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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル39巻11号

2005年11月発行

雑誌目次

特集 精神障害者の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.939 - P.939

 精神障害者のリハビリテーションは,入院主体型から自立生活を目標にした地域支援型の取り組みへと変化しているが,そのなかでの理学療法の位置づけはまだ明確でない.自殺企図による対麻痺,脳血管障害を合併する精神障害者などへの理学療法は増加しており,彼らの社会復帰には精神面と身体面の両面へのアプローチが不可欠であり,作業療法士,精神保健福祉士などとの協働的な理学療法が求められている.そこで本特集では,精神障害者のリハビリテーションの現状を把握し,理学療法士の役割と具体的な取り組みについて紹介する.

精神障害をもつ人々に対するリハビリテーションの現状と課題

著者: 野中猛

ページ範囲:P.941 - P.945

この十数年で精神障害をもつ人々に対するリハビリテーションは格段の進歩を遂げつつある.わが国では現場の技術が先に変化し,政策が後追いしている.そのため現役の専門職の間でも理解の差異が大きい.

 現在のわが国の精神科病棟は,高齢となった長期入院者と比較的若い短期入院者とに二分されており,さらに多くの外来だけで加療されている人々を加えると,「社会復帰」という言葉は適切でない.残された長期入院者には病棟におけるリハビリテーションが必要であっても,新たに発症した大多数の人々は当然のように地域内でリハビリテーションを行っている.

精神障害者のとらえ方と理学療法アプローチの効果

著者: 仙波浩幸

ページ範囲:P.947 - P.955

人口の高齢化,事故や各種疾患により精神障害者が身体障害を合併する症例が増加しており,精神障害と身体障害の両面を視野に入れたリハビリテーション医療サービスの提供が今後ますます高まることが予想される.

 身体障害を有する統合失調症患者のリハビリテーション医学領域における知識・技術の蓄積は不十分であり,精神医学とリハビリテーション医学(機能回復学),さらには関連する諸学問領域を含む複合的な研究が求められている.リハビリテーション医学では,精神障害は作業療法,身体障害は理学療法がサービスの提供を担っているが,身体障害と精神障害を合併する患者のサービスニーズが高まってきている現状では,従来の枠組みにとらわれずに治療実践に取り組む必要が生じている.このような現状において,当該患者の理学療法実践については,従来から先駆的な内容の文献が散見されるが1~11),症例報告や総説が多く,数理的裏付けが不十分なものが少なくない.

精神障害者の生活体力へのアプローチ

著者: 田村文彦 ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.957 - P.960

医学や医療は格段の技術的進歩を遂げたが,その代償として慢性疾患と障害の管理という新たな課題を抱えるようになった.山根1)は,「命の贈り物といわれた移植,再生,遺伝子治療などの先進医療の発展により,救命・延命,治癒が重要な目的であった時代から,いかに望ましい状態で人生を過ごすことができるのか,『生活の質と時間(Quantity and quality of life)』を疾病と治療の結果として考えなければならない時代を迎えている」と述べているが,実は精神障害者に対するリハビリテーションを実施していくうえで不可欠な視点がここにある.

 わが国の精神科領域における理学療法実践の報告は,脊髄損傷や切断などの合併症を有する自殺企図者への関わりや,精神病院入院者の高齢化に伴う脳卒中や大腿骨頸部骨折,寝たきりに起因する拘縮をはじめとする廃用症候群の改善を目的とするものが多い2).理学療法の各種手段は,身体に働きかけることで精神症状を改善する可能性を秘めていることは想像に難くないが,これが可能になる前提は,奈良3)が指摘しているように,「対象者のいかんを問わず,適切な身体運動を定期的に行うことの重要性はすでに常識的であり,精神疾患を有する患者にとっても例外ではなく,これらのプログラムを積極的に励行することの有用性は大きい」ということ,つまり「ヘルスプロモーション」としてのアプローチ方法を考えることが基本となる.

