文献詳細
文献概要
特集 ボディイメージ
看護とボディイメージ
著者: 前川厚子1
所属機関: 1名古屋大学医学部(地域・在宅看護学講座,大学院がん看護学分野)
ページ範囲:P.1065 - P.1071
文献購入ページに移動ボディイメージとは何か
近代ボディイメージ研究の創始者として知られるSchilder(1935)は“ボディイメージとはその人の心の中に映った心像(心理的事象)である”と定義している1).ステッドマン医学大辞典では,ボディイメージすなわち身体図式は頭頂葉皮質に組み込まれたすべての身体感覚の大脳への投射と表現し,実際に解剖学的見地からみた身体や他の人からみた身体の概念とは異なり,自分自身の身体についての概念(ボディシェーマ)であるとしている.また,看護研究者のWood(1975)は“ボディイメージは身体そのものが受ける影響に応じて変動する動的概念である”としている2).そしてSmith(1984)は“私たちはそれぞれが自分自身のボディイメージを持っている.このイメージは生まれたときに作られ,成長するに従って,様々に形成されていく”と述べている3).Piaget(1958)は,子どものボディイメージは生まれたときには白紙の状態であるが,乳児期に親やまわりの人々が与える影響によって形あるものになっていくことを示している.絶え間ない世の中の刺激を固有の体験として取り込みながら新たな概念を形成していく.すなわち,ボディイメージは自分の身体に関連する知覚と経験によって形成され,刺激との相互作用のなかで常に修正されていく動的概念であり,固定化したものではないことを示している.つまり,ヒトが人間として成長発達していくときに,ライフステージの諸段階で自分自身の特有な体験に基づき,感覚・感性に届く内的,外的刺激とその反応から脳裏に焼き付けられ,変換される自己の鏡像である.あたかも,自分の認識している“自分の姿”が鏡に映っているように見えるのであるが,身体状況の変化に伴って調整が加えられ,シネマフィルムやビデオテープのように前向きに流れていくものと考えられる.
一方,生涯にわたり連続的に変化していくボディイメージのファジーな現象は,本質的に個人のみが認知しうる体験・知覚・態度であり,複雑で抽象的な側面を持つために,決定的な解釈がしにくく,それを明確に定義することは現段階では難しい.とりわけ,精神医学や生理学,臨床心理学,看護学,社会心理学など多方面のアプローチからボディイメージの理論が創生されていることを見ると,これからの学際的な研究ゾーンに位置づけられる分野と考えられる.
近代ボディイメージ研究の創始者として知られるSchilder(1935)は“ボディイメージとはその人の心の中に映った心像(心理的事象)である”と定義している1).ステッドマン医学大辞典では,ボディイメージすなわち身体図式は頭頂葉皮質に組み込まれたすべての身体感覚の大脳への投射と表現し,実際に解剖学的見地からみた身体や他の人からみた身体の概念とは異なり,自分自身の身体についての概念(ボディシェーマ)であるとしている.また,看護研究者のWood(1975)は“ボディイメージは身体そのものが受ける影響に応じて変動する動的概念である”としている2).そしてSmith(1984)は“私たちはそれぞれが自分自身のボディイメージを持っている.このイメージは生まれたときに作られ,成長するに従って,様々に形成されていく”と述べている3).Piaget(1958)は,子どものボディイメージは生まれたときには白紙の状態であるが,乳児期に親やまわりの人々が与える影響によって形あるものになっていくことを示している.絶え間ない世の中の刺激を固有の体験として取り込みながら新たな概念を形成していく.すなわち,ボディイメージは自分の身体に関連する知覚と経験によって形成され,刺激との相互作用のなかで常に修正されていく動的概念であり,固定化したものではないことを示している.つまり,ヒトが人間として成長発達していくときに,ライフステージの諸段階で自分自身の特有な体験に基づき,感覚・感性に届く内的,外的刺激とその反応から脳裏に焼き付けられ,変換される自己の鏡像である.あたかも,自分の認識している“自分の姿”が鏡に映っているように見えるのであるが,身体状況の変化に伴って調整が加えられ,シネマフィルムやビデオテープのように前向きに流れていくものと考えられる.
一方,生涯にわたり連続的に変化していくボディイメージのファジーな現象は,本質的に個人のみが認知しうる体験・知覚・態度であり,複雑で抽象的な側面を持つために,決定的な解釈がしにくく,それを明確に定義することは現段階では難しい.とりわけ,精神医学や生理学,臨床心理学,看護学,社会心理学など多方面のアプローチからボディイメージの理論が創生されていることを見ると,これからの学際的な研究ゾーンに位置づけられる分野と考えられる.
参考文献
1)Shilder P,稲永和豊監修:身体の心理学,身体のイメージとその現象,204-334,星和書店,1987
2)Wood N:Human Sexuality in health and illness, Mosby, 1975
3)Smith R:Identity crisis, Nursing Mirror, 1984
4)Piaget J:The Child's Construction of reality, Routledge&Kegan Paul, 1958
5)Salter M編(前川厚子訳):ボディイメージと看護,医学書院,1992
6)Gorman W(村山久美子訳):ボディイメージ,心の目で見るからだと脳,誠信書房,1981
7)遠藤辰雄,他:セルフエスティームの心理学自己価値の探求,ナカニシヤ出版,1992
8)Brown M:Distortions in body image in illness and disease. Wiley nursing concept models, John Wiley&Sons Inc, 1977
9)Price B:Body image, nursing concepts and care, Prentice Hall, 1990
10)Price B:A model for body-image care, Journal of advanced nursing 15, 585-593, 1990
11)McCloskey, Balecheck(中木高夫,黒田裕子訳):看護介入分類(NIC)第3版,南江堂,2002
12)中木高夫:看護診断ってNANDA;ドメイン6《自己知覚》をじっくりと読み解く 3 .月刊ナーシング22(7):70-73,2002
13)前川厚子:術前のボディイメージにこだわり続けるコロストミー患者へのケア.看護技術43(1):43-47,1997
14)医学中央雑誌Web:2005年9月収載データベース
15)Kubler-Ross:On Death and Dying, Taristock Publications, 1969
16)前川厚子:ストーマ手術とボディイメージ研究の歴史的変遷.STOMA 7(4):17-19,1996
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