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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル38巻8号

2004年08月発行

雑誌目次

特集 移動動作(分析・介入・介助者への指導)

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.603 - P.603

 歩行動作を代表とする移動動作障害は運動療法の中心的介入対象である.その介入方法は時代の流れの中で徐々に変化してきた.重要なのは方法の推移というよりもそれを説明する理論あるいはパラダイムの変遷である.特にここ10年余の変化は新しい流れとなりつつあり,代表的な障害群については既にデータが蓄積されてきた.実際にはその姿勢や動作の分析法,それに基づく治療介入,動作指導,介助者への介助指導の中に具現化するわけで,それらについて具体例を通して統合的にまとめていただきながら,新しいアプローチの標準化を試みていただいた.

急・亜急性期の脳卒中片麻痺患者の移動動作

著者: 吉田剛

ページ範囲:P.605 - P.612

 近年では,脳卒中片麻痺患者に対する治療を考えるうえで,どのような環境と課題を与えるかが重要な視点になってきている.環境は,ベッド周囲の環境だけでなく,課題遂行時の条件を含む治療環境であり,また,課題は,治療になるよう工夫された,目的を理解しやすく,生活に関連した活動を段階化して利用することが多い.

 移動動作は,日常生活活動において手段的動作として位置付けられ,実用レベルになるには,様々な環境下で何かをしながら歩くというような二重課題(dual task)をこなすことが求められる.最近は,街でみかける片麻痺者の歩容において,3動作パターンの分回し歩行を行っている人が以前より少なくなってきているように感じる.これは,脳血管障害に対する治療の進歩によるところもあるが,理学療法士の視点や介入ポイントが,病態の解明により妥当なものになってきているためとも考えられる.脳血管障害を発症した患者の多くは,早期から不安定感や不快,不安から生じる不適応活動や効率の悪い代償的活動に陥りやすい環境におかれる.急性期からの理学療法介入による適応的動作経験の付与は,このような患者を安全で効率的かつ実用的な活動の獲得に導くために,多大な貢献をすることができると考えられる.

慢性期の脳卒中片麻痺患者の移動動作

著者: 山本泰三

ページ範囲:P.613 - P.622

 脳卒中に突然襲われた人々の多くは,一時死に近づき,その後は障害を伴った生活を余儀なくされる.リハビリテーション医学では,急性期,回復期,慢性期(維持期)なる区分けがなされ,現在では,回復期リハビリテーション病棟が注目を浴びている.慢性期の後半で「清潔」がテーマとなる終末期という概念も生まれている1)

 慢性期には,生活機能を把握したうえで地域サービスを提供する必要がある.生活機能に影響を及ぼす要因には,身心機能をはじめ,環境の変化や痴呆などが挙げられる.理学療法では運動機能面を対象にすることが多く,運動機能を改善し,生活機能を維持・向上させる.

頸髄損傷不全四肢麻痺患者の移動動作

著者: 小野田英也

ページ範囲:P.623 - P.629

 頸髄損傷(以下,頸損)には完全麻痺(Frankelの分類A)から軽度の不全四肢麻痺(Frankelの分類E)まで多彩な障害が存在する.不全麻痺の中には横断型,半側型,中心型,前部型,後部型があり,それぞれ特徴的な障害像を示す.最近では中高年の不全損傷が増える傾向にあり1),このタイプの特徴は60歳以降に多く,非骨傷性損傷,伸展損傷,中心性損傷,基礎疾患としての加齢による頸椎病変が認められる.障害の程度によっては機能的に歩行が可能であるが,ADL上実用歩行に至らないケースが散見される.横断型や中心型は歩行のみならず,上肢の麻痺ゆえに車いすの自力駆動がままならないケースもある.これらのケースの多くは痙性による筋緊張亢進がみられ,拘縮・痛みの原因やADLの阻害因子になる.

 今回筆者に与えられたテーマは「頸損不全四肢麻痺患者の移動動作」である.移動には車いすと歩行の2種類があり,‘移動がなんとか可能なレベル’の頸損者に対し,具体的な理学療法を示す.

