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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル38巻11号

2004年11月発行

雑誌目次

特集 認知運動療法の適応と限界

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.893 - P.893

 近年,外界からの環境的諸刺激を感知統合したうえで身体運動を連鎖的にかつ運動学習的に考える認知運動療法が関心を集めている.しかし認知運動療法を実施するにあたっては,その理論的背景を確認するとともに中枢神経疾患,整形外科疾患などに対するアプローチ法をいかに適応するかの判断基準,また臨床的な効果とその限界を理解したうえで臨床対応することが重要である.本特集では,認知運動療法の取り組むべき課題を明らかにして,多くの理学療法士が臨床的検証を積み重ね,認知運動療法がより進化する契機となることを願っている.

認知運動療法の適応と限界

著者: 池田耕治 ,   宮本省三

ページ範囲:P.895 - P.904

 認知運動療法は,イタリアの神経科学者Carlo C Perfetti教授により提唱された認知理論(cogni-tive theory)に基づく運動療法である.その目的は,脳機能の再組織化からの運動機能回復であり,運動の認知スキーマを再構築することである.

 認知理論1)は,運動機能回復が脳の「認知過程(知覚,注意,記憶,判断,言語)」2)の活性化に関連するとしている.障害を受けた患者の回復の質を考えるとき,これらが正しく実現されたのかにかかわってくる.

認知運動療法の基礎科学

著者: 森岡周

ページ範囲:P.905 - P.915

 認知とは世界に意味を与えることである.認知運動療法は身体を使って世界に意味を与えるために開発された学習戦略である.人間は常に世界(環境)と対話している.それは自己の身体を介してであることはいうまでもない.認知が身体(行為)と関係し,身体行為を介して環境と相互作用(inter-action)する点を強調するこの立場は,身体に埋め込まれた認知(embodied cognition)1)と呼ばれている.この働きが実現されるために感覚と運動の統合(sensorimotor integration)が究極の精度を持って対応している2).これは単純な感覚統合を意味しているのではなく,環境における文脈(context)に応じた意識や表象をも含んでいる.知ることと動くこと,すなわち知覚と運動は分断することができない.行為という知覚経験は身体運動と不可分である.元来,知覚と運動は分断して考えられることが多かった.しかし,最近ではより高次な思考と運動においても神経機構と作動原理を共有する情報処理過程であると認識されている3).こうした身体―行為に関する理論4~6)を肯定する脳科学あるいは認知神経科学的知見がここ十数年数多く報告された.また,それらの知見を基に斬新な哲学的思考が生み出されてきた7).本稿では,認知運動療法の基礎科学と題して誌面の許す限り最近の脳・認知神経科学に触れてみたい.

脳のなかの身体

 感覚野は二重8)もしくは多重9)に再現(represen-tation)されていることが明らかにされる一方,その再現は局在的でなくオーバーラップする知見も報告されている10).他方,身体両側からの情報が感覚野で統合され,再現されている11~14)ように,もはや感覚野は単純なホムンクルス15)ではない.Merzenichら16)はヨザルの体性感覚野において,末梢神経を切断,あるいは指そのものを切断した後,身体部位再現が変化することを報告した.Ponsら17)はサルの片手を麻痺させた後,顔面に触れると手に対応している領域のニューロンが発火することを明らかにした.その後,同じ知覚経験(perceptual experience)を持つ上肢切断者の発見により,投射性感覚(referred sensation),いわゆる身体地図のreorganizationが起こることがヒトにおいても明らかにされた18).これらの知見は,知覚が単に感覚の集合体でないことを示している.そして重要なのは,脳は身体のイメージを構築している点であり,必ずしも感覚入力が必要でないことを知らせてくれる.脳は過去の知覚経験により生成された脳内イメージによって知覚を生成しているのである.また,接触課題によっても再現領域は拡大,変化し,感覚野の身体地図が絶えず書き換えられている19)ように,ある経験が脳の身体地図をダイナミックに変えることが明らかになっている.一方,同じ時期に運動野でも身体部位再現が二つ20~22)あるいは複数23,24)存在する知見が発表された.これに関して,Strickらは二つの実験20,21)から,運動野の前部を占める旧知の領域は関節と筋の求心性信号の制御下,後部は触覚の求心性信号の制御下にあることを示し,物体の表面を弁別する触覚情報も運動野で再現されているのではないかという仮説を提示した.また,最近になって早期の知覚経験が運動野の身体地図に影響を与えることが明らかにされた25).触覚(体性感覚)を主体とした感覚モダリティを用いた接触的作業は初期の認知運動療法の基礎となっている26)