精神障害に身体障害などを合併した患者への理学療法アプローチ

著者: 大月満里 ,   小林量作 ,   高橋智子

ページ範囲:P.961 - P.969

はじめに

 日常の行動を起こすにあたっては,何かをしようとする「意志」が存在し1),その「意志」を遂行するための身体機能が必要となる.精神に障害があると意欲や自発性の低下,自分をとりまく環境を適切に把握できず,「意志」を発現することが困難となる.身体に障害があると「意志」を遂行するための運動機能が障害される.そのため身体障害だけでなく精神障害を重複した場合,理学療法士も精神障害に専門的に関わっていく必要がある.しかし,精神障害を合併していない場合と比べて,接し方が難しく,注意力や自発性などに問題があるため,日常生活での改善に結びつかないことも多い.

 本稿では精神障害に身体障害を合併した患者に理学療法士が関わる場合,どのような点に留意して疾患・障害を捉えればよいのか,経験に基づいて述べる.

精神障害者の転倒事故分析とその対策

著者: 細井匠 ,   濱田賢一 ,   山下久実 ,   牧野英一郎

ページ範囲:P.971 - P.978

はじめに

 近年,わが国では高齢化が進み,2005年の全国民に対する高齢者の割合は19.9%であり,2015年には26.0%に達すると予測されている1).この高齢化の波は精神科病院にも例外なく押し寄せており,2003年6月の時点で全国に約33万人存在する精神科病院在院患者のうち65歳以上の割合は39.0%に達している2).また,精神科病院入院患者の状況は,数か月の短期入院を繰り返す患者と,入院期間が5~10年を超える長期入院患者と二極分化している3).長期入院患者は院内で高齢化し,精神科病院内部の高齢化は進展し続けているというのが現状である.

 当院は,精神科200床と内科98床を有する病院である.精神科病棟では高齢化に伴い,身体面での問題が表面化してきており,その一例として転倒事故が頻発している.都立病院における医療事故集計結果でも,精神科以外の病棟では服薬に関する事故が最も多いのに対して,精神科では転倒事故が最多である4).このような状況であるにもかかわらず,精神科における転倒調査は国内外合わせても数件散見できる程度であり5),さらに転倒予防を目的として身体機能にアプローチした介入研究は皆無である.転倒による骨折や外傷は,精神疾患患者の社会復帰を阻害する要因であり,できうる限りこれを防止しなくてはならない.

 本稿では,精神科病棟長期入院患者の転倒事故を分析し,理学療法士が介入したことによる転倒予防効果について若干の考察を加え報告する.

とびら

Art & Science

著者: 山野真二

ページ範囲:P.937 - P.937

理学療法はart & scienceだと言われている.これに関して少しばかり私見を述べさせていただきたい.

 治療するにあたって「やった,効いた,治った」だけでは困る.再現性がなく,専門性もない.効果を裏づけるEBMの確立が急務である.

資料 第40回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2005年3月6日実施)

模範解答と解説・Ⅴ 理学療法・作業療法共通問題(2)

著者: 伊藤俊一 ,   柏木学 ,   久保田健太 ,   隈元庸夫 ,   佐藤公博 ,   信太雅洋 ,   高倉千春 ,   高橋尚明 ,   田中昌史 ,   田邉芳恵 ,   富永尋美 ,   蛭間基夫 ,   福田修 ,   村上亨

ページ範囲:P.979 - P.984

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

ウィリス動脈輪

著者: 内田賢一

ページ範囲:P.985 - P.985

脳の主幹動脈は,後方よりの左右の椎骨動脈と,前方よりの内頸動脈である.左右の椎骨動脈は,延髄と橋の高さで1本の脳底動脈となり,中脳の高さで対をなす後交通動脈の脳底動脈部となり,後交通動脈の内頸動脈部と吻合して後大脳動脈となる.内頸動脈は,前大脳動脈と中大脳動脈に枝分れし,左右の前大脳動脈は前交通動脈で繋がっている.これらの前大脳動脈,中大脳動脈,後大脳動脈と,前交通動脈および後交通動脈が相互に連結しあって形作っているものが,イギリスの解剖学者Thomas Willis(1621-1675)が報告した大脳動脈輪(ウィリス動脈輪)である.

