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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル38巻2号

2004年02月発行

雑誌目次

特集 難病の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.81 - P.81

 神経難病とは何か,最近の診断と治療に関する進歩と課題を簡潔にまとめた.また難病の支援事業やネットワークの活動状況を紹介した.比較的長い経過で推移する4つの難病の理学療法をまとめた.多発性硬化症では諦めず効果をあげるための理学療法の評価と治療を,脊髄小脳変性症ではチームアプローチの進め方を,全身性エリテマトーデスでは多臓器の問題への関わり方を解説した.筋萎縮性側索硬化症では偽多発性神経炎型を取り上げ,具体的な理学療法評価やアプローチを示した.

難病と支援事業

著者: 高橋伸佳

ページ範囲:P.83 - P.87

 昭和47年に厚生省がまとめた「難病対策要綱」によれば,難病とは以下のように定義される.

 1)原因不明,治療方針未確立であり,かつ,後遺症を残すおそれが少なくない疾病.

 2)経過が慢性にわたり,単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く,また精神的にも負担の大きい疾病.

多発性硬化症の理学療法

著者: 中林健一

ページ範囲:P.89 - P.97

 多発性硬化症(以下MS;multiple sclerosis)は不可逆的に進行する疾患である.したがって疾患によって生じる種々の障害も長期的に見れば不可逆的に進行する.他方,障害には疾患から直接生じる一次障害と,合併症や続発症としてみられる二次障害がある.一次障害は疾患と同様に治療困難であるが,二次障害は可逆的であり,予防や治療が可能である.また,MSのように増悪と寛解を繰り返すような疾患では,寛解期に受ける治療によって障害を軽減できるか増悪させるかが大きく違ってしまうこともまれではない.にもかかわらず,医師も理学療法士も,そして患者も上記のような疾患や障害の特性に気付かず,いわば機能的改善を諦めてしまっている場合がある.

 本稿ではMS患者の障害像を明らかにしながら,特に運動療法に焦点を絞って理学療法による治療について述べたい.特に痛みなどの二次障害に着目し,「効果を上げるため」の評価と治療についてまとめた.また,MSに対する評価と治療の基本的部分は,痛みという共通する障害像を持つ他の神経筋難病や脳卒中などにも応用可能である.

脊髄小脳変性症の理学療法

著者: 佐藤隆一

ページ範囲:P.99 - P.108

 難病(特定疾患)とは,原因不明で効果的な治療方法が未確立,生活面の支障があり,症例数が比較的少ないために全国的な規模で研究しなければ対策が進まない疾患のことをいう1).その中の一疾患である脊髄小脳変性症(spinocerebellar dege-neration;SCD)は,運動失調を主症状とする神経変性疾患の総称であり,臨床,病理あるいは遺伝子的に異なるいくつかの病型がある2).臨床的には,小脳性あるいは後索性の運動失調を主症状とするが,他の神経伝導路や神経細胞群の変性も合併し,錐体路徴候,錐体外路徴候,自律神経症状,末梢神経症状など種々の症状を呈する疾患である.現状では,主症状である小脳性運動失調に関しても,その運動パフォーマンスを反映するような評価法が確立されておらず,理学療法の根本的な治療アプローチは定まっていないため,合併する神経症状や予後予測に基づいての機能低下防止を目標としたアプローチが試みられるにとどまっている.よって理学療法アプローチの治療効果を客観的に判定するための,より簡便な評価基準を設けてSCDリハビリテーションプログラムを構築していくことが,重要な課題であると考えられる.そこで本稿ではSCDの概略を述べると共に当院における理学療法の取り組みを紹介する.

SCDの分類と臨床的特徴

 遺伝子診断の発展と共に従来不明だった特徴が明らかにされつつある.以下にSCD病型を孤発性と遺伝性に分けその特徴を紹介する.

