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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル38巻12号

2004年12月発行

雑誌目次

特集 理学療法士の国際協力

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.995 - P.995

 ジェット時代からIT時代になるにしたがい,世界各国や地域に住む人々の直接的な交流や情報交換が一段と容易になり,世界はますます狭くなってきた.この現象は,誰もが一人で生きていけないように,どの国や地域も単独で存在していくことが困難な時代になりつつあることを物語っている.

 多くの国ではなんらかの理由で支援を必要とする人々に対して,社会福祉もしくは社会保障制度によって援助する仕組みになっている.これと同様に,世界レベルにおいて,国際的機関・機構あるいは国や地域間協定などをはじめ民間および個人レベルにおいて国際支援・協力が行われている.わが国も特に戦後には,諸外国の支援・協力を受けて復興し現在の状況に至っている.

国際協力を受けながら発展した日本の理学療法

著者: 田口順子

ページ範囲:P.997 - P.1003

 わが国における理学療法業務が法的根拠を得て開始されたのは1965年に制定された「理学療法士及び作業療法士法(法律第137号)」以降のことである.1963年5月には日本初の理学療法士・作業療法士養成校が開校した.十分な準備もないまま養成校を創り,法律も国内外の圧力によって生み出され,成立を急ぐあまり関連職種間の混乱を招き,決して満足すべきものではなかったという記述も目にすることがあるが,いつの時代にも完璧な法律などありはしない.わが国が国際協力を受けた時代に過ごした私にとっては,その歴史的な草創混乱期に情熱を持って尽くした人々が存在していたこと,そのおかげで今のわれわれがあることへの感謝しかなく,時代を背景とした歴史やニーズは世界的にも力をつけた日本理学療法士協会と会員一人一人の努力によって変革してゆけばよい.

国際機関とのつながり―WHOとWCPT

 わが国が他の分野では他国からの援助を受ける段階を過ぎている時代に,リハビリテーション,とりわけ理学療法士・作業療法士(以下それぞれPT・OT)養成に対し,国際協力・援助を受けた時期はほぼ1961年から1975年の15年間であった.これは,いつまでも続く現在の日本による開発途上国への支援状況から見れば実に短いスパンであった.このときの他国からの援助は,ODA(政府開発援助)やNGO(非政府組織)レベルではなかったから,いわゆる箱モノといわれる学校建設や図書の寄付を受けたわけではなく,WHOから派遣された外国人教師の人件費と新しくPT・OT養成を担う日本人のための研修,留学費用くらいのものであったと思われる.事実,日本初の養成校が開校されたときの教材として必要な機器,図書,校舎改修,人件費などは,乏しいながらも厚生省(当時)によるものであったし,隣接の看護師養成校の5倍も費用がかかると当時の養成校の事務担当官が何年もこぼしていたのを記憶している.しかしこの間にWHO,WCPT(世界理学療法連盟)から受けた協力は有形無形にかかわらず大きく強力なものであった.WHOやWCPTは日本の政府は各機関とも外的な圧力には特に弱いと感じていたし,WHOから派遣された外国人スタッフは厚生省との折衝には戦略的にこの弱点を武器としていた.外的な圧力とまでは行かないとしても開発途上国の自立発展性を促すとき,国際協力側からの後押しが政府機関を動かせることは多い.WHO顧問として赴任したT Conine先生はWHOに進捗状況を毎月報告し,その報告内容に対するWHOの反応は直ちに厚生省や学院に返ってきたから戦々恐々としていた.WCPT事務局長,Neilson女史も日本の発展性には期待し,養成校との緊密な連絡が行われていた.当時,まだ3年生になったばかりの学生たちにも情報が提供され,来るべき専門職組織結成に関する資料が届き,授業時間の中で検討が進められた.こうしたWHOをはじめとするWCPTとの緊密な情報交換は,海外からの情報がまだ乏しい時代であったから,貴重な国際協力を受けた形として残った.

学術・教育・組織を通じた理学療法士の国際協力

著者: 内山靖 ,   奈良勲

ページ範囲:P.1005 - P.1011

 近年のわが国の社会情勢として,少子高齢化,個性化,マニュアル化,情報化,国際化などの特徴が挙げられる.パーソナルコンピュータの普及は,世界規模での情報交換を容易にし,価値観の多様化とともに世界標準化(グローバルスタンダード)を推し進めている.しかし,世界の国や地域では,政情不安による生活の困窮化や,安定した電気供給さえ困難であることも少なくない.医療の情勢にしても,欧米やわが国のように生活習慣病や高齢化に伴う介護予防が主な課題となる一方で,感染症対策に奔走するとともに基本的な医療システムの確立と専門職の養成が急務である国や地域が存在している.

