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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル38巻4号

2004年04月発行

雑誌目次

特集 脳血管障害による摂食・嚥下障害の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.245 - P.245

 言語聴覚士の誕生に伴って,脳血管障害による摂食・嚥下障害に対するアプローチが盛んに行われるようになってきた.チームアプローチとして,理学療法士も積極的にかかわる必要がある.そこでまず摂食・嚥下障害に伴う肺炎の発生機序について解説した.理学療法領域では改めて摂食・嚥下の運動機能に注目し,その評価と理学療法の進め方を示した.また,人工呼吸管理下とその後の摂食・嚥下障害を整理し,具体的アプローチを紹介した.理学療法士としての専門的知識・技術を超えたチーム共通の正しい知識と技術の習得が求められている.

摂食・嚥下のメカニズムとその障害

著者: 関沢清久

ページ範囲:P.247 - P.249

 従来,飲み込むという動作は口腔期,咽頭期,食道期の3期に区分される.多くの原因で飲み込みの障害が起こるが,いずれも肺炎の発症につながる(表).なかでも,脳血管障害が嚥下障害の原因頻度として最も高く,脳血管障害患者では急性期,慢性期のいずれにも嚥下障害が高率に起こり,肺炎発症の最大原因となる.しかし,脳血管障害患者の肺炎発症は,嚥下障害を中心にいくつかの要因が絡み合って生じると考えられるため,本稿では複数の要因を含めて脳血管障害患者に生じる肺炎発症の機序について述べる.また,飲み込むという動作は3期に区分されるが,脳血管障害にみられる嚥下障害では咽頭期の障害が最も重要と考えられているゆえ,咽頭期嚥下障害の発症機序とその対策について述べる.

脳血管障害に伴う肺炎の発症機序

1.口腔―咽頭部および胃内細菌叢

 脳血管障害の大半は高齢者に起こるが,高齢者肺炎発症の第一段階として,口腔―咽頭部および胃内細菌叢の変化が重要である.健常人の口腔内には通常嫌気性菌が存在し,病原性細菌の繁殖を抑制している.しかし,加齢に伴う唾液分泌量の低下,ADLの低下,意識障害,心不全,肝不全,慢性閉塞性肺疾患,糖尿病などの基礎疾患の存在,喫煙,飲酒過多,抗生剤服用などにより,口腔内細菌叢がグラム陰性桿菌など抗生剤抵抗性の細菌種に変化する.同様に,制酸剤,H2 ブロッカー,経管栄養などによる胃液のpHの上昇や抗生剤の使用により胃内嫌気性菌細菌叢が失われ,グラム陰性桿菌が繁殖する.以上述べた事項は高齢者ほど起こりやすく,結果として体内に病原性細菌が準備される.

脳血管障害患者の口腔ケア

著者: 大池聡美 ,   中島由美 ,   橋本康子 ,   小野高裕

ページ範囲:P.251 - P.258

 口腔ケアは,「“口からおいしく食べること”を援助すること」1)や「口腔の疾病予防,健康の保持増進,リハビリテーションによりQOLの向上を目指した科学であり技術である」2)といった極めて広い概念をもって語られることが多い.その背景には,口腔ケアが訪問歯科診療や介護の現場といったスタッフや器材が制約された状況の中で取り組まれてきた経緯があると思われる.

 近年,生命管理とQOLの維持・回復における口腔ケアの意義が広く認識され,医療・福祉施設において様々な取り組みがなされている.しかし,口腔ケアの対象者の身体状況や施設の環境は様々であり,個々の症例に応じてしかも効率的なケアを行うためのシステムはまだ確立しているとはいえない.