全身性エリテマトーデスの理学療法

著者: 堀享一

ページ範囲:P.109 - P.114

病理・疫学・環境因子

 全身性エリテマトーデス(systemic lupus ery-thematosus;SLE)は,細胞核成分に対する抗体産生と多様な臨床症状の発現を特徴とする自己免疫疾患である.SLEの自己免疫機構や症状の多様性・活動性に対する研究も行われているが,詳細は不明な点が残されている1,2)

 SLEは,主に若い女性に好発する疾患で,罹患率は15~40歳が最も高く,その男女比はおよそ1対5または1対10といわれている.小児および高齢者での発症では男女比が1対2と低下することから,発症機序におけるホルモン環境の重要性が示唆されている1)

筋萎縮性側索硬化症の理学療法―偽多発性神経炎型について

著者: 外山治人

ページ範囲:P.115 - P.119

 筋萎縮性側索硬化症(以下 ALS)は上位運動ニューロンと下位運動ニューロンがともに侵され,全身の筋肉の萎縮が出現する変性疾患である.本疾患の臨床病型は初発症状により (1)古典型 (2)進行性球麻痺型 (3)偽多発性神経炎型 (4)ヴェルピアン・ベルンハルト型に分類される1)

 本稿では,筆者が経験した偽多発性神経炎型ALSの特徴と理学療法の進め方について重症度1~5(表)を中心に概説するとともに,症例を提示する.

とびら

ヨガから得た理学療法知識

著者: 大羽明美

ページ範囲:P.79 - P.79

 世の中最近ヨガブームである.そのおかげで,私は長野のある田舎に住んでいるが(田舎でもヨガ教室は開かれている),ふとしたことがきっかけでヨガ教室へ通い始めた.といっても,私たちの教室はジャージにトレーナー,思い思いのカラフルなバスタオルといった光景の同好会である.

 私はヨガを深く語れるほど習得したわけではないし,また理学療法に関してもしかりであるが,ヨガと理学療法はどこかで共通する考え方を持っているように思う.ヨガでは,内在筋と外在筋の存在を意識しバランスをとったり,四肢を動かすために体幹の動きを出したりする.これは,まさに理学療法的考え方である.違いを分けるとすると,理学療法は解剖学・生理学・運動学などの医学的知識から関わり,ヨガは本人が自分自身の体の状況をどう感じとるか(感覚的なもの?)によるところであろうと思う.といっても,これは私が勝手に思うことであるので,ヨガの先生方はきちんと体を勉強しているのかもしれませんが….

紹介

テレビドラマにみられる車いす・障害者像の一考察

著者: 藤田大介

ページ範囲:P.121 - P.125

 介護保険法の施行によって,理学療法士が車いすの適合・選択にかかわる機会が増えてきている.しかし車いすの普及についてみると,多くの福祉施設や病院で用いられているのは画一的な標準型の車いすが多く,体の小さい高齢者も姿勢が崩れている高齢者も,ほぼ同じような車いすに座っている現状がみられる1)

 メディアとはイメージや価値観を作りだし,それによって人々の意識や行動を規制することに大きな影響力を持つものである.テレビなどのメディアを通じてある種の障害者像が繰り返し提示される場合には,人々の障害者に対する価値観に影響し,それが人々に固定化された障害者観として共有されることにつながる.もし,否定的に描かれる障害者や車いす像がメディアにおいて提示されているとすれば,それが人々の間に否定的障害者観・車いす観を構築させてしまう可能性がある.そしてそのことは車いすの適切な普及に関する一つの社会的問題として作用するのではないだろうか.

理学療法の現場から

Malaysia Boleh

著者: 小林義文

ページ範囲:P.126 - P.126

 先日,約20年ぶりにマレー半島を縦断し,CBR(community based rehabilitation)の現場を見て回った.タクシーはマレーシア製で,ETCが完備された高速道路をぶっ飛ばしてくれた.クアラルンプールのJICAに戻ると35階建てビルにはスタバ(スターバックスコーヒー)があり,民族衣装を着た女性が,大きな容器に入ったコーヒーを飲みながら携帯でメールをしている.空港には専用特急列車で向かうが,車内にはいくつも液晶モニターが設置され,英語とマレー語で案内している.私の頭の中にあった20年前のマレーシアは,水牛が寝そべって,腰巻きのおじさんがカブに乗り,空港に行くには,すぐだますタクシーを値切りながら向かったものだった.この国は,“Malaysia Boleh(マレーシアはできる)!”を合い言葉にここまでやってきた.本当に実現したから驚いた.