骨関節疾患に対する認知運動療法

著者: 沖田一彦

ページ範囲:P.917 - P.923

 理学療法が応用科学(applied science)だとすれば,それが「何を基礎とし」,それを評価や治療に「どう応用するか」は極めて重要な問題となる.骨関節疾患の運動障害に対する理学療法は,整形外科における保存・術後療法として発展してきた経緯があり,生物学としての解剖学や生理学,および物理学としての運動学や運動力学をその主な基礎としてきた.その結果,身体の不活動性変化(deterioration change)として発生する筋や関節の病理を,物理療法や運動療法によって直接的に克服・予防することをその主な目的としてきた1,2)

 一方,1960年代にイタリアでそのアイデアが出され,1970年代に脳卒中片麻痺に対する治療法として出発した認知運動療法(esercizio terapeutico conoscitivo;ETC)3)は,1980年代には運動器の障害にまでその適用が拡大されている4).しかし,ETCは,その名前が示すとおり,「認知理論」に基づく治療体系であり5),多くの理学療法士(以下PT)は「中枢神経疾患にならともかく,なぜ骨関節疾患に“認知”が問題となるのか」という疑問をもつことであろう.

脳卒中片麻痺に対する認知運動療法

著者: 富永孝紀 ,   香川真二 ,   山藤真依子 ,   高橋昭彦

ページ範囲:P.925 - P.934

 損傷した脳の機能を取り戻すためには,脳に対する治療介入を行うほかに道筋はない.セラピストの目的が,機能回復にあるならばそのための治療はどのような理論を基に構築されるべきなのであろうか.機能回復のための治療は,脳本来の働きでもある「環境との相互関係を築く能力」の改善を意味している点を認識しておく必要がある.認知器官としての脳を無視し,脳の病理も運動学習の視点も欠落した運動療法では,もはや急性期の段階から回復に限界を迎えても不思議なことではないのである1)

脳を損傷するということ

 「…私は磨りガラスの入った窓がついた部屋にいる.窓の向こうに社会があって,人が歩いている.ときどき誰かが訪ねてもくる.開けようと思えば開けられる窓である.その人たちと話していると,霧が薄くなるのが感じられる.ふだん,磨りガラスの窓は閉まっており,あまり光は入ってこない.騒音も少ない.見上げるともうひとつ,上方に窓があり,そこから光が入ってくるようだ.私はいつもその薄暗い部屋の中で,膝を抱いてじっと座っていたいと思っているが,たまに思い立ってはしごをのぼり,天窓から顔を出してみることもある.そうしてあたりの風景を見回してみる.だが,天窓までのぼってみようと腰を上げることは多くない…」(『壊れた脳 生存する知』より抜粋)2)

全身性エリテマトーデスに片麻痺を合併した症例に対する認知運動療法

著者: 石原崇史 ,   信迫悟志 ,   鳩代浩之

ページ範囲:P.935 - P.940

 全身性エリテマトーデス(以下SLE)は全身を侵す炎症性疾患で,中枢神経系も侵され種々の麻痺症状を呈することが少なくない1).リハビリテーションを実施するうえでは,脳卒中による麻痺と違って症状が不安定であるという阻害因子が加わる難しさがある.今回,右片麻痺を呈したSLE患者に対し運動療法を行う機会を得,歩行障害に着目して社会復帰に向けた実用的な歩行能力の獲得を目的として認知運動療法を試行したのでその経過を報告する.

