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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル38巻5号

2004年05月発行

雑誌目次

特集 理学療法モデル

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.345 - P.345

 効果的な理学療法を実践するためには,その基盤となる理論や構造および思考過程を示したモデルの提示が必要である.

 本特集では,理学療法モデルの意味を概観した後に,医学生物学的な側面のみならず社会学的な諸点を考慮したモデル作成の重要性について示した.また,科学的根拠に基づいた理学療法の実践と,帰納的な検証による帰結決定要因からみた理学療法モデルについて解説した.さらに,運動器疾患領域における理学療法実践モデルを提示し,理学療法教育モデルの実践と変遷についても言及した.

「理学療法モデル」の意味

著者: 内山靖

ページ範囲:P.347 - P.349

 「理学療法」とは?

 この疑問に正確に答えるためには,理学療法の定義をはじめ,その対象範囲,方法,効果などに関する概念と実績を示す必要がある.また,理学療法と近接領域との相違を提示して,理学療法の固有性を明確に表現することも重要である.

 ある一つの概念を提示するには,統一性のある体系化が必要であり,理論(theories),モデル(models),参照枠組み(frames of reference)が相互補完的に利用される1).実績は,根拠のある客観的指標によって視覚化されていることを前提として,大数のみならず個別の適用基準と帰結が明示されていることが望まれる.

理学療法モデルの構築にあたって

著者: 日下隆一

ページ範囲:P.351 - P.357

 理学療法は,これまで医療機関における疾病や障害をその対象にしてきたため,医療における治療モデルとしての側面が主体であったが,医学の発達,疾病構造の変化,社会構造の変化,疾病・障害・健康に対する意識の向上などといった諸要因が相互に関連する昨今にあっては,QOLの概念を基底としてすべてのライフステージとライフスタイルにかかわる(介入する)理学療法モデルが求められている.個人によっては,人生という時間軸,生活社会という空間を規定する政治・経済・文化・環境といった諸要因もさることながら「価値意識」1)や「生活文化」2)までも視野に入れた理学療法モデルが必要とされているのである.したがって,現実的には「地域」,「ヘルスプロモーション」,「(介護)予防」,「エンパワーメント」,「行動医学」3),「障害学」4),「NBM(narrative based medicine)」5),「保健・医療システムの再構築」,「環境」などをキーワードとしたリハビリテーション(以下,リハ)領域の広がりとともに新たな理学療法モデルの構築が試みられている.

モデルとモデル化

 現在,近代西洋医学(以下,近代医学),リハ領域において対極的な概念で用いられるモデル分類は多様である(表).それは,モデルが複雑な現象・事象を説明するために,特定の視点・側面からみた対象だけを概念的に単純化・簡略化して表現されるからである.したがって,モデルは,「現象を含む様々な変数の中から特定の諸変数だけを選び取り,複雑な現象を単純化して描いたものであるが,当面の関心の焦点である側面だけを選び取り,他の側面を捨象するため,その作り方は選択的であり,現象のどの側面に着目するかによって一通りではない」6)といった特性を有している.このようなモデルを表現形態から分類すると,現象を言語によって記述する言語モデル,現象を図式によって視覚的に説明する図式モデル,現象を数式で説明する数理モデルなどがあるが,理解という点からすれば図式モデルが多用されている.このようなモデル過程をモデル化(modeling)というが,モデル化によって「説明が容易になる」,「理解しやすい」という特色が生じる一方,同一の現象・事象に様々な異なったモデルが生成される可能性や異なった言葉で表現されることは避けられず,また,あまりにもモデルを精錬化すると,完成されたモデルが対象となる現象・事象から乖離する場合もある.

科学的根拠に基づく理学療法モデル

著者: 木村貞治

ページ範囲:P.358 - P.367

 わが国の理学療法における約40年間の歴史は,欧米からの理学療法に関する知識・技術の導入,基礎医学や臨床医学の情報に基づく評価・治療方法の構築,そして,理学療法士自身の経験則の蓄積に基づく評価・治療方法の構築などの過程を経て今日に至っている.