 さて,話を福井の職場に戻す.私の職場は昭和25年に開設された古い公立病院である.長い歴史の中では,伝染病病棟の設置,交通災害救命救急センター開設や成人病センター併設など,医療制度改革が行われるたびに主な機能を継ぎ足してきた.最近では,平成12年,隣接の精神病院と合併し1,023床の大病院になり,また難病支援センターを開設した.翌13年には回復期リハビリテーション病棟が生まれ,臨界事故を想定した緊急時医療対策施設ができた.当院は古くて汚いが,施設の多さはさしずめディズニーランドのようだ.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

発達障害

著者: 田原弘幸

ページ範囲:P.127 - P.127

 発達(development)の原意は,巻物をほどいて中身をみるということである.発達とは,「①発育して完全な形態に近づくこと.②個体が時間経過に伴ってその身体的・精神的機能を変えていく過程.③成長と学習の2要因を含む」(広辞苑)とある.つまり,形態とその機能が,単純未分化な状態から形態的・機能的に分化し,複雑化し,統合化する過程である.一般に,広義の発達は,身長,体重,臓器などの形態的成熟の過程(成長)と運動,知能,情緒などの機能的成熟の過程(発達)とを含んで使用されている.したがってこのような意味における障害が発達障害であるといえる.

 発達障害という用語は,developmental disability,developmental disorderの日本語訳である.一般に,心身の成長発達の過程で,個人の様々な能力に影響を及ぼすなんらかの歪みや遅れがある状態と理解されている.歴史的に,発達障害という用語は,アメリカ合衆国の「1970年発達障害法(Developmental disabilities Act of 1970)」で初めて公式に使用されている.この中で,発達障害とは,精神遅滞,脳性まひ,てんかん,その他の神経学的異常に起因する障害であり,18歳までに発生し,将来にわたって永続的であることが予想され,そのためにその個人にとって不利益をこうむるものと概念化されている.

学校探検隊

勉強と「さんさ踊り」両立?

著者: 及川龍彦 ,   栃沢あゆみ

ページ範囲:P.128 - P.129

 初めまして,岩手リハビリテーション学院です.いきなり本学院の紹介に入りたいところですが,学会などに行くと冗談を言われます.「へぇ~,岩手って東北の.確か青森県の上ですよね・・・」それは北海道です.岩手県の説明からさせてください.岩手県は青森県の南,ついこの前まで東北新幹線の最北の駅があった(今は青森県八戸市です),日本一面積の大きな県です(面積だけで,人口は少ないですが).本学院は,その岩手県の県庁所在地盛岡市の閑静な(?)住宅街の中にひっそりと(実際は本学院の学生が元気良すぎてひっそりしていませんが)たたずんでいます.入学した学生によく言われます.「建物が住宅街に埋もれていて,受験のとき探すのに苦労しました・・・」.本学院は昭和55年に開学された3年制養成校で,来年度には25期入学生を迎えます.卒業生は理学療法学科518名,作業療法学科415名の合計933名,当初の卒業生は広く全国に散らばっているので,皆様の隣机の先生も本学卒業生かもしれません.学生は概ね明るく元気が取り柄といったところですが,日々挨拶などの礼儀は大切にしています.ところで,本学院は,これまでは理学療法学科定員30名だったのですが,来年度より40名への増員の予定です.現在3階建ての校舎に4階を増築中なのですが,これがなかなか大変です.現在も工事は進行中で,「え~,循・・・」ガガガガ・・・「循環器・・・」ガガガ・・なかなか講義が進みません・・・目下の悩みです.

学院最大行事!