 ここでは,ウィリス動脈輪を形成する脳動脈系を概説するとともに,もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)について述べる.

学校探検隊

元気な名古屋からはばたきます

著者: 齋木しゅう子 ,   田町淳

ページ範囲:P.986 - P.987

学院の特色

 本学院は,厚生省(当時)で4番目の養成校として昭和54年4月,東海地区で初めて開設されました.平成16年4月からは独立行政法人化により設置主体は厚生労働省から独立行政法人国立病院機構になりました.国立病院機構は,結核,がん,循環器病,重症心身障害,筋ジストロフィー,神経難病等の重要で国民の関心が高い疾患や地域のニーズにあった医療の提供を目指し,全国146病院のネットワークを活かし医療の質の向上,研究に貢献しています.

 学院は機構内で臨床を経験した者が教員に,また教員経験者が機構内の各施設のリハビリテーション部門統括者として勤務し,教育と臨床間の異動を通して臨床現場(機構内の臨床)と密な関係にあります.今の職務は教員ですが元々皆,臨床が大好きな理学療法士・作業療法士です.1日を白衣で過ごし,病院のリハビリテーションセンターをいつでも訪れることができます.国立病院機構のフィールドの広さ,教育と臨床現場の密接な関係が,国立病院機構附属の学院としての最大の強みと感じています.

入門講座 ICFに基づく評価と記録・3

リハビリテーション総合実施計画書の書き方と活用,そして現状

著者: 諸橋勇

ページ範囲:P.989 - P.998

はじめに

 現在のリハビリテーション(以下,リハ)医療は国際障害分類ICIDH(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps)が中心的なモデル概念だったが,2001年に発表された国際生活機能分類ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)モデルが広まってきたことに象徴されるように,医療や医療経済,介護保険制度という多くの社会的な環境から変化を求められてきている.

 確かに今までのリハ医療においては,効果判定の問題,連携や効率の問題,生活障害より機能障害重視への偏重,予後予測が曖昧,不十分なインフォームドコンセント(以下,IC)など多くの問題点が指摘されてきたが具体的な指針はまだほとんど出されていない.そのような中で制度として新設されたのがリハ総合実施計画書の作成であり,この中にはICFの概念が取り入れられている.

 リハ総合実施計画書の役割は,各職種が総合的な評価を行い,それに基づいた目標やプログラムを立てること,そしてこれを利用して患者(利用者)とその家族に十分なICを行うことである.しかし,現状は診療報酬算定のために記入しているという側面が強く,その目的を十分果たしていないとの声も聞かれる.

 そこで本稿では,リハ総合実施計画書の作成の目的やその活用法に関して現状を踏まえて述べる.

講座 基礎理学療法学研究方法論・2

動物を対象とした基礎理学療法学研究方法論

著者: 沖田実 ,   中野治郎

ページ範囲:P.1001 - P.1008

理学療法領域における動物実験の必要性

 一般に,科学の実験,試験,教育,材料採取に動物を利用することを動物実験という.その目的は,①再現性の高い正確な実験の実施,②人体実験の代替,③能率的な実験の実施,などが主である.医科学ならびにその関連領域においては疾病の病態やその発生メカニズムの解明,あるいは新薬の開発やその効果判定など,多岐にわたって動物実験が行われており,その結果から得られた科学的な証拠を基盤に臨床での治療体系が組み立てられている.