脳血管障害による摂食・嚥下障害の評価と理学療法

著者: 吉田剛 ,   内山靖

ページ範囲:P.259 - P.268

 脳血管障害(cerebral vascular disease;CVD)の理学療法は,発症後早期から積極的に取り組まれており,ベッド上で意識障害があり,唾液誤嚥して誤嚥性肺炎を引き起こしている場合には,呼吸理学療法がよく行われている.しかし,嚥下反射と呼ばれるほど一瞬のパターン化された嚥下運動自体には,介入が困難なためあまり取り組まれていない.筆者はこれまで,嚥下運動を阻害する二次的因子の存在に注目し,評価指標の開発とそれに基づいた介入による治療効果について報告してきた1~3)

 本稿では,この立場からCVDによる摂食・嚥下障害に対する評価と理学療法の実際を再考する.

人工呼吸管理後の嚥下障害と理学療法

著者: 朝井政治 ,   神津玲 ,   俵祐一 ,   佐々木綾子

ページ範囲:P.269 - P.276

 脳血管障害を発症した症例で,嚥下障害を呈する割合は高率であるといわれている.特に急性期では,その約30~40%に認められ,そのうち慢性期まで残存するものは10%以下と報告されている1).また脳卒中の有無にかかわらず,長期の人工呼吸管理を受けた症例においても,30%以上もの高い嚥下障害の発生率を認めたとする報告もある2)

 本稿では,人工呼吸管理(以下,呼吸管理)が嚥下機能に及ぼす影響について解説するとともに,呼吸管理に起因した嚥下障害例に対する理学療法の介入について考察してみたい.

脳血管障害による重度摂食・嚥下障害に対するチームアプローチ

著者: 奥山夕子 ,   岡田澄子 ,   園田茂 ,   才藤栄一

ページ範囲:P.277 - P.286

重度摂食・嚥下障害のアプローチ

1.チームアプローチ

 摂食・嚥下障害の誤嚥や窒息といった深刻な問題の中心には,咽頭期の障害がある.しかし,脳血管障害の場合,咽頭期が単独で障害されることはほとんどなく,先行期,準備期,口腔期,食道期の各期が様々な程度で障害される1).また,摂食・嚥下障害だけが問題になることは稀であり,四肢・体幹の麻痺や高次脳機能障害などの他の障害と合併していることが多い2).特に,重度な摂食・嚥下障害者では,長期臥床や活動性低下による廃用,繰り返す肺炎による全身状態の悪化,呼吸機能の低下などが,摂食・嚥下障害に伴って,あるいは二次的問題として多彩な問題を生み出している.

 このように摂食・嚥下障害は全身の問題として捉える必要があり,そのリハビリテーション(以下,リハ)は摂食・嚥下関連器官への働きかけに加え全身的な管理やアプローチも重要である.したがって,多職種の医療専門家からなるアプローチが不可欠である.チームの構成員には,医師,歯科医師,歯科衛生士,看護師,言語聴覚士,作業療法士,理学療法士,栄養士,薬剤師,医療ソーシャルワーカー,臨床心理士といった様々な職種が存在する3).しかし,各施設により構成メンバーは当然異なり,それに伴いそれぞれの役割およびチームの役割は変わってくる.そこで,摂食・嚥下障害に対するアプローチに望ましいチーム形態と役割を考えてみる.

とびら

Language shapes thought!

著者: 加藤浩

ページ範囲:P.243 - P.243

 家の近くにある川沿いの土手が菜の花で黄一色に染まった昨年の3月,私は仕事の都合で住み慣れた福岡の町を離れ,岡山へ引っ越しました.岡山には,学生時代(今から12年前)に“理学療法士”という共通の夢に向かって勉学を共にした友人が働いており,この巡り合わせになにか不思議な縁を感じました.その友人とは年に1度全国学会のときに会い,その夜はいつも焼酎(私はビール)を飲みながら語り合うのが恒例で,友人は心に残る話をしてくれます.ここではその中から一つ話を紹介したいと思います.

