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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル39巻1号

2005年01月発行

雑誌目次

特集 高齢者骨折の外科的治療と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.3 - P.3

 高齢化が,これまで経験したことのない速さで進行している.この状況のもと避けて通れないのが「骨折」であり,臨床の場でも,10年前に比して高齢者骨折後の理学療法を経験する機会が明らかに増えたことを実感する.「寝たきり」の要因として高齢者骨折の割合は多く,社会的にも関心が高い.

 そこで,高齢者の骨折について早期退院を目的とした最先端の外科的治療とその理学療法の具体的アプローチ,そして治療成績などを中心に述べていただき,高齢者骨折の最先端治療の現状と課題を明らかにする.

高齢者の骨折

著者: 萩野浩

ページ範囲:P.5 - P.11

わが国では人類が歴史上経験したことがないスピードで高齢化が進行している.わが国の65歳以上人口はまもなく20%を超え,2030年には30%に達する.80歳以上の超高齢者人口の増加も顕著で,2000年に3.8%であったのが2050年には13.9%に達すると予測されている(図1).これとともに,将来,高齢者骨折が急増することは明らかで,その対策が急がれている.

 本稿では,高齢者骨折の疫学的知見を概説し,その予防について述べる.

大腿骨頸部内側骨折

著者: 林典雄 ,   南場宏通

ページ範囲:P.13 - P.20

骨粗鬆症を基盤に発症する大腿骨頸部骨折は,人口構成の加速度的な高齢化により増加の一途をたどっている.日本整形外科学会骨粗鬆委員会で実施された全国調査では,1998~1999年の2年間に76,295例の大腿骨頸部骨折症例が登録され,80~84歳の年齢層を筆頭に,70歳以上の症例がその大部分を占めている1,2).大腿骨頸部骨折は通常内側骨折と外側骨折に分類され,それぞれ骨粗鬆症を基盤に発症するものの,海綿骨量の減少との関連が深い外側骨折に比べ,内側骨折では頸部の長さが長いなどの形態的特徴も関与していると言われている3)

 現在,大腿骨頸部内側骨折に対する治療として,保存的治療が選択されることはほとんどなく,ピンニングを中心とした骨接合術4~6)と人工骨頭置換術7,8)のどちらかが実施される.どちらの治療を選択するかは,患者の年齢,社会的背景などによって異なるものの,骨接合術の目的は「骨癒合を得た上で歩行を獲得する」ことであり,人工骨頭置換術の目的は「早期に歩行を獲得する」ことである.したがって,どちらの治療が選択されたかにより,術後理学療法はタイムスケジュールを含め変化するのは当然である.本稿では,大腿骨頸部内側骨折の術後理学療法を円滑に展開する上で,知っておくべき留意点と共に,自験例を紹介しながら本骨折に対するわれわれの考え方について述べる.

大腿骨頸部外側骨折

著者: 辻村康彦 ,   高田直也

ページ範囲:P.21 - P.30

大腿骨頸部外側骨折の治療で重要なことは,できるだけ早期に機能的な股関節を再獲得し,可能なかぎり受傷前に近い機能を回復させることである.そのために,(全身状態が手術的侵襲に耐えられないなどの理由で保存療法を余儀なくされる場合もあるが)多くの症例で積極的に手術的治療が行われており,その頻度は90%以上と報告されている1)

 また,近年手術療法は内固定材料の開発と相俟って手術手技の進歩により,早期離床,早期荷重歩行が可能となり,その結果,これまで漫然と行われてきたリハビリテーション(以下,リハビリ)プログラムも大幅な見直しが進められている2~5)

脊椎骨折

著者: 北出一平 ,   佐々木伸一 ,   嶋田誠一郎 ,   小川真裕美 ,   亀井健太 ,   久保田雅史 ,   川原英夫 ,   小林茂 ,   内田研造 ,   馬場久敏