 一方,理学療法は疾病そのものの治療ではなく,疾病によって生じた運動障害の機能回復を促すことが主目標であり,例えば,拘縮や廃用性筋萎縮などが治療対象となる.しかし,運動障害に関しては医科学ならびにその関連領域ではこれまでさほど着目されておらず,その病態や発生メカニズムのすべてが解明されているわけではない.すなわち,運動障害の治療に最も深く関わる理学療法士自身が解決していかなければならない重要な課題といえる.ただ拘縮1つをとってもその病態などを解明していくためには対象症例の関節周囲組織が必要となり,現実的には倫理上の問題などもあり,生体組織の採取は不可能に近い.つまり,この代替手段として拘縮の動物実験モデルからの生体組織の採取が行われるのであり,動物実験は理学療法領域においても不可欠となってきている.

雑誌レビュー

Physiotherapy Canada(2004年版・第56巻)レビュー

著者: 片寄正樹 ,   吉田真 ,   吉田昌弘

ページ範囲:P.1009 - P.1014

はじめに

 Physiotherapy Canadaはカナダ理学療法士協会(以下,カナダPT協会)の公式学術誌で,年4回発行されている.毎号の構成はeditorialと5つの論文,エディターへのコメント,書評である.英語とフランス語の2か国語を公用語とするカナダの雑誌らしく,editorialは英語とあわせてフランス語でも掲載されている.その他の記事はすべて英語記載となる.5つの論文のうちいくつかには,その領域のエキスパートなどからのコメントが掲載され,論文を題材にさらなる発展的思考を促す構成となっている.

 本稿ではPhysiotherapy Canada第56巻を概観し,掲載論文の傾向を分析するとともに,いくつかの論文を紹介する.第56巻の毎号のeditorialでは,2003年の冬にこの雑誌の編集長となったDr. Susan R. Harrisが現在進めているPhysiotherapy Canadaの改革を論じているが,これがかなり興味深い.編集長としていかにしてこの雑誌のクオリティーを向上させ,そして有益な資源に変革していくかをカナダPT協会の会員に呼びかけている.またカナダのPT界におけるこの雑誌の位置づけを理解できる内容も含まれていることから,第56巻全号のeditorialの内容も少し紹介することとする.

報告

学齢脳性麻痺児母親における腰痛発生要因の検討

著者: 白坂史樹 ,   新田收

ページ範囲:P.1015 - P.1018

近年周産期医療の発達により出生時死亡率が低下しているが,その一方で障害を有する場合,障害の重度化が指摘されている1,2).子供が心身に何らかの障害を有する場合,母親の負担は非常に大きなものとなり,介護者の負担が限度を超え大きい場合は健康を損ね,家庭での介護継続が困難となる場合も多い.特に介護者の腰痛発症率が高いことは諸家により報告されている.腰痛は,介護動作時に頻発し,症状自体も慢性化しやすく介護疲労感を増加させる一因といえる.

 介護負担に関する研究は近年報告されているが,これらは高齢者介護を対象としたものが多く3,4),在宅介護者を対象にした研究は少ない.一方,障害児介護における研究5~8)もみられるが分析対象が学校教員を対象とし,腰痛の介護と腰痛発症の発生率についての報告にとどまっている9)

高齢者と若年者における段差昇段時の拇趾・踏面間距離について

著者: 相馬正之 ,   吉村茂和 ,   宮崎純弥 ,   山口和之 ,   舟見敬成

ページ範囲:P.1019 - P.1022

はじめに

 高齢者の転倒は,身体的な損傷を引き起こすと同時に,再転倒に対する恐怖心から活動の制限や歩行の不安定性を助長させる原因のひとつとなっている.高齢者においては,転倒の発生率が17.7~19.8%であり,転倒の原因がつまずきであることが多い1,2).つまずきについては,平地歩行中に起こる内的要因に起因する場合と突出した障害物や段差につまずく外的要因に起因した場合のいずれかが推測される.

