理学療法ジャーナル39巻11号

2005年11月発行

特集 精神障害者の理学療法

精神障害者の転倒事故分析とその対策

著者： 細井匠¹ 濱田賢一¹ 山下久実¹ 牧野英一郎¹

所属機関： ¹武蔵野中央病院

ページ範囲：P.971 - P.978

はじめに

　近年，わが国では高齢化が進み，2005年の全国民に対する高齢者の割合は19.9％であり，2015年には26.0％に達すると予測されている^1）．この高齢化の波は精神科病院にも例外なく押し寄せており，2003年6月の時点で全国に約33万人存在する精神科病院在院患者のうち65歳以上の割合は39.0％に達している^2）．また，精神科病院入院患者の状況は，数か月の短期入院を繰り返す患者と，入院期間が5～10年を超える長期入院患者と二極分化している^3）．長期入院患者は院内で高齢化し，精神科病院内部の高齢化は進展し続けているというのが現状である．

　当院は，精神科200床と内科98床を有する病院である．精神科病棟では高齢化に伴い，身体面での問題が表面化してきており，その一例として転倒事故が頻発している．都立病院における医療事故集計結果でも，精神科以外の病棟では服薬に関する事故が最も多いのに対して，精神科では転倒事故が最多である^4）．このような状況であるにもかかわらず，精神科における転倒調査は国内外合わせても数件散見できる程度であり^5），さらに転倒予防を目的として身体機能にアプローチした介入研究は皆無である．転倒による骨折や外傷は，精神疾患患者の社会復帰を阻害する要因であり，できうる限りこれを防止しなくてはならない．

　本稿では，精神科病棟長期入院患者の転倒事故を分析し，理学療法士が介入したことによる転倒予防効果について若干の考察を加え報告する．

参考文献

1）厚生統計協会：日本人口の動向，国民の福祉の動向，p4-25，2002

2）精神保健福祉研究会：我が国の精神保健福祉（平成16年度版），p644，太陽美術，2003

3）精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編：精神保健福祉論（第4版），p92，p618，へるす出版，1999

4）東京都病院経営本部サービス推進部：医療事故防止マニュアル，都立病院におけるリスクマネジメント，pp6-8，2003

5）森山成彬：精神科病院における高齢痴呆患者の転倒．精神医学44：1277-1286，2002

6）昼田源四郎：分裂病者の行動特性，pp55-58，金剛出版，1989

7）細井　匠，他：精神科病棟における転倒事故の現状．障害者スポーツ科学2：53-58，2004

8）Gibson MJ：Falls in later life. in：Kane RL, et al：Improving the health of older People. A world view. Oxford University Press, New York：296-315, 1990

9）鈴木隆雄，他：地域高齢者の転倒発生に関連する身体的要因の分析的研究―5年間の追跡研究から―．日老医誌36：472-478，1999

10）Vaughn K, et al：A retrospective study of patient falls in a psychiatric hospital. J Psychosoc Nurs 31：37-42, 1993

11）Poster EC, et al：A retrospective cohort study of falls in a psychiatric inpatient setting. Hosp Commun Psychiatry 42：714-720, 1991

12）Tinetti M, et al：Falls efficacy as a measure of fear of falling. J Gerontol 45：239-243, 1990

13）武田秀和，他：精神分裂病患者の運動訓練の効果．臨床精神医学26：239-250，1997

14）島田裕之，他：高齢者の転倒予防に対する介入効果．PTジャーナル36：315-322，2002

15）Nowalk MP, et al：A randomized trial of exercise programs among older individuals living in two long-term care facilities：The falls free program. J Am Geriatr Soc 49：859-865, 2001

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18）白木原市次，他：精神分裂病者の体力と精神症状．体力科学51：787，1999

19）武田秀和，他：わが国の精神医療機関における身体運動プログラムの実施状況．精神障害とリハビリテーション8（1）：71-75，2004