ページ範囲:P.31 - P.37

高齢社会に突入した現在,骨粗鬆症に伴う胸腰椎々体圧潰に起因する遅発性神経麻痺の報告がしばしば見られる1~6).治療法としては安静臥位,装具などの保存治療7~11)あるいは,椎体固定術などの観血的治療が選択される.近年,椎体圧潰に続発する遅発性神経麻痺の中でも,骨折椎体の圧潰進行とともに生じた椎体後方部分の脊椎管内陥入と椎体壊死による不安定性を伴う後弯変形の増強の見られる症例では,保存療法にも限界があり,低侵襲かつリスクの低い観血的治療が要求されている.よって,これらの術式に応じた理学療法の内容および目標も変化してきているのが現状である.また,高齢者は下肢筋力や深部覚の低下12)が見られ,安静臥位が継続すると二次的な合併症の発生がよりいっそう高くなる.近年では高齢者に対する脊椎圧潰のクリティカルパスを利用している施設13)もあり,当院においても日常生活動作(以下ADL)の早期自立に向けた早期理学療法を促している.本稿では,当院における自験例から遅発性神経麻痺を呈した脊椎圧潰の観血的治療および術後の具体的なプログラム内容を交え,早期理学療法の取り組みを述べる.

骨粗鬆症性椎体圧潰の病態

 高齢者における椎体圧潰は骨粗鬆症が要因の一つであり,骨腫瘍や循環障害などの症候性から起こることもあるが,原発性が主と考えられている.70歳以上の骨粗鬆症例では44%に圧潰が生じており14),高齢者の脊椎々体圧潰は骨密度の低下とともにその頻度が増加している.遅発性の脊髄麻痺を合併する圧潰も骨密度が低下している症例が多いことから,脊椎圧潰は骨粗鬆症の程度と密接な関係にある15).脊椎骨粗鬆症の単純X線分類にはSavilleの分類や慈大式分類などが通常用いられる(図1).またNakanoら16)は骨粗鬆症性脊椎骨折を,椎体後壁損傷の程度や受傷後の経過時間から5段階に分類し,治療予後の判定と治療法について論じている.

上腕骨近位端骨折

著者: 唐澤達典

ページ範囲:P.39 - P.45

上腕骨近位端骨折は高齢者における四肢骨折のうち,大腿骨頸部骨折,橈骨遠位端骨折についで高い頻度で発生する1).また,Kristiansenら2)は上腕骨近位端骨折の全体の77%が女性で,10万人あたりの発生率は女性142例,男性48例と述べている.日本では信原3)が同様の報告をしている.このような特徴を持つ上腕骨近位端骨折に対しても他の疾患と同様に早期退院,早期社会復帰することが強く望まれている.

 今回,当院で早期退院,早期社会復帰を目指して行っている上腕骨近位端骨折術後の理学療法について述べる.

橈骨遠位端骨折

著者: 山本泰雄 ,   小畠昌規

ページ範囲:P.47 - P.52

橈骨遠位端骨折は,高齢者の上肢骨折の中で遭遇しやすいものの一つである.多くは,徒手整復後のギプス固定による保存療法で良好な成績を得ることができる.しかし転位骨片の整復が不良な場合は疼痛や可動域制限を残すことがある.また頑固に続く手指の腫脹や拘縮,変形治癒後の尺骨遠位端周囲の疼痛,反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy;RSD)などの合併症により対応に苦慮する症例が少なからず存在する.Gartlandら1)は橈骨遠位端骨折の成績不良因子として背屈転位が遺残したまま治癒することを報告している.

 一般に高齢者の橈骨遠位端骨折は骨粗鬆症をその基盤として発生することが多いため,骨折部の整復の維持が困難であることが多い.加えて安定型の骨折に比べ,不安定型の骨折では徒手整復による良好な整復位を得にくく,仮に整復位が得られたとしてもギプス固定中に再転位することも多いとされる2,3).このため不安定型骨折に対しては,整復位の獲得と保持のため経皮ピンニングや創外固定,内固定などの手術的治療が選択される3)