脳性麻痺を伴う児の移動動作―移動動作獲得改善にあたっての困難性に挑む理学療法を事例から考える

著者: 中徹

ページ範囲:P.630 - P.639

人における移動動作とは

 人における移動という行為とは,ある目的を実現するためになんらかの手段を用いて自らの身体全体の空間的な位置を変化させることである.変化させる手段としては自らの身体の運動を使う方法と,主として外部の駆動力による方法がある.「移動動作」と言う場合には前者を指すのが通常であり,独歩を中心に四つ這い移動,ずり這いあるいは座位のままでの座位での移動が含まれるが,手足の不自由な人々の場合は,他者の介助あるいは杖や装具を使用する条件が付帯することもあり,制限された移動動作の段階にとどまることがあり得るであろう.これらの移動動作を本論では,「(独歩などの移動方法)による自力移動動作」,あるいは「(杖や装具などの名称)による歩行」と記すことにする.一方,後者の移動は2種類考えられる.第1は,自ら運動機能を使って乗用車や自転車あるいは車いす・歩行器などを操作することによって得られる移動動作であり,多くの手足の不自由な人々が選択できる移動動作である.これらの移動動作を本論では「移動補助具(移動補助具名)による自力移動動作」と表記する.第2は,それらの移動用具に乗せられて,あるいは他者の全介助によっての移動であるが,重症の運動機能障害を伴う人々は日常的にこの移動に頼らざるを得ない状況にある.この移動を本論では「移動補助具(移動補助具名)による他動的移動」と呼ぶことにするが,誌面の都合で本論では論じていない点を了解していただきたい.以上述べてきた本論で用いる移動および移動動作のカテゴリは筆者がまとめたものであるが,その詳細を表1に示す.

 今日の社会ではバリアフリーの概念が広がりつつあるものの,ハードのレベルですらまだまだ部分的な工夫にとどまっており,ソフトを含めた社会全体のレベルでは自力移動とりわけ独歩が可能であることを前提としてデザインされている傾向がある.このような社会においては杖による歩行や車いすによる自力移動であってもかなりの不利益を感じ,四つ這いによる自力移動が不可能となると他者の援助なしには社会生活が困難であるのが現状である.しかし一方では,脳性麻痺を伴う児など手足の不自由な児たちにとって,移動が可能になるということは,それがどのような移動形態であっても,精神や運動面での発達が促され結果として生活がより多様になるという経験も報告されている1~4)

下肢荷重関節痛患者の移動動作

著者: 嶋田誠一郎 ,   佐々木伸一 ,   小川真裕美 ,   北出一平 ,   川原英夫 ,   小林茂 ,   馬場久敏

ページ範囲:P.640 - P.648

 下肢荷重関節痛を有する患者では,疼痛に伴う起居・移動動作の困難性を伴う.本稿では,下肢関節痛疾患の代表的なものとして変形性膝関節症(以下,膝OA)と変形性股関節症(以下,股OA)の症例を取り上げる.変形性関節症(以下,OA)の理学療法としては,運動療法,物理療法とともに杖などの歩行補助具の使用や装具療法,生活指導などが挙げられる.オランダの調査では,OA患者の44%が杖などの歩行補助具や装具を使用しているとしており,能力障害や疼痛および年齢に関連した機能障害の程度がそれらの使用状況に影響される可能性が指摘されている1).ここでは,OA患者に対する移動動作能力に即時的な効果の期待できる歩行補助具や装具を使用した場合において,自検例の動作解析により算出した関節運動力学的データを提示することによりその具体的な効果を解説する.

膝関節疾患例

 ここでは,T字杖,10mm厚のアーチサポート付シリコンゴム製外側楔状足底板(アーチ付ラテラル;中村ブレイス株式会社),支柱付軟性膝装具(P. O.ゲルテックス;日本シグマックス株式会社,図1a)およびレディメイドの硬性膝装具(OAファンタジー;啓愛義肢材料販売所,図1b)の使用を,疼痛が中等度と重度の2症例で提示する.

とびら

地域へのとびら

著者: 堀尾欣三

ページ範囲:P.601 - P.601

 富山県西南部に全国的に散居村で知られる砺波平野がある.広がる扇状地は,庄川・小矢部川の二大河川によって形作られた.最近,奈良の飛鳥京跡で行われた調査で,砺波地方と関係する新しい発見があった.それは長さ11.4cm・幅2cmの木簡で,「高志国利波評」と書かれていた.高志〔=越の国(北陸)〕が3つに分かれる前の時代に「利波評」があったということだ.「評」とは,後の郡のことを指す.この地域には高瀬遺跡という奈良時代の遺跡があるが,それ以前の飛鳥時代にこの地方と飛鳥の地との交流があったことになる.ひょっとしたらそれ以前にも人が住み,ひとつの地域で生活する人間集団を作っていたかもしれない.