 皆さん,「彼は脳性まひです」という日本文を英訳してみてください.“He is a cerebral palsy.”と答えられる方がほとんどだと思います.たしかに文法に誤りはありません.しかし欧米では,少なくとも理学療法士を含む医療に従事している人たちは,絶対にそのような英語を使うことはありません.それでは彼らはどう語るのでしょうか? 彼らは“He has cerebral palsy.”と語るのです.すなわち“is”は「彼=障害」を意味し,“has”は「彼=障害を持っている人」を意味するのです.もう一つ別の例を示しましょう.ニュースなどでアナウンサーが時々「障害者の方々が....」というような表現をしているのを耳にします.しかし,よく考えてみると,障害者の「者」は“人”を表す言葉で,その後の「方々」という言葉もまた“人”を表します.つまり,同じ意味の言葉が繰り返し使われているのです.これを正しく表現するならば「障害を持つ方々が...」といった表現などになるでしょう.このことは「障害者」の「者」という文字が“人”を表しているという認識が希薄であることを示しているのではないでしょうか.つまり日本では「障害者」と「障害」がほとんど同義語として使われているのではないかと感じられるのです.

ひろば

学生からみたスポーツ理学療法の魅力―フィジオアシスタントとして車いすテニス大会に参加して

著者: 大下絵里子

ページ範囲:P.287 - P.287

 「国際交流車いすテニス大会,Peace Cup in Hiroshima」(以下Peace Cup)はNECが主催するWheelchair Tennis Tourの1つで,毎年広島で開催されています.1990年に第1回が開催され,今年(2003年)で14回目を迎えます.Peace Cupへの理学療法士のかかわりは,1996年の大会で4名の理学療法士がボランティア活動したのが始まりとのことです.その後も非公式で広島県の理学療法士がフィジオ・サービス(大会期間中,理学療法士がボランティアで選手の怪我の対応,コンディショニングを行うこと)を行ってきましたが,今年からPeace Cup大会実行委員会選手部のフィジオ・サービス部門に入り,正式に広島県理学療法士会の事業になったとのことです.今年度は31名の理学療法士がフィジオ・サービスの運営にあたり,74名の選手がフィジオ・サービスを利用し,総利用件数はのべ217件でした.

 2003 Peace Cupは10月15日より5日間にわたって開催されました.大会2日目に大学の授業の一環としてフィジオ・ルームを見学しました.見学当日は34名(内5名は外国人選手)の選手がフィジオ・ルームを利用し,のべ利用件数は46件でした.フィジオ・ルームは,大会運営側が設置し,使われる備品などは広島県理学療法士会が準備します.消耗品などの必要経費は大会運営側が負担します.

新人理学療法士へのメッセージ

三振は新人の特権

著者: 藤村昌彦

ページ範囲:P.288 - P.289

 この春,理学療法士になられた皆様,国家試験合格おめでとうございます.このたび「新人理学療法へのメッセージ」の原稿を書く機会をいただきました.

 この原稿を書いているのは2003年の年末です.職場の近所のコンビニには来年の手帳が並んでいます.手にとってみると,真っ白なページが新鮮です.私が10数年前に卒業して,最初の病院に初出勤した朝,この手帳のように新鮮な気持ちだったことが懐かしく思われます.私が新人時代の頃は理学療法士が少なくて,私が赴任した病院の町には理学療法士がひとりもいませんでした.そのことから,町長室に呼ばれて,町長から歓迎され激励を受けたことを今でも覚えています.

理学療法の現場から

知的障害者に対する理学療法

著者: 比留間邦子

ページ範囲:P.290 - P.290

1.知的障害者に理学療法?

 知的障害者更正施設に勤務するまで,知的障害者に対するイメージは,「数を数えられない」,「漢字が読めない」など,いわゆる知的な面の障害としかとらえることができていませんでした.ところがかかわりはじめると,明確な肢体不自由を示す者,微細脳症候群やsoft neurological signととらえられる者が大勢いました.運動障害というより,単に運動パフォーマンスの問題と思われる者もいました.さらに,身体のアライメント,変形性関節症,骨折,などの骨・関節系の問題も多く,抗重力筋を使わない姿勢や歩容,作業姿勢の悪さなども目に付き,理学療法が関与するべきことが多方面にわたってあることが徐々にわかってきました.

