例えばサッカーでは手を使えないこと,剣道では蹴りをしないことと同様に,スポーツの競技規則として定められている.この競技規則によって下肢の障害者と健常者との身体的なハンディが少ないアイススレッジホッケーは,障害者が健常人と共存できるスポーツといえよう.

1ページ講座 理学療法用語~正しい意味がわかりますか?

行動療法

著者: 小林和彦

ページ範囲:P.883 - P.883

 行動療法は,問題行動,不適応行動,病的行動の発生と持続の姿を学習心理学の立場から捉え,それらを学習心理学的原理に立つ技法によって適応的に改変治療せしめようとする心理治療の方法である.

 また,行動療法は行動主義に立脚するもので,人間行動の大部分を占める学習性行動に着目し,問題行動の多くもまた学習性行動であると考える.行動療法は心理療法各派と対照的であるが,その違いは次のような点にある.まず治療対象として,客観的・操作的に捉え得る目標行動を定める.次に,その消滅または形成・獲得という行動変容を意図する.その結果,もとの問題行動やもとの情動(不安など)が形を変えるので,不安軽減や現実への再適応が始まる.やがて患者自らの内発的意志の発動が起こり,全人格の再体制化が行われ,治療効果が深化していくと期待される.行動療法ではこの最終段階は好ましいものではあるが,2次派生的段階であって,必ずしも治療目標として直接意図はしない.

学校探検隊

社会人に門戸を開いて―弘前大学社会人特別選抜の13年

著者: 對馬均 ,   濱地敬子 ,   高橋堅

ページ範囲:P.884 - P.885

そして社会人特別選抜は始まった

 弘前大学医学部保健学科は,青森県弘前市の中心街に位置し,昭和55年に開設された弘前大学医療技術短期大学部を前身としています.通算23年間にわたるその教育の特色の一つに,社会人特別選抜があげられます.文部科学省が多様な入学者選抜を進める今では,決して珍しくはなくなった社会人特別選抜ですが,理学療法士養成系の大学として全国に先がけてこの制度を導入したのが,他ならぬ弘前大学であったというわけです.社会人特別選抜を導入するに至った背景には,3年制医療短大開設後の10年間に,一般入試の難関をくぐりぬけて入学してきた社会人が少なからずおり,それらの学生たちの“がんばる姿”が一般学生に好影響を及ぼすという事実がありました.こうした環境が下地となり,周到な準備の下で平成2年度から弘前大学の社会人特別選抜は開始され,4年制の医学部保健学科となった現在まで,13年間継続されてきています.

追跡調査からわかったこと

 これまで入学した社会人学生の状況をデータから振り返ってみますと,開始初年度の入学者が卒業した平成5年3月から医療短大最後の学生を送り出した平成15年3月までの12年間に,45名が入学し,44名が理学療法士として巣立ちました.志願者の出身地は全国にまたがっており,年齢も20歳台から40歳台までと幅のあることから,この制度により,理学療法士への転向を考える全国の多様な社会人に対して,理学療法士への門戸が広げられていることがうかがわれます.

理学療法の現場から

医療はサービス業

著者: 永井将太

ページ範囲:P.886 - P.886

 「患者さま,いらっしゃいませ.どちらの科にご用でしょうか?」と,“接客係”が患者を出迎えるサービスを都内大学病院が開始しました(2003.7.22読売新聞より).この接客係は,某有名ホテルでそのために研修を積んできたとのことです.ついに病院でも,ホテルやデパートなどのいわゆるサービス業とかわらぬ“接客”が始まったわけです.読者の皆さまには賛否両論あるかもしれませんが,このような現象はもはや我関せずでは通り過ぎることのできない社会情勢になってきたと考えています.

 医療の世界では,古くからパターナリズム(paternalism)が問題視されてきました.パターナリズムとは日本語では,父権主義や父権的干渉主義と呼ばれています.簡単に言えば,「父親(医療者)は,子供(患者)のためを思ってやっているのだから,父親(医療者)の言うことを聞け」といった人間関係を指しています.1960年代から,米国の医療の現場において患者が医師の権威に盲目的に従う関係が問題になり,患者の権利を求める運動が盛んになりました.特に,医師側の説明義務と患者側の同意の権利が焦点になりました.様々な活動・運動を経て1973年に米国病院協会によって「患者の権利章典」が制定されたのは有名な話です.