 そんな歴史に触れていると,今あるこの地域が600年以上の歴史の中で,様々な変遷を遂げて現在の地域になってきたことに思いを廻らしてしまう.先人たちの地域への思い入れや,名もなき多くの人たちの努力によって今の地域が成り立っている.この場所で,私が今,生きて理学療法やリハビリテーションとかかわり,この地で仕事や活動をさせてもらっていることに感謝せずにはいられない.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

補装具

著者: 大峯三郎

ページ範囲:P.649 - P.649

 補装具とは,身体障害者福祉法および児童福祉法によって規定された法律用語である.補装具は,①失われた身体部位,または損なわれた身体機能を補完・代償するもの,②身体に装着(装用)して常に用いるもので,学校,日常生活あるいは職場などで作業用として使用するもの,③給付等に際しては原則として医師による処方や判定を必要とする(医師の意見書,あるいは身体障害者更生相談所に来所の場合には判定書),とされており,この3つの条件を満たしたものを補装具として定義することができる1,2)

 リハビリテーションの分野では,福祉用具,日常生活用具,補装具,治療用装具などと,様々な用語が現在用いられており,これらの用語の概念を明確に理解し,整理することが必要となる.福祉用具は平成5年に制定された「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」に基づくもので,「心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人または心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並びに補装具をいう」として定義づけられており,補装具以外に日常生活用具,自助具なども含まれる.したがって補装具,日常生活用具や自助具などは福祉用具の一部として概念づけることができる.日常生活用具は,在宅での日常生活を便利または容易にすることや,介護する家族の負担を軽減するための用具機器類として位置づけられており,給付,貸与などのかたちで支給される.治療用装具は,コルセット,練習用仮義足,ギプス床,松葉杖,諸装具,副子,保護帽,サポーター,義眼,補助器などがあり,主に四肢・体幹の変形や機能障害に対する治療を目的として給付される.また治療の一手段として補装具が一時的に使われることがあるが,この場合には医療保険制度による療養費払いで給付が行われる.

学校探検隊

都心に際立つ専門学校

著者: 原田憲二 ,   小関泰一

ページ範囲:P.650 - P.651

 東都リハビリテーション学院は,平成8年4月に専門学校として都内で3番目に設立されました.今年(平成16年)は理学療法学科は1部(9期生)80名,2部(3期生)40名を迎え入れています.本校の歴史はまだ長くはありませんが,今年4月に新校舎が設立されたことで新たな歴史のスタートを切ったと皆が感じています.本校は渋谷駅から近いこともあって,総面積は広いとは言えませんが,それを補うだけの教職員の学生たちに対する熱意,そして,それに応えようとしてくれる学生たちの素直な心があふれんばかりに備わっているので,見た目以上に大きな学院です.

授業

 学生たちは4年間の学生生活となります.授業は,学院長,学科長も自ら行っていますが,学院長は整形外科医としての知識,学科長は理学療法士としての臨床40年を超える知識を用いて教授しています.その背中を見ながら10名を超える理学療法学科の専任教員や,学生たちも日々自己研鑽に努力しております.教員たちの卒業した出身校が10校を超えていることも特徴で,教員それぞれの授業方法にもオリジナリティがみられます.このことが,入学当初の学生たちにとっては戸惑うことのひとつとなるかもしれませんが,臨床実習に出ていく学生にとっては役に立っていると自負しております.授業方法は違えど,学生たちを我が子のように愛し,学生たちの学ぼうとする気持ちを大事にしていることは教員全員に共通しています.矛盾する言葉になりますが,「厳しく楽しい授業」が当てはまると思います.

先輩からのエール

理学療法士の無限の夢

著者: 平岡八洲麿

ページ範囲:P.652 - P.652

 昭和44年,第4回日本理学療法学術大会の神戸市での開催準備の折,懇親会担当だった私が会場探しに奔走していた際の話です.あるお店の支配人に理学療法士の説明をして会場に了承していただいたのですが,その支配人が最後に,「まあ理科にかかわる先生の団体ですね」と念を押します.唖然としましたが,理解していただけないのは無理からぬ時代でしたので,曖昧な返事で引き上げました.当時としてはこんな話は決して珍しいものではありませんでした.わが国のリハビリテーションの発展は後療法としてのマッサージ,物理療法を基盤として発生した歴史的な経過がありますので,理学療法士と理科の先生との違いは,言葉で説明するだけでは一般の人には理解しにくかったと思います.現代でこそ「リハビリテーション」という言葉も,正確な理解はともかく一応市民権を得ました.理学療法士という職業もそれほど説明しなくても一般に通用しているようです.昭和50年代ごろまでは多くの病院では物理療法室の表示が掛かっていて院内他職種の職員も物療と呼んでいました.