とびら

「気づく」ということ

著者: 永田昌美

ページ範囲:P.1 - P.1

今から十数年前,一般病院に就職し新人の理学療法士としてスタートをきったばかりの頃,主任の理学療法士の先生から初めてお叱りを受けたことは,リハビリテーション室に来室されていた患者さんの異変に気づかなかったことでした.その患者さんは,痰をからませて咳き込んでおられたのですが,自分が担当する患者さんのことで精いっぱいだった私は,すぐ後ろで苦しんでおられることに全く気づくことができませんでした.幸い,その患者さんに対しては,他の先輩理学療法士がすぐに排痰処置を行い事無きを得ましたが,理学療法士がそんなに鈍感であってはいけないと非常に厳しいお叱りを受けました.そのときふと頭の中をよぎったのが,私がまだ理学療法学科の学生だった頃,体調を崩して突然その場に座りこんでしまった仲間に,もう1人の仲間が「しんどかったのに,気づいてあげられなくてごめんね.」と本当に申し訳なさそうに謝っていた光景でした.その瞬間,自分には理学療法士としてというよりも人として当たり前の,他の人を気づかい察してあげようとする気持ちが全く欠けていたと,改めて思い知らされた気持ちになったことを今でも鮮明に覚えています.

 理学療法士として14年目を迎えた今,患者さんの身体の変化には敏感に気づくようになりそれなりの対応もできるようになりましたが,患者さんご本人やその家族の方々が本当に思い悩んでいること,望んでいることにどれだけ自分は気づいているのだろうかと思います.身体の状態だけでなく,これまでの生活歴,在宅あるいは施設生活か,家族の有無,家族との関係など,患者さんを取り巻く状況は千差万別で,障害や痛みに対する感じ方やこれからの生活に対する気持ちも本当に様々です.また家族の思いや状況,それに伴う関わり方も,みなさんそれぞれ違うものを持っておられます.そういう中で,患者さんご本人やその家族の方々の本当の気持ちを汲み取ることは難しいことです.ただその気持ちに気づこうと努力すれば,自然とその人をよく見て気持ちを思いやりながら接することができるようになるのかなと思います.

PTワールドワイド

―APTA 2004印象記―APTA 2004参加とオクラホマ大学訪問

著者: 松尾善美

ページ範囲:P.53 - P.55

私がアメリカ理学療法学会(APTA;Annual Conference&Exposition of the American Physical Therapy Association,図1)に参加するのは1993年のCincinnatiに次いで2回目である.この学会は日本理学療法学術大会とは異なり,口演やポスターによる演題数は少なく,3時間の教育セッションが大多数を占めている.2004年の学会は6月30日から7月3日まで全米最大のコンベンションセンターであるChicagoのMcCormick Placeで盛大に開催された.今回,私にとっては2003年Spain・Barcelonaでの世界理学療法連盟学会(WCPT;International Congress of the World Confederation for Physical Therapy)での講演に続いて2度目の海外での学会講演となる.今回は大阪大学教育研究支援推進事業の渡航助成により出張にて訪米した.

 日本では,Chicagoといえば若い方でもギャング時代のアルカポネのイメージがあり,大変恐い場所と想像しているよう聞く.1993年にRehabilitation Institute of Chicago(以下RIC)で1週間のコースを受講した私はChicagoがとても気に入っている.New York,Los Angelsに次ぐ全米3位のChicagoは,観光,ショッピング,音楽,スポーツなど余りあるエンターテイメントで毎日が忙しい.Chicagoの住民はこの街が大変エキサイティングであると言う.確かに退屈しない.最近の有名人は前ヤクルトスワローズでChicago White Soxの高津選手である.近年ヒスパニック人口が急増し,音楽(Los Lobosのライブは最高でした)やレストランもアメリカン・メキシカンが大流行である.大阪はChicagoと姉妹都市であり,6月より関西国際空港より直行便が就航していた.

紹介

「13回国際セーフコミュニティ学会」に参加して

著者: 稲坂恵

ページ範囲:P.62 - P.64

はじめに

 日本における国際セーフコミュニティ学会の知名度は著しく低い.今回初めて本学会に参加してリハビリテーションに通じる理念を実感し,その奥の深さに改めて気付いたので紹介したい.

