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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル37巻11号

2003年11月発行

雑誌目次

特集 介護保険対応の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.935 - P.935

 大きな期待と不安の中で介護保険がスタートして3年半,介護が社会的に保証されるべきという認識は国民の中に急速に広まった.一方,介護保険下でリハビリテーションが担う自立した生活への復帰や介護からの脱却あるいは重度化の予防は個人の切なる願いであり,介護保険財源の確保につながる重要な目的でもある.今年4月には介護報酬体系の改定がなされ,リハビリテーションへの期待はさらに高まった.充実したリハビリテーションサービスを実施している現場からサービスの内容を提示していただき,今後どうあるべきかを提言していただいた.

通所リハビリテーションにおける理学療法

著者: 宮島嘉津雄

ページ範囲:P.937 - P.941

 私は病院勤務をしているときに,「患者様は退院する直前が運動機能的にも能力的にも最も高いレベルにあり,在宅生活を継続していくにあたり徐々にその生活機能は低下していくのだろう.」と考えていた.ところが地域リハビリテーションにかかわるようになると,そうではない場面に頻繁に遭遇する.運動機能的に向上している方と出会うこともしばしばであるし,種々の能力を獲得し,自分なりの役割を持って活動されている方とお会いすることができる.

 あれだけ拒否していた利き手交換であったにもかかわらず左手だけでピーマンの肉詰めを作るIさん.駅の階段に手すりが片側のみにしか設置されていないことに腹を立て,市役所に駆け込んだMさん.座位保持装置を必要とせず,ベッドに腰かけ,『水戸黄門』を見ているSさん.平行棒での立ち上がりがやっとだったHさんは家族に介助され歩いてトイレまで行っている.

訪問リハビリテーションにおける理学療法

著者: 近藤健二

ページ範囲:P.943 - P.949

 リハビリテーション(以下,リハ)は発症の時期により,急性期・回復期・維持期に区分される.ケース個々に関わるとき,その流れは円滑に移行していかねばならない.しかし,現実的にはこの3つは連携しない形でサービスされていることが多く,特に急性期・回復期から維持期への移行(病院から在宅への移行)において不都合な面が多々みられている.閉じこもり生活や寝たきり生活となってしまう現状はその1例である.在宅生活を見据えたリハは維持期(在宅)になってから開始するのではなく,病院での治療中から開始されるべきであって,このことが円満な在宅生活へつなげていける第一歩であるはずである.

 2003年4月に,介護保険開始後初めて行われた報酬改定では,施設療養費減収の反面,在宅ケアプラン作成費などが増額されており,より在宅生活の重要性を示唆している.そして,これに伴い私たち療法士の訪問リハにおけるかかわりの重要性もますます大きくなっている.

介護老人保健施設における理学療法

著者: 野島由紀 ,   井出篤嗣 ,   伊佐美由紀 ,   今吉晃 ,   遠藤美帆

ページ範囲:P.951 - P.959

 介護老人保健施設(以下,老健)は,「医療と介護を一体的総合的に提供し,家庭復帰を目指し,在宅ケア支援を重要な柱として,地域とともに,来るべき超高齢社会に対応できる」施設として運営されてきた1).また,老健は,入院医療を終了したが,在宅生活へ復帰することが困難な高齢者に対して,家庭に復帰するのか施設に入所するのかを評価し支援する中間施設の役割を果たしていた.

 公的介護保険制度の発足とともに老健では,事実上,入所期間の縛りがなくなり,入所が長期化している.また,老健から家庭への在宅復帰率も下がる一方である2,3).全国老人保健施設協会(以下,全老健)が実施したアンケート調査によれば,これらの原因として,介護の重度化(特に痴呆),介護にあたる家族の精神的・肉体的負担感,一人暮らしや高齢者のみの世帯,本人・家族の安心感,住環境の問題(階段や借家など),施設の割安感などがあげられている4).要介護高齢者に対する在宅ケアサービスが質と量の両面で不十分なこと,特別養護老人ホームや療養型病床群が不足していること,それらへの入所・入院希望者が増加していることなどにより,老健がそれらへの待機施設として利用されていることなども要因として考えられる.

特養施設(指定介護老人福祉施設)の理学療法

著者: 浜口京子 ,   吉本晶子

ページ範囲:P.961 - P.966

 介護保険施行以降,特別養護老人ホームの介護サービスは,暮らしの場であることや利用者主体であることに変わりはないものの,保険施設として提供するサービスから選択されるサービスへ,部分的サービスから統合的サービスへ,市場原理に基づいたサービスへの変革を遂げようとしている.しかし,介護という特殊性から,この新しいシステムには利用者も事業者も馴染みが薄く,大きな戸惑いがみられたこの数年だった.3年を経て,決して熟したとは言えないがサービスを利用する側の意識も状況も少しずつ変化し,今改めて提供する側の姿勢とサービスの質が問われているように思う.