 「リハビリテーション」という言葉がわが国に一般的に普及したのは,有名スポーツ選手の怪我の治療としてスポーツ紙を始めとした各種マスコミにリハビリテーション治療開始の記事が報道されるようになった頃からです.さらに昭和60年,元首相の田中角栄氏が脳卒中で倒れた後のリハビリテーション開始は,当時の新聞やテレビで大々的に報道されました.この時代になるとリハビリテーションも世間に認識されるようになりましたが,病気や怪我の後の機能回復が主体でした.

入門講座 私にもできるシングルケーススタディ➋

シングルケーススタディの実際

著者: 石倉隆

ページ範囲:P.653 - P.660

 前号の講座で,シングルケーススタディを構成する要素とその概要について解説したが,実際にシングルケーススタディを施行する際は,どのような手順でどのようなことに注意すべきかを十分に理解して進める必要がある.

 今回は,反復型実験計画の中からABA型デザイン,交替操作型実験計画の中からalternative treatment designの自験例を示し,その例示研究を分析することで,実際のシングルケーススタディの手順や構成要素の選択,決定の方法などを解説していく.

理学療法の現場から

訪問リハビリテーションで思うこと

著者: 金子功一

ページ範囲:P.662 - P.662

 10名以上の理学療法士(以下PT)が勤務する総合リハ施設から新設の診療所に職場を移り約2年半が経過した.現在の,午前中は外来リハ,午後は訪問リハという業務の内の訪問リハで経験した2つの事柄について雑感を述べる.

1.病院と在宅の「連携」って?

 Aさん,72歳女性.公営団地の3階で夫と2人暮らし.4年前に右大腿骨頸部骨折,一般総合病院に約3か月入院後自宅退院.退院時は廊下を伝い歩きで歩行可能であったが2か月後に転倒.再入院の必要はなかったが,これを契機に寝たきりになってしまった.ケアマネジャーが関わり,当診療所による訪問リハが開始されるまで約4年の間地域サービスはかかわっていなかった.現在は訪問看護・介護などの職種もかかわり車いすでの移動が可能になった.また居室を1階に移動し,週2回の通所介護を利用されている.

講座 理学療法における標準(値)・4

呼吸循環機能―運動負荷時の呼吸循環反応

著者: 高橋哲也 ,   熊丸めぐみ ,   山田宏美 ,   廣瀬真純 ,   河野裕治

ページ範囲:P.663 - P.672

 一般的な呼吸機能検査には,スパイログラフによる肺気量分画測定やflow-volume曲線を求める努力呼出スパイロメトリー,一酸化炭素肺拡散能力の測定,など各種検査方法がある.また,循環機能の検査も,Swan-Ganzカテーテル法による心血行動態検査,冠動脈造影検査,さらには核医学的手法による心機能の評価など侵襲的なものから,一般的な心電図検査,心臓超音波検査法,脈波速度法を用いた動脈硬化診断検査など非侵襲的なものまで幅広く行われている.これらの検査のいずれもその多くは安静時の静的検査である.無論,これらの検査からは多くの情報が得られるが,理学療法では,運動時の呼吸機能や循環機能の評価がより重要なものになってくることはいうまでもない.

 本講座では,運動負荷試験の種類と運動負荷試験から得られる各種呼吸循環応答指標について概説した後に,対象を心不全と呼吸不全に大別して,運動負荷時の反応パターンと理学療法の留意点について解説する.

あんてな

広島大学大学院保健学研究科の開設

著者: 村上恒二 ,   奈良勲 ,   岡村仁

ページ範囲:P.674 - P.677

保健学科から保健学研究科開設までの経緯

 平成4年4月に広島大学医学部のなかに看護学,理学療法学,作業療法学の3専攻からなる保健学科が開設された.理学療法学専攻,作業療法学専攻についてはわが国で最初に4年制大学における教育が実現したことになる.それに引き続き,より高度な専門職を育成する目的で,平成8年4月には,医学系研究科保健学専攻として博士課程前期(修士)が開設(定員34人)された.博士課程前期の標準修業年限は2年間で,修了すると修士(看護学,保健学)の学位が授与される.そして,平成10年4月には博士課程後期(博士)が開設(定員17人)された.博士課程後期の標準修業年限は3年間で,修了すると博士(看護学,保健学)の学位が授与される.このように,医学系研究科保健学専攻では,学部教育の上に博士課程前期・後期を積み上げることによって,一貫した教育理念に基づく大学院教育を行ってきた.