 “セーフコミュニティ”を仮に直訳すれば“安全地域社会”となろう.しかし日本にいまだ導入されていないことから,本稿では関連用語を含め,カタカナのまま使用する.

 筆者が理学療法士としてこの学会に参加した動機は二つあった.まず,スウェーデンのカロリンスカ研究所で,高齢者の転倒予防の取り組みとセーフティプロモーション研究を学んだことから生まれた興味と関心,また,後始末の仕事と思われがちな理学療法業務を予防活動へ拡大したいという願いである.

 学会はチェコ・プラハで2004年6月2日から4日まで開催され,参加者はおよそ40か国340人であった.連携学会である第7回世界インジュリープリベンション・セーフティプロモーション学会が続いて開催され,参加者のほとんど(筆者も)が国境を越え,オーストリア・ウィーンへ移動した.参加者の職業は二つの学会共通で,政府要人,政策決定者,疫学者,統計学者,保健医療関係者などであった.日本からの参加者は,活発なアジアの国々とは対照的で,二つの学会とも10人前後と少なく,残念であった.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

アシュワーススケール

著者: 鈴木俊明

ページ範囲:P.65 - P.65

アシュワーススケール(Ashworth scale)1)は,1964年にAshworth Bが発表した痙縮の評価法である.当初は,多発性硬化症の痙縮を評価する方法として発表されたが,Bohannonらは脳血管障害片麻痺患者の痙縮を評価する方法としてアシュワーススケール変法(modified Ashworth scale)2)を発表した.現在は,痙縮を呈するすべての疾患の筋緊張評価に用いられている.本項では,アシュワーススケールとアシュワーススケール変法について理学療法臨床での応用も含めて解説する.

アシュワーススケールとアシュワーススケール変法

 アシュワーススケールとアシュワーススケール変法は,他動運動時の筋緊張の客観的評価法である.患者を背臥位でリラックスさせ,評価する筋を他動的に動かしたときの抵抗感(いわゆる筋伸張時の抵抗感)によって評価する.アシュワーススケールは5段階(グレード0:正常な筋緊張,1:四肢を動かしたときに引っかかるようなわずかの筋緊張亢進,2:グレード1よりも筋緊張は亢進するが四肢は簡単に動かすことができる,3:著明な筋緊張の亢進により四肢の他動運動が困難,4:四肢が固く,屈曲,伸展できない),アシュワーススケール変法はアシュワーススケールのグレード1をさらに細かく,グレード1とグレード1+の2つに分けた6段階に分類される.グレード1(筋緊張は軽度亢進で,関節を伸展あるいは屈曲したときに引っかかるような感じが生じた後にその引っかかりが消失するか,または関節可動域の終わりにわずかな抵抗感を呈する),グレード1+(筋緊張は軽度亢進で,関節可動域の1/2以下の範囲で引っかかるような感じが生じた後にわずかな抵抗感を呈する)は痙縮の特徴であるジャックナイフ現象と廃用症候群による筋・皮膚短縮を反映するものである.

学校探検隊

ナゴヤドームがみえる学窓から

著者: 宮津真寿美 ,   中島里奈

ページ範囲:P.66 - P.67

場所

 名古屋大学は,名古屋市内に東山・鶴舞・大幸の3キャンパスがありますが,そのなかで最も静かな(マイナーな)大幸キャンパスに名古屋大学医学部保健学科はあります.大幸キャンバスの南隣には,“オレ流”の落合監督率いる中日ドラゴンズの本拠地ナゴヤドームがあり,ご存知のように今年はたいへん盛り上がりました.

沿革

 名古屋大学部医学部保健学科は,前身の名古屋大学医療技術短期大学部が14期続いた後,平成9年10月1日に4年制課程として設置され,平成10年4月に理学療法学専攻の学生を受け入れました.1期生が卒業する年の平成14年4月には,東海地区では初めて,また,国立大学保健学科としては初の3専攻(看護学専攻,医療技術学専攻,リハビリテーション療法学専攻)からなる名古屋大学大学院医学系研究科として設置され,学年進行に伴い,本年(平成16年)4月に大学院医学系研究科後期課程が始まったばかりです.学部生,大学院生がキャンパス内を闊歩し,大学らしい雰囲気になりつつあります.