 内的要因に起因すると推測される平地歩行中の最小足尖・床間距離の報告は,1~3.2cmの範囲にあり足尖部の挙上が低い値を示すことで一致し3~5),さらに西澤ら6)は,最小足尖・床間距離に加齢の影響が認められなかったと報告している.しかし高齢者においては,若年者と比較し,最小足尖・床間距離に差は認められないものの,ばらつきが大きく最小足尖・床間距離が低下している歩行周期が存在しているとの報告もあり,つまずく可能性が示唆されている7).一方,外的要因に起因するつまずきについては,環境と身体の適応が不十分なときに生じやすいとされている.そのため障害物や段差を越える際には,課題に対してclearanceを調整する随意的制御が重要になると考えられる.Clearanceと随意的制御の関係について中條ら8)は,若年者を対象にtoe clearanceが障害物の高さに伴い有意に増加し,複雑な制御が行われていることを報告している.このように障害物を越える際のclearanceの報告は散見される9,10)ものの,段差昇降時のclearanceに着目した報告は認められない.

 本研究の目的は,高年者と若年者における段差昇降時の拇趾・踏面間距離に着目し,段差昇段時の随意的制御について検討することである.

大腿骨頸部骨折に対する術式の違いによる短期成績について

著者: 熊谷匡晃 ,   小原史嗣 ,   大西昇一 ,   鬼塚達則 ,   岡林資明 ,   久保田和子 ,   辻聡浩 ,   種村さつき ,   角谷孝 ,   太田喜久夫 ,   村山泰規 ,   森仁志 ,   林典雄

ページ範囲:P.1023 - P.1027

はじめに

 大腿骨頸部骨折における骨頭壊死と偽関節の発現は,転位の有無や手術までの期間により異なるため,全体として10~40%と幅広い報告1,2)があり,一般に転位が大きく骨癒合の可能性が低いものには人工骨頭置換術が選択されることが多い.大腿骨頸部骨折に対する骨接合術はSmith-petersenの三翼釘に始まり,Multiple pinning法,Knowless pin固定などが行われたが,固定力不足や長期間の免荷が必要などの問題を経て,近年では転位型骨折に対してもC-CHS(cannulated cancellous hip screw)やハンソンピン固定3)などを用いた早期荷重歩行が選択されるようになってきた.今回,人工骨頭置換術とハンソンピン骨接合術の短期成績を比較し,術後の理学療法(以下PTと略す)プログラムにおける留意点について検討したので報告する.

文献抄録

軽中等度のCOPDにおける横隔膜と外側広筋の適応

著者: 佐竹將宏

ページ範囲:P.1028 - P.1028

COPD患者における横隔膜と外側広筋(VL)の適応の過程についてはまだ研究されていない.本研究の仮説は,COPDにおける筋肉の変化は,VLよりも横隔膜でより早く生じるということである.この知見は,少なくとも軽度から中等度のCOPDでは,筋の表現型発現を決定するのは局所的な要素であり,全身的な要素よりも重要であるということを示唆している.

 目的:本研究の目的は①同一被験者のVLと横隔膜の組織化学的な形態の変化と酵素の変化について,軽度から中等度のCOPD患者と正常な肺機能を持つ人で比較すること,②軽度から中等度のCOPD患者において,筋の適応がVLよりも横隔膜でより早く生じるかどうかの証拠を調べることである.

呼吸リハビリテーションの中でCOPD患者はどのように運動すべきか?―骨格筋障害を治療する運動療法と運動強度の比較

著者: 塩谷隆信

ページ範囲:P.1028 - P.1028

背景:運動療法は,骨格筋障害,COPDに合併するHRQOLおよび生存率の低下によって起きる重要な臨床症状を改善することから,呼吸リハビリテーションの重要な要素の1つと考えられている.しかし,適切な運動療法のプロトコールの要素に関しては意見が一致していない現状にある.そこで,本研究では,COPD患者のための様々な運動療法を比較することにより,比較対照試験(RCTs)を体系的に評価および要約した.

 方法:6つの電子データベース,国際会議録,研究報告を掲載した図書について,言語には制限を加えずに調査を行った.2人の検閲者(reviewer)が,それぞれ独立して,採用された研究論文に関して,介入や方法論の特徴,研究対象者の数の抽出などに関して審査を行った.