 本論では,国際協力のありかたを踏まえて,理学療法士の個人および組織での学術・教育活動を通じた国際協力についての現状と展望を述べる.

中国における理学療法学教育への国際協力

著者: 丸山仁司 ,   藤沢しげ子 ,   霍明

ページ範囲:P.1013 - P.1019

 中国における理学療法学への国際協力は,1986年に行われた日本の国際協力機構(JICA)の支援による“肢体障害者リハビリテーション研究センタープロジェクト”としての,センターの建設と,理学療法士(以下PT)・作業療法士(以下OT)の教育のプロジェクトが最初である.その後2001年11月より,JICAによる中国リハビリテーション専門職養成プロジェクトが開始された.このプロジェクトは,中国において理学療法学,作業療法学の教育を4年制大学で,しかも各別々の教育を実施するうえで画期的なものである1)

 本稿では,中国での理学療法の現状について紹介し,JICAによる中国リハビリテーション専門職養成プロジェクトの概要を述べる.

私の国際協力体験

技術力のある国での隊員活動(ハンガリー)

著者: 井村智弘

ページ範囲:P.1021 - P.1023

ハンガリー共和国の四季と任国事情

 ハンガリーは日本と同様に四季があり,気候の変化に富んでいる.春・秋は短いが夏は暑い日が続き,40℃近くになることもある.冬は札幌程度に寒くなり,まれに-20℃になることもある.人口は1,014万人,面積は日本の約1/4,言語はハンガリー語である.ハンガリー人には12人のノーベル賞受賞者がおり,産褥熱の発見と予防法・ビタミンCの発見などの医学的貢献もある他,ルービック・キューブを開発したのもハンガリー人数学者である.1989年の体制変換後,1992年から青年海外協力隊事業が開始され,2003年3次隊までで計111名の隊員が派遣された.日本人観光客も2000年には10万人を越え,また今年(2004年)5月1日にはEUの正式加盟国となった.

配属先概要および活動環境

 配属先は,東欧のパリと呼ばれる首都ブタペストから20km郊外にあるフロール・フェレンツ病院(病床数1,000床,診療科目20科)であった.ここはペスト県という人口100万人の地域をカバーしている5つの総合病院の1つであり,私は第3内科リハビリテーション病棟の配属であった.私は青年海外協力隊員 (以下,協力隊員)として2000年4月~2002年3月までの約2年間,配属先での隊員活動を行った.リハビリテーション病棟は40床であり,医師2~3名,看護師1~2名,助手1名という構成で,医療従事者が非常に手薄な環境であった.

中国の病院で活動して

著者: 加藤明美

ページ範囲:P.1025 - P.1027

 私は2000年7月から2002年7月まで,青年海外協力隊に参加して,中国広西チワン族自治区柳州市の第一人民医院リハビリテーションセンターに派遣され活動していました.

青年海外協力隊に参加するまで

 もともと私が青年海外協力隊(以下,協力隊)に参加したいと思った動機は「国際協力」という難しいことではなく,外国で暮らしてみたいという単純なものでした.協力隊の存在を知ったのは大学1年生のときで,駅のポスターを見て説明会に行ったのですが,そこで初めて,協力隊というのは自分が行きたい場所に行くのではなく,必要とされている技術を持った人が必要としている国の申請に答える形で派遣されるのだということ,また,費用は国の税金を使うのだということを知りました.また,その説明会で,大学生が参加するのは不可能ではないが,精神的にも業務としても厳しい,なにより必要とされる技術がないと難しいと言われました.当時私は養護学校などで教員になるための特殊教育を学んでいたのですが,職種としての募集もなく,大学生の自分自身にも自信がなく,すぐに参加することはできませんでした.その後,理学療法士に進路変更し,3年間臨床経験を積んで,改めて協力隊に応募しました.その10年間はある意味,「協力隊に参加したい」という目的をもっていろいろなことにチャレンジできた期間となったように思います.