介護保険制度の方向性

 平成15年度は,介護保険制度の運営についての第2の見直し期である.

 在宅サービスについては,制度の中核的な位置づけにある居宅介護支援(ケアマネジメント)の評価と,自立支援を指向する在宅サービス推進の観点から,訪問介護の見直しと評価,訪問リハビリテーションの評価,グループホームの夜間体制の評価を行うことになっている.

療養病床(指定介護療養型医療施設)における理学療法

著者: 高橋昌二

ページ範囲:P.967 - P.974

 指定介護療養型医療施設(以下,介護療養型医療施設)は,主として長期にわたり療養が必要な患者が入院する介護保険適用療養病床である.施設の機能は,療養上の管理,看護,医学的管理下での介護である.役割は,入院の場合は在宅復帰支援と長期療養支援である.利用者の心身の状態,家族および介護保険サービスを含めた介護力,家屋環境といった総合的判断から支援方法が決定される.短期入所療養介護の場合は家族の介護負担軽減による在宅生活維持支援である.

 平成15年4月1日施行の介護報酬改定では,基本的な考え方として「在宅重視」と「自立支援」の観点から多くの見直しが図られた.介護療養型医療施設の今後充実すべき機能は,医学的管理下における重度介護者に重点化した施設として,長期にわたる療養の必要性が高く要介護度の高い者へのケアを担うこととなった1,2).対象者は要介護1~5に認定されていれば利用可能であるものの,主な対象を要介護4または5とし,重度療養管理(常時の医療管理として,気管切開による頻回の喀痰吸引,肺機能低下による酸素療法,継続的な輸液管理が必要な持続点滴や中心静脈栄養,腎機能低下による透析,不整脈や低酸素症のためのモニター測定,ストーマの管理など)が必要な利用者への対応が重点化された.またリハビリテーション(以下,リハビリ)体系の見直しが図られ,特に療養生活の場である病棟における維持期の日常生活動作(以下,ADL)改善が重視された3).生活機能の改善などを通して,実用的な日常生活における諸活動の自立性の向上を図るために,種々の運動療法・リハビリ室以外の病棟などで実用歩行や活動向上を目的とするエクササイズ・物理療法などを組み合わせて個々の患者の状態像に応じて実施する.

とびら

グローバリゼーションと「たて型思考」

著者: 伊藤日出男

ページ範囲:P.933 - P.933

 1970年代から取り組んでいた地域リハビリテーションの理念を理学療法教育の場に生かすことを願って,1980年に弘前大学医療技術短期大学部に赴任した.1999年には青森県民の期待を担って設立された青森県立保健大学に移り,教員生活は通算23年が経過した.その間社会は着実に高齢化が進み,理学療法士の職域は医療機関や施設だけでなく地域にも広がるようになった.

 最近,私の身近でもグローバリゼーションという言葉を聞くようになった.グローバルな見方それ自体は結構なことだと思うが,私にはなんとなく平面的な意味合いが強く感じられて物足りない.つまり,グローバルだけでなく縦の軸から物事を見ることも大切なのではないかと考えている.歴史的な事実から事の本質を学び,それを現在に生かしながら将来を展望するということである.

入門講座 活動向上に生かす動作分析➎

大腿切断の動作分析

著者: 野本彰

ページ範囲:P.975 - P.980

 動作分析とは,ヒトが課題や仕事などを行うときに,それを動作として捉え,その動作を様々な観点から分析することである1).また,われわれ理学療法士が臨床の場面で,特に整形外科疾患における患者の動作分析を行うとき,歩行をはじめ日常生活動作や,基本動作の動作分析をする着目点は,①その動作ができるか否か,②安全にその動作が遂行できるか否か,③その動作を遂行するのに要する時間は妥当なものか,④その動作を遂行するためにエネルギー効率は良いか,⑤その動作は正常なパターンかなどを観察し分析を行い適切な動作指導を行い,再度動作分析を行う.これを繰り返して動作獲得につなげる(図1).したがって必ずしもその動作が正常パターンでなくとも,より安全な動作が獲得されていれば動作獲得と判断することもある(例えば人工股関節全置換術後の生活動作ではインプラントの脱臼回避肢位が優先された生活動作指導が行われる4,5)).

 一方,大腿切断者の日常動作においては,近年の義肢パーツの様々な開発により,切断者にとって従来のパーツよりも,安全で快適な歩行やADLが可能となってきた.特に歩行時の立脚期の安定性として動的安定機構が開発されて,歩行の安定性は格段のものとなり義足歩行獲得も短縮されているのではないだろうか.