理学療法の現場から

理学療法と感情―私たちは感情をどのようにあつかってきたのでしょうか?

著者: 富樫誠二

ページ範囲:P.68 - P.68

朝早く出勤してモーニングコーヒーを飲んでいると,いつものように外来ロビーから患者さんたちの楽しそうなにぎやかな声が聞こえてきます.従来から非言語的コミュニケーションの重要性は指摘されています.顔はわからないけどその声の抑揚やトーンで,その人の感情は解読できます.きっと顔を見ればその表情・緊張感や姿勢から,もっとはっきりとその感情は伝わってくるだろうなぁ.つくづく感情の大切さを感じます.そして臨床という海の中で,感情という波をあるときは抑制し,あるときは表に出しながら必死に泳いできた自分を想い浮かべます.そこで,日頃から考えている感情と理学療法について述べてみたいと思いました.

 理学療法は,感情をどのようにあつかってきたのでしょうか? 理学療法士(以下PT)は,行動に先行し,または行動の結果から生起される感情という人間本来の現象をどのようにあつかってきたのでしょうか?また,ストレスやバーンアウトに関係しているこの感情というものを,組織(病院や施設)は,組織マネジメントの面からどのように考えているのでしょうか.私は,PT個人も組織も感情というものをあまり考えていないような気がしています.

入門講座 重症患者の理学療法リスク管理・1

救急・集中治療室でのリスク管理

著者: 木村雅彦

ページ範囲:P.69 - P.76

テレビドラマや映画にも救急診察室(emergency room;ER)や集中治療室(intensive care unit:ICU)のシーンが多く出てくるようになっている.明らかに誇張されていたり,少し知識がある人間には疑問に思うことなども見受けられることもあるが,われわれの臨床では,どのような状態の患者さんに,どのような目的でどのような処置やモニタリングが行われているのかという視点で診てみることが重要である.特に理学療法士(PT)は機能的な改善を早期から図るべく,様々な制約を考慮した上で,関節可動域(ROM)運動や可及的な筋力強化,呼吸理学療法など,離床により合併症を予防すべく,積極的な介入に取り組む必要がある.本稿では基本的な知識を示したが,臨床では状況に応じて許容範囲も判断すべき基準や優先順位も変化する.詳細は本講座の各回や,専門の成書・論文を参照されたい.その際には理学療法にとらわれず,広く医学,看護,医用工学の領域も探索していただきたい.

感染症管理と清潔操作

 人類の歴史は,感染症との戦いの歴史とも言われる.医療では無菌状態に処理された器具や消毒された身体の部位は“清潔”とされ,それ以外のすべてである“不潔”と厳格に区別される.滅菌処理し密封されたディスポーザブル(使い捨て)の器具が多いのはこのためである.通常の生活では絶対に外気に触れることのない骨関節の外傷や手術,低免疫状態患者の管理を考えるとその重要性が理解しやすいであろう.病室に入る前の準備として,PTは基本的に(あくまでも細菌学的に)“不潔”なので,作法を知り,清潔野と自分の立ち入ってよいところ,触れてよいところ,清潔操作の手順や方法を確認することから始めよう.

講座 コミュニケーションスキル・1

実践活動でのコミュニケーションスキル

著者: 横谷省治 ,   津田司

ページ範囲:P.77 - P.85

医学部卒前教育ではコミュニケーションスキル,特に医療面接についての教育がここ数年で急速に普及した.理学療法士(以下PT)などの養成校でもこういった教育ニーズが高まっており,実践的教育が始まっている1).本稿では,医療・福祉の実践の場におけるコミュニケーションを学ぶにあたっての基礎的な事項について,コミュニケーションとは,患者医療者関係,コミュニケーションスキル,医療面接の進め方の順に述べる.患者医療者関係と医療面接については医師と患者についての研究,コミュニケーションスキルについてはカウンセラーとクライアントについての研究から得られた知見が多い.これらは医療や福祉一般にも応用できる.本稿では代表して医療者と患者という表現を用いるが,福祉従事者と利用者と読み替えてもよいし,患者・利用者の家族が対象でもよい.

