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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル37巻12号

2003年12月発行

雑誌目次

特集 「注意」の障害に対する理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.1021 - P.1021

 高齢者や脳血管障害を有する患者の理学療法を進める際には,注意の低下や障害について考えることが重要である.しかし,「注意」は一般社会生活での概念を含めて実に多くの要素を包含しており,実際の評価や介入を行ううえではその構造と機能を正確にとらえる必要がある.

 そこで本特集では,注意の概念,評価と介入戦略を総論的に解説した後に,注意の障害に対する理学療法についての臨床実践を取り上げた.

注意の概念―その機能と構造

著者: 加藤元一郎

ページ範囲:P.1023 - P.1028

 注意は様々な認知機能の基盤である1).ある特定の認知機能が適切に機能するためには,注意の適切かつ効率的な動員が必要である.つまり,認知のターゲットの注意による選択が要求される.また注意機能は,広く社会的生活を営むための様々な行動に介在し,これを統合する役割も持つ.すなわち,注意による行動の制御機構である.したがって,脳損傷後の注意の障害は,多くの認知行動障害を引き起こす.しかし,全般性注意の障害と個々の神経心理学的障害(失語,失行,失認,健忘など)との関係は非常に複雑であり,注意障害が特定の神経心理学的障害の本質である場合から,単にそれに重畳している場合まで様々である.例えば,学習障害における注意の障害の果たす役割は極めて重要であることはよく知られている.すなわち,記憶障害は,注意機能に大きな負荷をかける活動で顕在化することが多い.また,特定の認知機能が障害されていることが明白な場合でも,その背景にしばしば注意の障害が潜んでいることがあり,これが改善されることで認知行動障害の回復が見られることもある.さらに日常生活上の問題や社会的な行動障害の改善を目指したリハビリテーションのプログラムには,注意障害の視点からのアプローチが必要となることも多い.なお,注意は,全般性注意(generalized attention)と方向性注意(directed attention)に分けられる.前者の障害が全般性注意障害であり,後者の障害は半側空間無視(unilateral neglect)と言われ,外界や身体に対する注意の方向性に関する障害である.この両者には,その発現メカニズムを含めて多くの関連があるが,本稿では全般性注意の側面について述べる.

注意とは

 注意は,高次脳機能の土台のようなものであり,注意が障害されると大なり小なりすべての認知機能が障害される.注意は,情報処理における第一段階であり,すべての精神神経活動の基盤であり,注意の障害は精神活動のすべての段階に影響することは明らかである.一方,高次の認知機能(特に言語)は注意に対して影響を与えており,高次の脳機能と注意は相互関係をもっている.高次脳機能障害をみた場合,どこまでが注意の障害であり,どこからがそうでないのかの明確な境界線を引くことが難しいことも多い.注意とは,「意識的,意図的にひとつの対象や,複雑な体験のひとつのコンポーネントに心的エネルギーを集中し,他の情動的ないし思考的内容を排除すること(Campbell, 1981)」,「心的活動をひとつないしいくつかの対象に能動的に向けること,ないしは心的活動がひとつないしいくつかの対象により受動的にひきつけられること(Peters, 1984)」,「必要な情報の選択と,正確で組織立った行為のプログラムの保証,およびその行為の経過に対して恒常的制御を維持することで,意識的活動の選択的性格を保証するもの(Luria, 1973, 1975)」などと定義されてきた2)

「注意」の障害―その評価と介入戦略

著者: 石合純夫

ページ範囲:P.1029 - P.1037

注意障害とは

 ここでは,臨床的に問題となる注意障害に焦点をあて,「注意」について,外界と個体との関係の中で,意識を適切な対象に集中し,また必要に応じて移動していく過程の総体ととらえる1)

 臨床的に頻度が高く症状が明らかな注意障害としては,特定の感覚や機能に限らない幅広い注意の障害を主体とするせん妄と,一側に偏った空間性注意の障害である半側空間無視があげられる.また,外傷後健忘は,意識障害や様々な高次脳機能障害が注意障害と合わせて存在する病態であるが,その持続期間は予後を判断するうえで重要といえる.