症例提示

 30歳,女性.平成15年6月12日,胃腸炎にて他院入院中,めまいと右半身のしびれ感,脱力を自覚し,歩行障害も出現した.頭部MRI(磁気共鳴画像)の結果,明らかな病変はみられなかったが,同日には右片麻痺が出現していた.脳スペクトの結果では血流の低下が認められたことなどから,中枢神経系ループスと診断された.SLEに対する急性期治療により全身状態が落ち着いたため,リハビリテーション目的で平成15年8月25日当院に転院した.転院時の運動機能テストの結果は,上肢Brunnstrom Stage(以下BRS);Ⅴ,下肢BRS;Ⅲであった.足部のクローヌスは簡単・著明に出現していた.車椅子への移乗は自立,平行棒の中での歩行は可能であったが,その歩容をみると麻痺側のtoe offは全くみられず,骨盤を挙上・前方回旋させて,足部を外側へ振り回していた(図1).ときには,足部を床に引っ掛けたり,過度な足部の内反で着地するため足部に痛みを引き起こした.右下肢全体,特に足部にしびれ感を訴えており,感覚障害は強く,足部において特に重度であった.右下肢の感覚障害や足クローヌスは今回の右片麻痺出現よりも以前に存在しており,チアノーゼやしびれ感などが足部,特に足指にみられていた.

整形外科疾患に対して認知運動療法を実施した一症例

著者: 荻野敏

ページ範囲:P.941 - P.945

 整形外科疾患患者の理学療法では,関節拘縮や筋力低下など多くの対象は量的アプローチが主役の座を担ってきた.関節可動域を計測することや筋力を定量的に表すことは,患者のもつ障害を端的に捉え,かつ議論の対象として扱いやすい側面を有している.もちろん近代医学,特に整形外科領域における運動障害の治療は,病態を細分化し,その原因を探ることで進歩してきたことは事実であろう.

 しかし,人間が環境の中で生命活動を維持することを考えると,身体を操作して世界を認識する必要があることは否めない.つまり,「腕を動かして物体をつかむ」ことは,まさにその物体の表面素材や重さなどを理解して行為を及ぼしていることであり,「床の上を歩く」ことは,床との摩擦などを理解して運動を遂行していることに他ならない.沖田は,筋や関節に代表される運動器は,運動を行う「実行器官」であり身体を支える「力学器官」であると同時に,自らの身体に関する情報を中枢に伝える「情報器官」でもあると述べている1).情報器官としての運動器が,的確に環境を捉えることができなければ実行器官としての運動器も誤った情報の基で行動しなければならない.運動を正常に獲得するための学習を妨害する要素を特異的病理と呼び,運動の異常を特異的病理による誤った学習として捉える必要がある2).整形外科疾患患者に対して理学療法を行う場合,理学療法士に「情報器官としての運動器」という認識がなければ,この患者の置かれている特殊な状況を理解するに至らない.

とびら

行政機関での再出発

著者: 中村達男

ページ範囲:P.891 - P.891

 地域の障害者通所リハビリセンターから区役所障害者福祉の窓口職場に異動して4年目になる.当然,ここには治療用ベッドもなければ平行棒もない.あるのは,受付カウンターとデスク,電話,パソコン,積み上がった書類の山といった,職員24名のごく一般的な福祉事務所である.窓口は障害者手帳交付,各種サービスの利用申請など,障害者の日常生活に関する相談の来客で毎日混み合う.ここで私は補装具適合や日常生活用具などの生活支援に関する相談業務を担当している.