 しかし,現在,医療における臨床的意思決定の根拠は,これまでの経験則中心型のモデルから,質の高い臨床試験の結果に基づく科学的根拠中心型のモデルである「根拠に基づく医療(evidence-based medicine;EBM)」へとパラダイムシフトが行われている.

帰結決定要因からみた理学療法モデルの構築

著者: 清水和彦 ,   小倉彩 ,   小澤敏夫

ページ範囲:P.368 - P.376

 ヒトと実世界とのかかわり,すなわち相互作用の理解は,実世界とヒトとの相互関係を単純化したモデルを介して行われる1).単純化したモデルを通して思考することで,対象物との複雑な関係を記述することが可能となる.なんらかの介入によって対象物との相互関係を変化させようとする際には,単純化したモデルに基づいて介入計画を立て,実行する.さらにその結果(変化したか否か)が評価され,新たな計画立案時の事例(知見)として集約される.この一連の相互作用の過程は情報として蓄積されながら循環し,蓄積された情報はモデルを支える規範へと統合されていく.

 このように単純化されたモデルは演繹的にも帰納的にも思考操作され,実社会の運営を思索する過程を単純化するという利点を持つ.一方でモデルは,科学の進歩や科学的視点の変化,あるいは実社会の変化に伴って変更・修正が求められる.

運動器疾患領域における理学療法実践モデル

著者: 福井勉

ページ範囲:P.377 - P.383

 運動器疾患やスポーツ外傷のうち,理学療法の特長が最も活かせるのは,変性疾患やスポーツ障害ではないだろうか.それは変性疾患やスポーツ障害は,姿勢や動作とのつながりが密接なためである.姿勢や動作に理由を見出だし,同時に姿勢や動作をアウトカムとすることが運動器疾患領域の理学療法に必要とされていることである.

 しかしながら,運動器疾患領域で考えても,わが国に共通言語で比較できるような評価基準は見当たらない.ある治療方法での卓越した方法を学ぶことでモデルを構築したつもりが,他領域では通用しない場合もある.普遍性が立証できないのである.これはなぜその治療方法を選択したのかという完全なる理由を提示できないためである.理学療法実践モデルを提示するうえで障害になるのはそのことのように思う.そのためにもEBPを確立していくことが急務であることは全く正論である.しかしながら,現実的には運動療法を主体とする治療条件を規定することは困難極まりない.さらに他の要因を取り除くために治療方法に個別性を与えないとすると,臨床家にとってその実践がほとんど不可能なことと言えないだろうか.

教育から見た理学療法モデルの意義と実際―「理学療法教育モデル」とその実践の歴史的変遷

著者: 嶋田智明 ,   有馬慶美 ,   武田貴好

ページ範囲:P.384 - P.390

 21世紀を迎え,われわれは理学療法士教育全体の視点からこれまでの教育内容を今一度見直し,科学技術の進歩と要請に合わせて,まずすべての理学療法士が履修すべき必須の学習内容や教授法を吟味・精選する必要性に迫られている.また社会から求められている患者とのコミュニケーション技術や安全性の確保などの学習内容を検討・付加することも急務である.さらに知識を詰め込むことを中心に行われてきたこれまでの教育内容から学生主体の学習方法に積極的に転換することも必要であろう.その意味で教育的側面から理学療法モデル,すなわち「理学療法教育モデル」を再考する意義は大きい.本稿では以上の点を踏まえ,まずわが国における「理学療法教育モデル」とは何かをその教育カリキュラム改訂の歴史的経緯から捉え,次いで理学療法教育理念・目的からみたわが国の「理学療法教育モデル」の実践の歴史を欧米との比較から考察すると共に,最近特に重要視される問題解決能力を育成する「教授実践モデル」の例をいくつか紹介した.また最後にその評価法の一つであるOSCE(objective structured clinical examination;客観的臨床能力試験)ついても言及した.