青年海外協力隊に参加して(パプアニューギニア)

著者: 村上茂雄

ページ範囲:P.1029 - P.1031

初めての海外

 私にとって初めての海外が赤道直下の国パプアニューギニア(Papua New Guinea,以下PNG)でした.PNGは1975年にオーストラリア統治から独立した国で,国土は日本の約1.2倍,人口は約500万人,公用語は英語,主要産業はコーヒー,コプラ(ココヤシから作られるもの)などで,極楽鳥(国旗に描かれている鳥)のいる国として有名です.第2次世界大戦では,日本軍も数多く上陸しており,ラバウル小唄(ラバウルは地名)は有名な唄となっています.そのPNGに,青年海外協力隊員として1998年12月から2000年12月までの2年間独立行政法人国際協力機構(Japan Interna-tional Cooperation Agency,JICA)より派遣されていました.

 私の場合,国際協力を意識しはじめたのは,中学生の頃でした.そのときは,日本が高度成長期で,開発途上国への援助場面がよくテレビで放送されており,その影響を受けたのが理由です.また,青年海外協力隊を知ったのは,高校生の頃で,以後理学療法士(以下PT)としてどれくらい自分が役に立つのか試してみたいという思いで協力隊参加を決意しました.

世界という名の壁をこえて(フィジー)

著者: 相原誠

ページ範囲:P.1033 - P.1035

派遣にいたる経緯

 私は,昔から国際情勢に特別興味があったわけでも,日本での生活に失望していたわけでもなかった.しかし,結果的には平成15年4月までの2年間,青年海外協力隊員として,南太平洋に浮かぶフィジー諸島で理学療法士として活動を行ってきた.人にはよく「どうしてそんな事を?」と訊かれるが,別に崇高な使命を感じて行ったわけではなかった.ただ,子供の頃からちょっとした違和感を覚えており,それを自分の中でなんとかしたかっただけだったのかもしれない.

 今も昔もテレビ画面には貧困や戦争のせいで泣いている子供たちがよく現れる.子供時分から飢えたことなどなかった私にとって,おやつを食べながら見る自分と同年代の子供たちのその姿に,「あれ? どうしてだろう?」と素朴な疑問を感じていた.「自分と,あの子とは何が違っているんだろう…」と.参加の動機といえばこれくらいだろうか.自分が貧しい国に行ってそれを変えてやろう,などと大それたことを考えていたわけではない.ただ,子供の頃に感じた違和感を大人になったらいつかこの目で確かめてやろう,と思っていた.それを実行したに過ぎない.

マレーシアでの2年間を振り返って

著者: 石井博之

ページ範囲:P.1037 - P.1039

 「ひろバングン!(ひろ起きろ!)」

 朝,いつものようにルームメイトのルッソイの声で目を覚ます.近所の子供たちが私の部屋のカーテンの隙間からにこにこしながら覗いている.ここではこれが日常である.最初はあまりのプライバシーのなさにたじろいだが,1年もたつとこのすべてが開けっぴろげな生活が楽しくなってくるから不思議である.

 私は1993年から1995年までの2年間,青年海外協力隊の隊員としてマレーシアのサラワク州クチンという町にあるサラワク州社会開発省福祉局に赴任し,理学療法士としていくつかの施設を巡回した.赴任当初は言葉や文化の違いに困惑したこともあったが,1年もたつとここでの生活や言葉(マレー語)にも慣れ,日々の生活を楽しいと感じるようになってきた.周囲の人々はとても明るくて親切で,何よりも「困っている人をほうっておけない」という性分の彼らにずいぶん助けられてきた.そのおかげで日々の生活も活動も充実し,とても有意義な時間をすごすことができた.

とびら

「active」への主観

著者: 小堀愛司

ページ範囲:P.993 - P.993

 「active」という言葉は理学療法において日常的によく使われる言葉のひとつである.代表的なものには運動療法の基本としてのactive movement(自動運動),active assistive movement(自動介助運動)などがあり,これに対応したpassive movement(他動運動),resis-tive movement(抵抗運動)を加えた四つの用語は学生時代の最初に覚えた専門用語かもしれない.一方,小児中枢性疾患の治療においては子どもの運動パターンを促通していく際に,他動的にならず子ども自身が自分から運動を起こし活動していくようにという意味で,「activeに」が強調されるようになってきているように思われる.