コミュニケーションとは

 コミュニケーションは,これを「人間同士の意味の伝達」という概念で見た場合,一方が他方に情報を伝達して終わるという一方通行ではなく,送り手もまたメッセージの受け手になって,相互に影響を及ぼし合うものである2).A,B二者間のコミュニケーションの1サイクルを図に示した.

報告

徒手筋力テストに関するアンケート調査―全国の現職理学療法士を対象として

著者: 吉村茂和 ,   相馬正之 ,   宮崎純弥 ,   林陽子 ,   鮫島菜穂子 ,   阿部吉晴 ,   本田哲三 ,   服部博之

ページ範囲:P.87 - P.92

徒手筋力テスト(manual muscle test;MMT)は,1921年にLovettが創設して以来,臨床的な筋力の測定方法として受け継がれ,現在まで第7版の改訂版が発刊されており1),理学療法分野をはじめ整形外科・リハビリテーション科などで診断,治療方針や効果判定などに威力を発揮している2).しかも,筋力を評価することは,患者の機能障害(impairment),活動制限(activity limitation)および参加制約(participation restriction)の把握を含め,生活機能の予測も可能である.そのため,理学療法においても筋力評価の一翼を担うMMTは,臨床・教育・研究の各分野で広く使用されていることは想像にかたくない.しかし,MMTは重力の利用,徒手抵抗の強弱の概念に基づき,検査者・被検者の年齢・性別・体格・職業などを考慮して筋力を推測するという手法を取り入れているため,MMTの3+以上の段階付けが曖昧となったり,段階付けを誤らせやすい要因となることがこれまで多数報告されている3~10).しかしこれらの報告は,理学療法士個人の研究や小規模なアンケート調査に基づいた検討が多いため,全国の理学療法士がMMTについてどのように考えているかなどの調査はほとんどなく,理学療法士として検証することが求められている.

 本研究の目的は,アンケート手法に基づき,全国の現職理学療法士が四肢・体幹のMMTにおける第5版までと第5版以降の3+以上の段階付け,MMTの具体的利用,信頼性,将来性およびMMT全般についてそれらをどのように考えているかなどを検証することである.

座談会

理学療法史40年を振り返り未来を展望する―理学療法学教育と理学療法学の学問的体系化を中心に

著者: 奈良勲 ,   高橋正明 ,   鶴見隆正 ,   内山靖 ,   吉尾雅春 ,   高橋哲也 ,   永冨史子 ,   網本和

ページ範囲:P.93 - P.102

奈良 本日の座談会は,『理学療法ジャーナル』の編集委員として新たに加わっていただくことになりました永冨史子さん,高橋哲也さんを含む本誌編集委員8名によるものです.編集委員のみでこのような座談会を開くのは,初めてのことだと思いますが,その点でも大変意義のあることではないかと思います.

 本座談会のメインテーマは,「理学療法史40年を振り返り未来を展望する」とし,副題として「特に理学療法学教育と理学療法学の学問的体系化を中心に」話しを進めていきたいと思います.

文献抄録

臨床実習中に理学療法学生が明らかにした倫理的問題

著者: 進藤伸一

ページ範囲:P.104 - P.104

目的:臨床実習で,ほとんどの学生は倫理的問題に頻繁に遭遇し,それが学習に影響を与えているといわれている.本研究の目的は,臨床実習中に理学療法学生が遭遇する倫理的問題を明らかにすることである.

