講座 実践「臨床疫学」・3
大腿骨頸部骨折に対する理学療法―帰結の予測の重要性
著者:
岡西哲夫
,
及部珠紀
,
山上潤一
,
田原弥生
ページ範囲:P.959 - P.968
EBM(evidence-based medicine)実践の本来の流れは,患者に始まり患者に終わる一連の問題解決の手法として,まず患者の臨床上生じた疑問を明確にし,次のステップとして,その明確になった疑問についての情報を収集する1).しかし,本講座:実践「臨床疫学」では,今回のテーマである大腿骨頸部骨折に対する理学療法(主として運動療法)にかかわる一般的疑問点について,まず,システマティックレビューを行い,その後,実際に経験した実例を取り上げ,EBMに基づいた理学療法の実施について解説を試みる.
情報収集と文献検索
今回の大腿骨頸部骨折に対する臨床上の疑問点は,①大腿骨頸部骨折の疼痛,②関節可動域,筋力,③バランス,④歩行機能の再獲得などに対する運動療法(運動の介入)の効果についてである.これらについての文献検索は,簡便にかつ信頼のおける情報を手に入れることが重要である.今回は,具体的な情報源として,信頼性の高い情報を集めた2次資料であるコクランライブラリーをインターネットで検索した.キーワードとして“hip fracture”,“rehabilitation”を入力し,さらに,データベース・システマティックレビューを検索することにより,本疾患に関する52のレビューの中から運動の介入効果に関係する論文「高齢者の大腿骨頸部骨折術後のモビライゼーション戦略」(Mobilisation strategies after hip fracture sur-gery in adults2))(以下,コクラン・レビュー)を抽出できた.そこで,このレビューで吟味されている論文を中心に,Ovid MEDLINE,Pub Med,医学中央雑誌(以下,医中誌)の検索も行いながら,その研究の結果が臨床的に重要かどうかを吟味したうえで,現段階において推奨できる運動の介入の段階化を試みる.