 当施設は中軽度の知的障害施設で,3歳から18歳までの児童養護施設と成人更正施設が併設されており,したがって,幼児期から高齢期まで,また,発達から痴呆までと守備範囲はとても広範です.現在,最高齢者は76歳,成人施設の平均年齢は50歳です.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

近赤外線分光法(光トポグラフィー)

著者: 沼田憲治

ページ範囲:P.291 - P.291

 ヒトの脳神経活動を画像化する装置には陽電子放射断層撮影法(PET)や機能的核磁気共鳴画像(fMRI)などがある.近年,新たな脳機能計測による画像化法の1つとして近赤外線分光法(一般的に“光トポグラフィー”が用いられているが,これは日立メディコ社製品の名称である)が実用化されている.近赤外線分光法はヒトの組織に透過可能で,ヘモグロビンに特異的に吸収される波長の遠赤外線を用いることで脳神経活動を画像化する装置である.PETやfMRIでは装置内に被験者を安静にする必要があるのに対し,近赤外線分光法の大きな特徴は,例えばトレッドミル上の歩行時など頭部の動きを許容した運動中の脳活動を計測することが可能なことである.

 近赤外線分光法やPET,fMRIの装置はいずれも脳神経活動に伴う血流の変化,すなわち2次信号(神経細胞の活動に直接由来する電気的な1次信号に対しこれを2次信号という)を計測し画像化するものである.脳の局所領域が賦活すると脳血流量は20~40%増加するとされる.このとき酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの割合が変化し,吸光度などの物理的性質が変化することになる.近赤外線分光法では局所ヘモグロビンの濃度変化を連続的に計測し画像化するものである.したがって観察する信号自体の起源は還元ヘモグロビンをターゲット(BOLD現象)としたfMRIの原理と近似したものであるといえる.

学校探検隊

神戸発,創造性あふれる人材を育てる

著者: 千知岩伸匡 ,   嶋田智明 ,   浅井剛

ページ範囲:P.292 - P.293

大学の紹介

 神戸大学医学部保健学科は平成6年10月に,医療専門職者を養成する4年制の大学として設置されました.理学療法学,作業療法学,看護学,検査技術学の4専攻からなります.チーム医療やチームケアの中で,リーダーシップを発揮できる幅広い知識と高度な専門技術を身につけたコメディカルスタッフの育成に取り組んでいます.また平成11年に保健学専攻修士課程(博士前期課程),平成13年には博士後期課程が設置され,高度専門職業人や教育・研究者育成の体制も整いました.

 平成16年度からの国立大学法人化を目前に,これまでの国立大学では行えなかったような斬新かつ社会のニーズに応えられる教育・研究体制に変化している真最中です.

先輩からのエール

第一世代からのメッセージ

著者: 三浦時男

ページ範囲:P.294 - P.294

 理学療法士(以下PT)になって35年あまり,今も身体障害者更生施設でリハビリテーション(以下,リハ)に励む利用者の一助として,自らも励んでいる者です.就職難でリストラ云々の昨今,定年後も現役で仕事ができるのは,丈夫なからだとPTという資格があればこそと感謝しています.

 PTになった当時を思い出すと,特例受験者の自分は,県内の仲間たちと,講習会や勉強会に一生懸命でした.土曜日は,仕事が終わってから夜遅くまで,日曜日は朝から夕方まで,休日はほとんど県内あちこち移動しての学習でした.

入門講座 運動療法の基本 ➊

関節可動域運動の基本

著者: 田中聡 ,   高橋謙一

ページ範囲:P.295 - P.304

 理学療法士(以下PT)は,日々臨床の中で関節可動域運動(range of motion exercise;ROM exercise)に多くの時間を費やしている.その対象疾患も骨関節疾患,中枢性神経疾患,神経・筋疾患など多岐にわたり,また治療場所は急性期のベッドサイドから理学療法室,さらには訪問リハビリテーションなど在宅にまで及んでいる.しかし,その頻度の多さから,当たり前の治療のようになり,関節可動域制限に対する評価や治療を漠然と慣習的に行ってはいないだろうか.PTとして関節運動の基礎を学習し,疾患別あるいは症状別に関節可動域制限を理解して関節可動域運動を実施することは重要であり,近年提唱されている科学的根拠に基づいた理学療法につながるものと思われる.