 対象と方法:対象は,マックマスター大学理学療法学士課程1年次第3学期で実施した6週間の臨床実習に参加した学生56名(男10名,女46名)である.学生は,臨床実習で経験した重要なできごと,その経験から学んだこと,そして今後どのように生かしていくかについての反省記録(reflective journal)を,週1回の割合で5週間にわたり書いた.6週目に,3人の理学療法教員がCoffeyら(1996年)による質的分析法を用い,Geddesら(1999年)による倫理的問題のカテゴリに沿って,その記録を分析した.

頸椎の徒手療法前評価の再考と改訂,新しいクリニカルガイドライン

著者: 籾山日出樹

ページ範囲:P.104 - P.104

目的:オーストラリアの筋骨格系理学療法協会(MPA,Musculoskeletal Physiotherapy Association)のメンバーを対象として,CM(cervical manipulation)を行うにあたっての頸椎の徒手療法前評価の再考を目的とした調査が行われた.調査内容は主にCMとPM(passive mobilization)の使用率,APA(Australian Physiotherapy Association)プロトコルの診療記録への記載と整合性,CMの悪影響発生率,CM使用前の同意と情報提供の有無についてであった.

 方法:調査票は740人のメンバーに郵送され480人(65%)から回収された.

早産低出生体重児と満期産児における,歩行獲得月齢と自発的kickの関係について

著者: 井出篤嗣

ページ範囲:P.105 - P.105

本研究では,早産低出生体重児と満期産児の歩行獲得月齢を調査し,さらに,自発的なkickと歩行獲得月齢の関係を比較,検討した.

 対象は早産低出生体重児22名(男性15名,女性7名),満期産児22名(男性8名,女性14名)で,調査期間は1997年6月から1998年12月である.修正月齢2か月と4か月で自発的kickを調査し,18か月まで歩行獲得の月齢を調査した.kickは背臥位になった幼児をビデオカメラで5分間記録し,その間の連続したkickの20秒間を対象として回数やパターンを分析した.kickは3つのパターン(片足のみ,交互,両足同時),4つの相(屈曲相,intra-kick相,伸展相,inter-kick相)に分けて分析し,歩行獲得が遅延したグループと正常範囲内で獲得したグループ間で比較した.

慢性期脳卒中者における循環器運動耐用能のための水中運動:無作為対照化試験

著者: 福王寺敦子

ページ範囲:P.105 - P.105

目的:脳卒中者における8週間の水中運動プログラム(介入群)と上肢機能プログラム(対照群)の循環器運動耐用能向上の効果を比較することである.

 研究デザイン:単一検定,無作為対照化試験にて行った(参加者はこの研究が運動耐用能について比較することは知らされていない).

書評

―斉藤昭彦 著―『これでナットク らくらく合格PT・OT国試一般問題対策/PT専門問題対策スピード攻略ブック』

著者: 中屋久長

ページ範囲:P.56 - P.56

 16年4月現在,理学療法士(PT)養成校は172校で一学年定員8,027名,作業療法士(OT)養成校は156校で一学年定員6,388名である.双方ともにおよそ,大学が20%,定員数で15%,短期大学が2.3%,定員数で1.5%,4年制専門学校が33%,定員で34%,3年制専門学校が44%,定員で45%を占める.専門学校は学校数で全体の77%,定員数で約80%を占めている.14年度国家試験の合格率はPTが97.9%で過去最高の合格率,OTが95.5%である.比較的新しい養成校特に専門学校の合格率が高い傾向にある.国家試験マニュアル本が近年多く発刊されそれなりの売れ行きを示している.学校数や定員数,学校種別から鑑みると当然の結果である.

 個人的ではあるが基本的に「傾向と対策」「マニュアル」本は好みではない.ただ学生が間違っているものを発見し,正しく解答する作業でより力をつけるという場面もあって利用価値が高まっていることも事実である.本来なら指定規則,各校カリキュラムに沿って基本的な学習ができているとすれば国家試験は合格するとしたほうが理にかなっている.しかし,3~4年という短い教育期間でPT,OTとしての資質を養うことは至難の事と考える.今,PT・OTとして「原理原則に則って物事の本質を追求するカリキュラム,教育水準」が必要ではないかと考える.また国家試験問題も練習で合格するものであってはならないと思う.