 私は小児分野に働く理学療法士だが,小児領域の理学療法が他の分野の理学療法士から特別視されたり,また小児分野の理学療法士自身もそう思っている傾向が強いことに以前から違和感を感じている.これは何々法といった特有の治療法が小児理学療法の主流を成していることも関係しているのかもしれない.最近になってやっと小児分野においても呼吸理学療法や徒手療法なども取り入れられるようになってきた.そこでちょっと基本に戻り様々な治療技術や手技を運動療法における基本的な四つの運動に照らし合わせて考えてみると,例えば呼吸の介助において呼吸運動をactiveなものとしてとらえた場合,肺の換気改善を目的とした呼吸介助は自動介助運動でなければならない.もし排痰を意識するあまり圧を強めるとそれはもはや自動運動を阻害することになる.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

タスク(課題)

著者: 臼田滋

ページ範囲:P.1041 - P.1041

 近年,中枢神経系障害に対する理学療法として,task-oriented approach(課題指向型アプローチ)やtask-specific training(課題特異性トレーニング)などの用語が使用されてきている.

 課題とは,「問題を課すること,または,課せられた問題」を意味し,心理学においては,「特定の目標を達成したり,目的を追求するための刺激,反応,さらに被験者が特定の目標,ないし意図を達成するために実験者が与える教示といった,あらゆる要素を包含した実体」と定義され,課題が与えられた状況において,課題は環境の特徴,課題遂行者,遂行についての教示といった要素で構成されている1)

理学療法の現場から

今,臨床という現場で思うこと

著者: 佐藤博志

ページ範囲:P.1042 - P.1042

 最近のリハビリテーション医療事情は,入院期間の短縮が政策的に進められる中,急性期,回復期リハビリテーションと,その後の地域リハビリテーションへの連携が重要視され,その一連の治療・ケアの流れがシステム化しつつある.限られた時間の中で,資源を最大限に活用して最大限の効果を上げることが求められ,生活の場を主体とした目標指向的なアプローチが必要とされている.

 先日,外来診療での理学療法を希望されて来院された新患の担当となった時のこと.その方は約1年前に脳梗塞を発症し,左片麻痺を呈した整形外科医である.急性期病院から,他院の回復期リハビリテーション病棟での治療を経て,来院時は在宅生活をされていた.「入院中は装具をつけて歩けたのだが,今は膝周囲が痛くて家の中で歩けない.」という訴えで,治療を希望されてきた.これまでの治療経過を聞いている中で,「回復期リハビリテーションでは,ほとんど理学療法を受けていない.歩くことが中心だった.」と話された.決して理学療法が行われていないはずはないのであるが,この言葉の背景には,この方にとっては治療とは一線を画した機能代償の「指導」という理学療法士のかかわりが際立ってしまっていたのではないかと考える.長年にわたって整形外科医として臨床を積まれてきた医師の,われわれ理学療法士の専門性を問う一言として,謙虚に受け止めたい気持ちであった.

先輩からのエール

クライアントをいかに受けとめるか

著者: 石川孝幸

ページ範囲:P.1043 - P.1043

 小児療育が私の理学療法の出発点でした.今は幼少時から長年かかわって成人期を迎えた脳性マヒの方々が私のクライアントであり,これらの方々とは現在,重度身体障害者施設や福祉領域でかかわっています.クライアント自身の生きがいとご家族の生きがいとを共生させることが私の課題です.家族も含めた障害者の生きがいを達成するための理学療法を行うには,障害の程度を勘案し,生活容態を含めた取り組みが必須となります.ですから,今でもクライアントをはじめ多くの人々から学ぶ日々が続いています.私にとって理学療法とは,障害を持って暮らしている人々との一生を通じたかかわりを,如何に展開していくかを追及することにあります.

 福祉施設は現在,大きく変貌しつつあります.リハビリテーション(以下,リハ)医療は,急性期リハ・回復期リハ・維持期リハ・ターミナルリハと時間的推移に基づいた取り組みに変貌しつつあり,急性期を過ぎたクライアントもリハ・理学療法を求めるようになってきています.だからこそ,福祉施設においても理学療法士の需要は拡大しつつあり,理学療法士の専従が不可欠となってきているのです.このようななか,福祉介護領域で私たち理学療法士は次のような6つの指針を持って臨むことがたいせつです.それは“plan-do-check-action”,“human care”,“never give up rehabilitation”,“team work approach”“problem solver”,“symbiosis”です.この6つの指針を福祉領域における理学療法の役割として,地域における療護施設研修会等で提言し,共通理解をもって取り組むことの重要性を呼びかけているところです.