1ページ講座 理学療法用語~正しい意味がわかりますか?

筋力増強

著者: 灰田信英

ページ範囲:P.981 - P.981

1.ヒトが発揮する筋力

 ヒトの発揮することができる筋力は以下のような条件で決定される.つまり,筋線維はすべて脊髄からの運動神経の支配を受けており,さらに大脳からの支配を受けている.このとき,命令を受ける運動神経細胞の数は,大脳の興奮水準によって変化する.興奮する運動神経細胞の数の変化は,それによって支配され活動する筋線維の数の変化をもたらし,筋力が変化することになる.一方,筋線維は収縮特性から,遅筋線維と速筋線維に大別される.速筋線維は遅筋線維に比し発揮する張力は大きい.

 すなわち,筋力を決定する要因は,機能的には大脳の興奮水準が,形態的には筋線維断面積,筋線維数,および筋線維タイプが関連する.

理学療法の現場から

診療録保存について思うこと

著者: 望月圭一

ページ範囲:P.984 - P.984

 診療録の保存については,法的には診察終了の日から5年間とされている.しかし実際にはそれ以上の長期間保存をしているところが大学病院を中心として少なからずみられる.私の勤務する病院でも保存されている.

 1993年の新外来棟完成を期に,それまで各診療科ごとにあった診療録を一部を除いて「1患者1カルテ」の統一カルテとし中央管理とした.過去5年分については所定の手続きをとればいつでも担当者により出庫される.中央病歴室での閲覧もできる.5年以上を経過した統一カルテについてはバインダーから外し隣接したカルテ保存庫に移され,こちらについても出庫・閲覧が可能である.統一カルテができる以前の各科ごとにあったカルテは各科が保存しており,今後の処理についても任されている.なにしろ百年余の歴史のあるところである.カルテのほかX線写真,関係資料などその量たるや膨大なものであり,各科とも製本したり,ひとまとめにして袋に入れたりと各々工夫して保存している.ちなみに私は今年1月に循環器内科に入院したが,13年前に胸痛で外来に3~4回通院したときの統一カルテ以前のカルテが出庫された.その当時,24時間ホルター心電図,エコーなどを行ったがはっきりした病名もつかず症状も収まったのでそのまま放置していたが,入院時その後の経過について聞かれた.

講座 行動分析学的アプローチ・2

臨床における行動分析学的アプローチ

著者: 小林和彦 ,   園山繁樹 ,   述下守弘

ページ範囲:P.985 - P.991

 理学療法学は,解剖学・生理学・病理学・運動学などをベースとする機能障害学を基礎学とし,主に機能回復や維持のための運動指導,および生活指導などを手段とする一治療技術体系といえる.しかしながら,その臨床におけるアプローチの実際は,手術療法や薬物療法とは異なり,理学療法士による治療手技の提供や患者に対する指導および生活環境の改善といった環境学的な要素が強く,また,その効果に関しても,それら介入に対する行動変容の過程であると捉えられる場合も多い.同様に,その目標となる家庭への復帰や職業復帰といわれるものも,生活環境や職業環境などへの適応行動やそれらの行動の維持といった行動上の問題がより大きな要因であると考えられ,医学的なアプローチとともに行動モデルに基づいたアプローチも必要であると考えるのが妥当であろう.しかしながら,理学療法学の現状は,これら行動変容にかかわる問題を科学的に評価し,介入するためのパラダイムを持ち合わせておらず,その有効性もしくは実効性に課題を残していると言わざるを得ない.

 そこで本稿においては,環境と行動の科学である行動分析学の枠組みから理学療法を捉え,特に高齢者施設における実践から,この領域において環境と行動を科学的に分析することの意義と重要性について言及する.

雑誌レビュー

“Australian Journal of Physiotherapy”(2002年版)まとめ

著者: 井澤和大 ,   横山仁志 ,   寺尾詩子 ,   大森圭貢 ,   鈴木誠

ページ範囲:P.993 - P.998

 “Austrarian Journal of Physiotherapy”は,年4回オーストラリアの理学療法協会から出版される季刊科学的なジャーナルである.本誌は1954年に創刊され,2002年で48巻となる.インターネットサイト(http://www.physiotherapy.asn.au/AJP/index.htm)では,前年度以前のジャーナルに加え,協会ニュースなどの閲覧が可能であるので一見されることをお勧めする.

 最近の最も注目すべきトピックスは,2001年47巻第3号や48巻第2号の(Editorial)論説に示してあるように,本誌が2001年よりMEDLINEデーターベースへ収録されたことである.これにより,本誌は,世界各国の臨床家および研究者らにより広く紹介されることとなった.