 本学院では,クラブ活動(野球部やサッカー部は大会に参加してます),学院祭(2年に一度ですが,今年は開催年,地方局テレビで宣伝するそうです),体育祭などの他,ときに教員思いつきスポーツ大会などが行われます.が,なんといっても最大の行事は東北六大祭(と,盛岡市民は言っている)の「さんさ踊り」への参加です.「さんさ踊り」は約18,000人,128団体が参加し,踊りながら約1kmをパレードします.本学院は2年前からこの「さんさ踊り」に参加し,在校生はもちろん教職員の全員参加で,参加人数百数十人,卒業生も参加します.実はこの「さんさ踊り」への参加は,昨年の卒業生が試し気分で参加したのをきっかけで盛り上がりました.8月上旬の開催に併せ,5月には練習が行われ,時期が近づくと学業そっちのけで(本当はそんなことないと信じたい)夜遅くまで練習します.まさに学生・教職員とも一丸となっての参加です.その甲斐あってか2年連続で表彰されました.といっても「仮装個人賞」・・・でもこれが良くできてます.昨年は「加トちゃん」,本年度は「ゴレンジャー」,来年度も表彰をねらっています.

先輩からのエール

若い人がくれたエール

著者: 荒田征爾

ページ範囲:P.130 - P.130

 かつて私は,学校や実習に来る学生に,礼節,長幼の序,義理人情,約束を守ることの大切さなどについて,繰り返し話した.

 相手は学生なので,正面から批判的な態度をする者はいなかったが,内心は「この年寄りが,いまどき何をブレたことを」としらけていたと思う.

入門講座 スポーツ理学療法 ➋

膝,足関節傷害に対するスポーツ理学療法

著者: 淵岡聡 ,   小柳磨毅

ページ範囲:P.131 - P.141

 膝関節と足関節はスポーツ傷害の発生頻度が高い.ここでは,球技スポーツに多い半月板損傷や内側側副靱帯損傷と足関節捻挫に対する理学療法を中心に述べる.

膝関節の外傷

1.膝関節の外傷について

1)半月板損傷

 半月板損傷は膝関節周囲のスポーツ外傷の中でも頻度が高く,靱帯損傷を伴わない単独損傷例と,靱帯損傷合併例に分類される.単独損傷例では膝を大きく捻るなどの外傷歴がある場合と,明らかな外傷の既往なく症状が出現する場合がある1).靱帯損傷合併例では靱帯に対する治療に負うところが大きいため2),ここでは単独損傷例の保存療法について述べる.

 半月板損傷で保存療法が選択されるのは,半月縫合術の適応がない場合にほぼ限定される.この場合でも,運動時痛や膝くずれ現象,可動域制限,腫脹,嵌頓などの症状が数か月持続すれば切除術が行われることが多い.過去には半月板の自然治癒はほとんど期待できないとされていたが,近年では外縁部に毛細血管による血流が確認され,わずかながら同部の自然治癒能力が期待されている.

講座 患者(家族)対応・2

医療現場における対応

著者: 渡辺京子

ページ範囲:P.142 - P.149

 1966年にわが国の医療福祉分野に理学療法士(以下PT)・作業療法士(以下OT)が誕生して以来,その需要に比して供給が不足していたため必要以上にPT,OTは甘やかされてきた.しかし,最近の社会の動きや変化により医療環境は厳しさを増し,PT・OTにとっても患者サービスのあり方が問われる時代となり,意識の変化が求められている.

 2001年,厚生労働省が推進している21世紀の医療提供の姿として,少子化高齢社会に対応した医療制度の実現に向けた医療領域の施策,「医療制度改革試案」が提示された.その理念は,「患者の選択の尊重と情報提供」について,「患者においても適切な情報提供と選択のための様々な援助を得て,自らの健康保持のための努力を行い,自覚と責任を持って医療に参加するようになる」とされ,「患者の医療に対する参加」を重要な目標として以下のように述べている1)