 本稿では,新人PTを対象として関節可動域運動に関する基本的知識の整理と,その治療に関する基本的手技ならびにわれわれが工夫している点などを紹介する.

講座 患者(家族)対応・4

学校における患者対応教育

著者: 二宮省悟 ,   永﨑孝之 ,   鹿毛治子

ページ範囲:P.306 - P.314

 現代の医療では,医療行為だけでなく患者への対応も重要な課題として取り上げられるようになってきた.インターネットにて「患者対応」をキーワードに検索を行うと,約3,000件ヒットする.その内容は,時代の流れを受け,現在では特に「接遇」などが重要視され,言葉遣い,患者の立場に立った態度,さらにはわかりやすい説明やインフォームドコンセントなど「患者満足」に関する内容が目立つ.理学療法士に限らず,医師,看護師などの医療職にとってはその数のぶんだけ関心が高いことを示している.それを反映し,教育へのニーズも増しており質の高い患者対応教育が求められている.

 そこで,国立療養所福岡東病院附属リハビリテーション学院(以下,当学院)で現在実施している患者対応教育のうち,有用性が高く臨床での職員教育(医師・看護師など)でも取り入れられている模擬患者(simulated patient;SP)による授業について紹介する.

特別寄稿

クライアントの「生きがい・幸せ」をいかに支援するか―理学療法士の社会的責務

著者: 半田一登

ページ範囲:P.315 - P.321

 リハビリテーション(以下,リハビリ)の目標あるいは理念として「全人間的復権」という言葉が使われてきた.この言葉には哲学的な響きや宇宙的な意味合いが強く,そのため臨床現場では具体的な目標にならない状態が続いている.「全人間的」という言葉は人間を評価する方法のひとつであるが実際に全人間的な評価が行われている事実を私は知らない.家庭教育にしても学校教育にしても社会にしても全人間的評価は存在しない.あえて全人間的ということを前面に出すのであれば,それは治療の目的というよりは社会改善運動と言って良いのではないだろうか.リハビリ医療は現実の中で具体的な目標を目指す治療のはずであり理学療法然りである.また,「復権」という言葉の意味は一度なんらかの理由でなくした権利を再び得ることである.それでは身体に障害を得たことによって何の権利をなくしたのであろうか.身体の自由をなくしたことによって決して権利の制約を受けるものではないことこそが理念として大切なのである.このように考えてみると「全人間的復権」という言葉は観念的な場では通用しやすいものであるが日常的な臨床現場では非常に不都合である.それらの結果,リハビリ医療の方向性が不透明になり質的低下の一因になっている.

 昭和40年に「理学療法士および作業療法士法」が公布されて以来40年近くが過ぎ去った.その間に理学療法士は3万人をはるかに超え,高齢者は巷にあふれ,疾病構造は大きく変化し,不景気で国民の不安感は募るばかりである.クライアントの身体だけではなく心理的にも社会的にも対応する医療がリハビリであるならば時代の変遷の中でリハビリの目標も時代と共に変わることが必要である.そこで,今回はリハビリの新しい目標として「生きがい・幸せ」を掲げることの意味と,それに伴ってクライアントにいかなる理学療法を提供することによって「生きがい・幸せ」に結びつけることができるかを具体的に記述する.

あんてな

離島における地域リハビリテーション活動

著者: 井川吉徳

ページ範囲:P.322 - P.325

長崎県・対馬

 対馬島は九州北部玄界灘に浮かぶ,南北82km・東西18kmの細長い島です.北は朝鮮海峡を隔てて朝鮮半島に対し,南は対馬海峡を隔てて壱岐島,九州本土に面しており,福岡まで147km,韓国(釜山)までは49.5kmの近さにあります.晴れた日には釜山の山並みを眺望することができ,「国境の島・対馬」を実感します.対馬島の面積は708.5km2で,全国の離島の中では,佐渡,奄美大島に次いで全国で3番目に大きい離島です.また,対馬は現在6つの町から構成されており,全島人口は年々減少傾向で40,948人,高齢化率は24.4%となっています(平成15年4月1日現在).最も高齢化が進む町では高齢化率は30%を越え,また世帯数は微増しており,人口の高齢化と過疎化,そして核家族化の進行がうかがえます.