 平成14年4月には,大学院の改組に伴い,医学系研究科保健学専攻は保健学研究科保健学専攻に名称が変更され,一段と独自の大学院教育を行える体制になった.さらに,平成16年4月からは,大学院大学を志向してきた広島大学の基本方針に準じて,広島大学大学院保健学研究科として改組され, 1専攻(保健学), 2講座(看護開発科学講座・心身機能生活制御科学講座)となった.前者は看護学分野を主体とし,後者は理学療法学・作業療法学分野を主体とする講座である.講座化に際してその構想の原点を検討(図)し,保健学研究科としての理念と目標(表1)を掲げて教育・研究を推進しているところである.写真は平成16年4月1日の保健学研究科の開設にあたり,牟田泰三学長(左)と村上恒二保健学研究科長(右)による牟田学長自記筆の看板上掲式の場面である.

学会印象記

―第41回日本リハビリテーション医学会学術集会―日本リハビリテーション医学会学術集会へ出かけてみよう!

著者: 赤坂清和

ページ範囲:P.678 - P.679

 理学療法士にとって最も近隣である学問領域の1つがリハビリテーション医学であることは各人が認識するところであるが,日本リハビリテーション学会の会員となっている理学療法士を除くと日本理学療法学術大会と日本リハビリテーション医学会学術集会の違いについて十分な見識を持っている方は極めて少ないのではないだろうか.第41回日本リハビリテーション医学会学術集会は東京大学大学院医学系研究科リハビリテーション医学・江藤文夫教授が会長を務め,西新宿の京王プラザホテルを会場として2004年6月3日(木)・4日(金)・5日(土)の3日間に開催された.この学術集会開催中は,新緑がさわやかに目にしみる晴天が続く中,メインテーマである「リハビリテーション医療のさらなる展開に向けて―リハビリテーション医学教育の充実と普及」のとおり学会の現状と将来展望について活発な意見が交換された.

 プログラムは,会長講演「医学的介入の指標としての活動とリハビリテーション医学」より開始された.この会長講演では,医療の指標として短期間の生活における活動の重要性をわかりやすく説明するとともに長期間としての人生に対する影響に関連して課題提起が行われた.その後,特別講演として聖路加国際病院顧問の土居健郎先生が「リハビリテーションと精神医学」の中で,独自の学説である「甘え」理論による障害受容とリハビリテーション医学のとらえ方について説明された.その後,ほとんどの学会員が参加して総会が90分間行われた.総会の後は3件同時開催されたランチョンセミナーが行われ,午後最初のプログラムとしてとして英国University of Nottingham Medical SchoolのChris Ward教授による招待講演「Rehabilitation in Parkinson's Disease」が行われた.Parkinson病に対するリハビリテーション医学の目的,ICF(国際生活機能分類)からみた疾患の考え方,Parkinson病の各症状に対する薬物効果の特性,バイオメカニクスからみたParkinson病患者に対する姿勢,突進現象やすくみ足に対する運動療法の考え方など理学療法士としても大変興味深い内容であった.この招待講演後の午後2時より9会場に分かれてプログラムが進められた.2日目のシンポジウムでは,「新臨床研修システムとリハビリテーション科専門医の養成」というテーマのもと,厚生労働省,学会,国立大学法人附属病院,私立大学病院,市中病院など様々な立場のリハビリテーション科医からみた専門医の養成に関する現状と問題点について話し合いが行われた.また3日目の教育講演の「アスレチックリハビリテーション」では,バスケットボール,野球,サッカーなどのアスリートに対するagility drill(敏捷運動)について,損傷時期から競技復帰までをスライドとビデオを用いてわかりやすく解説されていた.また「訓練量とリハビリテーションの効果」では,systematic review(系統的総説)およびRCT(無作為化比較試験)による根拠に基づいたevidence basedによる解説が行われた.これによると脳血管障害に対するリハビリテーション医療の合計時間が多いほど,機能障害レベルでもADLレベルでも回復が良いというevidenceが蓄積されていることを示し,診療報酬上の単位数の上限の見直し,セラピストの労働条件およびマネージメントに対する今後の課題などを含めて,わかりやすく解説された.