「注意」の障害における理学療法評価―大脳半球機能と注意障害

著者: 村山尊司 ,   沼田憲治 ,   高杉潤 ,   宮本晴見

ページ範囲:P.1039 - P.1044

 脳卒中後の注意は臨床ではどのように捉えられるか.脳損傷後は多かれ少なかれなんらかの注意障害を伴うとされる1).時に患者の主要な問題点になることさえある.運動機能面で改善を認めても日常生活で監視が外せないなどのケースの多くに注意障害が影響していることは臨床上よく経験する.しかしながら「せっかちだ」,「集中力がない」,「ボーッとしている」などの主観的な言葉で表現はできてもそれが一体何によるものなのか,明確に捉えがたいことも事実である.理学療法の分野でもいわゆる高次脳機能障害の代表的な症状である半側空間無視などは広く認知され多くの検査項目が活用されているが,注意障害についてはあまり知られていないのが現状ではないだろうか.

 本稿では注意障害の評価について臨床的に用いられている検査方法やその解釈について自験例の提示を含め一部紹介する.さらに,注意障害をより理解しやすいものとするため,主に右半球損傷と注意障害に焦点を当て,諸家の報告を紹介し,大脳半球機能における注意の特性についても触れることにしたい.

「注意」の障害に対する理学療法評価

著者: 杉原俊一

ページ範囲:P.1045 - P.1048

 理学療法の周辺では,回復期リハビリテーション病棟や地域で活動する理学療法士(以下PT)の数が増えており,理学療法室から飛び出して実生活場面におけるPTの活躍が期待されている.

 理学療法室で行っていた「歩行」から目的を伴った「行動」へとPTの意識も変化し,「ものに衝突しないよう注意して歩く,バランスを崩さないよう注意しながらものを取る」などの実生活場面にかかわるPTも多い1,2).日常生活の行為は身体と周囲の環境との関係を適切に処理することで成立しており,関連する視覚,体性感覚,聴覚などのあらゆる感覚モダリティと運動機能の連関を意識したかかわりが必要となる.動物は興味を引く対象物が視野内に現れると,素早く視線をそれに向ける.下等な動物では眼球運動よりも頭部や体幹の運動が主であるが,ヒトでは眼球運動だけの注視が可能となり,視線の動きが大きい場合は頭部の運動が重要となる3).注意については難しい問題ではあるが,今もっている脳の機能を患者はどのように選択し,どういうふうに振り分けているかを考えることが必要となる.「注意」そのものは観察不可能な事象ではあるが,注意の結果によって生じる行動を観察することは可能である.

 本稿では観察される臨床場面の「注意」の問題について,PTが観察可能な場面を通して「注意」の障害としての評価について考えてみたい.

左側無視における「注意」の障害に対する理学療法

著者: 宮嶋武 ,   大谷武司 ,   三沢孝介 ,   植西一弘 ,   北條貴士 ,   蒲原幸子 ,   室賀一慶 ,   古川智巳

ページ範囲:P.1049 - P.1052

 従来,半側空間無視を有する患者に対して,認知できない空間の改善や麻痺側方向への重心移動を目的に理学療法(以下PT)を施行する傾向にあった1).しかし,当院においては,1980年代後半から提唱されてきた早期起座・起立練習をPTプログラムの中に取り入れ2),残存している機能や空間を利用し,非麻痺側よりアプローチを行い,まず,基本動作を確立させ,その後徐々に活動空間を拡大させるPTを施行(早期PT)している.その過程で,机上のテスト結果では重度な半側空間無視を示しているにもかかわらず歩行可能になる症例や半側空間無視患者の特徴のひとつとして考えられている押す人症候群に陥らない症例などを経験する.その一方で,歩行は可能になるが,道順を覚えられず活動範囲を拡大することができない症例や通常と異なる新しい生活環境に遭遇すると現地点の把握ができず混乱に陥る症例なども観察され,歩行の実用化に関する問題点も浮上してきている.