講座 行動分析学的アプローチ・1

理学療法における行動システム分析―サービス向上のための問題解決的思考

著者: 島宗理 ,   山﨑裕司

ページ範囲:P.887 - P.894

 理学療法の現場では,疾患の多様性や複雑な心理・社会的問題を抱えた患者への対応,増加し若年化する組織の管理,そして問題解決能力のある理学療法士の育成など,臨床だけでなく,理学療法士の育成やマネジメントに関する課題が山積している.これに対し,行動分析学は学習の科学に基づいた心理学であり,教育,福祉,企業,地域社会など,様々な場面や組織における行動マネジメントやスタッフトレーニングにおいて,応用範囲の広さ,実践力の強さが評価されている1).本誌35巻においても「講座:応用行動分析学」として,理学療法の臨床への応用が紹介されている2~4)

 今回は,問題解決の重要性が今後いよいよ増してくると思われる,組織マネジメント,患者の問題行動への対処,そして学生教育というトピックに関し,3号連続で具体的なアプローチを解説する.本稿では,まず,行動分析学について簡単なおさらいをした後で,理学療法サービスの向上に役立つと思われる問題解決的思考を,組織行動マネジメントと行動システム分析について解説をしながらご紹介しよう.

入門講座 活動向上に生かす動作分析➍

頸椎症性脊髄症の症例における動作分析

著者: 坂本親宣 ,   濱岡健

ページ範囲:P.895 - P.901

 頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy;CSM)は中年以降の比較的高齢者に多く発症する疾患である.潜在的に発症するために症状を自覚することが少なく,また疼痛を伴わない例が多いため,症状が進行してから受診する例が多い.多くの症例は「手指がしびれる」という上肢末梢の異常感覚が初発症状となる.だが病態の進行とともに感覚障害のみならず,運動障害や膀胱直腸障害なども加わり,全身的に多彩な症状を呈する疾患である.よって症状が軽度の段階では日常生活活動(activity of daily living;ADL)にさほど障害が出現しなくても,症状が重度になれば日常生活活動や日常生活関連動作に著しい障害を来したり,生活の質の低下を招いたりする可能性がある.

 このように病態の進行度によって障害の程度にばらつきがあるため,社会復帰を目標としたリハビリテーションを行うにあたっては,機能向上を図るだけで社会復帰が可能になるのか,それとも環境設定も視野に入れなければならないのかを適切に判断しなければならない.そのためには個々の症例の1)起居動作,2)移乗動作,3)歩行,4)セルフケアなどの動作を詳しく観察,評価し,認められた障害が,どのような病態が原因となって出現しているかを分析するとともに,どの程度まで回復しうるかを予測して対処することが重要である.そこで本稿ではCSMの症例において起こりうるADL面での障害を,その症状や病態と関連付けながら論述する.

雑誌レビュー

“Physiotherapy Canada”(2002年版)まとめ

著者: 日高正巳 ,   齋藤圭介 ,   佐藤三矢 ,   平上二九三

ページ範囲:P.902 - P.907

 “Physiotherapy Canada”は,カナダ理学療法士協会(Canadian Physiotherapy Association;CPA)が年4回発行している機関誌であり,2002年版では21編の原著論文と2編の症例報告が掲載されていた.原著論文は,基礎的な研究の方法論から臨床,そして教育に至るまで多岐にわたる分野を含んでいる.そこで,今回は,日本理学療法士協会の専門領域研究部会の7領域にできるだけ即して分類し,論文を紹介するように努めた.なお,誌面の関係より大幅に省略したものもあるので,興味のある論文については,ぜひ,原文を直接読まれることをお勧めしたい.

基礎系(4編)

 基礎的実験研究はトレッドミル後ろ向き歩行時の呼吸循環応答に関する1編のみであり,他は研究の方法論についての提言に近いものであった.Evidence Based Practice(EBP)が求められている今日,研究を行ううえでその方法論をしっかりと検討していくことの重要性が述べられている.また,これらの視点については,各号の巻頭にある会長の巻頭言の中にも読み取ることができた.