初めての学会発表

「仙台さ 行ってきたんだっちゃ」

著者: 奥田裕

ページ範囲:P.680 - P.681

 私は理学療法士になって6年目ですが,今年初めて日本理学療法学術大会で「新しく開発した臨床的体幹機能検査(FACT)の信頼性」という演題名で発表させていただきました.準備期間などを入れると約1年半かけて行ってきた研究が,ようやく日の目を見ることができた,という感じです.

 私の職場は,埼玉県にあるリハビリテーション天草病院で,中枢神経疾患の回復期の患者様が主に入院されています.理学療法はボバース概念のもとに行っており,身体的には四肢と同様に体幹の評価・治療を重要視しています.体幹の評価は姿勢観察などの評価が主であり,表現手段はどうしても客観性が不十分になってしまうことが多く,理学療法士同士で話をする場合は良いのですが,他職種(特に医師)と話をする場合,もっとわかりやすい共通言語(評価)があるとよいと思っていました.

ひろば

精神発達遅滞児の問題行動はみな同じか?―Aberrant Behavior Checklist

著者: 上杉雅之

ページ範囲:P.682 - P.682

 海外において精神発達遅滞児(以下MR)の問題行動は疾患の種類を問わず同じ症状を呈するかどうかという討論が見られる.本邦においては医学的な観点からMR全般の問題行動を捉えた報告は極めて少なく,また,問題行動の評価に関しては「キャントウェル診察用評価リスト」,「多動性尺度」が見られる程度であった.そのような現状をふまえ染色体欠損児の問題行動を捉えたAberrant Behavior Checklist(以下ABC)を用いた一連の報告は,小児理学療法において有用な情報であると考え報告する.

 ABCは,MRの問題行動に対する薬物療法の治療効果を評価する目的でAmanらによって1986年に発案された質問紙である.質問紙の構成は,Ⅰ.攻撃性・Ⅱ.引きこもり・Ⅲ.典型的・Ⅳ.多動・Ⅴ.不適切な言語の5要因からなる.さらに5要因はⅠ.攻撃性に関しては,「自虐」「他者や他児への攻撃」「不適切な叫び声」「癇癪」などからなる14項目,Ⅱ.引きこもりに関しては,「無関心」「他者から離れようとする」「無表情」「無動」などからなる15項目,Ⅲ.典型的に関しては,「意味もなく身体をゆする」「同じ動作,奇怪な行動」「頭を前後に動かす」「頭・身体・手を繰り返し動かす」などからなる7項目,Ⅳ.多動に関しては,「過度に動く」「乱暴」「衝動的」「非協力的」などからなる16項目,Ⅴ.不適切な言語に関しては「過度にしゃべる」「話をくりかえす」「一人で高圧的にしゃべる」などからなる4項目の合計58項目で構成されている.そしてそれらの項目に対して援助者らが問題なしの(0点)から軽度の問題(1点),中等度の問題(2点),重度の問題(3点)の4段階に採点し問題行動を評価することができる.

雑誌レビュー

“Physiotherapy”(2003年版)まとめ

著者: 小島肇 ,   渡会昌広 ,   清水陽子 ,   吉川恵美子 ,   小林朝子 ,   柳田俊次 ,   前田洋平 ,   登坂喜彦 ,   小松憲一

ページ範囲:P.683 - P.689

 “Physiotherapy”は英国理学療法協会(The Chartered Society of Physiotherapy)より1915年から発行されている学術誌である.2003年(89巻)には67件の論文,8件の論説,59件の新刊本紹介と13件の手紙(原著者と読者との誌上討論)が掲載されている.本誌の特徴のひとつは選び抜かれた論文が収録されているデータベースであるThe Cochrane Libraryのなかから,理学療法に関する最新の抄録が60件掲載されていることである.これらを概観するだけで質の高い情報を得ることができる.テーマ別論文数は表を参照されたい.

 本稿では,まずEBMの本場英国で理学療法分野における現状を知る目的でEBM関連の論文を紹介することにした.続いて,われわれの興味を引いた論文のうちJAVAの基準1)にしたがって質の高い妥当性のある論文を選択した.ただし,理学療法士にとって症例報告などの論文も臨床判断には価値があるとの立場から,質が低いとされる研究デザインでも妥当性のある論文は紹介することにした.

資料

第39回理学療法士・作業療法士国家試験問題 模範解答と解説Ⅱ 理学療法(2)

著者: 大倉三洋 ,   片山訓博 ,   栗山裕司 ,   酒井寿美 ,   坂上昇 ,   中屋久長 ,   山﨑裕司 ,   山本双一

ページ範囲:P.690 - P.697

文献抄録

人工呼吸管理患者の痰の排出を高める頭低位および用手的加圧バック

著者: 加賀順子

ページ範囲:P.698 - P.698

 本研究は,人工呼吸管理患者に対して,用手的加圧バック実施に頭低位を加えることが,痰の排出を増加させるかどうかを検討することである.