 歩行の実用化を含めた実生活環境下の適応に起案する問題は,今後早期PTが施行されるに従い強調される問題点であると推測される.それに伴い,半側空間無視患者のプログラムを日常生活の実用化の視点から再検討する必要性もある.そこで今回,早期PTプログラムを施行し,重度な半側空間無視を有しているが歩行可能になった患者の症例から半側空間無視の回復過程の特徴をまとめるとともに歩行の実用化の問題点について検討したので報告する.

左側無視における「注意」の障害に対する理学療法

著者: 落合久幸 ,   佐藤みゆき ,   堀口布美子 ,   内山靖

ページ範囲:P.1053 - P.1057

 脳損傷により半側無視(hemi-neglect,hemi-inattention)1)の現象を呈している片麻痺患者では,頭頸部や体幹の位置が一側へ回旋し上肢の動作によってさらに回旋や偏倚が増強することがある.このため座位や立位でのバランスを崩しやすく2)転倒などの危険性が生じることがある.また,顔や視線を合わせていても,別の場所から聞こえてくる声や音の方向に過剰に反応し,姿勢が変化するとともに,その後の会話や動作に対する“注意”が途切れてしまう場合がある.

 「注意」とは,空間の一定方向への偏倚を持つと考えられている方向性注意と意識水準を一定に保つ汎性注意とが考えられている3).右大脳半球損傷後に生じる左側無視は,病態の複雑さから種々の説があるが,これまで上記前者による「方向性」を問題4)とする注意の障害として捉えられていることが多い.左側無視の介入には,左側へ注意喚起を促すことが様々な手法を通して試みられている.しかし,左側への誘導が困難であったり,誘導が可能であってもその後の注意の持続が困難なために動作や行為が連続的に遂行できない場合も少なくない.

高齢者の「注意」の低下に対する理学療法―転倒予防およびADL指導における阻害因子としての不注意行動に対する行動分析学的アプローチ

著者: 小林和彦 ,   園山繁樹 ,   伊藤智

ページ範囲:P.1059 - P.1065

 「注意」という言葉によって表される現象は多様な側面を持っているため,その概念を厳密に定義することは困難であると言われている1).理学療法の臨床においては,「注意の低下」は一般的に以下に示す2つの事象を引き起こす確率を高める心的および認知的状況という意味合いで用いられることが多い.一つは,転倒もしくは転落であり2),もう一つは,学習における注意機能の重要性から3,4)理学療法場面における指導的な介入が機能しにくく,目的とされる動作や行動が学習されにくいということである.また,注意の低下をきたす原因は,加齢による感覚機能の低下や痴呆などの内的な要因だけではなく,能力の低下を補完すべく適切な環境刺激の不足もしくは欠如といった外的な要因も大きく関与すると考えられる.特に,注意を行動としてとらえた場合,注意を伴わない行動,すなわち不注意な行動が介護者やセラピストによる不適切な対応により無意識のうちに学習され,転倒要因となっている可能性も少なくなく,対応や指導のあり方に関する検討が重要となる場合も多い.しかしながら理学療法の現状においては,バランス感覚や筋力などの身体機能に対するアプローチが中心であり,注意力の低下に対し系統的な介入がなされることはまれである.

 そこで本稿においては,「注意」を具体的な「注意行動」としてとらえ,行動分析学の枠組みから痴呆を有する高齢障害者の不注意行動が増加するメカニズムについて考察する.また,転倒予防の観点から,トランスファー課題における不注意行動の変容を目的とした行動分析学的なアプローチの適用について具体的事例を通して解説する.

とびら

会話の中に

著者: 前田貴司

ページ範囲:P.1019 - P.1019

 「会話の中に」.このタイトルを見て多くの人が何だろうと疑問を感じるのではないかと思います.私自身,違ったタイトルはないかと考えましたが,なかなか浮かびませんでした.このタイトルは,会話における“話し方”を意味しています.この“話し方”について私が思っていることを書いてみようと思っています.

 私達理学療法士は患者さんと会話をする機会は多く,その内容は,いわゆる日常会話や治療に必要なことなどです.これらの会話は必要なことだと思いますが,ここ数年,患者さんとの話し方に疑問を感じています.それは,友達言葉や間違った敬語を遣って会話していることです.これは,最近“言葉の乱れ”や“間違った言葉遣い”として言われていることと共通する点ではないかと考えています.