文献抄録

人の歩行における重複歩の変動性:歩調と重複歩距離の影響

著者: 岡田誠

ページ範囲:P.150 - P.150

 この研究の目的は,人の歩行で見られる重複歩の変動性に歩調と重複歩距離がどのような役割を果たすのかを調べることにある.8名の健常者に対して,トレッドミル上を決められた歩調,重複歩距離で歩行するように指示し,そのときの重複歩時間・距離因子の変動性について検討した.被験者には,歩調を0.08,0.89,1.00,1.14,1.26Hzの5パターン,重複歩距離を0.95,1.05,1.20,1.35,1.50mの5パターンを指定し,それぞれを組み合わせた計25施行で歩行を行わせた.なお,被験者の歩調についてはメトロノームで,重複歩距離については前方のモニターでフィードバックをしながらできるだけ指定の歩調,速度で歩行を行うようにさせた.重複歩の変動性を示す方法として,標準偏差(SD)と変動係数(CV)を使用した.また,追加検討として歩行速度を指定(0.75,0.90,1.15,1.45,1.75m/s)したときの歩調と重複歩距離の関係について検討した.

 距離因子の変動では,重複歩距離が増加するにつれて変動係数の低下がみられ変動性の減少を示した.また,歩調では1Hzで歩行したときが最も変動が小さい結果となり,最も変動性の低い歩行が得られた.一方,時間因子の変動では,重複歩距離は1.35m,1.50mのときが他の重複歩距離よりも変動が小さかった.歩調においては1Hzで歩行したときが最も変動が小さい結果となった.

脳卒中後の筋痙縮患者におけるAshworthスケールとα運動ニューロンの興奮性との関係

著者: 瀧昌也

ページ範囲:P.150 - P.150

Modified Ashworth Scale(MAS)は,研究や臨床場面において,筋痙縮の評価として最も広く使用されているが,その評価には限界がある.上位運動ニューロン病変患者の筋緊張亢進は,痙縮やthixotropy,筋粘弾性の変化などから生じる.しかし,MASは筋緊張亢進のこれらの構成要素を区別することはできない.また,MASは他動的なストレッチによる抵抗感と認められた角度からなり検査者の主観的な印象に依存する.本研究の目的は,MASが客観的な神経生理学的試験(H反射)と相互関係が存在するかどうかを証明することである.対象は,初回発症,少なくとも6か月経過した成人片麻痺患者であった.他動的な筋ストレッチの抵抗は背臥位にて麻痺側足関節を評価した.すべての検査は1人の検査者によって行われた.H反射はHmax:Mmax比,H反射潜時で評価された.25名の片麻痺患者の内,MASスコア1が14名(Aグループ),スコア2が10名(Bグループ)であった.1名がスコア3であったため除外とした.発症後期間は,Aグループ17.2か月,Bグループ10.2か月であった.H反射潜時平均値は,Aグループ平均33.2ms,Bグループ平均34.5msであり,グループ間には有意な差は認められなかった.Hmax:Mmax比は,Aグループ平均0.55,Bグループ平均0.58であり,グループ間において有意な差は認められなかった.Hmax:Mmax比は,両グループ間には有意差が認められず,スコア1よりスコア2グループ患者のほうが高い値を示した.Hmax:Mmax比とMASの間にはわずかな相互関係を示した.このわずかな相互関係は,MAS自体の問題に起因するかもしれない.それは,このスケールは他動的な筋ストレッチの抵抗で評価されるため,検査者の主観的な判断に依存するからである.

変形性膝関節症患者におけるダイナミック運動と等尺性収縮運動の疼痛と身体機能への影響について

著者: 国中優治

ページ範囲:P.151 - P.151

 本研究の目的は,抵抗運動を施行した群と対照群(運動無)で膝関節痛と身体運動機能面に異なる影響がみられるか否かである.ランダム化された102人の変形性膝関節症(以下,膝OA)を,等尺性収縮群32人,ダイナミック群(求心性収縮)35人,対照群(運動介入なし)35人に分類し,評価として,アンケート記入,WOMACスケール,27段の階段昇降動作と床からの立ちしゃがみ動作の一連の時間を計測した.また,動作中の疼痛評価はvisual analog scaleを用いた.条件設定のため,下肢の運動介入を既に行っている者は除外した.

