icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル38巻9号

2004年09月発行

雑誌目次

特集 運動療法の基礎

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.707 - P.707

 理学療法の最も主要なアプローチである「運動療法」に関しては,それぞれの疾患・障害に対して多様な内容が提案されている.しかし,臨床的日常的に行われている運動療法を基礎的に検討する試みはなお十分ではない.どのような手技,方法のどの部分が何に効果的かを問うことは,クライアントへの説明,科学的効果の証明などの点で大変重要である.今回筋力低下,関節可動域障害,運動麻痺,バランス障害,起居移動動作障害という重要で不可欠な障害に対して一般的に行われている方法を再検討しその基礎的理解を深めてみたい.

筋力低下に対する運動療法の基礎

著者: 市橋則明 ,   大畑光司 ,   伊吹哲子

ページ範囲:P.709 - P.716

 筋力低下は関節可動域制限と並んで最も理学療法士がかかわることの多い機能障害の1つであり,健常者や骨関節疾患に対する筋力トレーニングの効果に関する報告は枚挙に暇がない.筋力低下に対する運動療法の基礎的知識としては, 1)筋の構造と機能, 2)筋力に影響する因子, 3)過負荷の原則と特異性の原則, 4)廃用性筋萎縮防止トレーニング, 5)open kinetic chainとclosed kinetic chainの違い, 6)筋力増強のメカニズムなどが重要である.誌面の都合上,上記のことは拙著1~5)を参考にしていただき,本稿では理学療法において一般に行われている筋力トレーニングを筋電図学的に検討する.また,膝関節への負荷が少ないとされるペダリングトレーニングの有効性について述べる.さらに,近年注目されている高齢者や中枢性疾患に対する筋力トレーニング効果に関して文献的にレビューする.

各種筋力トレーニングの筋電図学的分析

 理学療法において一般に行われている代表的な筋力トレーニング時に各筋がどの程度の筋活動を示し,肢位や角度などを変化することにより筋活動がどのように変化を示すのかを知ることは重要である.下肢筋の代表的なトレーニングであるブリッジ動作,下肢伸展挙上(SLR),パテラセッティング,スクワット,段差昇降時の筋活動をわれわれの研究結果から筋電図学的に検討する.以下の各筋の%は,最大等尺性収縮を行ったときの筋活動を100%とした%MVC(maximal voluntary con-traction)として表している.

関節可動域障害に対する運動療法の基礎

著者: 佐々木伸一 ,   嶋田誠一郎 ,   北出一平 ,   小川真裕美 ,   亀井健太 ,   久保田雅史 ,   川原英夫 ,   小林茂 ,   馬場久敏

ページ範囲:P.717 - P.725

 関節可動域(以下,ROM)障害の予防と治療のための運動療法は,最も頻度が多く1),また一度発生した拘縮は,日常生活に支障を来すとともに,拘縮を改善するには患者と医療者に多くの時間とエネルギーと費用がふりかかる.ROM障害を予防するには,常に関節機能の温存を優先した運動療法を考えていく必要がある.また,関節を動かすことで生じるリスクと関節の不動により生じるリスクを考慮しながら運動療法を進める必要がある.

 疼痛,痙性,麻痺,固定など種々の要因で関節の不動や低運動が続くと,皮膚,皮下組織腱,神経などの非収縮組織,筋などの収縮組織,関節包や靱帯など関節組織に拘縮を起こす.拘縮には,熱傷瘢痕などの皮膚性拘縮,外傷や変性による筋性拘縮,軟骨の変性や関節炎による関節性拘縮,中枢神経や末梢神経障害による神経性拘縮,術後に生ずる医原性拘縮,心因性拘縮などがある.

中枢神経運動麻痺に対する運動療法の基礎

著者: 潮見泰藏

ページ範囲:P.727 - P.732

 中枢神経疾患,すなわち脳傷害後にみられる麻痺の本質は随意運動の障害である.運動麻痺とは「意志によって起こる随意運動の遂行能力が低下した状態」をいう1).運動麻痺を改善することの意味は随意性を高めることに他ならないが,中枢神経疾患に対する運動療法の目的としては,それだけでは不十分であり,機能的な側面からその関連性について考慮されなくてはならない.すなわち,運動の自由度を高め,日常生活における具体的な課題が遂行できるようになることが必要となる.