わが国の「理学療法教育モデル」に求められるものとは何か

 近年の生命科学と科学技術など関連領域の著しい進歩によって医学の知識・技術は量・質共に膨大なものとなり,細分化されると同時に新たな視点に立った学問領域や診療分野も生まれつつある.特にわが国では急速な経済成長と科学技術の発展に伴って社会構造と人口動態は大きく様変わりし,また少子・高齢社会の急速な到来により疾病構造が大きく変化し,その結果,脳卒中や老人性痴呆といった高齢者特有の疾病が急増している.これに伴い,寝たきり老人などの対応が大きな社会的問題となってきている.さらに経済成長は国民の疾病・健康観にも大きな影響を及ぼし,健康の維持・増進はいまや国民一人一人の大きな関心事となっている.さらに国内外では様々な大規模災害が頻発しており,災害対策は社会的重要課題の一つとなり,中でも災害直後から長期にわたる総合医療システムの構築は特に重要であり,その一翼を担う高度な知識・技術を備えた保健医療専門職の育成は急務である.

とびら

生涯教育を見すえた教育とは

著者: 若山佐一

ページ範囲:P.343 - P.343

 この2年間,科学研究費補助金をいただき,限られた施設数ではありますがいくつかの臨床実習の現場を,実習開始の週から終了まで毎週半日ないし一日じっくり観察する機会を得ました.本来の研究目的とは別に,自分自身が経験してきた臨床現場とその職場環境とは異なる臨床現場での,純粋に観察に徹する立場からの体験でした.この十数年,教育現場中心の環境にいた立場からは非常に新鮮であり,また,教育に対する新たな視点を意識する機会にもなりました.その視点とは,卒後教育,生涯教育です.

 卒前教育の段階からの,生涯教育を見すえた教育の必要性については,いまさら何をと自分自身でも思ったりもしますが,実際の卒前教育では,学生は単位を落とさないこと,そして国家試験に合格することが最優先であり,われわれ教員もややもすると目先のことに追われ,将来を見据えた教育的視点を欠くというピットフォールにはまりがちです.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

痴呆

著者: 仙波浩幸

ページ範囲:P.391 - P.391

 痴呆とは,発育過程で獲得した知能,記憶,判断力,理解力,抽象能力,言語,行為能力,認識,見当識,感情,意欲,性格などの諸々の精神機能が,後天的な脳の器質的障害によって障害され,そのことによって独立した日常生活・社会生活や円滑な人間関係を営めなくなった状態をいう.痴呆の多くは非可逆的な脳皮質変性を伴い改善が困難である.

 国際疾病分類(ICD)では,アルツハイマー型痴呆,脳血管性痴呆,その他の痴呆に分類している.また,病変部位により皮質痴呆,皮質下痴呆,症状の特徴により全般性痴呆,まだら痴呆の分類もある.

新人理学療法士へのメッセージ

カオスの中にこそパワーが

著者: 塚本利昭

ページ範囲:P.392 - P.393

 「○○君」,「○○さん」と,つい最近まで呼ばれていた皆さんが念願の理学療法士(以下PT)になり,就職したとたん「○○先生」と呼ばれる気分はいかがですか.ちょっと嬉しくて,かなり恥ずかしくて,すごく責任が重くて,そしてこれからの仕事への希望と意欲を感じている毎日ではないでしょうか.今の気持ちが,とても大切だと思います.私はPTになり今年で20年目に入りますが,いまだに「先生」と呼ばれるのになじめないでいます.それは,患者さんをはじめ,病院スタッフが求めるものに十分応えられていないのと,多くの人たちに支えられてなんとかこの仕事を続けられているという気持ちからだと思います.そんな私が皆さんにメッセージなどあるはずもないのですが,今までに出会った人たちのことや私なりに考えていることを少し書かせていただこうと思います.

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恩師との出会い

 私は3年制の養成校を4年かけて卒業しました.田舎から出てきた私には刺激の強い人たちや誘惑が待ち受け,拒むことなくすべてを受け入れた結果,PTという職業に魅力を感じなくなり,学校へ行かなくなってしまいました.欠席が続き,学校を辞めようと考えていたとき,教官が私のアパートまで来て,私のことを心配しているということや,将来のことなどを話して励ましてくれました.私は教官の顔も見ず,布団の中で聞いていました.