方法:対象は,日常的に用手的加圧バックを施行している人工呼吸管理患者20例(男性18,女性2)で平均51.3歳.FiO2が0.6以上,PEEPが10cmH2O以上,SaO2が90%以下の者および,循環動態が不安定な者,肺の病理変化を伴っている者,脳障害で頭高位を取っている者は省いた.

完全脊髄損傷における感覚知覚

著者: 瀧昌也

ページ範囲:P.698 - P.698

 本研究は,完全脊髄損傷の患者に対し,損傷部位以下に痛みや反復的な刺激を与えることにより感覚を誘発し,感覚残存の脊髄損傷(SCI)の存在を明らかにする.対象は,Th10より上位の外傷性SCI患者24名.すべての患者は完全SCI(ASIA Grade A)であった.その内,11名の患者が中枢神経性の痛みを伴っていた.平均年齢39.8±9.5歳,受傷からの期間は平均16.8±7.4年であった.10名が頸髄損傷,14名が胸髄損傷であった.すべての患者は同じ検査者によって評価され,痙縮はAshworth Scaleと腱反射により評価した.感覚評価は,膝下10cm前外側部位にて行われ,測定肢位は車いす座位もしくは背臥位にて行った.感覚検査には,触覚,振動覚,温度覚,圧痛,皮膚を摘むを用いた.被験者は熱感,冷感,疼痛など知覚が変化した時,プッシュボタンを押すことにより示した.プッシュボタンを押せない被検者は口頭にて示した.体性感覚誘発電位は,15名の患者に施行し,後脛骨神経を3Hz,0.2msの短形波にて電気刺激した.刺激強度は運動反応が得られるまでとした.また,脊髄矢状面MRI T2強調(T2WI)を施行した.MRIを施行した15名の内,4名の患者において完全断裂が認められ,11名においては不完全様の所見が認められた.19名の完全SCIにおいて損傷レベル以下に加えられた刺激に対して感覚を呈した.感覚脱失領域において,12名の患者が局所的に感覚を呈した.MRIにて完全断裂が認められた4名では感覚脱失であった.完全断裂,感覚残存を呈したグループ間では中枢神経性の痛み強度は有意差がなかった.ほとんどの患者において,下肢に温度刺激を加えることによりスパズムを呈した.また,痛み刺激でも同様に認められた.痙縮評価は完全断列,感覚残存グループ間において差はなかった.これらの感覚所見から,感覚経路が残存しており,また,完全SCI患者に対し母趾への振動刺激により中心溝後部に活動が認められたことから,感覚残存SCIの存在が明らかとなった.

前十字靱帯再建術後早期の膝痛を伴うケースでのOKCとCKC下肢伸筋抵抗運動の比較

著者: 壇順司

ページ範囲:P.699 - P.699

 前十字靱帯(以下ACL)再腱術後早期の膝痛を伴うケースの膝伸筋抵抗運動は,膝痛の原因が膝蓋大腿関節のストレスによると考えられているために,一般的にOKC(open kinetic chain)運動が用いられることが多い.しかし著者らは,膝・股関節に対して効果的であり,膝痛の原因が膝蓋大腿関節の圧縮ストレスではなく,膝蓋靱帯と考えているため,より実践的なCKC(closed kinetic chain)運動を行っている.本研究の目的は,ACL損傷の再腱術後早期の膝痛に対するCKC運動とOKC運動の効果の違いを明白にさせるために評価し,検討することである.

 被験者は16歳~54歳(平均29歳)のACL再腱術を施行した43名(男性34名,女性9名)とした.また被験者をグループC(CKC運動群)21名とグループO(OKC運動群)22名に分類した.手術方法は,膝蓋靱帯(Bone-Patellar tendon-Bone)を使用した方法であり,被験者の条件は膝関節の他動的屈曲角度が90°であることと歩行が可能なことであった.運動方法は,OKC運動では0°~90°での等張性膝伸展動作を行わせ,CKC運動はスクワット動作を行わせた.評価は膝痛に関係する質問表と視覚的アナログスケール(VAS;visual analog scale)が用いられた.その結果,ACL再腱術後早期の膝痛は運動法の違いで有意な差(p=0.67)は認められなかった.このことは一般的にOKC運動よりCKC運動のほうが,前方膝痛が生じやすいと言われていることと矛盾する結果であった.運動方法の違いがあるにもかかわらず膝痛の出現に違いがなかったことや膝蓋大腿関節にかかる圧縮力が運動方法ではなく関節角度で変化することから,膝痛の原因が膝蓋大腿関節の接触ストレスではなく,膝蓋靱帯であることが示唆された.よって著者らはACL再腱術後早期の下肢抵抗運動法は,より実際的なCKC運動を使用する.