 中枢神経疾患による運動麻痺に対する運動療法では,運動発達学および神経生理学を理論的背景とした治療技術(ファシリテーションテクニック)が1950年代初期からFay,Kabat,Bobath,Brunn-strom,Roodらによってそれぞれ体系化されてきた.それ以来,Vojta,Peto,中村らの手法も含め,さらに発展を遂げてきている.本稿では,随意運動の回復のための治療手技に関する基本的な考え方について述べ,その具体的アプローチの例についても触れることにする.

バランス障害に対する運動療法の基礎

著者: 藤澤宏幸

ページ範囲:P.733 - P.740

 バランス(平衡)は,力学では剛体において作用している力の和と回転モーメントの和が各々ゼロの状態1)と定義されるが,身体運動学では安定性や姿勢制御のような学術用語とも互換的に用いられている2).Shumway-Cookら3)は姿勢制御を「安定性と定位という2つの目的に関して空間における身体の位置を制御することであり,定位とは体節の相互関係および身体と環境の関係を適正に保持する能力」と定義している.バランス・姿勢制御に関する理論は,前世紀前半に反射・階層モデルを中心に展開してきた.その後,1989年にアメリカNashvilleで開催されたバランスに関するフォーラムを契機に,システム理論が重要な役割を担うこととなった.本論では,このような理論的変遷を踏まえながら,臨床においてバランスを評価し,そして治療する際の基本的な考え方について議論したい.

バランスに関するモデルの変遷

1.反射階層理論(reflex-hierarchical theory)

 姿勢制御における反射と中枢神経系における階層については,除脳動物の実験によって発展してきた.階層性の概念を築いたのはHughlings Jackson4)であり,その後SherringtonやMagnusによって神経生理学的な発展を遂げた5~8).生理学では除脳動物に起こる局所や全身の姿勢保持反応を姿勢反射(postural reflex)と呼び,下位の階層に伸張反射と緊張性頸反射を位置付け,それらが中位の階層に立ち直り反応やさらに高位の階層に平衡反応によって抑制・統合されると考える(図1).このように中枢神経系に複数の階層を想定し,反射・反応によって姿勢調節を説明したものが反射階層理論である.反射階層理論が発展してきた過程では,主な関心事は姿勢保持にあり,外乱に対する反射・反応に焦点が向けられたことは時代背景において必然的な流れとして理解できる.

起居移動動作障害に対する運動療法の基礎

著者: 冨田昌夫

ページ範囲:P.741 - P.748

 起居移動動作は私たちの最も基本的なADL動作である.全身を空間的に移動して支持面を変更する動作は安定したままで開始することは不可能で,無自覚なうちに安定した状態を崩すことから始まる.動作に慣れた人にとっては,不安定であることは問題にならず,よくコントロールでき,自由度が高いことにより効率的な動きが可能になる.しかし障害を被ったときには非常に難しい動作となり,無自覚なうちに転倒しないことが優先され,筋緊張を高め身体を硬くして自由度を下げたり,身体の内部,あるいは外部との接点に固定点をつくり,画一的なバランスの取り方(カウンターウエイトの活性化)を優位にして自由度を下げるなど柔軟性を低くする傾向が強くなる.また,感情的にやる気がなく,活動性が低いときには筋緊張も低くなり,重力に押し潰された動きにくい姿勢をとりやすい.このときにも固定点をつくり画一的なバランスをとる傾向が強くなり,動作は遅く,融通性は低くなる.

 起居移動動作は,平衡感覚や固有受容感覚による頸部・体幹の姿勢維持筋による全身的な筋緊張のコントロール(平衡による基礎的定位のレベル),ある程度パターン化された四肢の速い合目的的な運動の自己組織化(筋-関節の固有感覚による基礎的定位のレベル),さらに移動空間での遠感覚受容器からの情報に基づいた空間的な全身のコントロール(空間移動のレベル)など,階層的に高度なレベルまで含んだ感覚フィードバックによる自律的な調整ができて初めて可能な動作である1).そのため背景となる感情や環境が変化すると,できたりできなかったりすることがある.起居移動動作をこのような調整系の中に位置づけてその運動療法について考えてみたい.

とびら

先輩の教え

著者: 田中恭子

ページ範囲:P.705 - P.705

 学生時代のことである.実習中悩む私に,先輩が「たかがPT,されどPT」と励ましてくれた(本文中,PT=理学療法士).「PTって何ができるんだろう.」“医師の指示に基づいて患者の基本的動作能力を改善するため,impairment, disabilityに対して治療する…”と授業では習った.でも,医学的知識は医師に勝るはずがなく,日々の病状については看護師が,介護方法は介護士が優れているに決まっている.「PTって何?」そのころはPTの認知度はほとんどないといえる状況であったと記憶している.