1ページ講座 理学療法用語~正しい意味がわかりますか?

覚醒水準

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.1067 - P.1067

 覚醒とは生体が次第に目覚め,活発化する状態に移行していく反応系である.覚醒は睡眠と相対する概念であり,目覚めている状態あるいは目覚めることをいう.睡眠から興奮に至る覚醒の程度を覚醒水準というが,それははっきり目覚めた状態であり,意識が清明で条件が許せば,自分の意思に従って外界へ働きかける行動が可能な状態である.このとき中枢神経系は,最も統合された水準の高い活動状態にあると言える.ただし,各個体の覚醒状態は一律ではなく,また一個体の中でも反応系によって覚醒度に差がある.

 意識の清明さは,覚醒していて,自己の内外の状況を認識し,刺激に対して適切に反応するそれらの程度で示される.覚醒水準を保つには上行性網様体賦活系による大脳皮質の賦活が必要であり,自己の内外の状況認識と,それら環境に対する適切な反応には大脳皮質の正常な働きが必要である.意識障害とはこれらの機能障害によって,表1,2のように環境からの刺激に対する反応が低下したり,または失われた病的な状態で,覚醒できないか,覚醒が不十分な状態をいう.睡眠の場合は網様体賦活系の働きは低下し,意識は失われている状態であるが,刺激によって容易に覚醒できる可逆的な生理現象であって,病的な意識障害とは異なる.

学校探検隊

こだわり続けていること

著者: 赤松眞吾 ,   澤井美紀 ,   山本美弥子 ,   横山りえ

ページ範囲:P.1068 - P.1069

「本校の概要」について

 国立療養所近畿中央病院附属リハビリテーション学院は大阪府堺市にあります.この地は平安時代に摂津・河内・和泉の3国の境に位置しているところから「さかい」と呼ばれるようになりました.また,堺には仁徳陵をはじめ,100数基からなる百舌鳥古墳群がつくられました.そんな歴史のある地に当学院は昭和48年に開校し,今年4月に31期生を迎え,卒業生も理学療法学科で502名,作業療法学科と合わせると966名になります.当学院は国立養成校としては2番目,理学療法学科では全国8番目に開校し,養成校としては歴史のある学校です.現在,理学療法士養成校は全国に163校,大阪には16校あり,このうち,国立(厚生労働省立)の学校は6校です.国立の養成校は日本における草分け的存在です.

 当学院理学療法学科の定員は20名で,修業年限は3年制です.学生数は大変少なく作業療法学科とあわせても総数120あまりです.しかし,それ以上にこぢんまりしているのが学院の校舎です.本院の敷地は非常に広大なのですが,その正門を入ったすぐ右手にある二階建ての建物が学院校舎です.学院を見学に来られた方の第一印象はだいたい「ちっちゃいなぁ」です.そして,その後に「古いなぁ」というコメントが続きます.設備も似たようなもので,開校時から使っている歴史博物館が開けそうな備品が数多くあります.「物は大切に使おう」というより「使える物は使おう」という感じです.私(赤松)は当学院の12期生で,臨床で12年働き,5年前に教官としてやって来ました.

入門講座 活動向上に生かす動作分析➏

変形性関節症患者の動作分析

著者: 酒井孝文 ,   高橋昭彦 ,   中村春基 ,   津村暢宏 ,   司馬良一

ページ範囲:P.1071 - P.1077

 変形性関節症(以下OA)は関節の疼痛を主訴とし,関節構成組織の退行性変化に伴う関節機能の低下により日常生活活動(以下ADL),特に歩行動作や階段昇降動作の遂行に支障をきたしやすい疾患である.