 来客の中には,かつて私が理学療法の臨床現場でかかわってきたケースを見かける.十数年ぶりの再会だ.「ずいぶんと大きく立派になったね.覚えていないかもしれないけれど,幼かったあのとき,泣いて逃げ回りながらリハビリをしてたんだよ.」自分も同じだけ歳とっていることを忘れ,懐かしさとうれしさのあまり,ついついそんな言葉が出てしまう.また,その当初,共に街中を歩いたり,路面電車に乗れるくらいまで歩行機能が回復していたはずの人が,車椅子生活を余儀なくされている現実に直面し,落ち込んでしまうこともある.振り返ってみると,自分は相手にとって真に必要なリハビリを提供していたか,自己満足でやっていたことはなかったか,という念に駆られることもある.しかし,過去の情感に一喜一憂してばかりいてはいけない.ここは,多様な問題やニーズを抱えた住民が訪れる窓口であり,行政の側面から,今起こっている問題を解決しなければならない,重要な役割があるのだ.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

超音波

著者: 藤井菜穂子

ページ範囲:P.947 - P.947

 超音波技術開発のきっかけは,1912年に起きたイギリスの豪華客船タイタニック号氷山激突と1914年から始まった第一次大戦での潜水艦の軍事活動といわれる.その技術の始まりは水中探査技術(ソナー)であり,それは,現在でも魚群探知や海洋調査,大型船舶の接岸などにその威力を海で存分に発揮している.超音波技術の急速な進歩は,ソナーに限らず,工業・化学分野,医療分野などに応用範囲を広げ,われわれの生活においても,超音波歯ブラシや洗浄器など深く浸透している.特に最近,医療用診断装置の進歩は目覚しく,ここでは,それらを中心に,超音波(エコー)の定義や原理,応用について述べる.

1.超音波の定義

 一般に「人間の耳に聞こえないほどの周波数の高い音」を超音波と呼んでいる.平均的な可聴音は約20Hz~20kHzであり,周波数が20kHz以上の音波を超音波と定義している.

理学療法の現場から

あなたは「ゆで蛙」?

著者: 舌間秀雄

ページ範囲:P.948 - P.948

 最近,私は当院の理学療法士(以下PT)ミーティングで「このご時世だから・・・」とよく言うようになった.どういうご時世なのであろうか.当院PT数は23年間6名で変わらないが,このご時世に対応すべく最近行った当院のPT体制の変更について少し紹介をさせていただく.

 私は当院に勤めて23年になるが,勤め始めた当初は,入院患者の入院予定期間は3か月であった.しかし,その症状や状況により実際は6か月や1年入院していたという患者も珍しいことではなく,そのころはそういうご時世であった.ところが,高齢化が急速に進んでいる現在,わが国の医療経済状態の切迫は,病院の機能分化や在院日数短縮の推進,さらに医療保険による病院診療から,介護保険を導入しての在宅介護へと政策が変化した.そのため特定機能病院である当院においては,リハビリテーション(以下,リハ)対象患者が慢性期外来患者から急性期入院患者へとシフトすることを余儀なくされ,その対策の一つとして,今年の春からリハ部門システムによる外来患者の完全予約制を導入した来院日の規定が始まった.

先輩からのエール

理学療法士の原点は日々の臨床の中から

著者: 大川達也

ページ範囲:P.949 - P.949

 21世紀が幕を明け,世の中は急激な高齢化社会へと移行し,老人医療費の一部負担,介護保険の導入,診療報酬の引き下げなど,社会情勢の変化が,私たちの職場環境に何かと影響をもたらしている昨今である.

 一方,リハビリテーションに関係する事項としては,新規養成校の開設ラッシュ,また大学教育化などひと昔前には見られることのなかった新たな環境変化も生まれてきている.

入門講座 論文投稿のすすめ➋

論文の読み方

著者: 内山靖 ,   吉尾雅春

ページ範囲:P.951 - P.957

 論文の読み方には,実際の論文をいかに読みこなすかという側面と,必要な論文をどのように検索して収集・選択するのかという側面とに大別できる.本稿では,前者を内山が,後者を吉尾が分担して執筆した.