 あれから20年足らず.政治家や元プロ野球の監督など,著名人が脳血管障害を発症するたびにPTという職業はメジャーになってきたように感じる.「仕事は何ですか?」と初対面の人に聞かれても説明に要する時間は格段短くなり,一度の説明で理解してくれる人が増えたことは喜ばしい.

初めての学会発表

私をステップアップさせてくれた学会

著者: 佐々木春美

ページ範囲:P.750 - P.751

 2004年5月27日(木)~29日(土)の3日間にわたって,第39回日本理学療法学術大会が仙台国際センターおよび宮城県スポーツセンターで開催されました.

 今回の大会は私にとって「初めての全国学会での発表」の場となり,発表に至るまでの経緯や学会の印象を記します.

理学療法の現場から

高齢者を取り巻く,介護予防から訪問リハまで

著者: 阿部勉

ページ範囲:P.752 - P.752

 2004年5月,“おばあちゃんの原宿”東京巣鴨のとげぬき地蔵尊境内において,東京都主催による介護予防健診“おたっしゃ21”が開催された.介護予防とは病気の予防だけでなく,老化のサインをいち早く発見し,適切な対策を行うことによって“元気でイキイキした生活”を維持することを目的としている.

 平成13年度の国民生活基礎調査では“介護を必要とする原因”に衰弱,転倒,骨折,痴呆,関節疾患など,加齢とともにあらわれる“老化現象”が5割を越えると報告されている.つまり中高年からの生活習慣病予防に加えて,高齢期からの老化予防の重要性を示唆している.このため,国の支援を受けながら“転倒予防教室”や“筋力強化トレーニングコース”と称して介護予防が各自治体で行われようとしている.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

疼痛

著者: 鈴木重行

ページ範囲:P.753 - P.753

1.痛みの発生機序

 痛みは生体の警告信号として,呼吸・循環器系,筋・骨格器系,神経系において種々の反応を惹起するが,その多くは生命維持に不可欠なものである.痛みはその発生機序によって,①侵害受容性疼痛,②神経因性疼痛,③精神心因性疼痛に分類される.侵害性疼痛はさらに体性痛と内臓痛に分類され,体性痛は皮膚や粘膜の痛みである表面痛と,骨膜,靱帯,関節包,腱,筋膜,骨格筋の痛みである深部痛とに区分される.

2.急性痛と慢性痛

 組織を損傷する可能性をもった侵害刺激が生体に加わると,局所に分布する侵害受容線維が興奮して痛みを生じる.このときの痛みを急性痛といい,交感神経系の活動が有意となる.一方,慢性痛は急性疾患の通常の経過を過ぎてあるいは障害の治療に十分な時間を越えて,1か月にわたって持続する痛み,もしくは継続する痛みの原因となる病理学的な過程と一体となっている痛み,または数か月あるいは数年の間隔で再発する痛みをいう.

学会印象記

―第39回日本理学療法学術大会―伊達政宗の精神は生きていた!―未来への惜しみない努力―

著者: 浅香満 ,   熊丸めぐみ

ページ範囲:P.754 - P.755

 青葉通りの新緑がまぶしい杜の都仙台で,平成16年5月27日(木)から29日(土)の3日間,広瀬川のほとりに建つ仙台国際センターと宮城県スポーツセンターにて第39回日本理学療法学術大会が開催された.新幹線「はやて・こまち」の開通により都心から2時間圏内というアクセスの良さに加え,宮城県士会の皆さんの「1,000題(センダイ)」というスローガンどおり1,059題という史上最多の演題数を記録し,また斬新な企画構成で学術大会の長い歴史上に新しい風を吹かせた大会であった.

大会テーマ

 大会テーマ「病気・障害,そして健康・・・理学療法学の近未来に向けて」は,半田健壽大会長の恩師である,現東北文化学園大学教授の中村隆一先生が1983年に執筆した著書のタイトルでもある.特別講演において中村先生は,「病気・障害・健康」の歴史やその解釈方法などについて述べられ,われわれ理学療法士の未来に様々な示唆を与えてくれた.平成15年5月に健康増進法が施行されてから早や1年,われわれ理学療法士にとっても,「病気・障害・健康」のキーワードは大変重要なものと考えられる.今大会は,基調講演と特別講演にて問題を提起した後に,分科会やシンポジウム,一般演題発表にて様々な意見を出し,最終日のパネルディスカッションで集約する構成となっており,最後には大会テーマ「病気・障害,そして健康・・・理学療法学の近未来に向けて」に対して大会長宣言でまとめるという一貫した流れに基づいた大会として展開された.