 対馬島は,全体の89%を山林が占め,標高200~300mの山々が海岸まで迫る地形で,海岸沿いの平地部分に多くの集落が点在します(写真1).また,公共の交通手段は路線バスですが,便数が少なく,マイカーを持たない島民は不便を強いられることが多いです.この独特の地形と交通事情は,地域リハ活動を展開するうえでも大きなハンディとなっています.通院が困難な方にとっては,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)は,ニーズの高い在宅支援サービスです.

学術大会の地とことん紹介

仙台にございん~「杜の都」仙台のご紹介

著者: 内出貴博 ,   山本幸子 ,   竹沢実

ページ範囲:P.326 - P.329

 開催地である仙台は「杜の都」といわれるとおり街路にはけやきなどの緑が広がり,清流広瀬川が流れるなど四季折々の自然が豊かな東北最大の都市です.そして東北唯一の政令指定都市として東北の中枢を担う近代的な大都市の姿を有しながら,市内および近郊には伊達政宗公に由来する歴史遺産も数多くあり,観光の拠点となっています.2002年にはFIFAワールドカップの開催地,「アズーリ」イタリア代表のキャンプ地として国際的にも注目されました.

 第39回日本理学療法学術大会「病気・障害,そして健康・・・理学療法学の近未来に向けて」は平成16年5月27日~29日の日程で仙台国際センターをメイン会場として開催されます.今大会のテーマは国際障害分類の改訂(ICF:国際生活機能分類)の背景にある病気・障害・健康というキーワードに対して,理学療法学をどのように実証し理論を構築していくのかを問題提起したいと考え設定されました.そして,今学術大会では専門領域研究会が指定した研究のみを分科会形式で口述発表とし,一般演題をすべてポスター発表にしています.この分科会の内容をまとめるパネルディスカッション,特別講演,シンポジウムなどを含め最終的に大会長が本学術大会の成果のまとめと宣言を行います.

報告

健常者の等尺性膝伸展筋力

著者: 平澤有里 ,   長谷川輝美 ,   松下和彦 ,   山﨑裕司

ページ範囲:P.330 - P.333

 膝伸展筋力は下肢支持性を反映する筋力指標であり,高齢者や片麻痺患者,大腿骨頸部骨折患者の移動能力の重要な規定要因として知られている1~13).よって,本邦における膝伸展筋力の標準値を示すことは,筋力低下の重症度を判断するうえで有益である.

 膝伸展筋力の標準値については,等速性筋力測定装置を使用した数多くのデータが報告されている14~17).しかし,これらの測定装置は極めて高価であり,測定には煩雑な機器操作を必要とする.また,測定機器は重く,携帯して活用することは不可能である.以上の点から,標準値が提供されても,それを現場に広く普及させられないという限界を有している.一方,hand held dynamometer(以下,HHD)は,価格性や簡便性,携帯性などの点で優れ,臨床で活用されている.しかし,被験者の筋力が強い場合や,検者の固定力が弱い場合において,再現性や妥当性に問題があることが指摘されており18~22),標準値を異なる検者間で共有するには問題が多い.われわれはこれらの点を考慮して,HHDに固定用ベルトを装着した等尺性膝伸展筋力測定方法を考案し,その良好な再現性と妥当性を報告してきた18,19,23,24)

文献抄録

人工膝関節全置換術後の筋活動パターンと歩行生体力学

著者: 岡田誠

ページ範囲:P.334 - P.334

 人工膝関節全置換術(以下TKR)を施行した症例では,長期間にわたって正常な機能を維持することはできず,歩行速度の減少,歩行時の膝屈曲制限が生じるとされている.今回は,TKRを施行した症例に対して歩行時の膝関節筋制御や筋骨格システムの生体力学について検討する.