先輩からのエール

心の声を聴こう

著者: 西川浩

ページ範囲:P.394 - P.394

 私が日頃敬愛する理学療法士(以下PT)のK氏が,頸髄を損傷する事故に遭われ,頸椎後縦靱帯骨化症の既往歴に加えて第4頸髄損傷による四肢麻痺と呼吸障害が生じてしまった.集中治療室から一般病棟へ移られたのでお見舞いに伺ったところ,K氏は気管切開と挿管によって気道が確保され,人工呼吸器によって呼吸管理がされており,上体をやや起こした姿勢でベツドに臥床されていた.私がお見舞いの言葉をかけると,大層嬉しそうな表情で喜ばれ,口唇を激しく動かして話そうとされた.しかし,声が出ないため口唇の動きから言葉を判読しようとしてもほとんど読み取ることができず,私はただじっと手を握り,声にならない口唇を見つめて相槌を打つだけで,一方的に自分の思いを語りかけることしかできなかった.それでも私の話しかけに対して,頷いたり,顔を横に振ったり,綻ばせたり,しかめたり,ときには涙を浮かべたりと多彩な表情を示された.

 小一時間足らずであったが,その間,懸命に話そうとされたためか,K氏の表情に疲労の色が見えはじめたので,枕頭を辞去することにした.

入門講座 運動療法の基本 ➋

筋力増強運動の基本

著者: 星永剛 ,   北山徹

ページ範囲:P.395 - P.400

 筋力増強運動は,関節可動域運動とならんで理学療法の中心的技術の一つであり,臨床現場で最も頻繁に行われるプログラムの一つでもある.

 筋力増強運動を実施するにあたり,その基本的事項,原理・原則などについて概説し,それらをどのように考慮しながら臨床現場で筋力増強運動を実施するかについてもふれる.

理学療法の現場から

社会と対峙する最前線

著者: 江西一成

ページ範囲:P.401 - P.401

 臨床現場を離れて5年目となる.この欄は不適任なのかもしれないが,かつての現場経験で培い,現在の立場でいっそう強く感じている私見を述べさせていただく.

 理学療法に限らず医療関係職ならば,必ず「臨床・教育・研究」という三本柱を基盤に据えている.この三本柱はそれぞれに明確な役割を持ちかつ相互に連携もしており,そこには優劣や上下などはないはずである.ところが,教育の場に身を置くと,そのようなことが存在するかのような雰囲気を感じさせられることが多い.臨床に携っていた頃にこのようなことを感じたことはなく,むしろ臨床現場こそが社会と接する第一線であるという自負を持っていた.しかし,さらに過去へ遡ると,最初からそういった感情を持っていたわけではなかったことにも気付く.自負を持てるようになったのは,自分が行っていることへの周囲からの支持とある程度の自信を得てからだった.もしも,そうでなかったら,私もこのような雰囲気の中に埋没していたのかもしれない.そう考えると,「臨床・教育・研究」という枠組の優劣は,私たち自身やこの業界自体にそう感じさせる土壌があるのではないかと思えてくる.

講座 理学療法における標準(値)・1

脳血管障害の回復過程

著者: 長澤弘

ページ範囲:P.405 - P.413

 脳血管障害と診断された患者をみる場合,病型分類を明らかにすることが重要である.病型により治療方針が異なるからである.現在,国際的に広く用いられている脳血管障害の分類・診断基準は,米国のNational Institute of Neurological Disor-ders and Stroke(NINDS)から1990年に発表されたNINDS-Ⅲ分類1)である.これはかなり膨大であるためその一部のみを表1に示した.臨床病型,病理,危険因子と予防,臨床的アセスメント,評価,脳卒中後の患者の状態,解剖,の7大項目に分かれているが,理学療法として病型を確認するには,表1のような臨床病型での分類を考慮するのがよい.

 無症候性の脳血管障害は,近年に実施されはじめた脳ドックなどで,特別な症候はないがCT(コンピュータ断層撮影)などの画像検査で指摘されるものであり,独立して挙げられている.局所性脳機能障害は,症状が24時間未満で消失してしまう一過性脳虚血発作(TIAs)と,巣症状が24時間以上続く脳卒中(stroke)とに分類される.脳卒中の病型の下位分類である脳梗塞では,機序,臨床的カテゴリ,部位による症候,と分類され,医師が急性期における血栓溶解療法や抗凝固療法などの治療法を決定する際に重要な指針になる.