先輩からのエール

出会いからの出発

著者: 御厨征一郎

ページ範囲:P.756 - P.756

 昨年,手挟になった自宅をリフォームしようとした際,不用となった荷物の整理をしていたら,アルバムの中から40年ほど前の写真が出てきた.恥ずかしながら,すっかり忘れていた写真である.それは多少変色した5枚の白黒写真で,某病院での「機能回復訓練室での集団練習風景」などが写っている.ここに写っている体育館ほどの広さのなかで松葉杖起立練習・階段昇降などが行われている様を目のあたりにしたのが,私と理学療法(いわゆる運動療法)との出会いであったが,圧倒され,新鮮なものに見えたことを今でも覚えている.

 この写真は昭和38年頃のものである.このような光景は今日ではほとんど見られないのではないだろうか.当時筆者は,祖母の影響もあって,按摩,鍼,灸師の免許取得を志していたが,この場面を目の当たりにしたのを機に病院での理学療法に興味を抱き,今の自分があると思う.しかし,当時の国家試験は特例措置で受験する者にとっては厳しかった.

入門講座 私にもできるシングルケーススタディ➌

シングルケーススタディのプレゼンテーション

著者: 石倉隆

ページ範囲:P.757 - P.763

 Evidence-based medicine(以下EBM)を実現するためには様々な症例の客観的・科学的データの蓄積が不可欠である.この様々な症例についてシングルケーススタディが行われ,その結果が報告されるなら,同様の症状を呈する症例を担当したとき,その報告がEBMの礎となる.また,その報告と異なった結果を導き出したときには新たな問題が提起され,さらなるEBMの展開に寄与することになる.シングルケーススタディの報告は,個人やスタッフおよび施設全体の知識や技術の向上,当該患者への回帰,リハビリテーション医療全体の発展のみでなく,理学療法全体の患者への回帰にも優れた効果を発揮する1)

 このような意義をもつシングルケーススタディの報告も,それがなされなければ,個人のデータとして蓄積されるだけで,膨大な客観的データを必要とするEBMや理学療法全体の患者への回帰にはつながらない.効果的な報告,効果的なプレゼンテーションは,報告を受けたものに強い印象を与え,同様の症例を担当し,同様の悩みを抱える理学療法士の道標となったり,研究の動機づけとなったりして,さらなる客観的データの蓄積に寄与するものである.

講座 実践「臨床疫学」・1

呼吸器疾患に対する理学療法―気道クリアランス法のEBM

著者: 宮川哲夫

ページ範囲:P.767 - P.778

 疫学とは集団を対象とし,集団の法則性を研究するのに対し,臨床医学とは個を対象としている.そして,臨床疫学とは集団の疫学と個人との橋渡しをするものであり,その特徴は集団から得られたデータを患者個人に適応させることや,不確実性を扱う考え方(確率論的世界観)をよりどころとしている.単一患者試験では,文献だけからでなく臨床観察からでも十分なエビデンスは得られるが,エビデンスの適応の際には患者の物語を文脈から理解するnarrative-based medicine(NBM)と科学的根拠に基づいたevidence-based medicine(EBM)の両者によって初めて質の高い医療を行うことができる.ここでは気道クリアランス法のEBMについて概説する.

エビデンスの強さとその意味付け

 EBMとは,「個々の患者をケアする際の意志決定をその時点で得られる最善のエビデンスに基づいて行うこと」である.その手順は,疑問点をキーワードで表し,文献検索をきめ細かく行い,得られた文献の信憑性について批判的吟味を行う.そしてその文献の結論を患者に適応できるかどうかを注意深く判断する.エビデンスにはレベルがあり,症例報告,症例集積,症例対象研究,コホート研究,ランダム化比較試験(RCT),二重盲検ランダム化比較試験,メタ分析・システマティックレビューの順にレベルが高くなる.メタ分析とは分析の分析という意味であり,原著論文をまとめてオッズ比(OR)や効果量(ES)で分析し,結果のまとめは定量的である.これに対しシステマティックレビューは,明確で焦点の搾られた疑問から出発し,網羅的な情報収集から集められた情報を批判的に吟味し,それらの情報を要約しており,結果のまとめは定量的であるかは問わない.