 TKRを施行した9例に対して術後6,12,24か月の追跡調査を行った.なお,同年齢の10名の健常者をコントロール群とした.

脊髄損傷者用調整機能付きプロトタイプARGO

著者: 都築晃

ページ範囲:P.334 - P.334

 Advanced reciprocating gait orthosis(ARGO)は脊髄損傷(SCI)者の歩行用装具として最も多く使用されている.この装具は両股関節を結ぶケーブルの働きにより股関節屈曲・伸展を交互に行い,立位安定性確保と擬似的交互歩行を可能にする.脊髄損傷者は立位・歩行を行うことにより心肺機能,泌尿器,腸,骨密度,痙性の改善効果が示唆されている.しかしこれらの利点があるにもかかわらず,非使用者も多い.そこで,ARGO拒否の割合を低下させる目的で,調整可能な部品で作られたプロトタイプARGOを作製し評価した.

方法

 標準ARGOに足長,生理的股関節軸までの高さ,左右股関節間距離を調整可能にした.既に標準ARGO使用経験のある7人の患者によって,開発した調整可能なプロトタイプARGOをvisual analogue scaleを用いて評価し,結果はt-検定によって標準ARGOと比較された.また,歩行状態はビデオ録画とWISCI得点によって評価され,1日1時間,計15日間練習し,練習期間の最後に評価を行った.

腱板の小・中断裂に対する肩峰下除圧術の治療成績

著者: 高濱照

ページ範囲:P.335 - P.335

 目的:肩峰下除圧術のみを行った慢性の腱板小・中断裂(断裂部直径5cm未満)の患者に対して,①手術成績の評価,②不良成績と関連した因子の考察,③断裂部位の進行程度の調査,を目的として追跡調査を行った.

 対象と方法:対象は1996年から1999年の間で腱板小,中断裂に対して肩峰下除圧術を施行した患者114名,118肩であった.

脳卒中患者の足関節のこわばり感やトルクリラクゼーション,および歩行に対する持続的な静的伸張とサイクリック伸張の効果

著者: 中島喜代彦

ページ範囲:P.335 - P.335

 背景と目的:伸張法(サイクリック伸張は四肢に適用されている)は整形外科学的機能障害の治療の一環として用いられているが,脳卒中のような神経学的障害の治療技術としてはその適用を考慮してこなかった.

 本研究の目的は,虚血性の脳卒中患者の,足関節のこわばり感やトルクリラクゼーション,および歩行に対するふくらはぎへの持続的な静的伸張やサイクリック伸張の短期的効果を調べることにあった.

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編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.342 - P.342

 4月.春満開.やはり心はスプリング.バネのように飛び跳ねたくなります.新人の方々や転勤された方にとっては期待と不安が交錯していることと思いますが,藤村氏のメッセージによれば三振は新人の特権とのこと.そこから学んで,大きく飛躍されますよう,編集委員一同,心から期待しています.

 実はこの編集後記をお雛様の節句の夜に書いています.場所は中国黒竜江省佳木斯(ジャムスJiamusi)市のホテルです.外は-24度.昼間の最高気温でも-10度.市内を流れる松花江(しょうかこう)は凍りついて,その上を自動車が往来しています.「春は名のみの・・・」などという歌はとんでもない,間違っても出てきません.黒竜江省と北海道との交流事業として,佳木斯大学の理学療法教育の支援に来ました.中国の学生たちは日本の学生たちと違って,積極的に自己主張します.特に女性は主張することが美徳なのだそうで,彼女たちの姿勢に好感を持ちました.満足に理学療法室も器具もない.しかし,学ぼうとする心は彼らの身体から満ちあふれていて,圧倒されるものがあります.彼らから得た大きな収穫です.わからないことはひとつひとつ丁寧に咀嚼し,理解し,飲み込み,エネルギーとして蓄えようとします.彼らはこれからの中国のよきリーダーとして活躍してくれることでしょう.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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