上肢随意運動中の腰部多裂筋の深層線維と表在線維の筋活動について

著者: 中島雅美

ページ範囲:P.699 - P.699

研究データの背景についての概要:腰部多裂筋が,腰椎の安定化と運動の調節に関与することは広く認められている.腰部多裂筋は表在線維と深層線維に分かれており,表在線維は腰椎伸展と腰椎前弯の調節に働き,深層線維は腰椎個々の椎間剪断力を制御している.しかしこの二つの線維の働きの違いについての研究データは,現在までに豚の生体モデルで得られたものだけである.今回著者らは「多裂筋表在線維が腰椎伸展に関与しているなら腰椎伸展運動の瞬間にその活動性は認められるはずである」と仮説を立てた.

方法:被験者は平均年齢29±8歳,平均身長175±0.07cm,平均体重74±11kgの健常者8名(男性6名,女性2名).椅座位にて筋活動電位を記録した.筋内針電極でL4付着の多裂筋深層線維と表在線維,腹横筋,脊柱起立筋を測定し,表面電極で三角筋を測定した.上肢随意運動は上肢単一運動と上肢反復運動の2種類で,上肢単一運動は立位にて,光に反応して左上肢を一方向(上肢体側下垂位から①肩関節約60°屈曲,②肩関節約40°伸展のどちらか)にできるだけ速く動かした.上肢反復運動は立位で左上肢肩関節反復運動(①上肢下垂位から肩関節屈曲15°屈伸反復運動,②肘伸展で肩関節90°屈曲位から肩関節15°屈伸反復運動)を10~15秒間行った.「上肢単一運動の開始と各筋の筋活動開始の関係について」と「上肢反復運動中の各筋の筋電図活動パターンについて」各筋の間で比較した.

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編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.704 - P.704

 移動動作,特に歩行は理学療法の中心的課題であり,正常動作についてのみならず歩行障害については,古くから多くの調査や研究結果が報告され,既に定説として多くの教科書に詳しい説明が載っている。既に特筆すべき論点は残されておらず,本誌でも歩行それ自体について講座で取り上げはするが,よほどの新味性が見つからないかぎり特集テーマとしては物足りないのである。にもかかわらず特集テーマとして本号で移動動作を取り上げた。その理由の一つは,それぞれの移動動作の異常を本特集のサブテーマにある「分析・介入・介助者への指導」といった一連の課題という切り口でまとめられた記事がないからである。もう一つは移動障害を極めて臨床的に介入という視点で再度捉えなおす時期に来たことを痛感するからである。というのは理学療法の治療的介入の理論的背景あるいはそれ以上に治療パラダイムが10年ほど前に始まった新しい流れに沿って作られつつあり,動作分析方法は格段に進歩したと感じられたからである。

 吉田先生には,task-orientedな理学療法を端的に示していただいた。学習すべき一連の動作を「適応的で自然な活動」として行わせた具体例の提示である。このパラダイムは今後確実に定着するであろうが,適応といえどもなんらかの認知過程が存在するわけで,その過程と自然な活動との間を理論的に詰めることが今後の課題と思われる。山本先生には片麻痺慢性期の四肢動作時の体幹スタビリティを通して全体を観ることの大切さを示していただき,小野田先生には,頸損不全四肢麻痺を通して感覚入力の影響と利用の具体例を示していただいた。これもつまるところ認知過程の重要な要素である。中先生には,脳性麻痺を伴う児のタイプ別移動動作とそれを獲得するまでの困難性を丁寧に整理していただき,やはり動作獲得には感覚入力が重要性であることを示していただいた。嶋田先生には,最新の測定器具を使い関節モーメントから装具等の治療効果を分析いただいた。どの論文も治療介入および介護者への指導のための動作分析から始まるどっぷり臨床に浸かったような内容の提示をいただいた。相互に議論できるような論点を明らかにするまでは達してはいないが,それぞれの分野の今後を示唆する重要な内容である。ご執筆いただいた先生方にはこの場を借りて感謝申し上げたい。

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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