雑誌レビュー

“Physical Therapy”(2003年度版)まとめ

著者: 小野恵子 ,   植木琢也 ,   畠中泰司 ,   水落和也

ページ範囲:P.779 - P.784

 “Physical Therapy”2003年度83巻には,Research Report 43編,Case Report 12編,Up Date 3編,Per-spective 4編が掲載されており,Evidence Based Medi-cine・Practice(EBM・EBP)に基づいた臨床実務のための情報収集・検索方法を紹介しているEvidence in Practiceはシリーズ化され5編に増えていた.また,論文のキーワードにEBM,EBPなどの概念が含まれたものも数編あり,これらを重視した潮流がさらに印象づけられた.また,2003年7月1日よりオンライン投稿システムが開始された(既にインターネット上で1995年1月号より抄録が,1999年1月号より論文が閲覧可能となっている).このように,順次電子文書化を進めており,“Going Paperless”に向かっている(URL:www.ptjournal.org).本稿では,Research ReportおよびCase Reportから,筆者らの判断により日本理学療法士協会生涯学習システムの7専門領域部会の内容に準じて分類し,要約を紹介する.

理学療法基礎系

○上肢の体積評価の一致妥当性:周径から求める容積測定法と水置換法との比較

 Karges JR, et al:Concurrent validity of upper-extremity volume estimates:comparison of calculated volume derived from girth measurements and water dis-placement volume.(2):134-145

 四肢の体積の測定法としては,決められた部位の周径に基づいて各分節の体積を合計する方法と,水を満たした容器に測定肢を入れて溢れた水の容積を計測して求める水置換法があり,どちらも先行研究で信頼性のある評価といわれている.この研究では各測定法との間に一致性があるかを検討した.対象はリンパ浮腫のある14名の女性の両側上肢で,前述の2種類の測定法を施行し,統計はピアソン重相関係数,対応のあるt検定,一次回帰直線が用いられた.結果は,上肢から手指を除いた部分の周径から求めた測定値と水置換法との間には0.99と非常に高い相関が認められたが,各測定値間には有意差が認められた.したがって,臨床上ではどちらの計測方法でも信頼性は得られるが,各測定値に互換性はないので同一症例に対して混同して使用すべきではないと報告している.

資料

第39回理学療法士・作業療法士国家試験問題 模範解答と解説Ⅲ 理学療法(3)

著者: 大倉三洋 ,   片山訓博 ,   栗山裕司 ,   酒井寿美 ,   坂上昇 ,   中屋久長 ,   山﨑裕司 ,   山本双一

ページ範囲:P.785 - P.791

文献抄録

Parastepによる補助歩行と対麻痺歩行装具による移動エネルギー消費:a single case study

著者: 都築晃

ページ範囲:P.792 - P.792

 脊髄損傷などによる対麻痺患者が立位歩行練習を行うことにより,痙縮,褥瘡,骨粗鬆症,浮腫,腸運動の予防や心肺系の改善に効果があることは知られている.現在までに対麻痺歩行装具のエネルギー消費にかかわる比較検討は行われているが,被験者数の少なさや,異なる損傷レベルの患者を比較し評価するため,エネルギー消費の評価としては十分ではなかった.このような被験者間の変化を避けるために,single case studyとした.エネルギー消費の評価は,ARGO(advanced reciprocating gait orthosis)とParastepシステムにおいて,機能電気刺激(FES)を装着した場合とそうでない場合で調べた.

 方法:被験者は身長160cm,体重66kg,28歳,T5-T6レベル,ASIAスケールはAで,受傷後2年経過している.ARGOに装着したFESは,股関節屈筋と伸筋の交互収縮機能をもった4チャンネルをとりつけた.ParastepシステムはAFO(ankle-foot orthosis)と膝伸展機能を中心とした6チャンネルのFESを装着した.それぞれの歩行システムのために練習し,各トレーニング期間以後,筋の状態,FESの効果,痙縮と骨密度が評価された.ARGO(FESあり・なし)による移動と,Parastepシステムによる移動に関して,HR(心拍数)と酸素消費の関係と移動時のエネルギー・コストなどが評価された.

頸随損傷者と腰仙随損傷者の歩行開始時における相対時間および歩幅の差

著者: 寺西利生

ページ範囲:P.792 - P.792

 目的:不全頸随損傷者と不全腰仙随損傷者および健常成人の歩行開始を3相に分け,その実時間および相対時間,加えて第1歩の歩幅を比較することである.