論文の読みこなし方

1.よい論文とは

1)論文の価値基準

 「なにか“よい論文”を紹介してください」と尋ねられることがある.

 これは,答える側にとっては意外と難しい注文である.私にとってよい論文をみせることは即座に可能であり,○○について詳しく書いてある論文を見つけ出すこともそれほど難しくはない.ここで言う“よい論文”とは,相手が現在求めているなんらかの欲求を満たすものを指しており,相手のニーズに沿っていなければよい反応は得られない.例えば,その領域に精通している理学療法士にとってはよい論文であっても,学生や他領域の理学療法士には難解と感じるかもしれない.かつて同僚から「最近のよい英文論文を知らないか?」と尋ねられ,はりきっていくつかの原著論文を紹介したが,反応は今ひとつであった.関心領域を尋ね,さらに論文を提示したが,結局,3日後の勉強会に紹介するために,短い論文であることが絶対条件で,図表が多く,臨床的なトピックスが含まれていればなおよいということがわかった.笑い話のようにも思われるが,何事においても相手のニーズが重要である.

講座 実践「臨床疫学」・3

大腿骨頸部骨折に対する理学療法―帰結の予測の重要性

著者: 岡西哲夫 ,   及部珠紀 ,   山上潤一 ,   田原弥生

ページ範囲:P.959 - P.968

 EBM(evidence-based medicine)実践の本来の流れは,患者に始まり患者に終わる一連の問題解決の手法として,まず患者の臨床上生じた疑問を明確にし,次のステップとして,その明確になった疑問についての情報を収集する1).しかし,本講座:実践「臨床疫学」では,今回のテーマである大腿骨頸部骨折に対する理学療法(主として運動療法)にかかわる一般的疑問点について,まず,システマティックレビューを行い,その後,実際に経験した実例を取り上げ,EBMに基づいた理学療法の実施について解説を試みる.

情報収集と文献検索

 今回の大腿骨頸部骨折に対する臨床上の疑問点は,①大腿骨頸部骨折の疼痛,②関節可動域,筋力,③バランス,④歩行機能の再獲得などに対する運動療法(運動の介入)の効果についてである.これらについての文献検索は,簡便にかつ信頼のおける情報を手に入れることが重要である.今回は,具体的な情報源として,信頼性の高い情報を集めた2次資料であるコクランライブラリーをインターネットで検索した.キーワードとして“hip fracture”,“rehabilitation”を入力し,さらに,データベース・システマティックレビューを検索することにより,本疾患に関する52のレビューの中から運動の介入効果に関係する論文「高齢者の大腿骨頸部骨折術後のモビライゼーション戦略」(Mobilisation strategies after hip fracture sur-gery in adults2))(以下,コクラン・レビュー)を抽出できた.そこで,このレビューで吟味されている論文を中心に,Ovid MEDLINE,Pub Med,医学中央雑誌(以下,医中誌)の検索も行いながら,その研究の結果が臨床的に重要かどうかを吟味したうえで,現段階において推奨できる運動の介入の段階化を試みる.

雑誌レビュー

“Australian Journal of Physiotherapy”(2003年版)まとめ

著者: 中山孝 ,   額谷一夫

ページ範囲:P.969 - P.977

 Australian Journal of Physiotherapyは年4冊発刊されるオーストラリアの理学療法学術誌である.数年前から電子ジャーナルとしてweb-siteから情報収集できるようになり,2000年以降はPDFのfull-textとして,それ以前のジャーナルは抄録形式で活用できる(https://apa.advsol.com.au/scriptcontent/ajp_index.cfm?section=ajp).臨床治療・教育に関連したテーマが多く,日本の「理学療法学」に掲載される動物モデルを用いた基礎的実験研究は掲載対象ではない.本誌の構成は,はじめに論説が述べられて読者への話題提供があり,次に研究論文,読者からの論評,論文批評および新刊本紹介と続く.特に論評の部分では筆者と読者の意見交換,またそれに対する批評などが論拠となる参考文献とともに提示され,誌面で議論されている点が興味深い.