 実験は,運動法をまとめた小冊子を対象者に配布し,その内容に従った運動を週3回×16週間行わせた.週3回のうち2回は自宅,1回はスタッフのいるトレーニング施設で行った.また機器の負荷では膝OA患者にとって過負荷であること,施設に行けない日でも自宅で行えることから,アイテムはセラバンドを用いた.なお6つの筋を対象とした.ダイナミック群に対してそれぞれの筋に2週目までは8回×1セットを行い,徐々に回数・セット数を増加させ,9~16週には12回×3セットを行った.等尺性収縮群に対しては,3~5秒間抵抗を保持させる方法で,運動頻度のプロトコールはダイナミック群と同様とした.結果は,等尺性収縮群で4つの機能性作業の実行時間が減少し,ダイナミック群では階段昇降時間が減少した.両方の群で膝疼痛が減少した.対照群は変化がなかった.等尺性収縮群の効果が高かった理由として,ダイナミック群は等尺性収縮群に比べエクササイズ後の疲労が大きかったこと,また効果判定に用いた評価用の運動種類が少なかったことも考えられる.さらに階段昇降の動作における関節角度が,等尺性収縮時の設定角度に近い角度となるため等尺性収縮群のほうがより効果があったと思われる.本研究での新たな発見として,今回の運動介入によって鎮痛目的の投薬消費量が減少した.

多胎児と早産の新生時脳損傷児の比較による,6歳時での知覚-運動障害の予測

著者: 浪本正晴

ページ範囲:P.151 - P.151

本研究は,多胎児と単胎児における新生児の状況と6歳時の発達状況を比べることで,多胎児の仮説を検証することを目的としている.

 対象は,妊娠29~32週で出生した169名(単胎児124名,双生児30名,三胎,四胎児15名)の子どもであった.

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編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.154 - P.154

 現在,2004年1月7日,午後10時を少し回ったところです.今夜は七草粥をいただきました.暮れから正月にかけて暴飲暴食をした人たちにとって,意味のある食生活の知恵だと思います.ところで,今朝の札幌はこの冬一番の冷え込みで,-10度まで下がりました.しかし,全般的に今冬は暖冬のようで,街にはほとんど雪がありません.ホワイトイルミネーションも少々寂しい感じがします.そのような中,2月5日から始まる雪祭りの雪運びがいよいよ始まりましたが,雪集めに苦労されることでしょう.スキー場も滑走できる程度の雪はありますが,所々でブッシュが見え隠れしていると聞きます.やはり,季節にはその季節にふさわしい役者がそろわないと,祭りは始まりません.と,書きつつ窓の外に目をやりますと,にわかに雪が降ってきました.遅れていた役者が到着したのでしょうか.

 さて,本号の特集では「難病の理学療法」を取り上げました.それぞれの疾病についての解明が十分なされておらず,その理学療法評価やアプローチも消極的な立場をとることが多いようです.また,疾病の進行あるいは加齢に伴い様々な問題を引き起こしてくることから,地域や全国の連携・支援システムが必須ですが,周知されてはいません.まず,高橋伸佳氏には神経難病の診断と治療に関する近年の進歩と課題について解説いただき,さらにそれらの支援事業について紹介していただきました.中林健一氏は機能的改善を諦めてしまいがちな多発性硬化症の特に痛みを中心とした二次障害に着目しながら,効果を上げるための理学療法評価と治療について言及しています.佐藤隆一氏には脊髄小脳変性症に対するチームアプローチを具体的に示していただきました.再発と寛解を繰り返しながら多臓器にわたる障害をもつ全身性エリテマトーデスの理学療法を堀享一氏に,筋萎縮性側索硬化症の中では比較的稀な偽多発性神経炎型の解説と理学療法の進め方について外山治人氏にお願いしました.正に難解な疾病と障害だけに,それぞれの論述に相当のボリュームを割いていただきましたが,これまでの難病に関する特集とはひと味違った内容になったと満足しています.入門講座「スポーツ理学療法」と講座「患者(家族)対応」はともに第2回目になります.淵岡聡氏には入門講座にふさわしく,たくさんの写真を使用して丁寧に解説していただいています.講座では理学療法現場を管理監督している渡辺京子先生のお姿が見えるような内容でした.ありがとうございました.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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