学会印象記

―第14回 WCPT学会―その後のBridging Cultures

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.908 - P.909

あれから4年…

 「1999年に世界理学療法連盟(WCPT)学会が横浜で行われてから,もう4年が経ったのか…」などと前回のことを回想しつつ,ロンドン経由でバルセロナに入り,サグラダ・ファミリアやグエル公園などのカタルーニア文化を近くに感じながら,6月7日~12日までの第14回WCPT学会に没頭した.1951年に11か国で設立されたWCPTは,2003年には世界91カ国,25万3千人を超える理学療法士からなる非営利組織(NPO)となった.日本はアメリカ,イギリス,ドイツに継ぐ理学療法士数である.今回の学会では全世界から2,483の演題応募があり,2,000演題が採択され,そのうち日本からは200を超える演題が採択され,世界で最も多い演題登録数であることが高く評価されていた.日本の理学療法士が日頃の日常臨床をアートとして捉えながら,いかにそれをサイエンスとして確立しようと努力しているかを世界に示した学会でもあった.

Are these cultural differences?

1.開会式で教育講演?

 開会式の真中あたりで神経生物学者のJavier de Felipe教授が30分ほどの教育講演を行ったが,「開会式なのに30分もしゃべるなんて」と少々困惑.内容は「人間の脳と動物の脳は何が違うのか」ということで,脳脊髄神経系の樹状突起にその問題を解く鍵がありそうだということだった.

―第40回 日本リハビリテーション医学会学術集会―Boys Be Ambitious!

著者: 辻本純子

ページ範囲:P.910 - P.911

 「学会」「学術大会」と聞いて,皆さんはどのようなイメージを持たれますか? “研究発表の場として”,“最新の知見を得るところ”,または“同窓会の機会として”,中には,“関心なし”という方もおられるかもしれません.では「理学療法以外の学会」となるとどうでしょう.もっと敬遠されるのではないでしょうか?

 今,私達理学療法士の置かれている状況は決して頑強・平穏ではないといえます.刻々と変わる社会情勢において必要とされる職種・人材であるには,現状に閉じこもっていてはいけないと感じます.自己研鑚には,まず他の知識に触れること,外からの刺激入力も必要です.かといって,いきなり全く異なる分野へ出かけて行っても混乱するだけかもしれません.

短報

脳性麻痺に対する機能的脊髄後根切断術について―術後経過

著者: 比屋根直美 ,   宮城淳 ,   落合靖男 ,   當山真弓 ,   又吉清子 ,   仲地正人 ,   渡慶次賀寿 ,   當山潤 ,   長嶺功一 ,   粟國敦男 ,   師田信人

ページ範囲:P.912 - P.915

 脳性麻痺(CP)の痙性に対する治療として機能的脊髄後根切断術(functional posterior rhizotomy:FPR)が北米などでは行われている1,2)が,日本においては実施例がまだ少なく,その治療効果についても定まった見解はない.最近になって神経生理学的・機能的側面からの治療効果が医師から報告されている1,3)が,術後理学療法経過の報告はまだない.

 2000年11月に当センターにおいて初めて痙直型両麻痺児に対してFPRが実施され,これまでに9人のCP児に実施されてきた.術前後の評価と術後経過について報告する.

資料

第38回理学療法士・作業療法士国家試験問題 模範解答と解説・Ⅳ 理学療法・作業療法共通問題(1)

著者: 藤沢しげ子 ,   秋山純和 ,   潮見泰藏 ,   久保晃 ,   斉藤昭彦 ,   谷浩明 ,   藤井菜穂子 ,   丸山仁司 ,   金子純一朗 ,   石井博之 ,   中口和彦 ,   倉本アフジャ亜美 ,   西田裕介 ,   島本隆司 ,   前田修 ,   福田真人

ページ範囲:P.916 - P.922

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文献抄録

ページ範囲:P.924 - P.925

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.932 - P.932

 関東では夏らしい日が少なく,あっという間に秋本番です.

今年は全国研修会が9月に行われたため,夏休みを利用して参加できた先生方もいらっしゃったことと思います.学会等で季節の移ろいを感じることも多いこの頃です.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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