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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル38巻9号

2004年09月発行

文献概要

特集 運動療法の基礎

バランス障害に対する運動療法の基礎

著者: 藤澤宏幸1

所属機関: 1東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科

ページ範囲:P.733 - P.740

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 バランス(平衡)は,力学では剛体において作用している力の和と回転モーメントの和が各々ゼロの状態1)と定義されるが,身体運動学では安定性や姿勢制御のような学術用語とも互換的に用いられている2).Shumway-Cookら3)は姿勢制御を「安定性と定位という2つの目的に関して空間における身体の位置を制御することであり,定位とは体節の相互関係および身体と環境の関係を適正に保持する能力」と定義している.バランス・姿勢制御に関する理論は,前世紀前半に反射・階層モデルを中心に展開してきた.その後,1989年にアメリカNashvilleで開催されたバランスに関するフォーラムを契機に,システム理論が重要な役割を担うこととなった.本論では,このような理論的変遷を踏まえながら,臨床においてバランスを評価し,そして治療する際の基本的な考え方について議論したい.

バランスに関するモデルの変遷

1.反射階層理論(reflex-hierarchical theory)

 姿勢制御における反射と中枢神経系における階層については,除脳動物の実験によって発展してきた.階層性の概念を築いたのはHughlings Jackson4)であり,その後SherringtonやMagnusによって神経生理学的な発展を遂げた5~8).生理学では除脳動物に起こる局所や全身の姿勢保持反応を姿勢反射(postural reflex)と呼び,下位の階層に伸張反射と緊張性頸反射を位置付け,それらが中位の階層に立ち直り反応やさらに高位の階層に平衡反応によって抑制・統合されると考える(図1).このように中枢神経系に複数の階層を想定し,反射・反応によって姿勢調節を説明したものが反射階層理論である.反射階層理論が発展してきた過程では,主な関心事は姿勢保持にあり,外乱に対する反射・反応に焦点が向けられたことは時代背景において必然的な流れとして理解できる.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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