学校探検隊

自由闊達な札幌医科大学

著者: 工藤千晶 ,   飯間祐子 ,   増田知子 ,   吉田伸太郎 ,   大岩正太郎 ,   小林匠 ,   森鉄矢 ,   矢幅圭一 ,   千葉活

ページ範囲:P.416 - P.418

卒業してからみる医大とは

 私たちの場合に限っての話かもしれませんが,本当に札幌医科大学(以下,札幌医大)の「ありがたみ」を実感したのは,卒業して臨床に出てからと言えるかもしれません.言い方は良くありませんが,学生の頃は正直なところあまり考えずに流されている部分もありました.自分の置かれた,恵まれた環境について改めて考えることなどまずなかったといって良いでしょう.

 札幌医大には,その知名度のためもあってか,理学療法士(もしくは作業療法士,看護師)を目指す学生が「志」を持って,全国各地からはるばるここ北海道に集まっています.学科(クラス)の人数は決して多くありませんが,毎年バラエティ豊かな顔ぶれとなります.私たちも,クラスメイトとそれぞれの出身地の地域性や個性を感じ,交わらせながら,日々のレポート課題や学外実習などを団結し協力して乗り切ってきました.卒業まで皆かけがえのない仲間でしたし,卒業後もそれは変わりません.

文献抄録

脳卒中不全片麻痺患者の歩行におけるMusical Motor Feedback(MMF):歩容改善の無作為化試験

著者: 寺尾研二

ページ範囲:P.420 - P.420

多くのパーキンソン病患者や不全片麻痺患者の歩行練習において,メトロノームのようなリズミカルな聴覚刺激など外部からのペースメーカーでは,患者は徐々に歩行のリズムを保持ができなくなることを経験する.今回,脳卒中不全片麻痺患者の歩行練習において,踵の接地を感知する足底センサーとMIDI(musi-cal instrument digital interface)標準と互換性がある携帯用の音楽プレーヤーから成り立つMusical Motor Feedback(MMF)のディバイスを使用してその効果を検討した.

・対象と方法:対象は,無作為に抽出され,実験に同意した23名の脳卒中不全片麻痺患者である.被検群の患者は,携帯用のMMFディバイスをベルトに装着して,MMFを週5日,1日20分,15セッション行った.音楽は連続した踵接地の時間の間隔から見積もられた調整可能なスピードで調整された.対照群は,従来の歩行練習を毎日20分行った.各セッションの間に両群で,患者はセラピストより口頭にて,いつものスピードで歩くよう指示を受けた.両群は1日に45分間神経発達的治療(NDT)を受けた.患者はおよそ0.71m/秒のスピードで歩行可能であった.測定項目は,歩行速度,歩行の対称性,重複歩距離,踵接地-足指離地間の距離である.

健常者とパーキンソン病患者の座位からの立ち上がりにおける関節トルク

著者: 櫻井宏明

ページ範囲:P.420 - P.420

 本研究の目的は,健常者とパーキンソン病患者の座位からの立ち上がりにおける下肢関節トルクを比較検討することである.対象者は,健常者6名とパーキンソン病患者7名とした.実験方法は,対象者(健常者とパーキンソン病患者)が座位から立ち上がりやすい速度で行った.その中で,頸部・股関節・膝関節・足関節の関節角度と足底部と床との間の前後分力(N)・垂直分力(N)(platform A)ならびに大腿部と椅子との間の前後分力(N)・垂直分力(N)(platform B)を評価した.

・結果と考察:Platform Aでは,パーキンソン病患者(前後分力27.3±10.8・垂直分力475.7±51.9)が健常者(前後分力47.6±12.9・垂直分力610.6±62.4)に比べ,前後分力・垂直分力において有意な低下がみられた(p<0.05).Platform Bでは,パーキンソン病患者(前後分力25.8±11.8・垂直分力17.1±18.5)が健常者(前後分力62.7±14.9・垂直分力39.0±18.9)に比べ,前後分力において有意な低下がみられた(p<0.05).各関節(頸部,股関節,膝関節,足関節)の角度範囲において,健常者とパーキンソン病患者との間に類似性がみられた.しかし,股関節屈曲の最大角度までの到達時間(秒)において,パーキンソン病患者(1.21±0.34)が健常者(0.75±0.22)に比べ有意に遅延していた(p<0.05).トルク率(単位時間あたりのトルク値)の比較では,パーキンソン病患者が健常者に比べ,股関節の屈曲・伸展,膝関節の伸展,足関節の背屈において有意な低下がみられた(p<0.05).以上のことから,パーキンソン病患者における座位からの立ち上がりの速度遅延は,股関節屈曲の関節トルクの低下と,トルク発揮するまでの時間が遅延しているためだと考えられた.