ひろば

ハワイのデイケアセンターにおけるボランティア体験

著者: 関根弘和

ページ範囲:P.1044 - P.1044

 本邦におけるデイケアは,施設基準として理学療法士などの配置が定められており,近年では個別リハビリテーションが加算の対象になるなど,デイケアにおけるリハが充実してきている.一方,アメリカのデイケアでは,リハビリテーション(以下,リハ)やセラピストのかかわりが本邦とは異なっており,デイケアのサービス内容や位置付けなどの知見を深めることを目的として,2004年2月~4月の3か月間,アメリカ・ハワイ州ケアラケクア市のコナ・アダルトデイケアセンター(以下,センター)において,ボランティアとして体験する機会を得た.

 このセンターでは1日平均10~15名程度の介護を必要とする高齢者を6名の専属スタッフとボランティアがケアしている.ボランティアの年齢層は幅広く,高齢者から子供まで自由に参加している.専属スタッフの中にセラピストはいないため,センターではセラピストによるリハを受けることはできないが,センターの利用者のほとんどはセラピストによるリハを自宅で受けている.これらホームケアに携わるセラピストとデイケアセンターとの間では,円滑な連携・協力体制が確立されている.またこの地域ではデイケアやホームケアが高齢者ケアの中心となっている.その理由は,安価で利用できる入所施設が少ないことだけではなく,本人および家族からの在宅生活を主としたケアのニーズが高いことにある.なお,専属スタッフやボランティアはtuberculosis test(ツベルクリン反応によるヒト結核菌テスト)を受けることが義務付けられており,病院もしくは保健所でテストを受けて証明書を提出しなければならない.

入門講座 論文投稿のすすめ➌

論文の書き方

著者: 網本和 ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.1045 - P.1050

 近年の急速な理学療法士の増加に伴い,2004年の日本理学療法学術大会の演題数は1,059題を数える大変な盛会であり会期中にそのすべてにアクセスすることは不可能であったほどである.このように学術的関心が高まり多くの発表がなされることは,理学療法の発展に多大な貢献をもたらすものと期待できる.

 しかしこれらの学会発表のうち,『理学療法学』など関連の学術誌に投稿され論文として公刊されるものは実はきわめてわずかでありせいぜい数十編にすぎないのである.理学療法学関連だけではなく,広く医科学にわたり論文が採用されているとの好意的予想をもってしても,論文化されたもののシェアは必ずしも多くはないのが現実である.

講座 実践「臨床疫学」・4

下肢関節傷害に対する理学療法―膝関節靱帯・半月板損傷の理学療法

著者: 高柳清美 ,   細田昌孝

ページ範囲:P.1051 - P.1060

 本講座の目的は,根拠に基づく理学療法確立のためのシステマティック・レビューと実際の症例への適応について解説することである.本稿では,下肢関節傷害のなかで特に膝関節靱帯損傷〔内側側副靱帯(以下MCL)損傷,前十字靱帯(以下ACL)損傷〕に対する理学療法を中心に概説し,これに沿った靱帯損傷の治療法を紹介する.

ACL,MCLおよび半月板損傷に対する理学療法介入の効果

 The Cochrane Libraryにおいて,ACL,MCLおよび半月板損傷のリハビリテーションにおける理学療法士指導のプログラムおよび介入についてシステマティック・レビューを行っている.データはMEDLINE(1966年~1999年8月),EMBASE(1980年~1997年2月),CINAHL(1982年~1999年4月),CURRENT CONTENTS(1999年まで),The Cochrane Musculoskeletal Injuries Group's spe-cialized register(2001年6月まで)より検索し,方法論の質を11項目(22点~0点)で評価している(表1).レビューした99の論文中,評価基準に合致した論文は,ACL損傷が18,MCL損傷が9,半月板損傷が2,軟部組織損傷が2の計31論文であった.これらの論文の方法論を評価した結果は表2のようになり,平均および標準偏差は9.8±4.5点(18~1点)であった.C,E,Fの評価が低く,二重盲検法による比較研究が少なかったことが伺える.ACL,MCLおよび半月板損傷における理学療法の開始時期や方法は整形外科的処置法の改良や進歩に影響され,次々と報告された運動学的,力学的基礎研究の結果によっても左右され変更されてきた.特にACL損傷の観血的治療法は多くの手術法が考案され,今では用いられなくなった方法も少なくない.関節の可動性,筋力は合併症,疼痛,安静期間や手術侵襲の大きさに深くかかわり,機能的予後にも影響を及ぼす.下肢関節の傷害に対するリハビリテーションの効果は整形外科的処置と理学療法介入の相乗・相和されたものとしてみる必要がある.そこで,The Cochrane Libraryの報告と評価基準(表1)をもとに,最近の研究論文を加えて,1994年から2004年8月までの10年間の研究論文を中心にシステマティック・レビューを行った.