 対象:5人の不全頸髄損傷患者(グループ1)と5人の不全腰仙髄損傷患者(グループ2)および9人の健常成人(グループ3)であった.腰仙髄損傷者は,ASIA-Dで受傷から6か月以上経過し,介助や装具なしで10歩以上歩行できる者とした.

脳卒中患者における移動能力と下肢筋トルクとの関係

著者: 中島喜代彦

ページ範囲:P.793 - P.793

 目的:本研究の目的は,①各々下肢筋群のトルク値と平地歩行速度あるいは階段昇降速度との関係を定量化すること,②麻痺側あるいは非麻痺側の各々筋群のトルク値が反映された重回帰モデルで脳卒中患者の平地歩行速度あるいは階段昇降速度を予測することができるかどうか,であった.

 対象:脳卒中発症から平均4.0±2.6年経過した独歩可能な20人の患者(平均年齢=61.2±8.4歳).

作業(人間の把握動作)するための必要条件は,感覚の統合に影響を及ぼす

著者: 浪本正晴

ページ範囲:P.793 - P.793

 人間が適切な運動指令を形成していくときの感覚運動の変化は,現在の感覚情報と以前習得した感覚情報の両方に依存している.

 本研究では,人間が適切な運動指令を形成していく過程で影響を及ぼす要因について,研究を行っている.正常被験者に把握動作を行わせる実験を行い,その結果と多くの先行研究の成果を踏まえ考察がなされている.

書評

―丸山仁司 編集―『内部障害系理学療法実践マニュアル』

著者: 黒川幸雄

ページ範囲:P.764 - P.764

内部障害との関係は古くて新しい

 本書の有用性を説明する前に,リハビリテーションや理学療法との関係で,内部疾患とそれによる内部障害の位置付けが,どのように変化してきたかを概括してみる.

 編者の丸山仁司氏が,序文にも挙げられた循環器疾患,呼吸器疾患,代謝疾患,腎臓疾患,膀胱直腸障害,消化器疾患,悪性新生物(癌含む),その他の疾患によるところの機能障害・能力障害・社会的不利の発生に対するリハビリテーション医療,理学療法の役割は,昭和40年代のリハビリテーションや理学療法の草創期から気付かれていたことである.とりわけ呼吸器疾患(結核,肺炎など)に対しては,肺理学療法,呼吸理学療法(リハビリテーション)などとして,成書ともなり,親しまれてきたものである.心疾患への関心は,1985年以降脳卒中を追い越し,死亡原因順位が第2位になる頃より関心が高くなってきている.最近は,とみに生活の欧米化により糖尿病・肥満・高血圧などを筆頭に生活習慣病が蔓延しはじめ,この分野での理学療法の活躍が待たれるところであるが,診療報酬上の担保がないと,医療機関としても理学療法を使うようになれないのが問題である.

--------------------

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.800 - P.800

 文化庁による慣用句などの日本語調査で,本来の意味とは違った用法が広がっているとの報道がありました。例えば「檄を飛ばす」は,弱気になっている人を元気づけることではなく自分の主張を広く知らせることが本来の意味であり,「さわり」とは話の最初の部分ではなく要点のことであるといいます。何を隠そう筆者も誤りの用法を使っていた一人ですが,言葉や事項の由来などを基礎的に理解することは大変重要であると痛感しました。

 さて今号の特集は「運動療法の基礎」です。様々な治療技術が展開されている理学療法において,今なお最も重要かつ主要なアプローチが運動療法であることは論を待たず,その基礎についての論考は時宜を得たものといえるでしょう。筋力低下(市橋論文)では筋活動量の視点から詳細に論じられ,OKCとCKCの中間的形態の高負荷ペダリングトレーニングの特性が紹介されています。関節可動域障害(佐々木論文)では特に下肢関節可動域へのアプローチが仔細に述べられ,極めて臨床的な内容です。中枢性運動麻痺(潮見論文)では,特にファシリテーションの効果と適応,さらに限界が述べられ,改めてその科学的根拠を検証する時期にあるという重要な指摘がなされています。バランス障害(藤澤論文)では,バランス障害を理解するためのモデルの概説に加え,そのモデルによるアプローチの理論が紹介され,特にシステム理論の重要性が述べられています。起居移動動作障害(冨田論文)では,行為と知覚システムとの関係,その協調の再確立のための提案など縦横な展開となっていて,臨床的なイメージが湧出する論を味わうことができます。いずれの論文も力作で,臨床の中の「基礎」を顧みる絶好の機会となります。

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?