地域社会で生活する高齢者における年齢・性別と検査結果の関連性:6分間歩行,Bergバランステスト,Timed Up & Go Test,歩行スピード

著者: 松本貴子

ページ範囲:P.421 - P.421

本研究は,一般的に行われている移動能力検査である6分間歩行(6 MW), Bergバランステスト(BBS), Timed Up&Go Test(TUG),安静歩行速度と最大歩行速度の測定(CGS and FGS)を,地域社会で生活する高齢者を対象に施行し,その検査結果から基準値を得ることを目的として行われた.

 対象は,地域社会で生活する高齢者96名(61~89歳)である.事前に電話で息ぎれ・関節痛がないか,補装具を使用していない,喫煙していないなどの条件確認を行った.

脳損傷による底屈拘縮を軽減するための脛骨神経ブロック後の静的調節可能な短下肢装具の用途

著者: 奥村哲生

ページ範囲:P.421 - P.421

・目的:拘縮は,急性の脳損傷後の合併症として高い確率で出現し,患者の機能性に影響を及ぼす.

 例えば,不十分な足関節背屈の可動域と関連する歩行パターンの変化は,立脚期の膝関節過伸展と遊脚期の尖足によるクリアランス不足による過度股関節屈曲などがある.そこで今回は,尖足(底屈拘縮)を有する患者に対しての末梢神経ブロックと角度調節可能な装具を組み合わせた治療の有効性を検討する.

書評

―日本リハビリテーション病院・施設協会・全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会/編集―『回復期リハビリテーション病棟―新しいシステムと運営のしかた』

著者: 福田道隆

ページ範囲:P.402 - P.402

 障害のある人々が地域で安全に,安心して自立した生活を送るための施策が整備されてきた.その一翼を担う理学療法士の地域リハに対する認識はまだ十分とはいえず,養成校における地域リハ教育体制の取り組みも不十分である.このような現状下で,本書をひもといてみると以下のことが明らかになる.

 地域リハシステムの考え方,リハに関する診療の情報(病院経営からみたリハ病棟,診療報酬,入院料,効率的運営のための対応),時期別リハ医療サービスの流れなどが要領よくまとめられ,リハ診療報酬体系などの基本的な考え方がよく理解できる.

―大田仁史 編著―『地域リハビリテーション論』

著者: 池田誠

ページ範囲:P.414 - P.414

 本書は「地域リハビリテーション学」の改訂版として,タイトルを「地域リハビリテーション論」に,また表紙のデザインや判型(A4)も一新させた.表紙は,表に上向きの矢が途中で折れ曲がった写真で,裏に水面から杭が上に突き出た写真である.このイメージは,地域リハビリテーションとは地域に根ざした活動で,そこに内在する問題を解決するための活動にあるとの編著者らの気持ちの表れと思う.そのために視点を上を見据えながらも常に水面下に潜む見えにくい問題に据えておかねば全体を理解することはできないとの主張ではないだろうか.

 編者の大田仁史先生は,地域リハビリテーションとは障害によって引き起こされる制限や制約に対して新たな自己変革を迫られた障害者,その家族を社会の構成員の一員として「共生への変革のプロセス」とする.さらに,リハビリテーションを「地域に始まって地域で終わる」とし,地域が障害者をトータルに包み込めるかが地域リハビリテーションのエビデンスであると主張している.これは少なくとも30年の長い経験から導き出した結論でもあろう.

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編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.428 - P.428

 今回の編集後記では,編集委員会について少しご紹介したいと思います.

理学療法ジャーナルは,依頼からなる特集や講座などの企画記事と,読者の投稿による研究論文などから成り立っています.そのほか,タイムリーな情報や自由な意見交換の場を提供する役割も担っています.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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