原著

ウェーブレット変換を用いた前十字靱帯再建術後患者のピークトルク発揮時の筋電図周波数解析

著者: 山田英司 ,   加藤浩 ,   田中聡 ,   森田伸 ,   田仲勝一 ,   宮本賢作 ,   辻伸太郎 ,   真柴賛 ,   五味徳之 ,   森諭史 ,   乗松尋道

ページ範囲:P.999 - P.1004

 前十字靱帯(anterior cruciate ligament:以下ACL)再建術後のリハビリテーションにおいて,大腿四頭筋の筋力低下は重要な問題の一つである.筋力は筋の断面積に比例するといわれており1),ACL再建術後の筋力に関する多くの研究では,筋萎縮と筋力の関係,すなわち筋の形態学的な視点から検討が行われてきた2,3).再建術後の大腿四頭筋筋力はスポーツ復帰後も低下しているという報告が多く4,5),内側広筋を中心とした大腿四頭筋の筋萎縮が再建術後の筋力低下の原因の一つであると考えられている.

 近年,活動性の減少による筋力低下は筋萎縮のみでなく神経系の機能低下も影響を及ぼしていることが明らかにされてきている.Suzukiら6)は10日から20日間のベッドレストによって生じた筋力低下の割合は,筋量が減少する割合以上に生じていたと報告している.また,金子ら7)はACL再建術後4か月の時点では,大腿四頭筋筋力と大腿周径との間に比例関係が成り立っていないことを報告しており,筋の形態学的変化のみでなく神経系の機能の変化も考慮する必要があると考えられる.臨床においては,逆に筋萎縮が残存しているにもかかわらず筋力の左右差をほとんど認めない,すなわち筋萎縮の程度と筋力が解離した症例も認められ,正常筋と比較すると再建術後の筋では,神経・筋機能が変化し,運動単位の動員様式や発火頻度などの活動様式が異なっていると考えられる.

資料

第38回理学療法士・作業療法士国家試験問題 模範解答と解説・Ⅴ 理学療法・作業療法共通問題(2)

著者: 丸山仁司 ,   藤沢しげ子 ,   秋山純和 ,   潮見泰藏 ,   久保晃 ,   斉藤昭彦 ,   谷浩明 ,   藤井菜穂子 ,   金子純一朗 ,   石井博之 ,   中口和彦 ,   倉本アフジャ 亜美 ,   西田裕介 ,   島本隆司 ,   前田修 ,   福田真人

ページ範囲:P.1005 - P.1012

書評

―岡西哲夫・岡田 誠(編)―「骨・関節系理学療法クイックリファレンス」

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.982 - P.982

 古今東西,理学療法の対象疾患のなかで,骨・関節系(筋骨格障害)の占める割合は最も多いといわれている.そして,それによる医療費の増大も各国共通の課題である.それとの関連で,より適切な入院診療計画という点からもクリニカルパス導入の必要性が提唱されている.また,高齢者人口の増加は世界的傾向であることから,今後,骨・関節系理学療法を必要とする対象者はますます増加するものと推測される.

 そのような動向と関連して,「骨・関節の10年(bone and joint Decade 2000-2010)」は世界規模で推進されている.よって,それと連動させながら科学的根拠に基づいた骨・関節系理学療法体系を再構築していく学術研究および臨床的活動を推進することは極めて急務であろう.

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文献抄録

ページ範囲:P.1014 - P.1015

編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.1018 - P.1018

 介護保険対応の理学療法を特集した本号がいよいよ発刊される.介護保険制度は2000年4月にスタートし,予定通り,3年の様子見期間をおいて今年4月に介護報酬体系の改定が行われた.そして開始5年後である2005年4月までに現行制度を大幅に見直すことが当初からの計画に盛り込まれている.修正や改定を開始前からタイムテーブルに組み込み,途中の改定は行わないとする極めて綿密かつ確固とした計画に基づいてのスタートであった.急速な高齢化に対応して是が非でも介護の社会化を達成させるという強い意志と国を挙げての試みが失敗したらという切実な不安が交錯していたことを覚えている.

 私事ではあるが,3年前に静岡の実家で1年ほど訪問介護を利用させていただいた.丁寧語で表現したくなるほどおおいに助けられ,心底ありがたく感じた.他人に家の中まで立ち入られ何と思われるかとか,世間体とか,最初は確かに気になったようではあるが,何回か訪れてくるうちに介護者とは契約関係の上に信頼関係が重なり,家族からは感謝の言葉が絶えることはなかった.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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