着座動作時における体幹移動角度の減少―老化の早期特徴

著者: 浅山美穂

ページ範囲:P.1029 - P.1029

背景と目的:立ち上がり動作および着座動作を行う際に体幹は重要な役割を果たす.しかしながら,この2つの動作は姿勢や力学的制御の違いによって決定される.立ち上がり動作における老化の影響は広く研究されてきたが,着座動作に関する情報は少ない.本研究の目的は,体幹と下腿の移動角度に着目し,立ち上がり動作時および着座動作時における老化の影響を明らかにすることである.

 対象:地域に居住する高齢者10名(平均年齢75.9±3.2歳)と若年者9名(平均年齢26.8±4.7歳)が参加した.若年者に身体的,精神的疾患を有する者はいなかった.高齢者については,①70歳以上②3か月以内に心疾患や肺感染症等の疾患の既往がない者③MMSE 24点以上④整形外科疾患,神経系疾患,筋疾患がない者⑤TUGが20秒以下⑥椅子からの立ち上がりが自立している,などの条件を満たしていた.

台湾における脊髄損傷者の復職について―機能的な自立度の寄与

著者: 今富真紀

ページ範囲:P.1029 - P.1029

目的:台湾における脊髄損傷者の雇用率と復職を阻む因子について調査することと,将来的な雇用を促進するリハビリテーションプログラムを改善させるための方法を探索することである.

 対象:1989年から2002年にかけて大学病院にてリハビリテーションを施行された脊髄損傷者の169人である.2003年の調査当時の年齢は18~60歳で,受傷後,少なくとも1年以上が経過していた.

書評

―山本澄子,他 著―『ボディダイナミクス入門「片麻痺者の歩行と短下肢装具」[Win版3次元動作分析CD-ROM付]』

著者: 松﨑哲治

ページ範囲:P.999 - P.999

 現在,脳血管障害患者数は推定で約140万人といわれています.その内の多くの患者のニードの1つに「歩けるようになりたい」があることは言うまでもありません.このニードに対して歩行の獲得・自立などに取り組んでいくことも,われわれ理学療法士を中心としたリハビリテーションチームの大きな役割の1つです.

 その脳血管障害患者の歩行について,今般,医歯薬出版より「ボディダイナミクス入門 片麻痺者の歩行と短下肢装具」が発刊されました.本書の執筆者である先生方は,これまで脳血管障害患者の装具研究・歩行はもちろん治療や動作分析研究などに深く関わってきた第一人者ばかりです.よって本書は,これまでの書籍には見られないほど脳血管障害患者の歩行を,詳しくしかも解りやすく解説しています.

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編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.1032 - P.1032

 わが国の精神障害者総数は258万人(平成14年調査)で,このうち入院患者は33万人とされていますが,彼らへの医療,社会支援体制はまだ十分に整備されているとは言い難い状態です.精神障害のリハビリテーションはこれまで作業療法士が中心的な役割を担ってきましたが,患者の高齢化にともなう身体機能障害や地域生活支援に対する理学療法士の積極的な取り組みが求められています.そこで本号では,精神障害領域における理学療法アプローチの現状とこれから取り組むべき方向性に焦点をあて企画をしました.

 野中氏には,精神障害をもつ人のリハビリテーションの現状と課題について,精神保健法改正の動向,最新の薬物療法から認知行動理論など幅広く解説していただきました.そのなかで理学療法士が患者・家族と協働的な支援をするには,狭い理学療法観ではなく,心身機能と生活機能を個別的に捉えたマネジメントの必要性のほかに,専門職,家族の「内なる偏見」を無くすことを強調されています.仙波氏には,統合失調症の理学療法アプローチについて解説していただきました.膨大な自験例のADL分析,問題となる精神症状,理学療法アウトカムなどを統計的に検討され,精神症状の分類別の目標設定,理学療法プログラムのガイドラインを提示しています.豊富な臨床体験に裏打ちされたものだけに参考となります.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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