 本疾患に対する治療は,観血的療法と保存的療法とに大別される.保存的療法には薬物療法,装具療法,物理療法,運動療法などが挙げられ,変形性関節症の進行を阻止するうえで重要な役割を担っている.観血的療法には骨切り術,人工関節置換術などがあり,特に人工関節置換術は疼痛の緩和,変形関節の矯正が得られ概ね良好な治療成績が報告されている1,2).その一方で当術式の対象者の多くが高齢であることから,外科的操作によって急激に引き起こされた関節形態の変化に対応できないでいる症例も少なくない3).術直後は挿入されたインプラントが不安定な状態にあり,脱臼や深部静脈血栓症に代表される合併症発生の予防などリスク管理が重要な時期である4)と同時に,この時期患者は,疼痛回避を最優先させて運動を遂行しようとするため,代償的な運動が出現しやすい時期でもある5).そのため,短縮化される傾向にある在院期間中において徹底されたリスク管理を行うとともに,理学療法士にとっては,いかに的確な動作指導を提供できるかが重要な課題である.

講座 行動分析学的アプローチ・3

理学療法教育における行動分析学的アプローチ

著者: 辻下守弘 ,   小林和彦

ページ範囲:P.1079 - P.1085

 2003年4月時点の理学療法士養成校数は162校であり,入学定員数は約7,000名近くになった.これほどの数になると,理学療法士の仕事を十分に理解し,理学療法士になりたいという強い意志で入学する学生や,理学療法士に必要な資質を備えた学生の数が減少するのは必至であろう.一方,養成校の急増によって,学生側の問題だけではなく,臨床経験や教育経験が未熟な教員や臨床実習指導者も増えるため,理学療法教育の質も低下していく可能性がある.つまり,現在の理学療法教育は,多種多様な志向や動機を持つ学生に対して,経験の浅い教員や指導者がいかにして効果的な教育をしていくのかという大きな問題を抱えている.

 養成校の急増は既に10年以上も前から始まっていることであり,最近特に顕著になってはいるが,この問題自体は長年に渡り議論されてきたものである.しかし解決の糸口がいまだ見つかっていない.この問題を解決するためには,哲学や理念あるいは形骸化した教育方法論を振り回すよりも,科学的な根拠に基づいた教育戦略と指導技法を教育現場へ早急に導入すべきである.

資料

第38回理学療法士・作業療法士国家試験問題 模範解答と解説・Ⅵ 理学療法・作業療法共通問題(3)

著者: 丸山仁司 ,   藤沢しげ子 ,   秋山純和 ,   潮見泰藏 ,   久保晃 ,   斉藤昭彦 ,   谷浩明 ,   藤井菜穂子 ,   金子純一朗 ,   石井博之 ,   中口和彦 ,   倉本アフジャ 亜美 ,   西田裕介 ,   島本隆司 ,   前田修 ,   福田真人

ページ範囲:P.1087 - P.1093

書評

―奈良 勲 編集―『理学療法のとらえかた PART2―Clinical Reasoning』

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.1070 - P.1070

 クライアントの運動機能や生活を支える理学療法は,実に奥深く,やりがいと可能性を秘めていることに高ぶりを感じ,いかに「臨床力」が大切かを考えさせられた,というのが本書の通読感である.

 これまでの理学療法に関する書籍は,どちらかというと技術的なものが多く出版されてきた背景には,急速に増大する理学療法ニーズにより適切で効果的な方法を,広く普及する狙いが少なからずあったと思われる.事実,筋力や疾患に対する運動機能の評価法に関するもの,疾患群別の運動療法のあり方,技術的なものが漸増的に出版され,理学療法の発展に寄与してきたことは否めない.しかしながら,あまりにも定性的な評価尺度やその結果に従った理学療法技術の拡がりはややもすればパターン化したアプローチに陥りやすく,創造性に危惧を感じることも少なくない.

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文献抄録

ページ範囲:P.1094 - P.1095

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.1098 - P.1098

 早いもので,今年も師走となりました.今年最後の特集は「注意」の障害に対する理学療法です.

 好評のため,3年目の継続が決まった1ページ講座の理学療法用語で,本年8月号(Vol37 No8,p683)に弊誌の編集委員でもある網本和先生が注意障害について解説されています.それによれば,生理学的な注意とは,「脳が環境のある一面に集中するために,外来の感覚情報をふるいにかける選択の過程」としています.注意には集中と選択の2側面があり,集中には覚醒と持続の要素があり,選択には選択と分配の要素があるとされています.本特集と併せてお読みいただくことで一層理解が深まることと存じます.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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