―鶴見隆正・大渕修一/責任編集―『理学療法Mook 11/健康増進と介護予防』

著者: 富樫誠二

ページ範囲:P.58 - P.58

 理学療法において健康増進分野への取り組みが叫ばれて久しい.さらに今,時代は介護予防という新たな戦略を展開しつつあり,その中で理学療法士はその役割を発揮することが求められている.言い換えれば力量が問われているともいえる.

 そういった中で,鶴見隆正先生(神奈川県立保健福祉大学),大渕修一先生(東京都立老人総合研究所介護予防緊急対策室)というこの分野のオーソリティが編者の労をとられ,理学療法Mookシリーズに実にタイムリーな待望の一冊が加わった.選ばれた著者らは,この分野の多岐にわたるそれぞれの実践者たちであり,実践からくる多くの含蓄のある内容を提示してくれる理論家たちでもある.一読しただけで単なるハウツウものではないことがわかるだけでなく,エビデンスに基づいた健康増進・介護予防への熱い思いと取り組みが書かれている.

―久野研二・中西由起子 著―『リハビリテーション国際協力入門』

著者: 中西正司

ページ範囲:P.60 - P.60

 久野研二,中西由起子という国際協力とCBRの専門家が,国際協力をしていくための手引書という体裁をとりながら,開発の専門知識を素人にもわかりやすく説明してくれる.医学モデル,社会モデル,統合モデル,差異モデル,家族モデルなど障害を理解するための様々なモデルが提示されている.これらのモデルの中にも一般にまだ知られていない目新しいものがあるうえ,障害者支援の取り組み方の様々なアプローチ方法の説明が続き,参加型,複線型,目標展開型などなど著者が英国の大学で習得した最新の該博な知識が展開される.最後に具体的な取り組み方法として,CBRと自立生活運動が取り上げられる労作である.

 地域開発に障害当事者の視点を取り入れるだけでなく,当事者の参加が必要だというところまできていることは,本書でも指摘されているところである.しかし,自立生活運動の視点から言えば,「障害当事者のことは,当事者に聞いてほしい,任せてほしい」と言う声が上がるのは当然のことである.開発の過程でお客様として呼ばれるだけで主権者になれないのであれば,当事者は納得しないであろう.例えば,当事者が主催するCBRとしてバングラディシュBPKSのCBRがある.今後この種のものが専門家にどう評価されるかと,本書を読みながらその今後の展開を興味をもって見つめている.

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編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.108 - P.108

 皆様,新年明けましておめでとうございます.21世紀も5年目を迎え,わが国の理学療法がさらなる新しい時代へと前進するその足跡をしっかりと残せるよう,編集委員一同新たな決意を持って望む所存でおります.本年も理学療法ジャーナルをどうぞよろしくお願い申し上げます.


広辞苑には,「地震雷火事親父」は「日常人々の恐れるものをその順に列挙して言う語」とある.昔,これは天災の恐ろしい順番と聞いた.子供ごころに“なぜ親父が天災なのか”と淡い疑問を持ったことがある.今では,“昔の親父はすごかった”とその威厳を懐かしむか,あるいは“今の親父は軟弱だ”と揶揄するときの表現として,たまに聞かれるのみとなった.それを聞いて一時は,親父を天変地異と同格で扱った江戸の時代はやはり粋でユーモアのわかる文化であったかと感心したものであるが,何かすっきりしないままこの言葉をどこかに置いてきてしまった.最近,「おやじとは嵐のこと」と何かで読んだ.台風は「おおおやじ」だそうだ.「おやじ」は「親父」からきているのか,あるいはどこでどのように生まれどのように広まったかは知らない.また天災と人災の区別がつきにくいゆえに天災も自然災害に置き換わったとのことであはるが,胸のつかえはひとまずおりた.それにしても旧年中は地震と「おおおやじ」が日本をひどく痛めつけた.被災された方々,とりわけいまだにその爪痕に苦しんでおられる方々にはお悔やみの言いようもない.新年が良き年になるようただただ祈るばかりである.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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