原著

総荷重時間規定下における荷重開始時期の相違がラットヒラメ筋の廃用性萎縮に及ぼす影響

著者: 山崎俊明 ,   立野勝彦

ページ範囲:P.1061 - P.1065

 リハビリテーション概念の普及により,近年は安静という治療手段を考慮しながら,長期臥床による悪影響を予防するため,早期離床・歩行が推奨・実施されてきている.しかし,臨床場面では患者の状態を十分加味しながら,理学療法士の経験を基に実施している現状がある.特に廃用性筋萎縮の予防は,理学療法士として関与することが多く,その専門性発揮のためにもデータに基づいた根拠ある方法を提示していく必要がある.

 寝たきりや長期臥床でみられる廃用性筋萎縮は,廃用性症候群のひとつである.筋原性および神経原性萎縮と異なり,主原因である非荷重の対策として荷重(weight bearing)を再開することで比較的可逆性が認められる1).非荷重状態から再荷重への病理的変化については,微少重力環境からの帰還に関する分析として数多くの基礎研究が報告されている2,3).ところが,非荷重条件下における間欠的荷重に関する研究は,宇宙環境では実施困難なことから報告も少ない4).しかし,地上における理学療法では有効な治療手段であることから,われわれは臨床的に応用可能な間欠的荷重を採用し,廃用性筋萎縮の進行に及ぼす要因を動物実験で検索してきた.その結果,荷重時間5)・頻度6,7)・間隔8,9)による効果の違いが認められた.

資料

第39回理学療法士・作業療法士国家試験問題 模範解答と解説・Ⅵ 理学療法・作業療法共通問題(3)

著者: 大倉三洋 ,   片山訓博 ,   栗山裕司 ,   酒井寿美 ,   坂上昇 ,   中屋久長 ,   山﨑裕司 ,   山本双一

ページ範囲:P.1068 - P.1074

文献抄録

片側の全人工股関節置換術後の歩行時動的安定性

著者: 鈴木由佳理

ページ範囲:P.1076 - P.1076

 目的:多くの研究は歩行時の前後方向での動的安定性を調べているが,側方方向はしばしば転倒が起こりうる方向であるように,変化の限られた証拠が側方方向での重心にある.そこで本研究は側方方向に焦点をあて,健常人と片側の全人工股関節置換術患者(以下,THA患者)の歩行時の動的安定性について調べることを目的とした.

 対象・方法:対象は健常老人16名(平均年齢74.0±5.7歳,平均体重161.4±11.8cm,平均体重70.1±15.7kg)とTHA患者16名(平均年齢70.9±4.2歳,平均体重165.6±8.7cm,平均体重74.6±16.3kg)であり,全員独歩のものとした.方法は,普段歩いている速度にて,30フィートの歩行路を10回歩かせた.その際,被験者の身体27か所にマーカーを貼付し,6台の赤外線カメラを用いて三次元情報を収集した.また靴の踵にフットスイッチを貼付した.データ処理には10回の計測のうち3回を使用し,歩行速度,片脚支持(以下SLS)の動的安定性,SLS相違点数,SLS時間,両脚支持(以下DLS)の動的安定性,DLS相違点数,DLS時間の平均値を算出し,健常老人とTHA患者の比較を行った.

一側下腿切断者の義足歩行における2種類の足部の比較

著者: 水野元実

ページ範囲:P.1076 - P.1076

 目的:一側下腿切断の歩行分析を行い,従来型足部とダイナミック足部の影響を比較することである.

 方法:一側下腿切断者11名を対象とした.その内訳は,男性8名/女性3名,切断側左5名/右6名,平均年齢42.5歳,切断後平均期間11.1年であった.屋外歩行は自立し,断端部痛や感覚障害のない症例とした.6名がFlex foot,5名がSAFE footを使用していた.Flex footとSAFE footで2回テストを行い,健側と義足側の歩行データを収集した.快適歩行速度にて計測し,毎回同じ速度とした.両側下肢の最大モーメントと最大パワーを測定した.各テスト後に,義足足部の安定性や活動性に関するアンケートも行った.