 本稿では2003年度(49巻)に掲載された論説4篇,研究論文21篇,読者からの論評10篇,文献批評14篇の中から論説と研究論文を取り上げ,日本理学療法士協会の専門領域ごとにジャンル分けして紹介する.49巻では骨・関節系と内部障害系の論文が多く掲載されていた.盲検,RCT(randomized-controlled trial)手法を用いた研究も多い.掲載できない論文についてはタイトルと簡単な内容を記載した.

資料

第39回理学療法士・作業療法士国家試験問題 模範解答と解説・Ⅴ 理学療法・作業療法共通問題(2)

著者: 大倉三洋 ,   片山訓博 ,   栗山裕司 ,   酒井寿美 ,   坂上昇 ,   中屋久長 ,   山﨑裕司 ,   山本双一

ページ範囲:P.979 - P.984

文献抄録

大学バレーボール選手の着地動作における男女間の比較

著者: 寺尾研二

ページ範囲:P.988 - P.988

目的

 バレーボールでの筋骨格系傷害の63%は,ブロックやスパイクなどの基本的な動作に伴うジャンプや着地の動作で認められている.バスケットボール,バレーボールにおいて,女性のACL(前十字靱帯)損傷の頻度は,男性の2~8倍にも及ぶという報告がある.今回の著者らの研究目的は,バレーボール選手のスパイクとブロックの両者における着地の特徴の男女間の差異を生体力学,運動力学的に分析することである.

対象と方法

 下腿に傷害の既往がない健康なバレーボール選手(男女各8名)を対象とした.スパイクとブロックの着地は,両足で均等に平衡を保ち,床反力計上にプラットフォームから垂直に降りるように設定した.高さは40および60cmとした.測定には2台の床反力計,6台のCCDカメラ,赤外線発光マーカーを使用し,ビデオ記録を行った.また等運動性筋力計で大腿四頭筋およびハムストリングスの最大筋力を60°/sの速度で測定した.

座位から立位への移行時のパーキンソン病患者の筋作動と力の生成

著者: 櫻井宏明

ページ範囲:P.988 - P.988

 背景:パーキンソン病が臨床的に進行するに従って個々の患者は筋力を喪失するが,その発症メカニズム(機序)はこれまで十分に解明されていない.特に座位から立位への移行など機能的課題を行う際の筋力喪失のメカニズムは明らかになっていない.

 目的:本研究の目的は,パーキンソン病患者の座位から立位への移行時の運動・筋作動・力の生成を,同年齢の健常者と比べることである.

肩機能不全の患者における肩甲上神経障害の診断について:5症例の報告

著者: 高濱照

ページ範囲:P.989 - P.989

目的:肩甲上神経障害(SSN)は,見落とされるか,肩峰下インピンジメント症候群(SAIS)や腱板損傷,頸部神経根障害のような他の疾患に誤診されやすい.過去の報告では,10人のSSNのうち2人がSAISとして肩峰形成術を施行され,1人が椎間板切除術を受けた.他の27人のSSN例では6人が胸郭出口症候群として処置され,3人が椎間板切除術を受けた.この症例報告の目的はSSNの鑑別診断を記述することである.

症例報告:患者(女性1,男性4)の年齢は29.6±6.8歳で全員がSAISの診断であった.5人とも肩後方に痛みがあったが他動ROMの制限はなかった.MMT(徒手筋力テスト)では5人に棘下筋,4人に棘上筋の筋力低下があった.棘下筋は内旋45°でテストされ,棘上筋は肩甲骨面で「空容器」法(empty can)でテストされた.4人に棘上筋,棘下筋萎縮を観察した.