オランダの慢性疲労症候群活動および参加アンケート(CFS-APQ)の心理測定的特性

著者: 田島徹朗

ページ範囲:P.1077 - P.1077

 目的:慢性疲労症候群(CFS)に対し,総括的なアンケートである簡易型健康状態調査(SF-36)が広く使われているが,その解釈はわかりにくく,時間がかかるため,適用が低く,その有効性も疑わしい.今回のCFS-APQは,CFSにおいて,活動限界をモニターするための疾患に特有の評価手段とされている.本研究では,オランダの言語訳で得られるデータ結果の有効性,情報の内容の妥当性とアンケートの再調査に対する信頼性が検定された.

 方法:慢性疲労を有する患者111人のうち47人が,記載されたすべての包含基準を満たした.患者には,最初,活動するのが困難になった少なくとも5つの行動を記載し,次に,CFS-APQを完了するために,疼痛,疲労と能力の3つをvisual analog scalesを使用して評価するよう依頼した.また,自宅でCFS-APQの改訂版を行い,調査者にそれを返すよう依頼した.なお,管理者バイアスを最小にするために特別の説明を与えなかった.

顎関節病理,頸部痛と姿勢の相関

著者: 長野恵子

ページ範囲:P.1077 - P.1077

 この研究は顎関節病理および頸部痛と姿勢の関係を調査することを目的としている.被験者は顎関節の疼痛と頸部の疼痛を認める15~52歳(平均年齢28.50±12.93)の18人の患者で構成され,比較される対照群は顎関節痛も頸部痛もない20人で構成されている.

 方法として,まず被験者は全員詳細な触診,顎関節の可動域などの理学的検査を受けた.両グループはMRIにて頸部4方向の撮影と,下顎骨の関節可動域,頭部―肩の角度を評価した.下顎骨の可動域は他動および自動の両方で測定し,上下の第1門歯歯間距離を測った.また,頭部―肩角は,耳珠と第7頸椎棘突起と肩峰端にマーキングし,角測定を行った.年齢,頭部―肩角また下顎骨の自動・他動の関節可動域を比較するのにt検定を用いた.性差の比較はχ2検定を用いた.

書評

―宮原英夫(監修)―『理学療法学生のための症例レポートの書き方』

著者: 内山靖

ページ範囲:P.1040 - P.1040

 このたび,北里大学医療衛生学部の開設当初から理学療法学科で教鞭をとられてきた宮原英夫博士の監修により,『理学療法学生のための症例レポートの書き方』が朝倉書店から出版されました.

 本書を世に出された背景には,3つの動機があるように感じられます.第1には,臨床実習で体験した症例のレジュメやレポートの作成に役立つ平易な具体例を示すことです.第2には,理学療法を科学的に進めるためのminimum requirementsとしての臨床記録のまとめ方を提示しようとされたことです.そして,第3には,理学療法を専門としない教員のお立場から,学生が楽しく理学療法を学修するための支援とともに,今後の理学療法に重要な道標を示されようとしたことです.なお,3番目の動機は,本書に明記されているわけではありませんが,評者が感じた点であり,事実とは異なるかもしれません.

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編集後記

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.1080 - P.1080

 本号の特集は,「理学療法士の国際協力」である.国際協力とは,国際的支援や交流を行うことであるが,今や単独で国や地域が存在していくことが困難になりつつある時代にあってたいへん重要な課題といえる.わが国もこれまで国際機関や民間組織などの支援・協力を得て現在に至っている.また,わが国の理学療法の草創期においても,国際機関や民間組織および個人レベルの支援・協力を得ながら現在に至っている.近年,わが国の理学療法士が多方面において国際支援・協力に関与していることは喜ばしいことである.

 田口氏には,「国際協力を受けながら発展した日本の理学療法」と題して,草創期の理学療法,特にわが国初の理学療法士養成校設立時の背景について述べていただいた.産みの苦労はいつの時代にも味わうことであるが,当時の苦労は特別であったことが伝わってくる.内山氏他には,「学術・教育・組織を通じた理学療法士の国際協力」と題して,理学療法の国際機関および日本理学療法士協会を中心とした国際協力について述べていただいた.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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