慢性呼吸不全患者における排泄時の呼吸変化

著者: 長野恵子

ページ範囲:P.989 - P.989

 この研究は,排便(もしくは分娩・出産など)に生じる腹腔内圧の上昇は,呼吸筋力低下を伴う患者において臨床上重要であるとし,排便によって誘発される呼吸変化の測定を慢性呼吸不全の患者を対象に行っている.

 閉塞性および拘束性肺疾患を呈する24人の対象者は,すべて6分間歩行(3回実施)にて,動脈血酸素飽和度(SaO2)が有意(5%以上)な低下を呈す状態である.その内,長期酸素療法を受けている13人のグループ(A)と,酸素療法を受けていない11人のグループ(B)に分類した.

書評

―丸山仁司 編集―『考える理学療法―評価から治療手技の選択』

著者: 宮本重範

ページ範囲:P.945 - P.945

 本邦において,オートラリアの理学療法士,マーク・ジョーンズ氏が全国研修会や理学療法教育に携わる教員の講習会を通して理学療法におけるクリニカルリーズニングの重要性を説いて久しい.

 運動器疾患の理学療法評価においては,まず,患者の訴えを十分聴き取ることが大切である.問診で得られた情報に基づき姿勢や動作を観察し,さらに必要と思われる他動的検査・測定,触診を行い,得られたすべての症状,徴候を統合・解釈することにより障害の部位,障害組織などの診断を行うべきである.これらのリーズニング過程を経て障害像が明らかになると同時に,適切な治療方針を立て,有効な治療法・手技の選択がなされることになる.このような系統的な評価がなされない限り,理学療法の効果についての一貫した根拠は得られないし,従来通りの経験や個々の技量で治療が行われることになる.

―寺山久美子 監修―『レクリエーション―社会参加を促す治療的レクリエーション 改訂第2版』

著者: 浅生弘美

ページ範囲:P.950 - P.950

 本書は,1995年に発行された「作業療法ジャーナル」増大号を時代の流れに合わせ全面的に改訂したものである.

 作業療法ではActivitiesの一環としてレクリエーション活動を用いることは多い.しかしこれで治療と呼べるのだろうかと疑問に思ったり,不安になったりすることがある.本書は理論的にしっかり支持してくれ,明日からの臨床にすぐに役立つ内容を写真やイラストを交えわかりやすく解説してある.レクリエーション種目は多く,疾患・障害別,施設別という視点からも書かれており,共感でき,参考になる点が多い.また,多くの作業療法士の手によって執筆,編集,監修されており,大いに勇気づけられる.

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編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.992 - P.992

 本号の特集テーマは「認知運動療法」です.本誌に認知運動療法が初めて紹介されたのは1992年の第26巻第1号の特別寄稿「脳卒中片麻痺に対する認知運動療法:学習過程としてのリハビリテーション」と題したものです.これは当時の編集委員会が認知運動療法を提唱されていたイタリアのリハビリテーション医Carlo Perfetti氏に執筆依頼したもので,認知運動療法の考え方,アプローチ方法などについて総論的に記述されています.

 認知運動療法の理論は,整形外科系の運動療法は「量的」で,中枢神経系の運動療法は「質的」といった二極的な理論図式ではなく,身体運動を連鎖的にかつ運動学習的に捉え,外界からの刺激反応を認知統合したうえで身体運動をスムーズに発揮できるようにする新しい運動療法の一つであると私は解釈しています.しかしながら認知運動療法に関してはまだ仮説も多く,定説化されてはいません.新しい運動療法のパラダイムとして進化するためには臨床データを蓄積し,適応と効果について多面的な検証を行うことが重要で,その直向な取り組みが多くの理学療法士に受け入れられる原点になると考えます.このような意味合いを踏まえて,今回,認知運動療法の第一人者で編集同人であります宮本省三氏に「認知運動療法の適応と限界」とした企画をお願いした次第です.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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